淫魔の御仕事
あとちょっとだけど先に投稿。
『あー、もうヤな感じ~……』
十字架に不可抗力でぶら下っていた少女。彼女は若干伸びてしまったオーダーメイドのゴスロリ風ドレスの状態を気に掛けている。
そもそも何故あんな状態になっていたかと言えば―――――――それは悠理の性であった。間接的にではあるが……。
少女は街で起こり始めた戦いを見学しようと、祝福の力で宙に浮き町全体を見下ろしていた。
――――が、突如発生した虹の光によってその力を解除され墜落。地面に激突しなかったのは幸いと言うべきか、悠理達の前で無様な姿を晒した事を不幸と嘆くべきか……。
「申し訳ないんだが、“チョベリバ~”って言ってくれないか?」
『??? チョベリバ~!』
「ほ、本物だ……!」
その少女があまりにも自分の知る現代(と言ってもギャル語は当に廃れていたが)の女学生に似ていた為、懐かしの台詞をつい言わせてしまう悠理であった。
――同時に、見た目の割に随分と素直な子だなぁ、と思う。
黒いゴスロリ衣装に、黒髪の目隠れ少女。加えて女学生みたいな口調。
身長はそれなりに高いのに未成熟な身体つき、最もその細身の身体はゴスロリ服とマッチして独特の魅力を醸し出していた。
「――――良く解らないけど、あれって多分下らない事よね?」
『お前容赦ねぇな。まぁ、間違いなくそうだろうけどよ』
悠理と少女のやり取りを遠巻きに眺めるカーニャとレーレ。ファルールはマーリィ達と合流し、部隊の再編成に向かった。ちなみに、非戦闘員のノーレとリスディアはお留守番で、エミリーはその護衛と言う形で郊外に残っている。
そんな訳でこの場に居る主な面子は、レーレ達の他に、ガルティ、ルガーナ、捕まっていた亜人種と祝福喪失者の少女達のみだ。
本来なら少女達を真っ先に安全な場所へ連れて行くべきなのだろう。しかし、そう出来ない理由があって今はここで待機しているのだ。
久々に――――いや、待ち望んだ地上への帰還が果たされた為、救助された事に安心した彼女らの殆どはその場で倒れるように寝てしまった。無理も無い、助けの保証も無くいつ売られるかも解らない身だったのだから。
バドレの祝福で人形の如く逆らえなくされていたが、それでも自我や意思は健在だった。それが負担となって日々彼女達を苦しめるに至った。
「…………はぁ」
『…………ふぅ』
レーレとカーニャは揃って溜息を吐く。
もしも、いや――街の住民もそうだとしたら?
その考えに辿り着いたら不安を抱くしかない。もしかすると、バドレやジャダを倒せば終わり――――なんて単純な話ではないのではないか?
だとしたら――――クヴォリアに出来た傷を癒すのはとんでない時間を必要なのかも知れなかった。
『――――で? アンタがリリネットお姉様の言ってたミスターで良いのよね?』
ドレスの状態を整え佇まいを直した少女が改めて尋ねる。その口から出た言葉に、やはりここで合流する相手は彼女で間違いないと気付く悠理。
リリネットから多少は外見について訊いていたが、実際に会うのは勿論初めて。
印象は悪くない、むしろ良い位だ。
「イエス! お前がリリネットさんが紹介してくれた淫魔で間違いないんだろ?」
『そうよ! ワタシが、大淫魔リリネット・グラウベルお姉様の妹分、メノラ・クシャンよ!!』
お互いにやたら高いテンションで存在を主張したかと思うと――。
「…………フッ」
『…………クフフっ』
何故か二人は怪しい笑みを浮かべて笑い始めた。正直言ってどちらも悪い顔をしている。
その不気味さたるや、この場で写真を取ったら直ぐに手配書として使えるレベル。
『――――おい、アイツ等急にどうした?』
不穏な気配を感じ取ったレーレが二人を訝しむ。しかし、敵意や殺意と言った感情は感じられない。
なのに妙な不安感がある。そこがまた不気味。
「――いや、アタシに訊かれてもこま――――」
隣へ立つ死神少女へ返答しようとしたが、その時悠理達に動きがあった。
各々が自らの右手を勢いよく相手へと突き出して――――!
「お前のポエムは素晴らしかったぞメノラ!」
「いやいや、アンタの作品も過激に素敵だったわミスター!」
――二人は固く熱い握手を交わす。その姿は友情を結び、互いの健闘を称えあうスポーツ選手さながらだ。
『――いや、本当に何なんだよ……』
「だから、アタシに訊かないでって!」
カーニャもレーレもこれには唖然としかしようがなかった。
これは当人達にしか解らない話ではあるが……。
淫魔達は種族間でしか使えないテレパシー能力を持つ。
それを使ってリリネットに連絡を取ってもらった時の事だ……。
いくら彼女の知り合いとは言え、見ず知らずの相手に力を貸すはずが無い。
そこで、悠理の人柄を知ってもらう為に簡単な事故アピールをしたのだが……。
特に何をしたら良いのか思い浮かばなかった彼は即興でポエムを作り、リリネットを介して淫魔達に伝えてもらった。
結果は酷評ばかりで惨憺たるものだった――――が、何処にでも変わり者は居るもので。
それを気に入り、自身もポエムで応えた淫魔が居た。それが今ここに居るメノラ。
悠理もまた彼女の作品に感銘を受け、リリネットをケータイ電話代わりに使って意気投合し、今に至る訳だ。
「――とまぁ、話は尽きない所だが……お願いがある」
名残惜しそうに手を離し、力を借りたかった理由を話そうとする悠理を、メノラが手で制す。
『――大体解ってるし、勿論良いわよ。もうワタシ達って友達じゃない?』
一を知れば十を知る……そこまでの仲になるには、相性以外にも長い時間が必要だ。
だが、彼等に関しては時間など必要ではない。お互いの心を、魂を言葉としてポエムにし語り合った仲。一生の中でそんな相手に巡り会える事はこの上ない幸運である。
「――ダチに拷問を頼むってのも少し気が引けるが――――頼んだ。……あ、ちなみに悪党がどうなろうが俺は感知しないから好きにどうぞ?」
始めから汚れ仕事を頼む為に呼んだ――悠理にとって今はそれが負い目。だが、今はメノラの力が必要不可欠。
自分達に効果的な尋問と拷問は出来そうに無い。でもバドレからは何としても情報を聞きださねば。
これから先、間違いなく必要になるハズだ。
『流石ミスター! 話がわっかるぅー! ――――丁度、反吐が出るくらいの悪党から干からびて死ぬまで生気を奪い取りたい気分だったのよ~♪』
好きにして良いとの許可が降りた事にご満悦なメノラが、舌で唇をベロリと舐めた。唾液がテラテラと光り、唇を淫らに彩って行く。
それは間違いなく獲物を狩る強者の仕草、凶悪で妖艶でどこか退廃的ですらある。
悠理はその仕草に淫魔の本質を見た気がして、苦笑いを浮かべた。
――淫魔と本気でやり合うのは避けた方が良さそうだ――そう思わずにはいられない程のクレイジーさを彼女は持ち合わせている。
『じゃ、また後で会いましょ♪』
拘束してその辺りに放っておいたバドレを回収し、メノラは地下施設へと消えていった。
――――翌日、尋問の報告に来た彼女の肌がツヤツヤしていたのは言うまでもない。
うー、テンションが中々乗らず、書き始めるのに時間がかかってしまった……。
この調子だとクヴォリア編はあと7ページ位は続くかも知れない……。