探し物は何ですか? 見つけにくいものだったりしますか?
ぬぅ、思ったより帰ってくるのが遅くなってしまい……。
書き足したい部分も多いにあるのですが、明日も出かける予定が出来ちゃったので、今日はこれでご勘弁を(焦)
クヴォリアの街を悠理達が出てから五日後。
彼等が辿り着いたメレッセリアには既にコルヴェイ軍が……。
その真意を探るべく、悠理が単独で街に侵入してから約20分後。
「おい、そっちに居たか!」
街に響く男の声。それはこの場の兵士を束ねる部隊長のもの。体格はデカイが太っていると言う訳じゃない。
例えその鎧の下にあるモノが脂肪だったとしても、恐らく関係あるまい。
――その風貌、立ち振る舞いから見ても歴戦の勇。
立派な髭を蓄え、右目には眼帯。残った左の眼光は鋭く、その強面からは職務を怠ける様には見えない。
こうして隊長自ら探し物をしている事がその証明と言える。
「いえ、こっちには――――おい新入り! お前の方はどうだ?」
「ダメっす、全然見当たらないっすよ……」
隊長の元に寄って来る二人の兵士。片方はいかにも兵士暦の長そうな男、隊長程ではないがそれなりの手練。一方もう一人、新人と呼ばれた男の方だが……。
無精髭にぼさぼさの髪、頬は痩せこけて目つきも悪い。これでは兵士と言うよりまるで山賊……そう指摘されても仕方のない風貌である。
「むぅ……」
「でも、本当に居るんすか? もう別の所へ逃げたんじゃ……」
部下達の報告に顔を険しくする隊長。新入りはこの芳しくない状況に対して仮説を立てる。
我々の探しモノは既にここには居ないのではないか?、と。
普通ならそれが妥当な考え、推測としては正しかったのだろうが、あくまで普通ならの話。
隊長と先輩兵士は出来の悪い生徒を諭す様に、説明に入る。
「いや、それは無い。スルハ方面からはリスディア様の軍が迫ってきているし、他国に亡命するなど論外だ」
新入りの説は唯単純に物事を考えた時の答えであって、現在の状況と照らし合わせて導き出した解ではない。故に仮説とも言えないお粗末なものになる。
周囲の国や街の立ち位置、自軍の状態をキチンと把握して居れば、同じ仮説であったとしても、それは限りなく正解に近づくのだ。
「グレッセとここから一番近い国――ヒャルアイは仲悪いですからね……。敵国の姫様が手元に来たら十中八九、良い様に扱われるでしょうね」
メレッセリアからも割りと近い位置の国、ヒャルアイは過去の因縁から非常に仲が悪い。
つい十数年前まで戦争をしていた国と言うのはそこのこと。
――いや、終結したと言うよりも単純にうやむやになっただけであるが。
兎に角、ヒャルアイとはそんな背景を抱えて居る以上、グレッセ側から助けを求める事など出来ない。
亡命したとしてもその立場を利用されるだけ……。
因縁深き国の姫なのだからそれは当然の――――。
「――――!? そ、そうっすよね……」
二人の話に聞き入っていた新入りが突如驚愕を浮かべた。まるで、そう――――初めて自身が追っているハズの人物について知った様な……。
「ん? どうした新入り、そんな驚いた顔して」
先輩兵士は新入りが見せた違和感とも呼べるその隙を見逃さない。
明かに不自然、今作戦の同行が初任務となる新入りであるが、この情報は事前に伝えられていること。
いくらなんでも驚き過ぎである。特に注目していた訳じゃないのについ突っ込んでしまう位に。
「い、いえ、何でもないっす!」
「んー? 何かおかしいぞお前?」
不自然さを指摘され、否定してみても火に油……。余計に先輩兵士の不審を買うのみ、そのことを内心で焦る新入り――――。
(やべ、やっぱり悪い面してるからってナチュラルに紛れ込むなんて無理があったか?)
――いや、廣瀬悠理が焦る。街に忍び込んだ後、風貌の似ていた兵士を気絶させ、身包みはがして入れ替わった。
――――それが悠理の思いついた秘策。
どう考えても無茶無理無謀の三拍子、しかし不思議な事に中々コレがバレないもので……。
そうして彼は兵士に紛れ、ごく自然に彼等の探し物を手伝っていた。
何を探せば良いのか解らなかった為にフリだけだったが。
しかし、それがグレッセ王国の姫様だったとは……予想外も良いところ。
いくら悠理でも想定外から攻撃があれば驚きもする。しかし、潜入捜査ではそれが命取り。
この場を切り抜ける事は可能だ――先ず間違いなく力技になるだろうが。
でもそれは最終手段にせねばならない。でなければ何の為にこの場へ潜入したか解らなくなる。
――――この状況を如何に上手く乗り切るか……廣瀬悠理は焦りながらも答えを探す……。
――が、ここで彼は思いもよらぬ助け舟に拾われる形となる。
「まぁ待て、きっとセレイナ姫の境遇に同情しているんだろう……。私には解るぞ新入り」
「え――えっ?」
何を勘違いしたのか、はたまた部下を思う心がそうさせたのか、先輩兵士から不審の目を向けられる悠理を庇ったのは部隊長。
思わぬ形で舞い降りた幸運に、暫し唖然としてしまうが、隊長は構わず続ける。
「信じていた思い人が突然謀反を起こし、国王を殺害……。御付きの侍女と逃げたは良いが、逃亡先などあるハズも無く……。うぅっ、悪事に加担している身でこんな事を思うのは卑怯かも知れんが、あまりにも辛いではないか……」
元より彼は人情厚き男だったのだろう。うっすらと涙さえ浮かべて、自分達が捕らえるべき相手の不遇に同情する。
そんな隊長に感心しながらも、悠理はその発言から情報を得ることに集中した。これは思わぬ拾いモノ。
姫の思い人が謀反を起こした――――それはグレフ達から聞いたカーネス・ゴートライの事だろうか?
突っ込んで訊いてみようにも、また何処かでボロを出してしまうのは避けたい。
けれども、マーリィが受け取った機密文書の裏は取れた。謀反があった事だけは間違なく事実らしい。
「し、新入り――――お前って優しい奴だったんだな……」
頭の中で情報を整理していたら、先輩兵士のそんな呟き。
隊長の言った事を鵜呑みにしたのか、彼の目にも涙が浮かぶ。
「え? ――――解ってくれますか?」
ここは便乗しておくが吉。そう考えた悠理は話を合わせておく事にした。
「――良し、この私ルンバ・ララに任せておけ! 捕まえた後の処遇は決して悪い様にはしないし、上の連中にもさせはせん!」
部隊長――――ルンバ・ララは力強く胸を叩く。敵にしておくには勿体無い男気溢れるその様に、悠理の胸も少なからずジンとした。
「た、隊長! 俺、何処までも付いていきます!」
初対面の悠理ですらそう感じるのだから、先輩兵士にはその倍以上効果があったらしく、遂には感動で泣き出す始末……。
「うむ、では気合入れて捜索再開だ! ぬかるなよ?」
「了解であります!」
こうして、何故か妙な気合が生まれ、二人は捜索に熱を出す。
その後ろを姿を――――。
「――ギャグ漫画みたいな展開って本当にあるんダナー……」
――悠理は唖然としながら見送るのであった。
次回、姫様の侍女が捕縛される――――予定なんですけど、明日も帰りが遅かったら書けないかも知れぬ……。
その時はバドレとジャダの人物紹介になります。