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Feild2-3




時計を見ると、リリスに退室を告げられてからすでに三十分が経過していた。

レイは己の主を思うと胸が張り裂けそうに痛む。

親子の会話などない、ただリリスを苦しめるだけの時間が嫌で仕方ない、またリリスを蔑むアグウスが憎かった。何よりどうすることもできない自分が悔しくてならない。一介の使用人に過ぎない自分がここまで考えるのはおこがましいのかもしれないけれど、アグウスが去った後の、リリスの哀れみと諦めと全てをない交ぜにした表情を見るのが辛くてたまらないのだ。

それでもリリスは微笑みかけて言うのだ。

 「レイ、ありがとう」

私は何もしてない。何もできないのに。

無常にも全てを受け止める真摯な年下の彼女を尊敬と共に哀れに思う。

 その姿を小さい頃から見ているから、こんな辺境の場所にリリスと二人でも耐えられるのだ。

 彼女を置いてはいけない。

 せめてリリスを一人にはしたくなかった。

 レイの希望的観測でも、今の状況ではクーリフトが永遠に彼女の傍にいることは不可能であることが分かっていたから。

だから、自分だけでも彼女の傍を離れたくはなかった。

時間が刻々と刻まれていくのを、手持ち無沙汰に眺めていると階段から一人の足音が響いた。相手を認めると、すかさずコートを男に着せ、深くお辞儀をした。

 「道中お気をつけください」

 玄関扉を開け男が御車に乗るのを確認すると、再び頭を下げ、御車が動きだすのを待った。しかし車は中々発進しようとはしない。それに疑問を感じつつも顔を上げられないでいると、馬車の中から声が降りてきた。

 「次のときに新しい侍女を連れてくる。」

その言葉にレイはハッと顔を上げそうになるのを必死に堪えた。

 「お前をライズの本館に戻してやる。準備をしておけ」

話はそれだけだ、アグウスは視線をレイから外しすぐに御者に発進するよう告げた。

走り去る馬車を見ることもなくただ地面に顔を向けていたレイは、小刻みに震える自身の身体をなんとか起こすので一杯だった。

顔面蒼白になりながら、それでも男の言葉をどうすることもできない。

アグウスは、レイですら彼女の傍にいることを許してくれはしないのだ。リリスの片隅にでも生きることを許してくれない。リリスから離れるなど、レイにはできない。

孤独なリリスを慰めるだけではない、自分もどれほど彼女に救われたかしれない。共に母の死を嘆いてくれた少女は、それまで畏敬の対象だと思っていたのに、嘆くレイを慈しみ母に涙を流すリリスの姿は一人の人間となんらかわらないと気付いた。自棄になる自分を押しとどめたのは彼女の存在に他ならない。


 いっそのこと逃げ出したいのに森の結界がリリスを拒む。どうすることもできない。

レイは重い足取りで屋敷の中へと消えていった。


 




太陽が傾きその姿を隠し始めた頃、闇がしだいに空を支配していく。この時間になると闇の獣が動き出す。人の支配が及ばぬところは彼らの恰好の餌場となる。

 生命の森は例外なのだが、周辺区域にはなぜか獣が集まりやすかった。故に普段でも人気のない森は完全に遮断された空間になり、餌になろうと思う人間などいないから必然、人は森を避けて行く。

 物好きでもない限り森に近づく人影などありはしないのだが、今日はそれがどうやら物好きがいるらしい。

 森と街を繋ぐ人道と獣道の境に一人の男が立っている。全身を黒尽くめに染め上げた男は闇の狩人を連想させる。男、ディバルトは森林を目の前にしてじっと暗闇に目を向けている。

 昨日依頼されたものはこの奥にあった。昼に一度訪れたのだがどうやら面倒くさい結界が張り巡らされているらしい。他の殺しの依頼と、ここまでの転移によって魔力を消費してしまったためライズの街で仮眠を取って再び夜に上して訪れたのだ。ディバルトは結界に手を翳し詠唱を始めた。

 「・・・・ウル・リデニス」

 終わると翳していた手から光りが溢れ静寂な森でしかなかった空間に、ディバルトの手の下から薄い膜が浮かび上がってきた。膜にはいくつもの幾何学的な紋章が刻まれている。それを解析し、再び詠唱に入る。

 「・・・疎は捕らわれしもの 生命の循環の元にその姿を再び静寂に帰す ・・・・リオス」

 一段と紋章が光り輝き、次には、結界は闇に吸い込まれるように消えていった。

 ディバルトは完全に結界が消えたのを確認すると生命の森へと足を踏み入れた。

 其の時、生命の森に一歩踏み出すかしないかのうちにディバルトの全身を強大な力が貫いた。あまりの衝撃に身体が言うことを利かず、その場から動けない。

 知らぬうちに額に汗が浮き出ていた。これまで彼にとってこれほどの脅威を与えるものなど殺してきた人間にも魔物にも存在しなかった。

 

 脅威?自分は恐れているのか?違う。

 自分の言葉を否定した。それは慢心からくるものではない。

 事実、彼の中に恐怖はなかった。

 

 魔力が枯渇する昨今において信じられないほど、これは古代の力にも匹敵するかもしれない。ディバルト自身、稀に見る魔道の使い手だ。しかし、これはそれの数倍は上。

 だが、それゆえに打ち破った結界の意味が理解できた。呪文さえ知っていればたいした鎖になりはしないが、もともと古代より伝わる結界呪文は魔力が強いものに反応しその力を抑え込むものだった。

 結界に捕らわれていれば直のこと出ることは難しい。そのまま森の捕らわれ人となる。ディバルトも外側だから解けたのだ。

 ディバルトはその力に圧倒されながらもどこか既視感を覚えている自分がいることに驚いた。

 彼が肌に感じる魔力は力に相反して優しい、それに懐かしさを感じている。

 

 ありえない。

 

 しかし、彼は確かに知っているのだ。

 力の持ち主が誰か。

 それは渇きにも似た感情、いつか見た夢の続きだ。


 ディバルトは依頼を遂行するため再び森を歩き出す。魔力の源のもとへ。


中澤〜!!!(by 岡田ジャパン)

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