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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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後事を託し、次の街へその2

うーん、思った様に時間が取れんな……。


主にバトスピのデッキ構築に悩み過ぎてる性だけど……。

 クヴォリアの街、その郊外で慌しく準備を始める兵士達。

 その中に混じって、囚われていた少女達へ配給する物資を運ぶ悠理。

 語るまでもなく、街に落ちた影は濃い。そんな状態では、自分達は勿論、同じくこの件の被害者であるガルティ達が食料や物資を譲ってもらう事は難しい。

 不可能ではないにしろ、実行すれば少なからず住民からの反感もあるだろう。折角彼等の気が落ち着いた今、もう一度荒波を立てる様な愚は犯したくはない。

 こちらにも余裕があると言う訳ではないが、この状況では致し方なく、兵士達も納得してくれた。

 元より、彼等は母国を失い、生きる為にコルヴェイ王に下った身。今の住民達に何か感じ入るものもあるのだろう。

 街はまだ死んでいない、しかしそこに住む人々が生きる気力を失えばあっと言う間に滅ぶ。

 母国を守れず、それでも生き恥を晒したのはいつか故郷の再興を誓ったから。

 きっと彼等はそんな自分達の境遇をこの街に重ねたのかも知れない。

 兵士達は荷造りを済ませつつ、終わった者から住民のケアへ向かうべく新たな準備を始める。

 そんな彼等をぼんやりと見つめる悠理に二つの影が近づく。


『行っちゃうんだねミスター』

 声に振り向けば、何処か名残惜しそうな顔の狼耳少女ガルティと、その姉である兎耳の少女ルガーナ。

 二人も手伝いに加わっていたのか幾つか荷物を抱えていた。

「おお、お前達か。すまんな、直ぐに故郷に帰してやれなくて……」

 自身が抱えていた木箱を一旦地面に下ろし、申し訳なさそうに呟く。

 やっと解放されたのだから、今直ぐにでも故郷に帰してやりたかった――が、現状を鑑みればそうも行かない。

 無論、事情は説明済み、彼女達も理解してくれたが、やはり心苦しさはある。

 一応、メノラを通じてリリネットに連絡を取ってもらった。彼女の淫魔ネットワークを駆使して、各々の故郷へ無事を知らせる手筈はしておいたが果たして上手くいくかどうか……。

『い、いえ、ウチ等が助かったのはミスターお陰ですから!』

 あまりにも申し訳なさが態度から滲み出ていたのか、ルガーナは元気付け様として明るい声を出す。

 ――が、悠理にとっては逆効果。無理に気を使わせてしまったと心の中で悔いる。

 彼女達の方がよっぽど辛いだろうに……。自分は所詮この世界では異邦人。

 元より、故郷への思い入れも未練も無い――がしかし、帰りたくても帰れない者の気持ちは何となくだが想像は出来る。

 郷愁を押し殺してまで気を使う優しさに感謝はするが、やはり同時に申し訳なさも覚えてしまう。

 何と声を掛けて良いものやら――――悠理は返答に詰まる。

 ――が、幸運と言っても良いのかこんな時こそ助け舟は来るものだ。


「ミスター~、護衛に残る数名の選出終わりましたよー!」

 悠理の姿を見つけて駆け寄ってくる兵士――――リスディア隊を襲撃した際、先行していた1200で唯一生き残ったでお馴染みのマルコーだ。

 彼にはガルティ達を護衛するにあたって一時的に隊長格を与えてある。その初めての仕事が面子集めだったのだが、どうやら成功したらしい。

「おっ、丁度良い所に。紹介しよう、お前達の護衛に付いてくれるマルコーだ」

『護衛? 拙者達にそんなの必要な――』

『こ、こらガル! 失礼でしょ!』

 確かに、亜人種である彼女等は他に捕えられていた“祝福喪失者”と違って祝福を有している。

 ましてや、亜人種は大抵が強靭な肉体を持つ者ばかり……。同じく“祝福喪失者”のマルコー達では頼りないと感じてもおかしくは無い。

「アハハ、僭越ながら皆さんの護衛にあたる事になったマルコシアス・べトレーオ・ヒューネチャッカ・クラウトマス・ソルデキ・ブラネーデ・フォルトラース・シャルクデ・ガルキオンⅢ世です。長いのでマルコーって呼んでくださいね」

 ガルティの厳しい指摘に苦笑しながらも自己紹介するマルコー。

 ――が、三人はその口から出た名前に思わず驚愕してしまう。

「ず、随分立派な名前を持ってたんだな……」

『ほ、本当に長いわね……』

 彼の正式な名前に関しては悠理も初めて聞く情報。周囲の人間が“マルコー”としか呼んでいなかったのだから、そう思い込んでしまうのも無理はない。

 同じくガルティもあまりの長さにちょっと大げさなリアクション。

 いや、一回で覚えきれなかったのは確かなのだから、案外適切と言えるのかも知れない。


「――一応、名のある家系の出なもので……」

 苦笑しつつ少しだけ照れを浮かべる。それは自分の家柄に誇りを持っているからだと言うのは何となく察しが着く。悠理は『誰にでもドラマがある』と地球で聞いた名言を思い出していた。

 きっとマルコーもそうなのだろう。いつか日を改めて訊いてみるのも良いのかも知れない。

『……あ、あの、もしかして、今は亡き北方“ストレナルグ”にその名を轟かせた伝説の傭兵一家――――その末裔にあたる方では?』

 ――と、ここであっさりと意外な人物、ルガーナによって秘められたハズのドラマが晒される。

 その指摘が正しいのはマルコーを見れば明らか。

「――えっ、良くご存知ですね? 正直、北方以外でこの名が通用するとは思いませんでしたよ」

 余程マイナー――と言うのは聞こえが悪いか。しかし、当の本人の口ぶりからすればそんなニュアンス。

 有名なのは有名だが、一部の地域でしか名を知らぬ存在……。言うなれば、ご当地ヒーローやアイドルの様な立ち位置なのだろう。

『や、やっぱり……! あの、ウチは大陸の名家とか伝説とか伝承を調べる好きで……。よろしければもっとお話を訊きたいのですけど……』

 唐突に明かされたルガーナの趣味に、『あれ、どっかで見た事あるぞこの展開』と、妙なデジャヴを感じた悠理だが深く考えない事にした。

「ええ、ボクでよろしかったら構いませんよ」

『あ、ありがとうございます!』

 マルコー自身も自分の家柄について訊かれた事が嬉しかったのか、二人はその場で話込み始めた。

 その口から語られる歴史にルガーナは真剣に聞き入っている。

「――――上手くやって行けそうじゃないか」

『ふーん、姉者があんな嬉しそうなんて何か癪ね……』

 そんな二人をそっと見守るはぐれ者達。前者は幸運を祈り、後者は多少の妬みを抱く。

「そう妬くなって……。じゃあ、俺はそろそろ行くわ」

 後は放っておいても悪い方向には行かないだろうと判断し、再び木箱をその腕に抱える。

『あ、うん。色々とありがとう。お礼はまた会った時にでもするから』

 交わす挨拶は意外に軽いもの。でもきっとそれで良いのだろうと思う。

 いつでも気軽に会いに行ける。そう考えて居た方が気も楽だし、とても簡単に叶いそうだから。

 ――まぁ、変に重い言い回しをすればフラグに化けてしまう、と言う現代人なりの懸念もあった訳だが……。

「あいよ、楽しみにしてる」

 兎にも角、悠理も同じ様に軽く返して背を向ける。

 そして――この約束が忘れた頃に偶然果たされる事になるとは、悠理もガルティもまったく想定していなかった。

 それが語られるのは当分先の話であるが……。

 ――こうして、クヴォリアでの出来事は終わりを告げ、彼等は旅立つ。

 グレッセ王都への道程、その第二の街“メレッセリア”へと!

えー、今回でやっとクヴォリア編が終わります。


そして――――残念なお知らせですが……。


第一章におけるガルティ達の出番はこれで終了となります。


番外編では出てくるんですけどね。


主にマルコーとの交流がメインで。


まぁ、何はともあれ、次回からメレッセリア編スタートですよ!

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