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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
73/3916

餞別と出陣と

おおっ、時間に余裕がある!


――と思ったら、半分は前回書いておいたからじゃん!


書いてなかったら間に合ってなかったよナァ……。

 ――スルハの街を名残惜しむように悠理は一人で歩いていた。

 こちらの世界にやってきてから落ち着く暇もなく、街を観光する時間も無かったのは非情に残念に思う。

 その事を話したらと、レーレが気を使ってカーニャ達を連れて先に向かってくれたのだ。

 唯、ノレッセアの事情に詳しくない上に、金銭も所持していないのでブラブラと歩くだけ。

 しかし、それだけでも悠理にとっては十分に愉しい娯楽だった。異世界の風景、暮らしている人々、装飾品など、見ているだけ飽きない。

 時折、彼の姿を見た住人が挨拶したり、屋台の主人が焼肉の串をくれたりもした。

 挨拶してくる者の中には、あの時自分が跪かせた者も居たが、特に恨んでいる節がなかったのには驚いた。彼等の心境変化を自分が促せたのなら、それ以上に嬉しい事はない。

『ミスター~~~!』

 焼肉にかぶりつきつつも、聴こえたに気付いて振り返れば、鈍い光を放つ黒色の鎧が走ってくるのが目に見えた。最早、スルハの住人も驚かなくなる程に見慣れた姿だ。

「モブアーマーじゃないか、どうかしたか?」

 一体のモブアーマーが大きな木箱を抱えてこちらに駆け寄ってくる。

 それは確か、この街に来て初めて出会ったモブアーマーだった。

『ミスターにお届け物であります!』

 彼は人懐っこそうな明るい口調で話しながら、通行人の邪魔にならない様に路地裏へ悠理を引き寄せて木箱を開けた。


「こいつは――――」

 箱に収めれていたのは、手甲と足甲が一組ずつ。

 唯、気になったのはパーツの一つ一つが微妙に違う。統一されていない。

 言うなればそれは――――“つぎはぎ”。

 しかし、不思議な事に不揃いの中にも美しさを感じざるを得ない。

『スルハの職人全員で作った手甲と足甲であります。是非、ミスターに使って欲しいと……』

 訊けばこれは街の職人達が各パーツを分担して造り、本来ならあり得ない凄まじいスピードによって製作されたもの。

 まさに一致団結して作られた職人の技。しかも、それが自分の為に造られた物となれば尚更胸に響くものがある。

 ――ただし、僅かな時間ではこれだけしか造れなかった事に職人達は不満がっていたらしい。

 今もギリギリまで作業を続けていると訊き、悠理は感心するしかなかった。

「成程――――――気に入ったぜ。皆にありがとうって伝えてくれるか?」

『了解であります!』

 手甲と足甲を装着すると、驚くほどに馴染む。腕と足に伝わる重みは心地よく、かと言って動きの妨げになるような事はない。

 工房街の職人として恥ずかしくない立派な仕事に頭が下がる思いだ。


「そう言えば、鎧三兄弟を知らないか? アイツ等にも挨拶しておきたかったんだが……」

 昨日の朝には確かに居た彼らの姿は屋敷に戻ってから全く見当たらなかった。リリネットに尋ねたら郊外にて物資の積み込み作業を手伝っているとの事だったが……。

 三兄弟はこの旅に同行しない。付いて行きたい気持ちはあった――――が、故郷を手薄にする訳にも行かない為、断念する他になかったのだ。

『み、見てないでありますよ? あっ、よろしければ、ワタシの方からゴルド殿達に伝えておくでありますが?』

「ありがとう、助かるよ。落ち着いたらまた会おうって伝えておいてくれ。じゃあなっ!」

『お気をつけて~ッ!』

 大手を振り見送るモブアーマーが、悠理の姿が見えなくなるのを確認してからほっと胸を撫で下ろす。

 その仕草は人間以上に生々しく彼の緊張の程を表していた。

『――ふぅ、危なかったであります……』

 誰かに嘘を吐くと言うのは中々に後味が悪いものである。ましてやそれが、己に故郷を守る力を与えくれた恩人ならば尚更だ。

『ゴルド殿、武運を祈るでありますよ……!』

 しかし、そうまでした甲斐はきっとある。悠理達には彼らの力が必要になるだろう。それもそう遠くない内に……。

 モブアーマーはひたすら皆の無事を願う。スルハを救った英雄と再び会える事を信じて……。


――――――

――――

――


 街の郊外には既に王都グレッセ解放を目指す為の準備が整っていた。

 白風騎士団272名、リスディア親衛隊から15名、元スルハ攻略隊から28名。

 ディーノス約100頭、食料や生活用水、夜営テントなどを積んだ荷車と馬車が合わせて30。

 急ごしらえとは言え良く準備できたものだと、悠理はひたすら感心と感謝を胸の内で繰り返していた。

「待っていたぞミスター!」

 姿を確認するや否や、ファルールが彼の元へと駆けつける。昨晩の悠理とのやり取りで色々と吹っ切れたらしく、表情には活力が漲っているのが良く解る。

「ああ、ファルさん。なんか任せっきりで悪かったな」

「なに、普段やっている事の延長だ問題ないよ」

 何でもない事の様に振舞える辺り、やはり騎士団長の名は伊達ではない。素人の悠理が口を挿まなくて正解だった。白風騎士団の面々も、本来の立ち位置――――異国ではあるが、国とそこに住まう民を守る為に動ける事に興奮を抑えきれないようだ。

 ファルールと同じく彼等からもやる気と熱意が伝わって来る。 


「おっ、遅かったではないか獣面っ!」

 騎士団の面々が放つ熱気に当てられ、自らのテンションも上がっていく中……。リスディアが顔をくしゃくしゃに歪めて悠理と飛び掛って――もとい必死に抱きついてくる。

「えっ、ちょっ、何かあったのか?」

 抱きつき攻撃はレーレのお陰で慣れてきはしたが、女の子の泣き顔はどうも苦手な様で……。

 普段は何事にも驚かぬ悠理も少しばかり狼狽してしまう。

「――うぅ、何だが知らぬが昨日からマーリィがちょっと怖いのじゃ……」

「あら、酷い言い草ですねリスディア様?」

 涙目で助けを求めてくる彼女の後ろから、隠密行動に長けた軽装……日本で言うならば忍装束を纏った女性が歩いてきた。

 長い髪を後ろで一本に纏め、整った綺麗な顔立ち――――その左半分を隠す様に、キツネに似た動物の面を斜めに被っている。

「――えっと……どちら様?」

 悠理は己の心に従って発言した。ハッキリ言ってこんな美人とお近づきになったのなら絶対に忘れるハズがないのだが……。

「――――あらあら、ミスターまでそんな事を仰るのですか? 裸の付き合いまでした仲ですのに……」

 忍装束の女性は艶っぽく頬を朱に染め、劣情を誘うかの様に身をくねらせる。思わずその光景に生唾を飲み込んでしまう悠理。リリネットとのやり取りでは見たい心を封印――いや、我慢した性か、やけに大きく喉が鳴ってしまった。


『――おい、ユーリ!』

「ちょっとユーリ!」

 その発言にいつの間にか女性陣が集合していた。

 レーレとカーニャは問い詰める様に身を乗り出し、ノーレは何故か気絶しかかってファルールに支えられている。

「えっ、そんなの身に覚えが……って、もしかしてマーリィさん?」

 少し考えを巡らせれば解る事。悠理がお風呂を共にした女性など数える位しか存在しない。

 子供の時は祖母、母、親戚の巨乳女系一家全員、大人になってからは三歳になる妹のみ。

 ノレッセアへ来てからはレーレとマーリィだけ。

 地球に居た頃の話は当然この場で当て嵌まるハズがない。それならばもうマーリィしか居ない。

「はい、マーリィ・エルカトラでございますよ。ご・主・人・様?」

 出来の悪い教え子が、やっとの事で正解したのを褒めるみたいな満面の笑み。

 オマケと言わんばかりに付け加えられた悠理への呼称はご褒美のつもりだろうか?

「へ、へぇ、仮面を取った所なんて始めて見たから気付かなかったなぁ……」

 だがそれは火に油を注ぐように、レーレとカーニャを焚きつけるだけ。

 二人の関係性を疑う強い眼差しと威圧をビリビリと感じた性で、悠理の声も若干上擦った。

 それ所か、さっきから足を踏まれて凄く痛いのだが……。

「ウフフ……、惚れ直してくれましたか?」

 口元を隠して照れた様な仕草、足を踏みつける力が増して悲鳴を上げそうになったが、そこは男の意地でカバーする。

「はっ!? まさかお主……マーリィを毒牙にかけおったか!」

「誤解を招く様なこと言わないでくれっ!!」

 ずっと腰に抱きついたまま動かなかったリスディアが何かを悟った様に叫び、悠理も釣られて悲鳴を上げざるを得なかった。男の意地が儚く散った瞬間である。


「――とまぁ、リスディア様とミスターの困った顔も堪能しましたし、そろそろ参るとしましょうか。既に準備は整っておりますので」

 先程までの照れた姿は何処へやら、完全に仕事モードの顔付きになったマーリィ。

 やっと自分が知る彼女の姿を見れた事に安堵すれば良いのか、からかわれた事に嘆けば良いのか悩む悠理であったが、今は後回しを選択する。

『ごー』

『ぐげー』

 こちらも準備万端と、やる気を示すエミリーとアズマ。

 ――それだけはない、見渡せばここに集まった全ての者が悠理に視線を向けていた。

 まるで今か今かと待ちわびる様に……。

「そうだな……皆ー!」

 向けられた視線に応え、皆の耳に届けと腹の底から声を張り上げる。

 誰もが聞き入る態勢を整え、静かに続きを待つ。

「この先何が起こるか解らないし、もしかしたら道中で命を落とす奴もいるかも知れない。皆が俺をどう見てるか知らないけど、俺は弱くて脆いから……一番足を引っ張るかも知れない」

 口からは素直に不安を吐露する。少なからずざわめきが起きるも、大きくはならない。

 士気を上げる為に鼓舞するだけなら、やり様は幾らでもある。だが、浴場でマーリィに伝えた通りに嘘は吐かない。

 自分の言葉が人を動かすのなら、ありのままをただ伝えるだけで良い。きっとそれが間違いなくシンプルに胸に響くと信じて……。

「――でも、出来れば誰一人死なせたくないと思ってる。だからそれを実現させる為に皆も力を貸してくれ! これは命令じゃなくて俺からのお願いだ――――聞いてくれるか?」

 一瞬の沈黙の後、その場に居た全員が右腕を掲げ、空気を震わせる大歓声で応える。

 そして、彼等の思いが伝播したのか、街の中から、或いは郊外に散らばった元攻略隊の面々からも雄たけびが上がった。

 あっと言う間に辺りは沢山の声で満たされる。目を閉じれば、レーレ、カーニャ、ノーレ、ファルール、リスディア、マーリィ、エミリーとアズマも。

 各々想い通りに何か叫んでいた。悠理には良く聞き取れなかったが、きっとそれはそれで良いのだろう。

「――良しッ! それじゃあ、グレッセ王都解放軍――――」

 最早、どれほど大声を出した所で誰の耳にも届かないのかも知れない。

 それでも構わず、勢いに任せて悠理も叫ぶ。ここから戦いを始める為に。

「――――いざ、出陣!」

 右腕を掲げれば、声は聞き取れずとも皆には伝わる。

 応える様に全員が再度腕を掲げ、叫ぶ。辺りの熱気は収まりを見せない所かますます燃え上がって行く。

 ――こうして、グレッセ王都奪還作戦は開始される。

 王都への道のりは最短ルートでおよそ三週間後……。

 果たして、悠理は王都で何を見るのか? 裏切ったとされるカーネス・ゴートライの目的は?

 全てはまだ始まったばかり……、一先ず彼等は最短ルート一つ目の街“クヴォリア”を目指すのだった……。

やっぱりちょと雑だ……。


やっとの事でグレッセ王都奪還戦が開始です!


次回はいきなりクヴォリアの街に到着です。


旅の途中の出来事は番外編にでも。

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