自由のままにワガママに彼は生きろと叫びたい
ふいー、何とか終わったぜ……。
――まぁ、てん●くやってたら遅くなったんだけどな!
――現実の残酷さ、自分達が犯した罪に耐え切れず死の望むクヴォリアの住人達……。
そんな彼等を生かす為に悠理が出した結論は場に居る誰もが予想だにしない――想像の斜め上をぶっ飛んだ発現であった。
「―――えー、皆さんには殺し合いをしてもらいます」
『――――オイ』
「……え?」
「は?」
一同、放たれた言葉を疑うばかり。それはレーレ達も例外ではない。驚き、怪訝、不可解――――住民達も似た様な表情をしている。
計れない。ここに居る全ての者には廣瀬悠理を推し量る事は不可能。
「な、何を言ってるんだアンタは!」
「そうじゃ、そんなおぞましいこと――――」
故に問う、理解したいからではなく、理解できないから。
解らないなままに話を進行されても自分達に不利なのは解っている。
だから尋ねる、訊く、真意を確かめ様と思考を働かせる。そして――。
――――そう、これでいい。
全ては計算の内、彼等は今、意味不明、理解不能な発言に対して疑問を抱いた。もう先程まで自分の死だけを望んでいた時とは違う。動揺と戸惑いが“死を望む心”に割って入った。
“殺し合い発言”はこの為にあったのだ。あれ位の非常識な言葉を投げかけなければ、自暴自棄になった人間に聞く耳を持たせる事など出来はしない。
その意図は叶い、人々は悠理の言葉を待ち望んでいる。彼もそれに応える――――自分自身の揺るがない思いと共に。
「何言ってんだよ、死にたいんだろ? それに操られてた時、好き放題やられた相手とかに報復する好機じゃないか」
この街を襲った悲劇は陰惨たるもの。全ての住人が操られた状態で、誰かを犯し、殺し、踏みにじって来た。無意識な上に、その記憶は忘却させられ、悠理の力で解除された時初めて思い出せたのだ。
故に彼等は今こうして己の死を願うほどに苦しんでいる訳だが……。
――だが、考えても見ろ。今、君の横に居る人間はお前を犯した人物ではないか?
手の届く距離に居る男は貴方の想い人を手にかけてはいないか?
愛する者を殺めた老人よ、貴方の罪はたったそれだけか?
違う、そんなハズが無い。バドレとジャダがこの街でコトに及んだのは数年前。
狂った宴は昨日今日に始まった訳じゃない。当然、住民達は身を持って知っている。
――だったら、居るだろう? 殺したい奴が、憎んでいる奴が、この中に!
どうせ死ぬのなら、せめてそう言う鬱憤は晴らすべきだ。悠理は当たり前だと言わんばかりにそんな結論に至る。
普通ではない、狂気の沙汰だ。人に押し付ける思想では断じてない。
「で、でも、そんなの――」
勿論、『はい、解りました』と狂気に喚起される彼等ではなく、皆その言葉の意味を理解していても誰一人として肯定しない。内に微かに宿るその類の感情を認識していても、だ。
「出来ないか? まぁ、つまりはそう言うことだ」
「――え、どう言うことユーリ?」
呆れたのか、その逆に安心したのか解らない複雑な表情の悠理。
まるでこの結果が解っていた様な物言いにカーニャは疑問を抱く。
一見、無茶苦茶な行動でも彼のする事には意味がある。それは解っているのだが……。
どうも悠理は自己完結している所があって、彼女は時々そこに戸惑うのだ。それは今回も同様である。 ――レーレやファルールは黙っている辺り、意図を察しているのだろうが、カーニャにはまだ無理だ。
だからこそ尋ねる、住民達と違って理解できないからではなく、廣瀬悠理を理解したいから。
カーニャの問いに彼は淋しさと苦虫を噛み潰した表情を同居させ、やはり苦々しく言葉を吐く。
「――コイツらは皆自分の事しか考えてなかったのさ。その手で傷付けた相手を労る――そんな事はこれっぽっちも思ってなかった」
――口を開けば彼等は『死にたい、殺してくれ』と叫ぶ、自分しか見えていないのだ。それは我が身の可愛さからか、それとも見ないフリをしていたのか……。
いずれにせよ、悠理は解らない事だ。だからこそ、無知を承知で彼等を弾劾出来る。
「――違うッ! 俺は娘の事を――!」
「……黙れよ」
「う、っ!? ……うぅ……」
見ず知らずの他人にされた指摘を否定しようとする男は、悠理の一睨みで発生した虹の光に身体を更に拘束され、喋る事すら出来なくなる。
彼が男に送る視線はただひたすらに冷たい。そこには一種の怒りが込められている。
――――娘の事を思っていたらちゃんと向き合うものじゃないのか?
子供が居ない所か、恋人さえ居ない悠理に父親の気持ちが理解できているとは言いがたい。
それ所か彼は父親との仲は良くない方だし、その気持ちも察するなんてとてもじゃないが出来ないだろう。
しかし、彼には歳の離れた幼い妹が居るし、子供の視点から物事を洞察することは出来る。
実の父親に犯された子の気持ちは勿論解らないが、解らないから考えない、と言うやり方はナンセンスもいいところ。親なら誰しも子供に悪い事をしたなら謝れと教えるだろう。
それと同じで向き合い、必死になって解決策を講じるのが相手を想う行動である、そう悠理は信じて疑わない。
――けれど彼等は……悲しい事にそうは考えなかったのだ。
「お前等は犯した罪が恐ろしくて逃げた! 償う事すら忘れてッ、そうだろう!?」
もう、悠理自身も抑えが効かない。相手の気持ちになって考える事を自分自身から手放し、心のままに叫ぶ。矛盾している事は重々承知している。しかし、だからと言って感情を理性で律するのも限界がある。
「その上、死にたいだと? それが甘えじゃなくて何だッ!」
そんな時は己の中にある“あるがままの気持ち”を吐き出す他ない。
故に自分にも間違いなくある人の弱さを弾劾する。その資格も有さければ、単なる身勝手だと知っていても。だからこそ、人は誰かに強さを求めるもので……。
「穢れたのなら生き抜いて幸せになれ! 穢したのなら今以上に愛情を注げ! 愛した者を殺めたなら残りの一生をかけてその死を悼むんだよッ!!」
――そうあって欲しいと言う願い。誰かに押し付けて良いとは思わない。けれどもやはり、誰もが誰かに望むのだ。
きっと、目の前で絶望にくれる彼等も本当は願っている。
『――――ヘヘッ』
「――――ミスター、結論は?」
レーレは彼の真っ直ぐさを喜び、ファルールは『どうしてこうも不器用な言い方しか出来ないのか?』と苦笑する。
もっと簡単で単純な言葉で良いハズなのだ。
誰かに何かを願う、と言う事は。
「――――生きろッ! 生きて生きて生き抜いて、不幸が、傷が、怒りが、穢れが霞んじまう位の幸せを掴み取れ!」
仲間達に背を押され、悠理は再び精一杯の声を張る。
「こんな理不尽に負けてんじゃねぇ! 立てよ!」
届け、届け! 生きる心に火よ灯れ!
声に熱が篭り、吐き出す度に温度を上げていく。身体はもっと熱い、まるで燃え滾るマグマの様に絶えず身を焦がす。
――けれど嫌な感じで名は無い、でももう身体の中にそれを留めてもおけない。
初めて感じる力の躍動に戸惑いながらも直感に従い拳を突き――上げる!
「やっと自由を取り戻したのに自分から手放してんじゃねぇぞッ! そんなのは俺が赦さねぇ……このミスターフリーダムがな!」
天へとかざした拳に光が宿り、夜空を真昼に変えんとする様に眩く。
けれどもそれはいつもの虹色の光ではなく、太陽の如き白光。
「ユ、ユーリ?」
当然、住民はおろかカーニャ達でさえも戸惑う――――が。
「もっとだ、もっと輝いて見せろぉぉぉぉぉッ!!」
その驚きを口に出す間もなく光が大きくなり、何もかもを飲み込んでいく。
怒り、悲しみ、傷、涙――――あらゆる感情も痛みも。
全てが光の中へと消え去って行く……。
――この光は数十秒後には収まったらしいが、その光景を街の郊外にて目撃したノーレ達によると……。
「――綺麗……」
それはまるで朝日が昇る姿に似た、眩しく、暖かな光だった言う。
久々に本編更新できたな……。
GW中に第一章終わらせたいけど――――終わりそうかナァ……。
が、頑張りまーす!