ただひたすらに自由を謳歌せよ
ふー、何とか書けたけど……。
うー、相変わらずくどい説明と感情描写だけで、肝心の表現はイマイチのままか……。
何か良い勉強方法はないものか……。
――地下施設、“バドレとジャダの地下庭園”……、と言う名の悪趣味極まりない奴隷市場には静寂が満ちていた。
『……ウッ、何……今の光は……?』
狼耳の少女は目を擦って現状を把握しようとする。ここの取締役であるジャダは無様にも気絶――――操り人形と化していた青年もそれは同じ。
先程、ここへ連れて来られた客と思わしき男と、この場に潜入してきたであろう少女だけが確りと意識を保っている。
少女はその二人を警戒対象として認識した。何が何だが解りきっていないが、姉を守る為には用心するに越した事は無い。
『――何だろ……。温かいなぁ……』
兎耳の少女は視界が塞がれている為、隣で警戒を強める妹よりも状況が飲み込めていない。
けれども、彼女は目が見えていない故に、この場に満ちる雰囲気とさっき発せられた何かに敵意が無い事を理解している。
それどころか、自らを包んだ虹色の光に、誰かに抱きしめられている様な暖かさすら覚えていた。
「アナタ達大丈夫? 待ってて、今すぐにここから出してあげるから!」
呆然としていたカーニャがジャダの懐から鍵らしきものを取り出す。老人は白目を剥いて気絶しており、目覚める気配は全く無い。その表情は驚愕に満ちており、まるで絶命しているかの様。
――ともあれ、彼に構っている余裕は無い。一刻も早く少女達を解放しなくては! と、使命感に似た何かが彼女を動かす。
――――その隣では……。
「――あー、びっくりしたぁ……。まさかあんなに力が出るとは……どうなってんだ?」
この状況を作り出した張本人が一番戸惑っていた。
悠理にからすれば、いつもより少しだけ、ほんのちょっぴり気合を入れて能力を発動しただけなのだが……。
その結果は彼の想像を超えるモノ。これには本人も唯々驚くしかない。
意識した、或いは望んだ以上に溢れ出た力……。一体、出所は何処からなのか?
自分自身の底知れなさ、もしくは規格外さを改めて認識せざるをえない。
いつの間にかかいていた手汗を服で拭い、感覚を確かめる様に何度か握る。
普通に見えるその手は、もうとっくに普通の人間とは違う。ゴーレムと一対一の力比べで押し勝つような手だ。
(これから俺は何処に向かうのかねぇ……)
恐れよりも興味があって、でもやっぱり時々顔を出す恐れもウソには出来なくて……。
まだ見ぬ未来に少なからず不安を抱いてしまう――――それでも歩みは止めはしないが……。
「ちょっとユーリ! ぼーっとしてないで手伝ってよ!」
考えに耽っていた悠理をカーニャの叫び声が呼び戻す。牢屋を次から次へと開け放ち、中に閉じ込められていた少女を解放してる。
「ん? おお、忘れてた! 皆、30秒で仕度しな! 懐かしの地上へエスケイプだぜぃ!!」
明るいノリで、さり気なく自分が言いたかったあの台詞を織り交ぜつつ、少女達へ指示を下す。
『えっ、貴方達は我等を助けに来てくれたの?』
警戒していた狼耳の少女が間の抜けた声を上げる。どうやら助けが来たという考えは持ち合わせていなかったらしい。
「さっき言ったろ、お前達は自由だって、なぁ?」
「ええ、アタシ達が来たからにはもう大丈夫よ。さぁ、鍵は開けたし枷も外して早くここから――――」
『ありがたいけど――――拙者は行けないよ……』
両手足と首に着けられた枷をカーニャが取り外そうとするも、その手を他ならない本人が押し留める。
――酷く申し訳なさそうな表情を浮かべて。
「え、どうして?」
『その男が言ってたでしょ? 病気にかかってるって……。姉者は助かるかも知れないけど、拙者はもう……』
今更自由を与えられた所で、全身に毒が回った自分には意味が無い。諦めた様に俯く彼女は自身の先の無さを嫌と言うほど理解していた。
「そ、そんな……何とかならないの?」
訊かされた内容にカーニャは悔しさから歯噛みする。折角……、折角助けられると思ったのに。
『ガルティ……アナタを置いてなんて――――あ、あれ?』
自身の運命を受け入れ頑なにその場を動こうとしない狼耳の少女――――ガルティを姉が説得しようとその手を握ろうとした時――彼女は違和感を覚えた。
瞼の裏を何かが刺激している感覚……。それは久しく感じた事のない、もう二度と感じる事が出来ないハズの――――。
『目が……ウチの目が……治ってる!?』
――――光。瞳を閉じていてもハッキリと伝わる刺激。
ボロボロの包帯の上からでも確かに視覚が回復していると気付く。
毒に神経を侵され、瞼を動かす事すらままならなくなったハズが今は自由に動かせる。
『えっ、本当なのルガーナ?』
『本当だよガル――――ほら!』
兎耳の少女ルガーナが包帯を解いてその素顔を見せる。クリクリとした大きな目を開いたり閉じたり……。
『これは――――そんな、ウソみたい……』
ずっと姉の悪化していく目を見続けていたガルティもこれには驚きを隠せない。
治る見込みなんて全く無かった。一度発病すれば命はないと恐れられた病気だったのに。
まるで病に掛かった事が嘘の様だったが、そんなハズも無い。
包帯で隠れていたルガーナの額の切り傷――――それが何よりの証。
――だが、姉の回復はガルティにとって良い知らせ。例えその原因が不明でも、これで思い残す事は何もない。
『……良かった。――お二人共、拙者の事は良いから姉者をお願――――』
「お前の病気も治ってるんじゃないか?」
ふと、思い至った様な発言は悠理から。勿論、何の根拠もなく言っている訳ではない。
しかし、病気の事は何も解らないので本人に確認して貰わねば……。
『それこそありえないよ。拙者はとっくに手遅れの域で――――あ、あれれ?』
手遅れである事の証明に肢体に力を込め、枷に繋がれた鉄球を動かそうとする。
ルガーナと違って全身に毒が回っているガルティは、その影響で身体のリミッターが外れた様な状況になっていた。肉体の負荷を感じる機能が麻痺し、一種の常時限界突破に陥っているとでも言おうか……。
だから、彼女はこうして厳重に拘束されているのだが……。
幾ら力を込めても鉄球はビクともしない。それ所か力の入れ過ぎで手足が悲鳴を上げ始めていた。
『うっ、お、重い……は、早く枷を外して…………!』
つまりそれは――――ガルティの病気も完治した事を示している。
(でも、何で? 今までこの病気にかかって生き延びたなんて誰も居ないハズだよね?)
その原因は言うまでもなく――――あの虹の光。
悠理が放ったソレはバドレの祝福から少女達を解放し、自由を与える為のもの。
だがそれでは、ガルティとルガーナの病を治した理由にはならない。
――ただし、唯の病でなかったのなら話は別。
二人の病は“祝福”よって変質したとある動物の毒によって発病する。これは彼女達、獣系亜人種のみがかかる一種の奇病と言えるもの。
その毒を受ければ最後、身体機能が徐々に狂い最後は発狂して絶命……。
少なくとも彼女達が知る上では対処方はないハズだ。
ならば、何故廣瀬悠理の虹の光は毒を打ち消したのか?
――答えは拍子抜けするほど実にシンプルだ。
虹の光は祝福に費やされたエネルギーを無に返す=自由にすること。
それは今回も変わらない。
つまりはこうだ、祝福によって変質した身体から分泌される毒はそれ自体が祝福と言ってもいい。
少なくとも悠理の力の前ではそう判断され、問答無用で毒を打ち消したのだ。
これは全くの偶然で、裏が取れるのはもう少し後のことになる。
――と言っても、悠理はうっすらその事実を直感で掴んではいたのだが。
「斬った方が早いな」
複数ある枷の鍵を探すのに手間取っているカーニャを押しのけ、悠理が前へ出る。
精霊剣リバティーアを腰から抜き放ち。鎖へと叩き付ける。すると、まるでバターを切るかの様にあっさりと鎖は音も無く断ち切れる。流石はグレッセ一の鍛治職人グレフ・ベントナーが造りし一振り。
現在の持ち主があまり本来の用途で使わない為に、その切れ味の鋭さが発揮されたのは今回が初めてとなる。
『あ、ありがとう』
『――あの、アナタは一体……?』
姉妹がその場に居た少女達を代表して悠理に問いかける。
気付けば彼女達の視線は彼に集中しており、皆が皆、何か眩しいものを見る目つきをしていた。
「俺か? 俺はな――」
ニヤリといつもの様に笑って親指を突き立てる。
何と答えるかは既に決まっている、だから自信を持って己が存在を示そう。
「――ミスターフリーダム! 自由を何よりも愛する漢さ!」
閉ざされた暗い空間に男の声が響く。迷いなく自身の存在を謳い上げるその姿は太陽の如き力強さを、鎖に繋がれていた少女達に感じさせた。
「――――クスッ」
カーニャはその相変わらずな悠理の姿を見て笑う。
――――ああ、やっぱりユーリはいつも通り自由だわ……。
何処か嬉しそうに笑っている彼女と目があった悠理は同じく満面の笑みで返す。
言葉など必要ない、きっと二人は同じ思いを抱いていたに違いないから……。
――この出来事以降、カーニャはあの一件を忘れたみたいに悠理へ普通に接していると言う。
しかしそれはこのクヴォリアの件に決着がついた後のこと。
悠理とカーニャは少女達を連れて舞台を地上へと移す。
この街に潜む闇が明けるまで――――――もうカウントダウンは始まっているのだった……。
うーん、時間がある日は思った以上にシナリオが長くなっちゃうな……。
もっと全体的にバランスを取るようにしなきゃ。