自由を堪能するなら美少女のお供は必須?
洞窟内に奇妙な光景が広がっていた。
「――えー、解りやすく一言で説明するとだな……」
悠理が死神に何か仕込んだ。
この発言が発端となり、急遽説明会が開かれる事となった。
これには、カーニャとノーレに悠理の能力を解説する意味合いもある。
薄暗い洞窟の中で、女性陣はぺたんと地べたに座り、悠理は立って身振り手振りを交え説明を行う。
さながら、青空教室の様な気分。
『へっ、別に何をやられた所で驚かないぜ!』
――と強気なレーレだが、何故か正座である。
悠理は一呼吸置いてから本題を入った。
「お前の祝福を改竄した」
書込みの応用――と言うより、これが本来のチカラ。
他者の祝福にさえ干渉し制御する祝福殺し。
ただし、本人曰く色々と制限があるらしいとのことだが。
その改竄によって現在死神は悠理の支配下に置かれており、彼や姉妹に危害を加える事が出来ない。――という旨を説明。
すると、レーレはその説明を一笑に付す。
『ハッハッハッ、そんなこと――』
――が、直ぐに仕込まれた制限を体感する事になると、この時は気付きもしなかっただろう。
「――語尾に“ニャン”をつけろ」
意識して命令口調で呟く。そして――。
『―――出来る訳ないニャン!』
問題なく機能した制限により、とても可愛らしい語尾で話す事を強要させられた。
「……え?」
カーニャも半信半疑だったのかポカーンと口を開けている。
『……は?』
自身が何を言ったのか理解できないレーレをよそに。
「―――な?」
超笑顔で悠理がサムズアップした。
『――――な? じゃねぇぇぇぇッ! お、お、俺に何しやがったんだテメェ!』
「言ったろ? 改竄したんだよ」
『どう弄くったのかって聞いてんだよ!』
自分の意思ではなかったと断言できる。
強制的に命令を捻じ込まれた。しかも、命令を捻じ込まれた事の違和感に最初は気付けなかった。
彼の言葉に従うのがごく自然なことであると錯覚させられた様な感覚……。
そして更に驚いたのは、命令に従わされる不快感が全く無いこと。
自分の意思とは無関係に動かされるのだから、ストレスやフラストレーションが溜まっても不思議ではない。
なのにソレがない。明らかな異常だ。
廣瀬悠理は一体自分に何をしたのか?
その答えは――――。
「お前の祝福名を本質ごと“廣瀬悠理のペット兼死神”に改竄させてもらった」
――――聴かなきゃ良かった!、と思う類のものだった。
『は?』
理解できていない彼女に悠理は続ける。
本来なら祝福を改竄する事は難しいとされている。まだ、破壊したり奪ったりすることの方が簡単らしい。
しかし、彼の能力には可能だった――――条件をクリアすればだが。
その条件は対象の祝福された者から許可を得ること。
『ま、待てよ! 俺は許可なんてだしてな――――』
まさか、とはっとする。
恐怖で錯乱していた自分はコイツに余計な事を言いはしなかったか?
ニヤリ、と彼が笑う。今頃気付いても遅い。
「何でも言うこと聴くから助けて――って言ったよな?」
『っ!!』
あの命乞いを改竄許可として受け取ったのか?
何と強引な解釈だ。
しかし、錯乱していたからとは言えあれは本心。
助かりたい一心からの言葉だった。
それを見事に利用されてしまったらしい。
改竄された事実を認識すると共に、レーレは自分が命令を強制実行してもストレスを感じなかった理由を理解して……。
『……っ!?』
―――――絶句した。
つまり、アレだ。
自分は既にご主人様の命令に従うことが当たり前で、それに応えるのが喜び。
そう感じる様に本質から変えられてしまったということか。
『な、ななな……』
限りなく正解に近い推測を立ててしまったレーレはプルプルと怒りに震えて。
『なんてことしやがんだぁぁぁぁぁぁぁッ!』
顔を真っ赤にして絶叫するしかなかった。
―――――
――――
――
『嫌だ嫌だ! お前に付き従うなんて絶対に嫌だかんな!』
植えつけられた制限は理解したが、抵抗感はより一層強まった。
その結果がレーレに駄々を捏ねるという何とも子供っぽい行動をさせるに至った訳だ。
「ああ、別に良いよ?」
『えっ』
実にあっさりと。
悠理はレーレの解放を告げた。
「俺達に危害を加えないようにしたかっただけで、他に制限つける気はねーよ」
そう、既に目的は達成している。
であるならば、それ以上の欲を掻くのはナンセンスだ。
『そ、そうなのか?』
いかにも拍子抜けといった様子のレーレ。
自分に従順な玩具を手に入れたのだから、てっきり使役されるものだと思っていたから。
勿論、自由ならそれに越したことはない。
――――ないのだが。
「何処へなりとも行けばいいさ。うーし、お前らもう行くぞー?」
「えっ、う、うん」
「は、はいっ」
悠理が背を向けた。カーニャ達は戸惑いながらも立ち上がり、チラチラとレーレに視線を向ける。
未だに警戒しているのか、それともここに置いて行っても良いのだろうか?、と悩んでいるのか。
二人はレーレに対して反応を示すのに――――彼は振り向こうともしない。
『…………』
本当に自分を自由にする気なのだと理解する。同時に、『ああ、俺に何の未練もないのか』、と落胆した。
――何をバカなことを……。
落胆する必要性がどこにある?
まるで――――彼に必要とされたかったみたいじゃないか。
一瞬の気の迷いだと吐き捨てて、レーレも立ち上がり背を向ける。
自由にしてやるさ。明日からはまた魂を刈って刈って刈り尽くす日々に戻ってやるとも。
妙にむしゃくしゃした気分でそんな事を考えていると――。
「あっ、そうだ」
ふと、忘れてたと思い出したように。
「寂しくなったり、ピンチになったらいつでも来いよ?」
廣瀬悠理は言う。
「俺はお前の味方で居てやるからよ」
――そんな馬鹿げた台詞を。
『は、はぁ? 何言ってんだ! お前なんか頼りにするかバーカ!』
あまりに予想外な言葉に動揺して動転して、口を出たのはそんな返事。
「ハッハッハッ、じゃあなー!」
それでも気を悪くすること無く笑って歩き出す。
やはり彼は振り向かない。
慌ててカーニャ達もついて行く。
『……あ』
遠ざかる背中に手を伸ばしかけて考える。
どうして彼はあんな事を言ったのか?
『……………………』
どうして自分はこんなにも嬉しさを覚えているのか?
『……………………バーカ、バーカ……』
どうしてこの心臓はこんなにもドキドキしているのか?
考えても解らなくて、バーカと繰り返しながらつま先で地面を蹴る。
たまたま蹴飛ばした石ころが悠理達の向かった先に転がったので追いかけた。
再び石を蹴る。
今度も彼の方へ飛んで行けと、ちょっぴり願いながら……。
おー、続いてしまった……。
妙なテンションで書いてるからツッコミどころは一杯あると思います(汗)
まぁ、修正なんかは時間のある休日にでも。
次回はついにレーレが仲間に!
えっ、召喚主姉妹が空気?
こ、これからだよこれから!