Feild2-4
火の爆ぜる音がした。
窓から外を伺うが、黒い絵の具で塗り込められた月夜と、照り返された新緑が延々と広がっているだけだ。炎らしき明かり、ましてや燃えているものなど見当たらない。
気のせいかしら。
再度周囲を確認しても何があるわけではない。
リリスはどこか腑に落ちず首を傾げた。
「リリス様どうなさったのですか?」
窓を睨み黙り込むリリスの様子にレイは口元に運んだスプーンを降ろし、眉を顰めた。
「レイ、今物音が聞こえなかったかしら?」
「音、ですか?私の耳には何も届きませんでしたが、まさか誰か人の気配が?」
どうにも悲観的になるレイに、なんでもないと口調を和らげてリリスは言った。
「いいえ、私の気のせいだわ。それとも森の獣が戸を叩く音だったのかしら。」
「リリス様ったら、またそのようなことおっしゃって!私をからかっていらっしゃるのですか!」
「あら、獣もお伺いを立てる時くらいあってよ。獣に優越を求めては駄目よ。人も獣なのだから。」
レイは眉根を寄せた。
「お嬢様はすぐ話しをややこしくしておしまいになる。」
唇の先を尖らせ不満の意を現しながら、卓に置いたスプーンを持ち直し、しかめたらしくレイは食事を再開した。
いつも母親のようにあれこれとリリスの世話を焼くレイだが、時々子供のような振る舞いをする。リリスはそんなレイを見るのが好きだった。
「困難な謎解きは時に、人の新地を切り開く鍵となるのよ。思考とは素晴らしいわね、レイ」
ニコリと笑顔を向けると、レイは眉間の皺をさらに深めた。
「もう、リリス様!怒りますよ!!食後のジェラートはお預けにします」
「冗談よ。レイの手作り、楽しみだわ」
「・・・今日のは木苺です」
結局、リリスには勝てない。レイは溜息を零した。
リリスが笑う。
言えない。
無邪気に微笑む彼女を失いたくない。迸る感情、レイは本心からそう思った。
「レイ、明日は花壇の花を、・・・どうしたの?」
「・・・あっ・・」
知らぬ間に、レイの頬に一筋の涙が零れていた。気付いてしまうと、次から次へと堰を切ったように涙が溢れ出した。拭うこともせず、呆然としているレイにリリスが椅子から立ち上がり、その頬を手のひらで包み込んだ。
「リリス様」
「・・・ごめんなさい」
レイが瞳を見開きリリスを見上げる。
どうして?
「ごめんなさい」
なぜあなたが謝るのか。
置いていくのは私なのに。
また、あなたを一人にしてしまうのに。
誰よりも慣れていて、誰よりも寂しがりのあなた。
ごめんなさい。ごめんなさい。
レイはその頬を彼女に預けることでしか、応える術を知らなかった。
2ヶ月も開いてますね。
覚えていらっしゃる方がいたら幸いです。