僕の過去 その①
久々の小説です、これは"憂鬱"な青年の物語。
少年Aについてはこれから分かります、と言うか分からないと話になりませんしね。と言う訳で何とか書き続けます。
……苛められていた、同学年の男子3人に様々な苛めを受けていた。
直接的な苛めから間接的な苛め、金銭の要求から暴力に至るまで彼らはレパートリーを豊富に持っていたのか、繰り返し繰り返し様々な趣向を凝らして僕を苛めぬいた。助けてくれる人間なんてこの世にはいないのは分かり切っていて、絶望なんて最初からしていたんだ。
――――先生も同級生も助けてなんてくれなかったんだ、分かっていた。
家族は居ない、産まれた時に捨てられて孤児院で育てられた。そこでは様々な子供達が暮らしていたが僕はやっぱり苛めを受けた、何故僕なのだろうか? そんな疑問は最初こそあったが苛めを受けるにつれて、そんな些細な事はどうでもよくなっていた。
それは小学生に入っても、中学校に入っても同じ事であった。
僕は必ず苛めを受ける側の人間だ、それは神が決めたのかは分かりはしない。だけど僕は本当にどうでも良かったんだと思う、だって我慢すればいつかは終わるから、始まりがあるとしたら終わりもあるのだから。放課後の教室にある掃除用具入れのロッカーに閉じ込められながら、僕は悟りきっていた。
「……ハハッ」
笑いと一緒に涙がこみ上げてくる、苦しいのなら死ねばいいと言われるが僕は死なない。ロッカーの中に直立不動でいながら考える……もしこんな世界が滅べば僕は救われるのだろうか? そんな小説の中じゃあるまいしと、僕は淡い希望を簡単に捨てた。この世は簡単だ。
『なあ✕✕、気分はどうだーWWW』
『ほんとにいっちゃんは、最高に面白い事はするなー』
『いっちゃんスゲーよー!!!』
友達らしい友達もいない僕を救ってくれる人間なんて存在しない、そんな物が存在するとしたら僕の心の中の許容量はオーバーしてしまう。ガラスの様なハートではあるが致し方無い、人間は生まれた時から何もかも決められているのだから。
隙間から差し込む光は赤く染まっている、いつまで彼らは僕を閉じ込めれば気が済むのだろう? もう声はしないので既に立ち去ったのかもしれない、そうっとロッカーの扉を開き顔を出す。やはり教室の中には誰もいなくて、夕暮れ時になっていた。
――――もしこれが夢だったとすれば……僕はどんなに幸せだっただろうか。
すると足元が暗い穴になって僕は落ちてゆく、落ちながら周りを見ていると様々な形と色をした扉が浮かんでいる。それはさながら"アリスが不思議の国に行くような感じ"であったのだ、恐怖心は何処にもないまま落ち続けた。重力が無いのかゆっくりとしたスピードで落ちていく、そして遂に地面に到達した。
大きな白い扉が真正面に見える場所、何処からか懐中時計を持った二頭身ウサギがやって来てぶつかる。ぶつかったウサギはおろおろと辺りを見渡し僕を見つけた、赤い瞳で僕を見つめて気落ち悪いと思ってしまう。しかしそれは心の声だが、ウサギはぷんぷんと怒り出すが荒い息を吐いて落ち着いて言う。
『やあやあ、おぼっちゃん。ここは"ラプラスの夢"の中でありますよ、此処に何か用でもあるのかな?』
「……いや、ただ言いたい事が一つ。僕は何時になったら起きれるのかな?」
『おやおや、そんな些細な事をお気になさりますか? そんな事は簡単です、後ろの扉に入ればいいのです。ねっ、簡単でしょ?』
ウサギに言われて後ろを振り向くと、そこには黒い扉が出来ていた。
何時の間にかとか言う話は無しにしようじゃないか、此処はあくあでも僕の『ラプラスの夢です』……そう"ラプラスの夢"の中だから何でもありだ。ウサギは仰々しく一礼をして、首を傾げながら口を開く。
『さてさて、おぼっちゃん。此処に何か用でもありますかね? 無いのでしたらお帰りください、ありましたら私にお話しください』
「……じゃあ、日常を非日常に変える方法ってありますか?」
『おやおや、お目が高いですねおぼっちゃん。それを願ったのは二人目です、良いでしょう良いでしょう。そこの白い扉をお通り下さい!』
「あっ、ちょっ……」
ウサギに背中を押されて白い扉の前へ行く、ドアノブは大きすぎるが回せない訳ではない。ウサギの顔を見る、赤い瞳が早く回せとせっついてきた。僕はドアノブに手をかけて、ゆっくりと回していく。中から目が眩むほどの光が溢れ出し僕は光に包まれた、その先には……。
――――目が覚めた、ジリリリと鳴り響く時計を止めて布団からはい出る。
嫌な夢を見ていた気がするが記憶に無い、虚ろな目で時計を見ると時間はお昼を指していた。
ノロノロと布団を片付けて寝間着から外行きの服に着替え、帽子を深くかぶり財布を手に取る。空っぽの頭を動かすには、何かを食べなければいけないが食料は尽きている。
「はあ……憂鬱だ。太陽が高いのも憂鬱だし、歩くのも憂鬱だし、何より学校へ行かないのが"最高に憂鬱"だよ」
定期的に飲む薬のように"憂鬱"と言う言葉を使って歩き続ける、坂を上り坂を下りて曲がり角を曲がって公園を通り歩き続けた。学校の前を絶対に通らない、僕の考えた完璧なルート。そのおかげで少しばかりは苦しみから逃れる事が出来た……と思う。
まあそんな事よりも今はもう少しで着くコンビニの事について考えよう、関西と関東の狭間ぐらいで店舗を増やし続けているコンビニ『マルQ』は生鮮食品等を取り扱っているコンビニの進化版とうたっているらしいが、今どきのコンビニは何処もそんな物ぐらい既にあるだろう。
『いらっしゃいませー』
店員の気怠そうな挨拶を聞きながらマルQに入店してカゴを手に取る、大体のコンビニには買い物カゴは無い筈だが此処にはある。先ずは新しく本が入荷していないか見てから、次は食品コーナーへ向かう。新しい本で気になった本はカゴに入れた、食品コーナーでは大量仕入れで安くなった食品(主にカップラーメンや保存食など)をカゴに次々と入れだす。
カゴの中は大量のカップラーメンや保存食などでいっぱいになった、ついでに今日の朝ご飯に総菜パンと『午後の冷茶』もカゴの中に入れる。
『――――合計で、3258円になりまーす』
「……4000円からで」
『はい、ありがとーございましたー』
お釣りを受け取ってパンパンになったビニール袋を持ち、マルQから出て公園に向かった。
この町には至る所に公園があり、勿論だけど歩いてすぐの所にも小さな公園が見えてきた。ベンチにビニール袋を置き僕も座って、ビニール袋の中から先ほど買った卵サンドと『午後の冷茶』のペットボトルを取り出す。そのまま包装を破り取り卵サンドを食べ始める、憂鬱だけど卵サンドは美味しい。
「……あの、お兄さん。そのパン、僕にも分けて頂けませんか?」
背後から声がして振り向くと、そこには薄汚れた少年が立っていた。
髪は女の子の様に長くぼさぼさで、服からは変な臭いがしてきている……憂鬱だけど気分は良いので、僕は快く2つ買ってあった卵サンドをベンチに置いた。
「た、べても……良いんですか?」
「……良いよ。憂鬱だけど気分は物凄く良いから、是非とも食べて欲しい」
「あっ、ありがとうございますっ!!」
ベンチに座り、勢いよく包装を破り取って卵サンドを食べ始める少年。
少年はよっぽどお腹が空いていたのか、3口で食べ終え口の中をリスの様に膨らませている。だけどやっぱり無理があったようで、がくんっと大きく震えたかと思うと顔を真っ青にして胸を叩き始めた。きょろきょろと周りを見て飲み物を探す、僕は何気なしに飲みかけのペットボトルを少年の近くに置く。
「――――っ!! プハァッ!? ……ありがとう、お兄さん」
「いやいや、苦しくなったらお互い様だしね?」
自分が何を言っているかは分かりはしないが、少年はゆっくりと息を吐き呼吸を整えている。
僕もパサパサになった口の中を潤すために少年に渡したペットボトルを頂き、一口飲むと少年は「……あっ」と言ってから顔を林檎の様に真っ赤にした。男同士の間接キスなんて些細な事だろう、幼稚園か小学生の女の子とならドキドキはするだろうけどさ……?
「お兄さん、その……ありがとう。僕はもう行くね?」
「……あ、うん。またねって、君の名前は?」
「あー、そう言えば命の恩人に対して"名無し"はダメだよね!!」
「そうだね、って命の恩人……とは?」
「だって僕はここ1ヶ月は食べてなかったからね」
1ヶ月って……それは生きていられるのだろうか? いや、確か水だけでも生きられるから大丈夫か。
そんな事よりもこの少年の名前が気になる、本名でもあだ名でも偽名でも関係ない。名前と言う物は人間関係を円滑にする為に必要不可欠な物であり、存在をこの世界に定着させるには"名前"が最も簡単で最適なのだ……っと、話が逸れてしまった。今は、この少年の名前を聞かなくては。
「えーと、聞いてる?」
「あぁ、ごめん。聞いてなかったよ、で名前は?」
「うん、僕の名前はAって言うんだ。じゃっ、また会えたらねっ!」
「あ、うん……またね」
そのまま少年は公園を出て走り去ってしまう、僕はゴミをゴミ箱に捨てて立ち上がる。
スーパーの袋の中を見てみたら、何時の間にかチョコレートのお菓子が無くなっていた。あの子は、いやA君はスリの才能でもあるのだろうか? そんな事を考えていると憂鬱になってくる、だが朝の空気を吸っていると麻薬を吸っているかのように頭の中がクリアになってきた。凄まじく気持ち良い。
そんな気持ちになりながら、僕は袋を持って公園から歩き去る。
……またチョコレートを買いに行かないと、僕の憂鬱な脳みそは満足して頂けない様だ。
さて久々のup、でしたがどうでしょうか?
疑問・質問・批評・なんでも下さい、栄養にして吸収させていただきます。
では次もよろしくお願いします。