番外編・女騎士と暴君の邂逅
ちょっと時間がなくて番外編ですよ。
時間軸としてはファルールが悠理に生命エネルギーを送って気絶したあとです。
――それはリスディア達との戦いを終え、スルハに帰還した後のこと。
悠理に気絶するほど生命エネルギーを分け与えたファルールは妙な場所で目を覚ました。
「うぅっ、ここは……?」
そこは何処かの地下室を思わせる一室。窓は一切無く、部屋に配置された燭台のみが唯一の灯り。
「――――趣味の悪い部屋だな」
思わず声に出してしまう程度には酷い光景だ。周囲には拷問道具や拘束具が所狭しと並んでいたのだから。
――――それにしても、何故私はこんな所に?
『おいおい、勝手に入り込んでおいてヒデェ言い草だな』
「誰だっ!」
自分が置かれている状況を整理しようとした矢先、突然現れた気配に敵意を向ける。
先ほどまで自分以外は誰も居なかった空間にいつの間にかもう一人……。
声の主はやはり突如現れた玉座に腰掛けて薄気味悪い笑みを浮かべていた。
『趣味の悪い部屋の主様、かな?』
「貴様――――何故、ミスターと同じ顔を……」
見た目は彼の方が幾分か清潔な感じだ。悠理と違って髪は短髪に切りそろえ、髭は綺麗に剃っている。
そして、大きな違いといえば肌が褐色であること、加えてこちらの方がやや曲者だと直感した位か。
同じ顔で同じ声の相手で調子が狂うのは否めないが、敵意は決して緩めない。
『何故って、俺はミスターフリーダム――つまりは自由の裏側――――まぁ、その反対で束縛を司るミスターチェインってヤツだから、かな?』
部屋の主は向けられた敵意を前にしても、余裕の態度を崩さない。いとも簡単に己の情報を渡したのはその余裕ゆえか。
「ミスター……チェイン?」
発せられた言葉をそのまま受け入れて良いものか判断に迷う。そもそも、裏側と言われた所で理解が及ぶわけも無い。
だが、チェインの仕草にはどこか悠理のそれと似通ったものがある。付き合いは短くても短いなりに感じ取れるものが確かに。
『応よ、それで? アイツの精神世界に何用だいファルール・クレンティア?』
「精神世界? 何故、私がそんな所へ?」
『お前さんが悠理に生命エネルギーを与えた影響だろうな』
「…………っ!?」
その一言でようやく自分が悠理に何をしていたか思い出す。――――思い出して頬が熱くなったのは言うまでもない
――恐らくだが、生命エネルギーを限界まで与え続けた性で、ファルールの精神――魂とでも言うべき物が一時的に彼の肉体に侵入してしまったのだろう。
『――つーか、入り込むにしてもやりすぎだ。ここはアイツ本人でさえまだ知らない場所の上に、精神の最も深いところだぜ?』
「? 何か問題でもあるのか?」
『有りも大有りよ。ここは俺の支配下にある空間だから、俺らしさが反映されてる』
周囲を改めて見渡して思う。彼が束縛を司る存在だと裏付けるには十分な証拠が揃っている。
いや、放たれた言葉を信用する理由など何処にもないのだが、ファルールには嘘を吐いている様には思えなかったのだ。
『だからアイツの固有空間もアイツらしさが滲み出ているはずさ――――でもな? 人によってはそれを見られるのは裸以上に恥ずかしいし、嫌な事もある。悠理は絶対に嫌がるタイプだしな』
「ミスターの精神世界、か……。自由を冠する彼ならば問題ないのではないか?」
チェインの言いたい事は解らなくはない。自分の内側を好き勝手覗き見られるのは心地が悪い。
だが、ファルールは悠理の事なら知りたいと思うし、彼ならば大丈夫だと妙な信頼もある。
――――しかし、彼女の言葉は束縛を司る男は鼻で笑われた。
『――やれやれ、どうも人ってのは良い面ばかりに目が行って困る……』
「――――どう言う意味だ?」
明かにバカにされたと理解してファルールが彼を睨みすえる。
ミスターチェインは怯まずに睨み返し、人を食った様な言い方で正論をぶつける。
『アイツは神様でも聖人君子でもないんだぜ? 人並みに欲望もあるし、隠している顔だってある。誰にも見られたくない一面も、な……』
「それは…………そうかも知れないが……」
ぐうの音も出ないとはこのことか。ファルールにはその発言を否定するだけの言葉など持っていない。
『まぁ、俺は別にアンタを責めたい訳じゃねぇ。唯、アイツを少しでも理解しようと思うのなら、受け止める覚悟はしておいた方が良い』
「……どうして私にそんな話を?」
やけに親切過ぎる態度に警戒の水位は増す。何を企んでいるのか探ろうとするも、相手は飛び切りの曲者。巧くいくハズもない。
『なぁに、いきなりの珍客でもてなす準備もしてなかったからな。こいつは土産話さ』
言いながら彼は立ち上がって指を鳴らす、すると何処からとも無く虹色の光で構成された鎖が飛び出てきて、ファルールを宙へと吊り下げる。
『さぁ、解ったら帰りな。ここはそう長居して良い場所じゃないぜ?』
「くっ――お前は……!」
この力は確かに悠理の“生命神秘の気”と同じものだ。
彼女はその目で見て、身体で体感したから良く解る。
――――紛れもない、チェインは本当にミスターの……!
『フッ、もうこんな深くまで潜ってくるなよ? 次も無事とは限らないからな』
「待てっ、まだ訊きたいことが――――」
叫んでももう遅い。再び彼が指を鳴らすと、ファルールの身体は高速で悪趣味な部屋から遠ざかっていく……。
姿が見えなくなるのはあっと言う間。完全に彼女を自身の支配領域から追い出して溜息を吐く。
こんな形で存在がバレるとは予想だにしていなかったからだ。
『――――ふぅ、これで運命とやらは変わるのかねぇ……』
――だがしかし、これもきっと計算された出来事の一つなのだろう。
少なくともチェインにはそれが解る。何故って、自分はその為に存在しているのだから。
『なぁ、オリジン?』
己以外に誰も居ない部屋に問いかけるチェイン。
答えに反応するものなど居はしない。誰も応える訳が無い。
――でも、彼には聴こえていた。
自分の問いかけにはっきりと頷くここに居ない誰かの笑い声が――――そう、ハッキリと……。
――実はまだ書き終わってなかったり……。
あとちょっとだから、24:15位には終わってるハズ。