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目覚め

きっかけはほんの些細なものだった、日も傾き夕暮れに差し掛かった頃、何時ものように畑仕事を終えて家に向かうなか突然頭に稲妻のような衝撃が走る、初めてのようでありそれでいて見慣れたものの記憶が甦る・・・

「思い出した、俺は死んだんだ」そう、俺は死にこの世界で小さな村の農民の子に生まれ変わった。


異世界転生、慣れ親しんだこの言葉がまさか自分の身に起こるとは思いもしなかった。

「この世界で転生したことにどんな意味があるのだろう、魔王の目覚め?国家転覆?天変地異?この何も起こらない平和な世界で?」

もしそれが起こるなら有る筈である、それがお約束だからだ。

「チート・・・、そうチート能力が、異世界で転生したものに与えられる神の奇跡が・・・」

家で一人自分に与えられたかもしれない能力に思いを馳せる。

「空は飛べない未来も見えない怪力もない、俺の能力って何なんだ!」

一晩中思い付く限りの方法を試してみたが手応えはなく苛立ちだけがつのった。


「水でも飲むか」

テーブルの上に置かれたカップに手を伸ばす。

しかし、眠気と疲れからカップは指をすり抜ける、慌てて手を伸ばしたその時閃光が走った。

眩い光と共に砕け散ったカップと床の焦げ跡が物語の始まりを告げていた。


指から放たれた光はまさしく雷であった、あまりの出来事に頭がついていかない・・・、この世界で魔法はそれほど珍しくない事は農民の子として生きた十余年で知っている。

小さな火やわずかな水を産み出すくらいなら魔力を持つ者なら誰でも出来ることだが雷は違う、雷とは神の力そのものだ。

「すごい、これが俺に与えられた能力(ちから)

ごくりと唾を飲みこむ。

窓から光が漏れている窓を開けると外はすっかり夜が明けていた、だが先程までの疲れや眠気はどこかに消えてしまった、荷物と金をカバンに詰め家を飛び出した。


それから数週間、村から数キロほど離れた森の中で能力を使いこなすための特訓をはじめた。


幸い森には使われていない小屋がいくつかあった、雨漏りとすきま風を気にしなければまだ十分住めるだろう。


特訓を始めた頃は狙った的はおろか1メートル先に飛ばすことすらままならなかったが、次第に威力と飛距離を伸ばし大型の牙獣を仕留めることも容易になった。

「よし!これなら魔物にだって負けないぞ そういえば何日か前に一匹でうろついてるゴブリンがいたな・・・」


そろそろ次のステップに進む頃合いだろう、森をさらに奥に進んだ先にゴブリンの巣があると聞いたことがある。


荷物をまとめ森の近くを通る行商から手に入れた装備を整えその日は早めに床につき、夜明けとともに小屋を出た。


幾度となく訪れたこの森でもこれほど深く足を踏み入れるのは初めてだ、期待に高鳴っていた胸には次第に恐怖と心細さが広がっている。

「くそっ、歩きにくいな」

焦りからか口から小さく悪態が漏れるも、自身の迂闊さに震えた。

ここは既に奴等<ゴブリン>のテリトリーなのだ、不用意な行動は即座に己の死となって降りかかる。

「(近くに奴等は居ないか?声を聞かれたんじゃないか?この入り組んだ森の中で囲まれたら?)最悪の事態が頭の中で幾つも浮かぶな・・・少し休もう」

手頃な木の幹にもたれ掛かる、腰を落としたいところだが油断はできない、いざという時のために腰の短刀に手を掛け呼吸を整えた・・・・・・。


気持ちを引き締め再度森の深部を目指す、息を殺し細心の注意を払い小動物のように臆病に・・・。

「(見えた!)」

森の中で明らかに何者かによって切り開かれた平地と地下へ続く穴がそこにはあった。

もう先程までの恐怖はない、兜の紐を絞め直し突入に備える。


穴の中は薄暗くじっとりと湿ってカビ臭い、とても長居したいとは思えぬものだ、これなら家畜小屋の方が数段マシだろう。

<ズチャ・・・ズチャ・・・>ぬかるんだ泥を裸足で踏み締める不快な足音がひとつ近づいてくる、岩影にしゃがみ目を凝らすとその先には泥まみれで薄汚いぼろ布に身を包む小人がいた、ゴブリンだ・・・!

腰の石斧と笛から察するに、表に見張りに出るつもりのようである、敵が一匹で安堵したのも束の間背後からの足音に戦慄する、固く地面を踏み込む足音は間違いなく人間のものだ。

「(バカな、気配を消す気すらないのか!村人?いやこんな森の奥に不用意に近づく奴なんていない)」

背後に気を取られいつの間にかゴブリンは眼前にまで迫っていた、足音の主を頭のすみに追いやり覚悟を決める。

「(やるしかない!)」腰の短刀でゴブリンの皮膚を切り裂くとともに間髪入れず電撃を見舞った!

<ガオンッ!!>獣の咆哮にも似た轟音が響く。

突然の攻撃になす術はなくゴブリンはあっけなく死んだ、周囲には人間とも獣ともつかない肉の焼ける臭いを残して。


大きく息を吸い込み、肺の中を空にするように吐ききる。幾度か繰り返すと背後から足音の主が声をかけてきた。

「すっごーーーーい!今のナニ?ナニ?!光ったやつ‼」

真新しい装備に身を包んだ戦士風の女、歳は18そこそこといったところだろう。

「静かにしろ、ここが何処だか分かっているのか?」

目を輝かせ興奮ぎみに質問を投げ掛ける少女の言葉を遮りつつ穴の奥へ耳を澄ます。

「え?何?謎かけ?アタシ謎なぞ得意よ!」

少女の声は大きく、金属の鎧が擦れる音は狭い穴の中によく響いた。

どうやら少女の質問に答えている時間はない、穴の奥から無数の足音が迫っていた。

「答えてる時間はない!外に出るぞ!」

興奮冷めやらぬ少女を一喝し穴の外へ飛び出した。


一匹ずつ仕留めるつもりだったがもうどうにもならない、20匹ほどのゴブリンが瞬く間に俺と少女を取り囲んだ。

「最悪だ・・・えっとこんな時漫画ではなんて言うんだっけ、やれやれだぜってか?」

<カチャカチャ・・・>

背後では少女が震えながらゴブリンを睨んでいる、その姿からは 先程までの余裕は感じ取れない。

「(装備は高価な物でまとめてるけど戦闘は初めてなのか?、領主の娘がこっそり冒険者ごっこってのは出来すぎか)」

一人なら逃げ切ることも出来たかもしれないが腰を抜かした少女を抱えてとなるとそうはいかない、いくら強力な電撃があっても一匹一匹相手にしている余裕はない。

チートだ神の力だ最強だと浮かれて、凡人が危ない橋を渡った結果だと自身に言い聞かせるように周囲を見渡す。

この後俺達はどうなる?切られ殺され食われるのか?少女はもっと悲惨な結末になるだろうか。

視線を落とすと少女の腰の水袋が目に留まった。

「おいアンタ!その水袋中身は有るか!?」

「えっ、あっあはい」

「貸せっ!」

今にも襲いかからんとするゴブリン達に、袋を切り水を浴びせる。

「しゃがめ!」

少女を地面に押し付けありったけの魔力を使い全力の電撃を放つと、絶叫とも悲鳴ともつかない叫びを上げゴブリンたちは無数の肉片に姿を変えた。


「やった・・・か、おい!あんた無事か?」

「うん、あっいえっはい、大丈夫・・・です」

先程まで小刻みに震え涙を浮かべていた少女の目とは少し違うものになっているように感じた。

「あ、ああ、あのっお名前は?」

予想外の言葉に戸惑うもまだお互いの名前すら知らないのだ、礼儀としてここは名乗っておくべきだと納得した。


気が向いたときに更新していきます。

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