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第一章ノ二

 おかしな夢を見た。

 今学校で噂になっている化け物騒ぎ。それを追って駅前を調査していたらその化け物と遭遇してそのうえクラスメイトが魔法少女。

 夢は深層心理が見せているものと聞いたことがあるが、こんな夢を見るとはいったい自分の心は何を思っているのだろうか?

 それにしても体の節々が痛い。ベッドから伝わってくる感覚も妙に硬い。そのうえ冷たい。

 もう少し寝ていたいところではあるが、体の上に掛布団がある感覚もないのでとりあえず起きて探すか。

 そう思いツバサが目を開けると、そこに広がるのは見慣れた部屋の風景ではなく、砕けたドアと商品の並んだ棚。散乱したガラス片やおにぎり。

 先ほどの夢と全く変わりない景色がそこには広がっていた。

「……はぁ、寝て起きても状況が変わらないとかたちが悪い悪夢ですよ、小倉先輩」

 ため息をつく。

 記憶が正しければ大量のガラスが突き刺さり、自分は血まみれになっているはずである。

 しかし体は痛いが目立った外傷はない。そのことは疑問に思うが、今は気にしないことにした。

 おそらく、今はそばにいないひかりが何かしたことだけはわかる。

ツバサは痛む体を引きずりコンビニを出ることにした。まず目に入ってくるのは不自然なほど人通りのない街並み。次いであの化け物。

 先ほど見た時とは違い、半分ほどが凍り付いている。動きもどうやら鈍っているようだ。

とは言っても大きさが三階部分を超えているようにも見えるし、現状五本の凍っていない茎が攻撃を行っている。

 その周辺を上下している人影が二つ確認できる。どう考えてもみずほとひかりである。先ほどから攻撃をしてはいるがどちらかというと劣勢に見える。

 どうする? 

 自分はあの二人と同じ魔法少女ではない。魔法なんてものはツバサには扱うことができないのだ。

 あそこに行って何かできるわけではない。みずほは逃げろと言ったし、実際にひかりが逃がしてくれた。それなのになぜあそこに戻るのか?

 怖いもの見たさの好奇心が半分。何もできない自分が悔しいのが半分といったところだ。

 自分に魔法が使えたら。自分が魔法少女だったら。……少女ではないか。あんな格好をして戦うのは男には少々無理がある。抵抗もある。

 まあ、もし仮に自分で着るならオレンジとかそんな感じの色かな。なんとなく、そう考えてしまった。

 きっかけなんて些細なものだ。普通じゃない状況に置かれたために思考回路のほうもおかしくなっているだけ。

 だからその言葉をつぶやいたのは偶然。


「変身。って、何も起きるわけ……」


 カチッと、自分の中で何かがはまるような感覚があった。

 ついで、体の内側から何かが溢れてくるような、そんな感覚。目の前が光に包まれる。穏やかなその光の中で、自分の中の何かが変わるような、そんな気がした。

 どれくらいたったのだろうか? 一瞬にも感じられるし、永遠にも感じられる。そんな時の後でつばさは己の変化に気が付いた。

 まず、目線が低くなった。いつもより十センチ程度身長が縮んだのではないだろうか?

 次に、下半身がひらひらする。見ると先ほどイメージしたオレンジ色のスカートを自分が履いている。ツバサにはスカートを履く趣味はないし、履いた記憶もない。これは何だ。

 目線を下にいったことにより上半身の変化にも当然気が付く。オレンジ色のカーディガンの下にはほかの二人と同じブラウス、首元には赤いリボン。当然記憶にはない。

 そして最後に、体中にみなぎる何か。おそらく魔力であろう。

「……」

 何の冗談だ、この悪夢はどこまで続くんだ。つばさはそう思った。

 だが、これで力は手に入った。あそこに行ける。行って、戦える。

 決意とともに地面を蹴る。体が軽い。普通に走っているのと同じ要領なのに一歩一歩の飛距離が長い。 一歩で十数メートル以上は移動しているのではないか。目測で百メートル程度離れていた化け物のもとにわずか七歩で到達した。

「米原っ! 先輩っ!」

 二人に呼びかける。慣れ親しんだ声ではなく女性らしい甲高い声につばさ自身も驚いたが、呼びかけられた二人はそれ以上だろう。

「え? えっと……誰? 新庄君?」

 みずほはかなり驚いたような声で言った。ひかりは戦いに集中しているのか何の反応も返さない。そもそも姿が見当たらない。

「なんか変身できたんですけど、俺はどうすればいいですか?」

「えっと、後でいろいろ教えてあげるから、とりあえずイメージしてみて。それが一番大切だから」

 化け物の攻撃をかわしながらみずほが答える。

「Schneesturm!」

 そしていつの間にか手にしていた杖を振るう。すると、また一本茎が凍り付いた。

「こんな感じに、ね」

「凄い」

 変身も魔法の内に入るのだが、つばさは自身の目で魔法が世界に干渉する姿を改めて認識した。

 イメージすれば魔法が扱えるのなら、自分にだってできるはず。

 そう思い、試しにあの茎を切断するイメージを脳内に思い描く。

「…………」

 しかし何も起こらない。イメージの中では切断されていたはずの茎がつばさを弾く。

「っ!」

 つばさはそのまま地面に叩き付けられた。しかし、今度は先ほどとは違いあまり痛みは感じない。

「魔法って便利なのか便利じゃないのかどっちなんだよ」

 なんとなくそう呟く。ふと、何気なしにみずほを見るといつの間にか彼女が杖を手にしているのが目に入った。そういえばさっき魔法を放つ前にどこからともなく現れたな。

 先ほどみずほはイメージが大切と言っていた。漠然としたイメージでは効果がない、または薄いのだろう。

 つばさは自身の手に一振りの剣を想像してみた。長さは一メートル二十センチほど。西洋風のイメージで軽く扱いやすいもの。

 はたしてつばさの手にはイメージした通りの剣が握られていた。

 これならいける。

 地面を蹴り、化け物のもとへと跳ぶ。茎の先に付いた顔と目が合う。ニタァと、不気味にその顔が笑うと同時に別の茎が襲い掛かる。

「ゆる…………さ……ない…………?」

 つばさは想像した。剣の一閃でその顔と茎を切断する姿を。

 ザンッ。

 剣を振るうと確かな手ごたえが帰ってきた。見ると、思い描いた通りの結果が引き起こされていた。それを認識すると同時に、体にものすごい疲れを感じた。

 つばさの体は跳びあがった時からきれいな放物線を描き、化け物の幹の脇を通り抜け、反対側に着地した。地面に剣を突き刺し倒れそうになるのをかろうじて支える。

「先輩、新庄君。下がってっ!」

 その時、ひかりの声が聞こえた。とっさにそっちに目を向ける。近くにあった五階建てのビルの屋上に彼女はいた。幾何学模様の描かれた魔法陣を伴って。

 つばさはとっさに残された力を振り絞り前方へと跳ぶ。直後、ものすごい熱気が背後から襲ってきた。化け物がいた場所に何かがぶつかったのだ。

 その爆風に吹き飛ばされるようにして地面を転がる。ツバサは立ち上がるのも忘れて爆心地を見る。目に入るのは苦悶の声を上げながら蠢く化け物が燃えている姿だった。

 ゴォ、と音を立てて燃え上がるその姿はやがてだんだんと小さくなり、あっという間にかき消えたのであった。

「立てる?」

 いつの間にそばに来たのだろう。みずほに起こされた。

「先輩、あの化け物は……」

 声が元に戻っている。そういえば目線も元通りの位置だ。

「とりあえず移動するわよ」

 目の前でみずほの格好が制服に変わった。

「もう少しで結界が解ける。そうすれば壊れた町は何もかも元通りよ」

 そう言いながらひかりがビルから飛び降りる。とん、と軽やかに着地すると彼女の変身も解けた。

「新庄君、ついてきて」

 ひかりにそう言われ、それに従って歩く。すると先ほど化け物になった女性が地面に倒れている姿が目に入った。

「立てますか?」

 ひかりがその女性に近づき、そっと手を差し伸べる。

 

 それと同時に辺りの空気が変わった。


 焼け焦げていた地面も、倒壊していた建物もすべて元の形に戻っている。先ほどまで不自然なまでに聞こえなかったあたりの喧騒も戻ってきた。

「あ、すみません。地図を見ながら歩いていたもので……」

 さっきまでの異質な雰囲気とは打って変わってどこにでもいるような、普通の反応をその女性は示した。

 ぺこりと、体を折り曲げて謝るその姿からは先ほどの一件の片鱗すら感じられない。

「気を付けてくださいね。歩きながら携帯を操作するのはとても危険な行為なんですから」

 ひかりの言葉に、その女性はもう一度すみませんと謝った。

「先日この辺りに引っ越してきてまだ道も覚えてないんです」

 女性はそう言うと荷物を拾い去っていった。

「ふぅ、これで一先ずは解決かな」

 ひかりがツバサたちのもとに戻ってくる。

「ひかりさん、新庄君、お疲れさま」

「先輩も、お疲れ様です。新庄君もお疲れ」

 そう言って二人はツバサのほうを向く。

「えっと、先輩、米原、お疲れ様です」

 二人を労うとツバサはようやく今までの出来事を実感とともに受け止めることができた。

 正直、まだ何が何だか理解しきれていない。

「さてと」

 みずほが自分のつけている腕時計に目をやった。

「六時四十五分か……。新庄君、この後まだ時間ある? 魔法少女についていろいろと教えないといけないことがあるから」

 みずほはツバサにそう問う。

「もちろんです。いろいろ聞かないといけないこともありますし」

 そうしてひかりを含めた三人はここから一番近いみずほの家へ移動することにした。


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