番外編・待ち人来ずな淫魔は暇を持て余す
ちゃんと本編書いてたんだけど、区切りがつかなそうだったから番外編で勘弁してね!
『もー、超特急で来たのにそれっぽい人いないじゃないのー』
それは悠理達がクヴォリアに着くおよそ一日前……。
彼らよりも早く、彼女は待ち合わせ場所に到着していた。
腰まで届く黒髪、目は前髪で隠れており、身長はそれなり高いが身体付きは未成熟。
服装はノレッセアでも存在したらしいゴスロリ風のドレス。
それを着るのは地球で言えば如何にも現代っ子、女子高生みたいな風貌の淫魔だ。
『まったく、リリ姉さまに呼ばれたから遥々やってきたって言うのにさ……』
クヴォリア名物のマシュマロを大量にほおばりながら少女は暇を持て余す。
彼女の尊敬する淫魔――リリネットの頼み事に応じ、とある人間に力を貸しに来たが――――待ち人は来ず……。
あまりにも暇でこうして買い食いを愉しんでいる最中だ。
『――――でも、退屈はしなそうな街ね……フフッ』
マシュマロを口内でぐちゃぐちゃにかき混ぜてドロドロにする――――と言う悪趣味な、もしくは淫魔らしく卑猥さを感じさせる食べ方をしながら少女は街の景色を眺める。
――ここには異変が起きている。誰も彼もが正気ではない。
一見、平凡そうに見えても実際は違う。
例えば、彼女の視界の先。10歳に満たない女の子数人が追いかけっこをして遊んでいる。いかにも治安が良いと評判のクヴォリアらしい風景だ。
――だが、淫魔の目は誤魔化せない。
『どういう訳か知らないけど悪趣味な奴がいるじゃないの。――――干からびて死ぬまで生気を吸い取ってやりたい気分だわ……』
前髪に隠れたその眼が淫魔の力を帯びて見えざるものを知覚しようとする。
悠理の虹の視界と同じ様に彼女の視界もまた色を変える。薄紫色に染まる視界の中で、淫魔には少女達がモノクロとして映された。
正常な状態であれば、赤く映るハズだ。現に通りかかった若い女性が抱えていた赤ん坊は赤色だった。母親の方はモノクロだったが、これは正常なので問題は無い。
『あー、あー、あー……。ホント何? ワタシ以外の淫魔でも居るって言うの?』
念の為、少し辺りを散歩してみたが、10歳に満たない少女の大半はモノクロに映された。
これが何を意味するか――恐らく、彼女が淫魔でなかったらあまりのおぞましさに吐き気を催していたかも知れない。
――まさか街の少女の大半が……。
『処女じゃないなんてねぇ……。治安が良いってのは間違いな様ね』
淫魔の力を持ってすれば経験者であるかどうかなど見抜くのは造作もないこと。
――しかし、一体どうなっているのか? どう考えても狂気の沙汰ではない。
もっと恐ろしいのは、まるでそんな事実など無い様に平然と振舞っている少女達……。
いや、街全体に明るい雰囲気がある事が既に異常だ。暗い影の一つも落ちていない。
『ミスターフリーダム――だっけ? 早く来た方が良いんじゃナーイ?』
淫魔は言いながら路地裏の闇に紛れ込んで行く。
数秒後にはもうそこには誰も居ない。
唯、空になったお菓子の容器がカラカラと音を立てて転がっているのみであった……。
ふぃー、あっ、淫魔ちゃんの名前はまだ決まってなかったりします。