君と再び星空の下で
おー、大分頭が働いてないのが解る文章だな……。
風景の描写が殆ど入ってないけど、それはまた次の課題としよう。
――浴場でマーリィと遭遇してから約一時間後。
思う存分風呂を堪能した悠理は自室へ戻るところ――――で、バルコニーに人影を発見する。
見える後姿は背の高い緑色のセミロング……と来れば一人しかいない。
「おっ、ノーレ発見伝! おーい、ノ――――」
声を掛けようとして、慌てて止める。
あまり大きな声ではないが彼女は――――。
「~~~~♪」
――――歌っていた。風に紛れてしまいそうな小さな小さな声で。
だが、例え大きく響き渡らなくても歌は歌。
誰かの耳へ届けば自然と聞き入ってしまうもの。
この時の悠理がそうである様に。
彼は呼吸さえ忘れて全神経を耳に集中させた。異世界から来た悠理にとっては馴染みのない言葉と歌だ。
しかし、例え異国の言葉と歌であってもそこに込められた思いと熱を感じ取ることは出来る。
普段の大人しいノーレからは想像出来ないほど、情熱的で輝きに満ち溢れた何か。それを確かに悠理は見た気がした。星空の下で熱い思いを秘めて詠う歌姫……。
今のノーレはそう称しても過言で無いほどに美しく、強い存在感を放っていたのだから。
――そして、残念ながらそれから間もなく歌姫の舞台は幕を下ろす。
どうやら悠理が通りかかったのは歌の丁度クライマックスだったようだ。
「――ふぅ、今日はこれぐらいにして……」
彼女は余韻に浸るように深呼吸を数回し、息を整え――――。
「――ブラボーッ!」
「ひゃっ!? ユ、ユーリさん?」
――――た所で、突然の来訪者に驚いて呼吸を乱してしまう。
極限にまで集中していたのか、悠理の存在には全く気付けていなかったらしい。
「スマン、休憩中だったか?」
「……はい、あの……聴きました?」
恐る恐る、上目遣いで尋ねるノーレに悠理は親指をぐっと突き立てて笑顔を浮かべる。
「ああ、バッチリな!」
「うぅ……、恥ずかしいです……」
耳まで真っ赤にし、両手で顔を隠した上に恥ずかしさのあまり背中を向けてしまう彼女。
「え? 素人目からしても滅茶苦茶上手かったと思うんだけど?」
対する悠理は不思議そうな顔をして、自らの耳に焼きついたあの歌を褒める。
おべっかではなく自然と心から出た言葉に偽りは無い――が、それが正しく伝わりすぎたのか、彼女は更に恥ずかしがるばかりだ。
「わ、私なんてまだまだですよ! 世界にはもっと上手に心を込めて歌える人が大勢居るんですから……」
「へぇ……でも、ノーレにノーレの良さがあるだろうし、あんまり比べる必要ないと思うけどな」
謙遜してもこの場ではあまり意味がない。何せ悠理はノーレしか歌い手を知らないのだから。
例え、本当に彼女を凌ぐような歌い手に出会ったとしても、それはそれ。
自分が見聞きし、気に入ったものがいつだって大切なもの。さっきの歌を悠理はきっと生涯忘れまい。
「――まぁ、俺がそんなこと言えた義理じゃないんだけどな……」
「――ユーリさんも、誰かと比べて落ち込んだりするんですか?」
自分のことは棚に上げて、とはこう言うことを指すのだろう――と苦笑する。
誰にだって人と比べてしまうこと、比べられてしまうことはあるものなのだ。
無論、自由の使者を公言する彼も例外ではない。
「数えきれない位にはあるさ。元の世界じゃ凡人よりも更に下に居たのは間違いないし」
これはあくまで自身の評価、実際は意外と高いのかも知れないし、そのまた逆も然り。
「――想像出来ません……」
言葉通りの難しい表情を浮かべるノーレ、凡人よりも下と言うのは所謂劣等と呼ばれるような存在。
どう考えても彼がそんな小さな器に収まりきる手合いとは思えない。例え、破格の能力抜きにしたとしても、だ。
「こっちに来てからの俺は反則的に強いしな……。――まぁ、俺も人から生まれた人の子だし、ノーレと何も変わらないよ」
「そ、そんな! 私なんてダメダメで…………ユーリさんみたいに強い意志もないですし……」
出会って一週間程しか経ってないが、彼はいつだって問題からは逃げなかったと思う。
いつだって前を見て、敵が現れたならあの手この手で攻略して、ひたすら前へ……。
そんな生き方が出来るのは決してブレない筋金入りの強い意志があるからだろう。
ノーレは純粋に憧れ、強く望む。自分もそんな風に慣れたら――――それはどんなに素敵な事だろうか?、と。
「この世界の知識については赤子同然だから、良くも悪くも悩む必要が無いってだけじゃないか?」
「そうだとしても、決断して行動したのはユーリさんなんですから十分凄いですよ!」
ひたすら凄いと褒め称えるノーレに対して、悠理はひたすら謙虚な姿勢を貫く。
――調子に乗ると良いことが無い、謙虚位が分相応だ。今までの人生で学んだ教訓の一つがそれ。
だからこそ……なのだろう。自分がそうである代わりに、他の誰かには自信を持って生きて欲しいと願うのは。
今この瞬間も、廣瀬悠理は目の前の女の子に自信を持って欲しいと思い続けている。
「うーん、ノーレは大袈裟だなぁ…………あ」
願うだけでも、思い続けるだけでもダメだ。考え、行動しなくては――――それも教訓の一つ。
それに従って打開策を検討、発見、実行に移そうとする。
「? どうしたんですか?」
多少の気恥ずかしさがあるが、ノーレが自信を持つ為ならばやれないことはない。
いや、やるのだ。自分は誰かの反面教師であるべきだ。こんな風な大人になってはいけないと。
それを彼女に指し示さねば。例え自分がどれ程恥ずかしい思いをしようとも、だ。
意を決し、深呼吸をして――――。
「えーと、ノーレ――――お前は可愛いっ!」
「――ふぇっ!?」
真正面から瞳を真っ直ぐに捉えて放たれた自分への評価。
何の脈絡もなく突然褒められたことの意味を計りかね混乱するノーレ。
「頭も良いし、知識も豊富、姉思いだし周りを立てる器量の良さだってある」
その間にも悠理の口は止まらない。これでもかと言うほどに次々と彼女を褒めちぎる。
「え、えっとあの……」
「ああ、野宿した時のキノコ料理は絶品だったな! また作ってくれよ。これはお願いな?」
「は、はい……」
自分を褒め称えるペースは衰える様子はなく、戸惑いは増すばかり。
けれど、自分の事を思っての発言なのだろうと気付き、その言葉を一つも逃さないように意識を傾ける。
「それにさっきの歌は本当に良かった。こっちに来てから荒事ばっかりで息つく暇もなかったから、何だか凄く落ち着いたんだよ」
「ユーリさん……」
そう語る悠理の顔はどこか安らかなもので、それを与えたのは自分なのだとノーレは自覚する。
決して慢心でも誇張でもない。誰かの心に訴えかけるだけの力が確かに、ある。
認めると何だか胸の奥が熱くなったような気がした。鼓動が激しく高鳴っている訳でもないのに妙に音が大きい……。
――――あれ? なんだろうこの気持ち……。
突如訪れた自身の変化に戸惑う、しかしそれに気付くにはまだ早い。何となくそう思って、今は思考を中断し悠理へ意識を向けよう。
「だからさ、ノーレは全然ダメじゃないって! もっと自信を持てよ、いつか自分にしか出来ない何かを成し遂げる為にも、な?」
「――――ありがとう、ユーリさん……」
こんなに誰かに激励されたのは生まれ初めての経験。カーニャも似たような台詞を言ってくれた事があるが、込められた意図と思いはやはり似ているようで違う。
恐らくはきっと彼が絡んでいるからだ。廣瀬悠理の言葉だから、こんなにも胸に強く響いてストンと心に収まるのだろう。
「なぁに、こっちに来てからずっと頼ってばっかりだからな。これからも迷惑掛けると思うが……宜しく頼むぜ!」
「はい、こちらこそ!」
向けてくれる信頼と人懐っこい笑顔に、力強い返事と最高の笑顔で応える。
そうすると悠理はもっと嬉しそうに笑ってくれた。
――――あぁ、私もきっと貴方に……。
惹かれているのだろう。それが恋心かどうかは判断がつかないが。
だが間違いなく、彼の強さに自分は惹かれつつあるのは間違いない。
――もしかして彼ならば……。
ふと、頭の中に浮かんだのは姉の顔。きっと彼女にも良い変化をもたらしてくれるのではないか?
「さぁ、明日は早いしもう休――――」
「ちょっと待ってください。姉さんと会ってくれませんか?」
頭に浮かんだ名案をすぐさま実行に移す。悠理の言動が姉の力になると信じて。
「ん? 別に構わんが……」
「お願いします、私はあと二時間位暇を潰してきますからっ……!」
「えっ、あっ、ちょ!」
言うや否や、ノーレはその場から走り去って行く。
あまりに唐突過ぎる展開に流石の悠理も置いてけぼりで……。
「――――一体どうしたんだ?」
その場で暫し唖然とするしか無かった……。
明日はもしかしたら職場の人と食事に行くかもなんで、人物紹介になるかも知れません。
一応、次回は暫定メインヒロインのカーニャの出番です。
でも、次はしっかりと時間ある日に書いておきたいところだから、土曜日に延長かナァ……。