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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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不穏漂うクヴォリアの街にて

クヴォリアの街編スタートっす。


※後書きのほうにちょっぴりネタバレが載っているので注意。

 ――スルハを旅立って早4日が経とうとしていた昼……。

 現在、グレッセ解放軍の先頭を走るのは廣瀬悠理とレーレ・ヴァスキン、そして彼らの愛騎アズマ。

 その後ろにはカーニャとノーレ、更に後ろにリスディアとマーリィ、そしてスルハ攻略隊から引っ張って来たディーノス隊28名とリスディア親衛隊15名。

 ファルールと白風騎士団は規模の多さ故に3km程離れているが、現状では問題ない範囲内だ。ちなみにエミリーは一番後方で馬車や荷車の護衛を行っている。

 街道を真っ直ぐに駆け抜けていた悠理が、目的の場所をようやくその目に捉えた。

「おっ、あれがクヴォリアってところか?」

『ああ、間違いねぇな』

 前方に街のシルエット、スルハ程の目だった発展はないものの、遠目から見た感じでは素朴で雰囲気が良さそう。

 それこそが、グレッセ王都への最短ルート一つ目の街“クヴォリア”。

 スルハが工房街と呼ばれるように、この街もお菓子の街としてその名を知られている。

 敵対国の姫様がお忍びで通いにくるとか、そもそも戦争を吹っかけた理由がこの街を手に入れたかったからだとか……。様々な憶測が飛び交ってはいるが真相は闇の中。


「やっとゆっくり出来るのかや?」

 アズマの後方にディーノスを寄せ、ぐったりした表情のリスディア。

 元々、お嬢様故に長旅は得意ではない。スルハ攻略隊の時は彼女が快適な様に徹底的な管理が敷かれた行軍だったので、疲れもそれほどは感じなかった。――が、流石に今はそういう訳にはいかない。

 特に目的が目的なだけに早期決着が求められる戦いだ。疲労は最小限になるように、話し合いを重ねて決めてはいるが、それでも足早になるのは致し方のないことだった。

「何言ってるの、やらなきゃいけない事は沢山あるんだから、アンタも手伝いなさい!」

 元々、肉体労働担当のカーニャは特に疲れを感じている様子はない。その事に安心して悠理がチラリと視線を向けると直ぐに気付いて背けてしまう。

 スルハを出てからずっとこんな状態が続いているが、不思議とチームワークに影響はないので現状維持だった。

 ――が、そろそろ何とかしないとな……と悠理は密かに策を練る。

「そうですよ、リスディア様。――――でないと……」

 リスディアが乗るディーノスのもう一人の搭乗者――――マーリィがニヤリと口角を釣り上げた。それを見た彼女の主は顔を真っ青にしてガタガタと震え始めた。

 ――悠理との浴場での一件以来、サドの気質に目覚めた様で、マーリィは時々こうして主を苛めるようになった。まぁ、偶に悠理もその標的にされるのだけど……。

「クヴォリアの街はですね、治安が良くて飴細工が自慢の――――」

 ノーレはノーレでスイッチが入ったらしく、例のうんちくを語り始めていた。頭脳労働担当の彼女もリスディア同様に疲労の色が濃かったハズなのだが……。

 どうやら街を目の間にして、興奮で疲れなど吹き飛んでしまったらしい。

「良し、先ずは街へ行って代表者と話をつけよう。一応、警戒は怠るなよ?」

 何だか自由な面々に苦笑しつつも、悠理は皆へ指示を飛ばす。

 グレッセ王都に居る敵にはまだこちらが動いている事は察知されてないハズだが、用心に越した事はない。

『おーっ!』

 愉しそうに拳を空に突き下げるレーレ。

 実質上の先頭部隊となった彼等はそのままクヴォリアへと一直線。

 そこに何が待っているとも知らずに……。


――――――

――――

――


 ――場所は移って、クヴォリア町長バドレ・カロケリアの屋敷……。

「バ、バドレ様! 大変にございます!」

 町長に仕える執事が血相を抱えて彼の寝室に飛び込んだ。

 どうやら主はベッドの上でお楽しみの最中だったらしく、虚ろな目をした全裸の女性をシーツの上へ乱暴に放る。

 女性は虚ろな目のままで受身を取る事無く、ベッドの中で荒い息を吐いていた。

「どうしました騒々しい……」

 楽しみを邪魔されたにしてはやけに冷静な返しであった。

 バドレは中肉中背、顔はやや丸顔で髪はセミロングの中年男性。普段は糸目だが、その瞳は濁った川の水など比べ物にならないほどに腐りきった色をしている。

 そんな彼が治安が良いとされているこの街の代表者とは俄かに信じ難い。

 ――その情報が正しいものであればだが。

「スルハよりグレフ・ベントナーの使者を名乗る者が……」

 執事は主の痴情など気にした様子もなく用件を告げた。

「――――確かですか?」

「はい、スルハの公式文章を持参しておりました」

 『こちらです』と渡された封筒には確かにスルハの刻印が打たれている。

 偽装された形跡も見当たらない、外見は紛れもない本物。封を切って中身を取り出して、ざっと目を通す。


「成程、どうやらスルハ攻略隊はしくじったみたいですね」

 そこにはスルハで起こった一連の出来事と、グレッセ王都が危険である事、またグレフの使者である悠理に力を貸して欲しい旨が記されていた。

 読み終わった紙をマッチで火をつけて燃やし、チッ、と舌打ちを一つ。

 ――――面倒な事になりましたね。

 まさかスルハの攻略に失敗するとは計算外もいいところ。バドレは自らの手を汚すことを非常に嫌う男……。それは彼の“祝福”にも如実に現れている。

「如何致しますか?」

 執事は主に対応策を請う。この状況は既に彼の手に負えるものではないのだから。

「通して構いませんよ」

「よ、よろしいのですか?」

 やけにあっさりと出た許可に戸惑いを隠せない。スルハ攻略隊を無傷で退けた相手を易々と内側へ招き入れるなど愚の愚。

 しかし、バドレはニヤリと実に下品でいやらしい笑みを浮かべた。それはとても人間とは思えぬ醜悪さとおぞましさが入り混じった狂気の顔。

「ええ、何も恐れることはありません。いつも通りにしていれば問題ないでしょう」

 絶対的な自信、己の能力を過信しているのは明らか。だが、だからこそ彼はこの街の支配に成功したのだ。

「――なぁに、切り札はこちらの手の内ですからね……クククッ」

 クヴォリアはまさに彼の手中にある。ここに居る限り自分に負ける要素などありはしない。

 バドレはひたすらほくそ笑んだ。これから始まるのは一方的な狩り……。

 勿論、主導権は己にある――――そう、確信を抱く。

 それが取り返しのつかない誤りだと気づくのは果たしていつになるのか……。

 ――ともあれ、平穏なハズのお菓子の街“クヴォリア”にて、新たなる戦いの足音が響き始めていた……。 

――今回から始まったクヴォリア編でなんですけど……。




何と、やっと獣耳系の亜人種が出てきます!


どういう形で関わるかは内緒ですけどね。

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