◆絶対にUFOだ!
◆絶対にUFOだ!
あたしは18階の高層マンションに住んでいるのに、実は高いところが苦手である。
いま住んでいるマンションは、パパの会社が転勤の時に用意してくれた家なので、あたしの希望などは聞いてもらえる機会などなかった。
窓越しに遠くの景色を眺めるのは問題ないのだけれど、テラスに出て洗濯物を干したりするのは怖くて足が竦んでしまう。
そして準高所恐怖症のあたしに、せっかくのパラダイス状態だった昨日とは打って変わって、予想もできない悪夢が襲ってきたのだった。
・・・
朝食が済んでみんなの身支度が整うと、玄関前に停まっていたマイクロバスに全員乗り込む。
もちろん、そのマイクロバスはホテルの送迎用なんかではなく、自家用だ。
きっと岩清水グループの取引先の人なんかもこの別荘に大勢訪れるのだろう。
さて、このたいそう豪華なマイクロバスに乗って、きれいな海沿いの道をさらに南下する。
車窓には、南国特有の木々やエメラルドグリーンの海がどこまでも続く。
天国に一番近い島・・・
後で起きる大惨事の事を想えば別の意味で天国に一番近かったのかとも思えてしまうのだが、この時は車窓から見える美しい風景に、ただただ溜息をつくばかりであった。
20分ほど走ったところでマイクロバスは右のウインカーを点滅させながら、一際広いビーチがある駐車場にゆっくり入り停車した。
自動扉が開き、みんなでキャイキャイとハシャギながらバスから降りるが。
ビュゥーーーッ
あっ!
突然強い風が吹き、萌花ちゃんの鍔広帽(形は麦わら帽子に似ている)が飛ばされてしまった。
「あ゛ーーー あの帽子気に入ってたのに~」
萌花ちゃんは、飛ばされて小さくなっていく帽子を目で追いながら、泣きそうな顔をしている。
残念ながら帽子は、もう海の上高くに飛ばされて回収は不可能そうだ。
遠ざかる萌花ちゃんの帽子のシルエットは逆光の中、まるでUFOのように見える。
携帯のカメラだとよく写らないので、旅行用に持ってきたズーム付きのデジカメでその写真を何枚かこっそり撮影した。
これをパパに見せたら、絶対にUFOだと信じるだろう。
ププッ
「あの帽子、ここに来るため用に8万円で買ったばかりなの。 今日初めてかぶったのに・・・」
『うっひゃ~ 8万円の帽子ですか・・』
「萌花ちゃん。 あんなところまで飛んで行っちゃったら諦めるしかないよ。 そんなに気に入ってたのなら、また同じのを買えばいいじゃない。 ねっ?」
花帆ちゃんが慰めているけど、また買えばいいって・・・ 何か違うような気がするよ~。
もし、あたしの帽子だったら、たとえジョーズが出ようが太平洋をどこまででも泳いで回収するだろう。
なにせ8万円だ。 あ、あたしのDVDセットが・・
このかわゆいお嬢様たちと一緒にいられるのは、本当にうれしいのだけれど、金銭感覚に関しては驚きの連続だ。
「さぁ、萌ちゃんの帽子のことは残念だったけど、今年も楽しくアレをやりましょう♪」
岩清水さんも帽子の件は、さらっと流しているけど、アレってなに?
「そ、そうでしたわ。 では今日は、わたしが最初でいいでしょうか?」
『おっ、おっとり萌花ちゃん、立ち直りが意外に早いな』
「帽子は飛んで行ってしまったけど、それは前回よりも高いところまで行ける可能性があるってことですものね。 一番は萌ちゃんに譲りま~す」
『だ、だから岩清水さん、高いところってなに?』
「ガラシャちゃんは初めてだから一番最後がいいよ。 みんなのをよく見てコツを覚えられるし」
風が強く声が聞こえにくいため花帆ちゃんが、あたしの体に密着して耳元で教えてくれる。
プニッ ポヨ~ン
わ、若い娘の肌は弾力があってええわぁ~。
口が”わぁ”の形のまま、しばらく開いていたので、危うく公衆の面前でヨダレを垂らしてしまうところだった。
おまけに飛び込んできた砂の所為で、口の中がシャリシャリする。
それで結局、あたしは花帆ちゃんの柔らかな感触の方を優先させたため、せっかくの助言を活かすことができなっかた。
もっと早く気づけば、この時点で遁走することも出来たのに、まったく悔やまれることこの上ない。




