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Feild2-5

日も沈み、人々が街の石畳を歩き、家路に着く中、クーリフトは執務室で未だ、雑務に負われていた。

特に近々行われる祝祭日のパレードが大きな要因だろう。

国内だけでなく、他国の賓客も招かなければならないと思うと頭が痛くなる。書類の一枚一枚に目を通しながら、流れるような動作で羽ペンを走らせる。美しい文字には歪み一つないのが不思議である。

数枚を終えたところでクーリフトはペンを止めた。

扉を叩く音が室内に響いた。廊下に控えていた騎士が顔を出す。

「殿下、ルジラシス様がお取次ぎを、との事ですが、お通しして宜しいでしょうか?」

「ああ、頼む」

騎士は扉を閉め、また直ぐに大きく開き支える。

騎士が支える扉から一人の男が卒のない動きで部屋へと入ってきた。

手に持っていたペンを執務机に置き、来訪者を迎えるために立ち上がる。

「ルジラシス殿、まだお帰りになっていらっしゃらなかったのですね。お疲れ様です。どうぞ、かけてください」

アグウスをソファへと促す。

「ありがとう。いや、もう出るところだった」

クーリフトはアグウスの正面へと長いすに腰を落ち着かせた。

「いかがなさいましたか。本日の会議では確か、地方の税制についてとのことでしたが、そのことでしょうか」

アグウスが大様に溜息を吐く。

「仕事の話ではないのだ。堅苦しくすることもあるまい、クーリフト」

「・・叔父上」

「魔方陣を使わせてもらいたのだ。その認証許可を頼みたい。祝祭日までにあちらの方も一度顔を出しておかなければと思ってね。5日ほどしたら帰ってくるつもりだ」

国家政治に関わる要人はその所在を明らかにしなければならないため、移動許可が必要なのだ。空間移動の魔法陣は特に魔法庁によって管理され、一つの都市に多くとも10である。一般市民が使用することは多くないが、魔法庁からの管理者と市民に運営は任されているものがほとんどである。

「分かりました。魔法庁にはそのように伝えておきます。明日の出立でよろしいのですか?」

「ああ、すでに妻と娘はあちらにいてね。ゆっくり休暇を楽しむつもりだ。お前も少し休みなさい。全く休んでいないじゃないか、いや寝ていないのではないか」

アグウスの言葉に、軽く笑みをつくる。

 「叔父上に心配して頂けるとは光栄です。しかし、まだまだ若輩者ゆえ学ぶことも多くて、本日の会議もそうですが、叔父上の意見は非常に参考になりました。先ほどもその書類に目を通していたのですよ」

それに、とクーリフトは続けた。

「これでも十分に休暇は取っているのですよ・・」

「例えば、郊外へ・・」

口元の笑みを絶やさずに、アグウスの瞳を正面から覗く。

「父の墓参りですよ。丘の上に」

アグウスも冷たさの籠もる瞳をクーリフトから外さなかった。

沈黙が落ちる。

先に口を開いたのはアグウスだった。

「お前は、真面目過ぎるきらいがあるが、お前の英明さを、私はかっているのだよ。愚鈍な長を持つ民は悲惨だからな。そのお前が、まさか安直な思考には及ぶまい」

すでにクーリフトは微笑んではいなかった。

「私はね、叔父上。耐え忍ぶということを止めたのですよ。誰かが悲しむのなら耐えもしましょう。しかしそれが決して善とはならないし得るものもないのだと気付いたのです。私の持てる力があるなら耐えるのではなく、根本を変えてしまえばいい。そうは思いませんか」

「己の裁量を見極めることもできないのは愚者の行為とは思わんか」

問いを問いで返す。

いや、お互い応答を求めているわけではない。

「それは真実、己を知らない者のことでしょう」

「・・・驕りは、己を小さく見せるだけだぞ。宰相ともあろう者がそのように短慮に言うものではないだろう」

私は違う、クーリフトは口には出さず微苦笑を漏らす。

「カーリスがお前に会いたがっている。我が家の夜会が近々行われるのだが、顔を出しなさい」

「叔父上」

アグウスが徐に立ち上がる。クーリフトが続くのを手で制し、扉の前で足を止めた。

「これ以上はお前の首を絞めるだけだ。私はお前をかっていると言っただろう。・・・宰相殿」

クーリフトは、静かな部屋で一人、アグウスが出て行った扉を見つめた。

「・・・もう手遅れですよ、アグウス」










間隔がまた開いてしまいました。。

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