THE 旅の夜・野郎共編
スマヌ、本編はまた明日ね?
――それはスルハを出て三日目の夕方。
明日の昼ごろにはクヴォリアの街に到着出来る距離まで到達していたグレッセ王都解放軍は、森の中で野営の準備を開始していた。
――そんな中、騒がしい男が一人……。
「おーい、マルコー!」
何かから逃げるようにして悠理が森を疾走していた最中、ふと最近になって顔馴染みになった若い兵士の背中を見つける。
「ミスター? どうしたんですかそんな汗だくで……」
マルコー――――そう呼ばれたのは若い青年。自分のテントを張り終え、相棒のディーノスに餌を与えていた所だった。
――この青年、実はリスディア隊襲撃の際に先行していた1200――その中で唯一気絶せずにいた彼である。
正確に言うのであれば、あの状況を意識が回復した兵士達に伝えて欲しかったが為に、レーレがわざと適当に残しただけ。
――であるからして、マルコーに何か特殊な力がある訳ではなかったりする。
「い、いや、何でか知らんが女性陣に追い掛け回されててさ……。お前のテントに匿ってくれないか?」
「ああ、お安い御用ですよ」
あえて深くは追求しない。何しろ、スルハから旅立って休憩の度に同じ事を繰り返しているのだ。
その度に悠理は誰かに匿ってもらいにあちこちを走り周る。そのお陰と言って良いのか解らないが、兵士達と彼の距離は少しずつではあるが縮まっていた。
――中には縮まり過ぎた人も居る。それは昨晩、白風騎士団の女性団員が真夜中に悠理のテントに潜り込んだ事からも伺えるだろう。
「助かるぜ! ――――って、もう来やがった!? わ、悪いが後は頼んだ!!」
「え、あ……」
追っ手の気配を察知した悠理がテントの中へと逃げ込む。あまりに素早い動きに一瞬目を疑ったが、エミリーと互角に勝負する人間離れさはマルコーも訊かされているので驚きはしない。
――――それよりも……。
『くっそー、ユーリの奴何処行きやがったんだ~?』
「――――ッ!?」
追っ手がレーレ・ヴァスキンとは……彼も運がない。
言うまでもく、マルコーにとって彼女は畏怖の対象。1199の兵を音も立てずに気絶させ、
最後に残った自分を容赦なく圧倒的力で捻じ伏せた相手……。
『ん、あれ? お前確か――――』
「な、何か私目に御用でしょうかレーレ様ッ!」
その経験がトラウマとなって態度に表れた。無意識の内に膝をつき頭を垂れる。せめても抵抗で身体の震えは必死に耐えた。気を抜けばみっともなく歯を打ち鳴らしてしまいそうだったから。
『うおっ、いきなり跪いて何だよ!』
何もしていないにも関わらず、自分に対して向けれられた態度に面食らう。
レーレは既にマルコーの事を覚えていないから不思議に思うのは当然か。――――何とも薄情である。
「い、いえ、我等が大将――――ミスターの恋人であらせられるレーレ様に失礼な態度は取れま――――」
『だっ、誰がアイツの恋人だってッ!?』
「――ヒッ!? ち、違ったのですか?」
悠理の居場所がばれない様に、またレーレのご機嫌を取れそうな言葉を使うマルコー。
――そう、このたった数日で彼女が誰を想っているのかなど、知れ渡っている。
それ程に好き好きオーラ全開で悠理に迫っていたのだから、当に二人は恋仲なのだと思っての発言。
しかし、レーレは顔を真っ赤にして怒り顔。対するマルコーは恐怖に顔を引き攣らせてもう涙目。
もう既に精神力はレッドゾーン。もう少しで無様に気絶するのは必至と言う状況。
――だが、彼はまだ運に見放されていなかった!
『違うに決まっ――――う、う~~~ッ!!』
「――――――レ、レーレ様?」
『……にも……なよ?』
「は、はい?」
『お、俺がアイツの――――だって事は誰にも言うなよ! 解ったな!!』
「はっ、はいぃぃぃッ!?」
『うー、ユーリの奴……ぶつぶつ……』
レーレは凄まじい剣幕でマルコーを圧倒すると文句を言いながら去って行く。
――彼を救ったのは、言うなれば乙女心。
好きな相手の恋人と言われて恥ずかしさはあっても、そこに悪い気持ちが芽生えるハズがない。
自分と悠理がそんな風に見えていたのなら――――間違いなく嬉しい事だった。
背中しか見えないマルコーには知る由もなかったが、この時レーレはとても上機嫌そうな笑みを浮かべていて、後に同じく悠理を追っていたファルールと合流した際には驚かれたと言う。
「――――はぁ、はぁ…………ふぅ……」
膝を突いたまま肩を荒々しく震わせて深呼吸。緊張感が今になって襲ってきて身体の震えを止められない。額にはびっしょりと冷や汗をかいおり、レーレに抱くトラウマが余程のモノであるのは間違いなかった。
「レーレを退けるなんて――――お前やるな」
感心したようにテントからはいずり出てくる悠理。彼は彼でずっと気配を殺す為にじっとしていた様だ。その証拠かどうか解らないが、芋虫みたいな姿勢を維持しそのまま移動していた――――何とも奇妙な光景である。
「じ、寿命が縮みましたよ……」
「いやいや、確実に進歩してるって! 自身持てよ!」
芋虫状態を解除し、背中を2、3度軽く叩く。何せ、スルハを出た初日にレーレが横切っただけで気絶しかけていたのだから確かな全身であった。
「お願いしますから恋人の手綱位しっかり握ってて下さい……」
「ハッハッハッ、アイツがすんなり言う事を聴く玉かよ。――そういや、お前恋人とか居るのか?」
実際は恋人ではないのだが……そこは男心。可愛い女の子、しかも好意を抱いてる相手が恋人と言われて悪い気はしないのだ。
「――――――居ませんよ……」
「お、おいおい、見るからに落ち込むなって!」
「持つ者に持たざる者の気持ちは……」
羨ましがるジト目で悠理を睨み付けるマルコー。彼もやはり男で、女の子には興味津々。だが、兵士としての生活が長かった性で、女性との接し方がイマイチ解らず今に至る訳で……。
「大丈夫だって、まだまだ機会はあるさ。クヴォリアだっけ? そこで素敵な出会いがあるかもよ?」
「――――本当ですか?」
「前向きに考える奴の元へ幸運は転がってくるもんさ。後ろ向きなままじゃ何も変えられねぇぜ? それは恋以外でも――――な?」
「ミスター……」
それは悠理からの激励。これから先へ向かうは占領されたと報告があったグレッセ王都。
一体何が待っているのか解らないが、不安だけを持っていても仕方が無い。
部隊のメンバーが不安で潰れない様に、悠理は面々に明るい声をかけていた――と言うのはチラッと訊いていたが……。
――――今回は僕の番と言うことか……。
その心遣いは確りと胸に届いて幾分かマルコーの気持ちを和らげてくれる。
スルハに現れてから僅か一週間程度で、ここまでの人員を率い、行動を起こせる人物……。マルコーはその器の大きさを改めて感じた気がした。
「さぁ、ほとぼり冷めるまで好みのタイプの話でもしよーぜ!」
膝を突いたままのマルコーに手を差し伸べ、そのまま立ち上がらせると悠理が少々強引に肩を組む。
そしてそのままテントに篭って、二人は男同士だからこその会話を愉しむのだった……。
意図した訳じゃないんだけど、男キャラって片手すら出てないよねこの小説?
いや、結構居るんだって!
――唯、超重要人物だったり、物語後半とか番外編のみで出てくる奴が多いだけなんだって!