第1話「夜明けへの道」
これは”神の頭脳を持つ男”が星を救う物語
…2018年8月 都内某所
その男は昼食を食べ終え喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
…と言えば優雅なランチタイムを誰もが想像するだろうがその男の顔はしかめっ面になっていた。
男の名前は佐々木聖夜。日本の学歴カーストの最上位に位置する大学に通う大学生だ。しかも現役の2年生20歳である。茶色の髪を鎖骨にやや届かない程度まで伸ばした所謂ボブカットの爽やかな今風な若者である。身長は177cm、足も長くまさに神に愛されし男と言った感じである。
「で、要件は何だ 貴様もご存じのとおり俺は多忙な身でね 手短に頼む。」
そういうと相手は不敵な面構えで笑みを浮かべた。
「いや、実は最近世間を騒がせている宗教団体知っているだろ?」
「ああ、真星革命学会とかいう連中か」
真星革命学会は日本発の新興宗教団体である。数年前に発足したばかりの比較的若い組織だが、日本のみならず次々と世界中に信者を増やしていきその信者数は今や5000万人に迫るともいわれている。
「そうだ 奴らは至高神と呼ばれる一人の女性を教祖に次々とその勢力を拡大してきた」
至高神”真神悦子”
今や世界でその名前を知らないものはいない。たった一代でそれも数年で巨大宗教組織を作り上げたその女性は信者からは尊敬の念を込めて”至高神”と呼ばれる。
「で?それが???ズズズズズッ」
佐々木はめんどくさそうにコーヒーを啜る。
「まあ話は最後まで聞け 俺たちのインカレサークルの目的を思い出すんだ!!」
「何だっけ…ああこの世に科学で説明できないことはないとか云々…まあ俺サークル幽霊なんだけど」
そう 今佐々木の目の前に座っている男 名は坂本桜華 某私立大学に在学している20歳。そして佐々木も所属しているインカレサークル「星の夜明け」のサークル長を務めている男である。金色のやや長い髪をオールバックにしたこちらも今風の若者である。身長は180cmでよく見ると鍛えていることもうかがえる。とても強そうだ。
「星の夜明け」はインカレサークルとして都内の幅広い大学に勧誘、メンバーを集めている。その目的はインチキな奇術や超能力といった類で人々を騙す人間に対して嘘を暴くことを目的としているサークルである。
「そうだ 至高神真神は信者の勧誘のために学会立ち上げ当初から数々の奇跡を起こしてきた 例えば空中浮揚とか瞬間移動とかな 数えたらきりがない。」
「はぁ で?それが嘘だったとして何 仮にも信者数5000万の宗教だぞ そんなの俺たちが騒いだところで何の意味もない…そういえば世間知らずな質問で恐縮だが、あの宗教ってどういう宗教なんだ??」
「うむ 新星革命学会は環境問題を訴えている団体だ 至高神真神曰くこの地球はもはや手遅れな状態でいるらしい」
坂本は神妙な面持ちで話す。
「ふむ まあ確かに一理あるかもな このまま地球温暖化等が進めばなかなか住みづらい星になるのは猿でもわかることだ 何だ学会は環境を考慮してエコな生活を心がけましょう!とか言ってるのか?信者じゃなくても害はない…むしろ無害な連中ではないのか」
「佐々木、その認識は誤っている。奴らは環境問題なんてはなっから放棄している。そもそもおかしいと思わないか?その理念ならなぜ至高神真神は奇跡を起こす必要がある この地球の平均気温を下げるような奇跡ならいざ知らずやっていることは空中浮揚や瞬間移動等全て科学で説明がつく下らない子供のお遊びだ。結局至高神真神はそうやって信者を集めて金を貢がせているんだ。それが学会の資金源になり奴らは腹を肥やすのさ」
なるほど…と一瞬納得しかけた佐々木だが一つの疑問が浮かぶ。
「待て待て坂本、至高神真神が環境問題を放棄しているというなら信者は何に惹かれて学会員になるんだ。まさかその子供のお遊びに感銘を受けたというわけでもあるまい。俺はさすがにそこまで人類の知能レベルが落ちていないことを願うぞ…」
「至高神真神は…」
坂本が声を詰まらせる そして絞り出すような声で語る。
「この星は間もなく滅亡すると主張している…そして至高神真神は己の力で新たな人類の住む星を創造し選ばれし人間のみを新たな星へ転生させるのだ つまるところ自分を崇める都合のいい人間だけを救済するとな」
「…クックックゲハハハハハ」
それまで黙って話を聞いていた佐々木だが、突如笑い出す。
「何だその至高神真神とやらは、お笑い芸人でもやらせれば人気が出るんじゃないか?仮にだ百歩譲って環境問題が起因となり星が滅亡するとしよう だがそれはまだまだ先の話 学会員はおろかたった今この瞬間生まれた人間が死ぬ頃だってまだ星は存続しているだろう…まあいくばくか人類にとって住みづらい星となっているかもしれないがな…しかしまあ実に5000万もの人間がそんな愚かな妄言を信じてセコセコ至高神真神に貢いでいるのか!塵も積もれば5000兆円…ってかゲハハハ俺だって5000兆円欲しいわ!!」
そういい佐々木はバコーンと坂本の頭を殴る 少しスッキリした
「とにかく…だ 至高神真神の言っていることは少し冷静に考えればどれだけ学のない人間だろうと嘘だと分かるし現状人間がまともに住める星に移住できる手段なんてのもあるわけない。至高神真神はインチキだ。それを世界中の人間に証明したい。」
「再三繰り返すようだが、それだけの信者がいる宗教、仮に嘘を暴いても間違いなく至高神真神は言い訳をする。信者もそれを信じて疑わないだろう。どうやって至高神真神の息の根を社会的に止めるつもりだ。」
佐々木の主張にうむと坂本は大きく首を縦に振る
「確かに全ての学会員の目を同時に覚まさせることは難しいだろう。今佐々木が言ったように例えば俺たちが至高神真神の元へ行き奴が透視をしたとしよう。そのインチキトリックを暴いても至高神真神は今日は目の調子が悪い…とか邪な気が邪魔をする…とか何とかいい信者もそれを信じるだろう。逆にその心理を利用するのだ…」
「…と言うと?」
「実はこの真星革命学会、拠点は某県の真星村というところにあるんだ」
「何だ俺はてっきり東京だと思ってたわ…真星村!!」
佐々木はスマホの音声検索で真星村について調べる。
「人口約1,400人…ひどい田舎だな しかしこの地名は…」
「そうだ佐々木、ここは至高神真神の出身地ではないかと考える専門家もいる。いわば学会員にとっての聖地だな。至高神真神自体普段はこの村で祈りを捧げているらしい。で、話の続きだが、学会設立当初至高神真神はまずこの村の人間を学会員にしたらしい。そしてこの村の住人はみな”特別な学会員”として一般の学会員から羨望のまなざしを受けている。つまりこの聖地の学会員は他の一般学会員上に至高神真神を崇めている。だが、至高神真神の出身地がここであるのであれば必ず特別学会員は至高神真神の生い立ちとか色々と知っているはずだ…つまり…特別学会員は至高神真神から何らかの洗脳の類を受けて強制的に学会に入ったと俺は考える。99%至高神真神はでたらめだ!それを特別学会員も心の奥底では気づいているはずだ!彼らの洗脳を解き彼らに至高神真神の奇跡は嘘っぱちだと証言してもらえれば連鎖的に世界中の学会員は真実に気づくはずだ!!」
「坂本、お前の主張は分かった…だが…俺は…」
「佐々木、今回の案件はお前がいないとダメなんだ!サークルの”ブレイン”であるお前がいないと至高神真神の嘘を暴けない…!!」
坂本の言葉に対し絞り出すような声で佐々木は話し出す
「去年お前が”星の夜明け”を設立した当時、まだメンバーがお前と俺と”彼女”の3人だったころ インチキ霊能力者を暴くと行って遠くまで言ったよな そして”彼女”は死んだ。…お前の恋人を殺してしまったのは俺だ…」
「佐々木ぃ!」
パン!!と坂本が佐々木の頬をビンタする
「彼女が死んだのはお前のせいじゃない!もう…気に病むな 一人で抱え込まれるとこっちだってつれぇんだよ…」
そういい坂本は涙を流す。
「坂本…わかった、今回の案件協力しよう。必ず俺が至高神真神の嘘を解き明かす!」
佐々木の心強い言葉に坂本を涙をふきその手で佐々木に握手を求める
「佐々木…ありがとう…後ほど今回同行するメンバーも紹介しよう…ひとまずここを出ようか」
二人は握手していた手を放しレジへ向かう
坂本は佐々木の分まで支払うといって財布に手を伸ばす 協力のお礼というほどのものでもないが
「ブレンドコーヒーが二杯で1,600円になります」
店員が金額を告げる だが佐々木は財布からお札を抜こうとしている坂本の手を静止する
「待て坂本 現金でなんて支払うな恥を知れ! あっすみませんスピードペイでお願いします」
そういい佐々木はスマートフォンで決済を済ませてしまった。
店を出た二人は坂本の通う大学へと向かう。
「いたみいる…佐々木よ 結局奢ってもらってしまって…」
「はぁ?何言ってるんだ お前の分の珈琲代は支払えよ800円」
「あっ…ああ …すまん200円はあるか 生憎札束しかなくてな」
「あ?俺が財布なんて持ち歩いてるわけねえだろ 送金アプリで金送ってくれよ ほらQRコード」
そういい佐々木は自らのスマートフォンにQRコードを表示させる。
「いや、そのアプリやってないんだが…」
「かー!典型的な日本人だなお前は!現金至上主義の現金厨!!恥ずかしくないのかね…もういい!」
そんな雑談をしている内に坂本の大学に入った
「今回同行するメンバーには一足先にうちのサークル部屋に入ってもらってるが…おっ揃っているな!」
「俺が幽霊してる間に随分とメンバーが増えたんだな…」
「ああ…では一人ずつ紹介していこうか まずは…」
そういい一人ずつ紹介していく坂本 そしてそれを黙って聞く佐々木
部屋にいるのは佐々木、坂本を含めて6人だ 今回この6人で真星村へ行くらしい。少数精鋭とのことだ。
「関根秋人だ よろしく」
「関根はちょうど佐々木がサークルに来なくなった辺りに入った古参メンバーの一人だ 。ハイスクール時代は、剣道で全国一位になった剣の達人だ」
関根の簡潔な自己紹介を坂本が補足する。関根は短い髪にきりっとした顔が印象的だ。しかし何よりその体格2m近くの巨体に加えかなり鍛えているであろう坂本が貧相に見えてしまうほどの筋肉。まさに日本人が想像する日本男児といった風な男だ。
「俺の名は、道坂剣人だ」
「道坂も古参メンバーの一人で彼もまた剣道の達人だ。ハイスクール時代は、関根とライバル関係にあり、全国二位となった実力者だ」
またしてもメンバーの解説を坂本が行う。どうやらメンバー紹介はこの方針で行くらしい。
道坂は関根とは反対に長めの黒髪を靡かせている。しかしかつて関根とやり合った男というだけありこちらもなかなかの恵体だ。身長は195cmくらいか、俺と坂本の二人がかりでも軽くなぎ倒されるであろう。
「氷室環奈です。よろしくお願いします」
「氷室さんは最近サークルに入ったメンバーだ。本サークルの紅一点で見てのとおり美少女だ 今回同行いただくことになった」
坂本はそう紹介しながら鼻の下が伸びている。コイツ…こういう女がタイプなのか。と佐々木は呆れた目で見た。氷室は、黒髪と毛先のサファイアブルーのとても綺麗なグラデーションヘアーが印象的な女性だ。身長は155cm程度の小柄な女性だが、確かに佐々木はがこれまで見てきた女性の中でもトップクラスのルックスを誇る。
(それにしてもこの女…何か…)
佐々木は何かを感じる、しかし違和感の正体をつかめない。この女…顔は笑っているが瞳の奥はひどく冷たい…佐々木はそう感じた。
(まあ杞憂だろう)
続いて最後のメンバーの紹介に入る。
「小野寺学人、今回はみんなのサポートを担当するよ」
「ガクトはITの専門家だ、このサークルに入ってからITのことでは随分と世話になった。彼は今回”真星村”へは同行せず隣の自治体の旅館で待機してもらう。役割は遠隔からのサポートとなる」
ガクトと呼ばれた青年は一見中学生かと見間違えるほどの小柄な男性だ。しかし眼鏡をかけたその風貌は如何にも”見てのとおり頭がいい”感を醸し出している。確かに所謂お勉強であれば佐々木は負ける自信はないがしかし確かにこの男はITに強そうだ。サポート役というのは適任だろう。もしかしたら真星革命学会のインチキを暴くのに彼の知識を借りることもあるかもしれない。
「さて全員の紹介が終わったな!」
坂本は声を上げる。
「出発は明日!!今日はみなゆっくり休んでくれ!だがその前に至高神真神悦子への勝利を願ってコーラで乾杯しよう!」
「はぁ!?出発って明日かよ!!」
佐々木の突っ込みを無視して冷蔵庫からコーラを取り出し各人に配布する。
「では、乾杯!!」
坂本の発声により全員がコーラを飲む。
ゴクゴクゴクゴクゴクゴク
「ん?どうしました氷室さん」
坂本はコーラを飲んで少ししかめっ面になっている氷室に声を掛ける。
「あっ坂本くん…いやちょっとこの前口のなか切っちゃってね コーラが染みたんだ」
テヘッと笑顔を浮かべる氷室
「それは何と…知らなかったとはいえ申し訳ない このコーラは処分しておきます…ほかに飲み物あったかな
」
「あっ気にしなくていいよ坂本くん」
氷室の静止を気にもかけず新しい飲み物を用意する坂本
「お待たせ氷室さん、アイスティーしかなかったけどいいかな」
「…ありがとね坂本くん」
そんなやり取りをぼんやりと眺める佐々木、坂本はアイスティーを氷室に渡すと一人で部屋の奥へと行き何やらスマホを弄っている。何をやっているんだあいつ…
(しかし明日か…果たして至高神真神の嘘を暴けるのか…いや絶対にこの俺が暴いてやる)
佐々木聖夜は、己の心の中でそう固く誓った…
真星革命学会 ~星命最後の13日間~ 第1話「夜明けへの道」 完
第2話へ続く…