◆ガラシャさん大丈夫?
◆ガラシャさん大丈夫?
7月も10日を過ぎ、あと少しで夏休みである。
生徒たちが40日もの休みの間、自分も同じように休めると思って選んだ職業が、実はそんなに甘いものではなかったと今更気付いたとて、もう後戻りはできない。
企業に就職するのに教育学部が不利なのは、最初から分かっていた。
やれ理系やら経済学部にしろだの、親にさんざん言われたのを一切無視した結果なので、とにかく頑張るしかないだろう。
頭の中でそんな事を考えながら、久恵は出席簿を脇に抱え、自分が担任を受け持つ2年3組の教室へと向かっている。
その久恵の後をカルガモの雛のように、一人の少女が後を付いて歩いている。
渡り廊下を真っ直ぐ進むと体育館だが、そこを右に曲がって階段を上る。
そして2階の一番奥が2年3組の教室だ。
「それじゃいいわね。 まず、先生が紹介するから、そしたら自己紹介してね」
久恵は教室の入口で立ち止まり、振り返って少女に念を押した。
「は・い・・」
この転校生は会った時からボ~っとしていたので、もう一度確認しておいた方が良いと思ったのだ。
転校生は、いじめの対象になり易いと聞いた事がある。
自分のクラスには、そんな子はいないと思うが、転校生の第一印象が大切なのは、自身の経験からも分かっている。
久恵も父親の仕事の都合で、小学1年生と中学2年の時に転校した事がある。
小学生の時は1年生で何の問題も無かったが、中学2年の時は多感な時期でもあり、いじめられないか毎日ビクビクしたものだ。
少女は小さく返事をしたが、久恵の顔を見ていない。
ふぅ~
久恵は小さく溜息を吐くと、教室の入口の引き戸をガラリと開けた。
久恵に続きカルガモの雛も教室に入る。
直ぐにヒソヒソと転校生の印象を囁きあう声が聞こえてくる。
久恵は音がするように出席簿を一度 教卓にトンッとついてから、チョークで転校生の名前を黒板に大きく書いた。
「今日から、うちのクラスに転入する事になった、 細川・・・ さんです」
クラス全員の目が、転校生一点に集中する。
・・・
ワンテンポ遅れて、少女が口を小さく開いた。
「はじめまして。 あたし・・ 細川 garatia ・・と言います」