太陽が昇れば影も静かに落ちるもの
届いた荷物(バトスピ関連多数)を整理していたらこんな時間に……
中途半端でグダグダですが、長いので区切らせてもらいますね。
――深夜のクヴォリアに太陽の如き光が昇ってから数時間後。
本物の太陽が顔を出し街に夜明けを告げていた。数時間前に起きた出来事など夢幻とでも思える様な清々しい朝。
だが、光が射せば闇はより鮮明に浮き出るもの。
悪夢から目覚めたとしても無かった事にはならない、絶対に。
「――――う、うーん……」
『おっ? やっとお目覚めか?』
「……レーレ? 俺は……」
悠理が目覚めたのは自分が使っているテントの中。
傍には当たり前の如くレーレが居て、彼も自然にその状況を受け入れる。
――が、どうも記憶が曖昧であるらしいと自覚。身体が妙に熱くだるい……。
『あの妙な光を放ったあと気絶したんだ。覚えてないのか?』
「――光? あぁ、あれか……」
そこでようやく思い出す、ジャダと言う老人に連れられ地下施設へ潜り、奴隷として監禁されていた少女達を助けたこと。
息つく間もなく、洗脳の解けた住民達が自暴自棄になり、それを止めようとしたこと。
説得しているうちに身体から熱い何かが噴出して、その熱を自分は思うがままに解き放ったはず……。
――それから……。
「――っ、街の皆は!?」
あの後、気絶したと言うのなら彼等は一体どうなったのか?
今ここでレーレがのんびりしている以上は大事にはならなかったと考えたいが……。
『――――――今の所、殆どの連中は落ち着いてるよ。ヤバそうな奴等は、メノラが眷属連れてケアに回ってる』
光が収まって悠理が気絶した後……。住民達は落ち着きを取り戻し、呆然としていた。死を望んでいた気持ちが薄らいだことへの戸惑い。
そこに大小の差はあれど、狂気の渦は最早無く、少なくとも彼等は冷静に物事を考えられる程にまで回復していた。
ある者は、自身が穢した相手の下へ走り涙ながらに謝罪を始め。
またある者は、穢れた身を嘆く愛しき者を抱きしめた。
己の手で殺めた命に謝罪と涙を流し続ける者も……。
――全てが丸く収まったとは到底言えない。けれども、何はともあれ先ずは第一歩。長い長いやり直しの旅路……その始まり。
そうして、罪を償おうとする者が居れば未だに混乱状態にある者も当然居る。
彼等に関しては、拷問と尋問を終えたメノラが対処に当たった。
発狂しそうな相手に魅了の能力を発揮し、暗示をかけ精神を強制的リラックス状態にさせ、片っ端から眠らせた。かの淫魔はそれで終わりにはしない、夢の中まで介入し、更に暗示の効果を強化するなどの処置を取った。
いずれは正気に戻るかも知れないが、暫くは時間が稼げるだろうとのことだ。
――本人は『こんなサービス滅多にしないからね?』と、淫魔らしくない行動(治療行為)をその様に称していたが。
「……レーレ、一つお願いがある」
それらの説明を大人しく聞いていた悠理がふと真剣な顔で彼女を見つめる。
『…………何だよ?』
――隠している事があるだろう?
言葉にはしなくても瞳はそう訴えかけていて、実際に秘匿している情報があるレーレは顔を逸らすしかない。
だからこそ、彼女が言いたくないことを承知でお願いするのだ。
例えそれが自分の首を絞める行為であっても。真実から目を背けることはしたくはないから――――彼は問う。
「これからする質問に嘘を吐かないで欲しい――――――何人死んだ?」
『…………』
問いに無言を貫くレーレ、それはつまり秘匿の確信を突いた事を示していた。
「…………」
悠理もまた無言で彼女を真摯に見つめ続ける。
無言が続く…………だが、それも直ぐにレーレが観念する形で決着を迎える。
『――――お前が気絶してる間に8人自殺したよ……』
「………………そっか」
想定していた事実とは言え、悠理はショックを受けていた。自分が意識を失っている内に8人も死んだ……。起きていたなら止められた――なんて根拠も保証も無い。
唯、何もする事が出来なかった歯がゆさが彼に後悔の念を植え付けた。
『なぁ、それってお前が気に病むことか?』
暗い表情を浮かべる一応の御主人様にレーレは馬鹿らしいとでも言いたげ。
嘲笑すると言った感じではない、かと言って怒っている訳でもない。唯々、不思議そうに疑問をぶつけてくる。
『お前は降りかかる火の粉を払って、それが結果的にあいつ等の洗脳状態を解くキッカケになった。でもな、お前が苦しむ理由にならないぞユーリ。それとも何だ? 全てを救うことが出来るとでも勘違いしてたのか?』
「――容赦ねぇなぁレーレ……」
心に刺さる情け容赦のない言葉に苦笑するしかない悠理。
真理を含んだ発言だからこそ、胸に良く刺さる。
「勘違いなんてしてねぇよ、でもな……そう簡単に割り切れねぇのさ」
死んだのは見ず知らずの他人だ。自分が心痛めるのは偽善だと言われてもおかしくはない。
――けど、キッカケを作ったのは間違いなく自分自身で……。
「……その8人は俺が殺した様なもんだ……だから――」
殺めた命に対して己がすべきことは何であるか? 自身の命を持って償うこと? 生きて罪の意識に苛まれること?
――違う、そんなハズが無い。自分の望んでいる事である訳もない。
決意と強き心を持って悠理は己の道を定めるべく前を向く。
「――――今は前へ進もう。街をこんな風にしやがった奴等をぶっ潰す位しか、この罪滅ぼしは出来ねぇ……!」
『――お、応、流石はユーリだぜ。想った以上に立ち直り早いな』
見る見る内に力強さを取り戻していく彼にレーレは面食らっている。
彼女は彼女で、いざと言う時は身体を張って悠理を元気付ける気で居た為、若干肩透かしを食らった気分だ。
――どう身体を張ろうとしたのかは想像に任せるとして……。
「立ち直ったかどうかは解らんが、立ち止まっていても解決はしないだろ? なら、進もう。悩むのも後悔するのも歩きながらすればいい」
ポジティブシンキングなのか、元からのマイペースさ故か。普通の人間なら、立ち止まって悩み、答えが出るまでその場に立ち尽くしていそうなもの。
けれど廣瀬悠理はそうじゃない。彼は立ち止まりはしない。進んだ先で答えを見出す事を望み、歩みを続けるのだ。
『――――へっ、本当に心配するまでも無かったみたいだな……バーカ!』
その前向きさに触発されたのか、レーレは馬鹿らしくなって笑う。
以前、ファルールに『ユーリを信じろ』と言っておきながら柄にもなく弱気になっていた自分を。
けどもう大丈夫、もう何とも無い。どこかスッキリした気分。
これで心おきなく伝えられる。淫魔メノラが持ち帰ってきた情報を。
――果たして悠理はどんな反応をするのだろうか?
いつか立ち塞がる事になる彼の敵を知って、それでも歩みを止めないだろうか?
(お前が歩みを止めないなら、俺は何処までも付き合ってやるからな!)
――その密かな決意は確信犯。何故そうかと言えば、数分後にはそれが証明されるからである……。
――実は減ったブクマ一件のことで未だに悩み中……。
去るものには固執しないけど、何故去ったかを考え、悩むのはそれとは別の話だからね……。
まぁ、この答えはそう簡単に出ないとは思うけど。