表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
61/3916

従者の有り方

うーん、何とか番外編にせずに済んだか……。


やたら長くなってしまったが、まぁ偶にはね。


中盤から頭働いてなかった気もするが……。

 ――浴場への扉を開けたら、そこには一糸纏わぬ姿の癖に仮面だけはしっかりつけた侍女が待ち構えていた……。

「お待ちしておりましたミスター」

「OK、どうしてこうなった?」

 あまりにアレな事態に思わず状況を整理することで現実逃避を行う。

 リスディア達と別れた後、悠理は結局マーリィを見つけられなかった。

 気分転換に入浴してから再度探すつもりであったが……どうやら手間が省けたらしい。

 ――いや、彼女の言葉から察するに待ち伏せされた可能性も否めないのだが。

「私のご奉仕ではご不満ですか? でしたら――」

「とりあえず、水着か湯浴み着をつけてこい。話はそれからだ()()()()

 目の前にナイスバディが晒されているこの状況を悠理は素直に喜べない。だから自然と語気が荒くなり、今までさん付けで接していたのを意識して呼び捨てにする。

「――――かしこまりました……」

 どうやら意図は正しく伝わった様で素直に脱衣所へと消えてゆくマーリィ。

 今頃、彼女は悠理が何に怒っているか理解に苦しんでいることだろう。

(はぁ……忠犬ってのも考え物だな……)

 湯煙で肝心な所は見えなかったのは幸いだった。

 物事には順序と情緒と言うものがあり、いきなり何の好意も持たない相手の全裸を見せられた所で喜べる程、廣瀬悠理は単純ではない。

 少なくとも『女の裸が見たい!』と言う、安易な欲望を持つ様な歳ではなくなってしまったのは確かだ。

 或いは裸を見せれば簡単に罠に嵌るチョロイ奴――――そう思われる事に激しい抵抗があるからかも知れない。


「お待たせしました……これでよろしいでしょうか?」

 戻ってきたマーリィは大き目のタオルを巻いていた。平均よりも大きい二つの膨らみは、タオルの上からでも解るほどに形がいい。

「――――ハラショーッ!」

 ただ大きいだけでなく、整った形の美乳。一種の芸術とも呼べるそれに賞賛を送らずにはいられない。

「――何を言ってるかは解りませんが、お喜び頂けて何よりです」

 異国の言葉であっても、悠理の様子から喜びの意を感じ取ったマーリィは侍女の鏡と言えるだろう。

「それで? リスディアの代わりに俺を篭絡しにきた?」

「――あの時の一件は聞かなかったことにして頂けたのでは?」

 あの時とは無論、今日の作戦会議の時。リスディアがうっかり本音を漏らしてしまったが、マーリィに免じて訊かなかった事にする、確かに悠理はそう言ったが……。

「いや、さっき会った時に普通に言ってたんだよ」

「…………」

 そう侍女の努力虚しく、先ほど中庭で会った時にリスディアは堂々と宣言していた。

 約束は破っていない。ただ、彼女の主がそれをフイにしただけだ。

「無言は肯定って事になるけど、それでいいかなマーリィさん?」

「――構いませんよ、主の代わりに身を汚すのが侍女たる私の役目ですから」

 観念した――と言うより、元々隠す気などなかったのだろう。それほどあっさりと認めた。

「ふむ、断るのもアレだし、折角だから篭絡されてみようかな?」

 ここであえて申し出に乗る悠理――勿論、策があっての行動である。

「そうですか、ではお背中をお流し――」

 随分あっさりと誘いに乗ったことを訝しむが――――次の瞬間、予想を超えた発言に彼女は目を丸くすることとなる。


「さぁ、思う存分()()()()()()()()()?」

「……は? 何を仰っているか解ら――」

「何ってその身体で誘惑するんでしょ? だったら、主導権は俺にあるんじゃない?」

 逆転の発想と言うべきなのだろうか? 虎児を得る為に虎穴に入っていくように、廣瀬悠理もまた、自ら篭絡される為に積極的に彼女に誘惑されることを望んだのだ。

(謀られましたか……)

 何とも無茶苦茶な理論だが、ここで断る事は作戦の失敗を意味する。退路は既に断たれていたのだ。

「――――解りました。どうぞお好きになさってください……」

 こうなれば、一旦従うほか無い。あとは隙を見て主導権を奪い返すのみ。

「うむ、じゃあ背中から洗うからこっち向けてくれな?」

(何かするならしてみなさい。リスディア様の安全の為にも、私は決して屈しませんから)

 鋼の如き決意を固めるマーリィだが、この後も彼女の予想に反した行動が続く。

「~~~~♪」

 鼻歌を歌いながら、悠理は身体を洗う用のタオルでゆっくりと彼女の背中を洗い始める。

 驚くほどに下心のない手つきにマーリィは困惑したが、こうして油断を誘うつもりなのか? と警戒を強めた。

 しかし、その後も彼の手の動きは真面目そのもの。自身もリスディアの入浴を手伝っているから良く解る。

 相手に喜んでもらう為の気遣いに溢れた洗い方。

 背中が終われば、背中ごしから腕を、その次は足……。胸や股には一切触れてこない。

 それどころか『そこは自分でやってね?』と言われる始末。

 マーリィ・エルカトラには廣瀬悠理の考えが全く読めなくなっていた。

「じゃあ、次は髪洗うけどお面取った方が良いんじゃない? 見られるのが嫌なら目瞑ってるからさ」

「――――なら、目を瞑って下さいますか?」

 悠理は『あいよ』と答えて本当に目を閉じる。それを確認したマーリィがついに仮面を外す。

 ――綺麗な整った顔立ち、左目には大きな傷。既に光を失って数年経つ古傷だ。

 侍女隊は全員が仮面をつけているが、こうして傷を負っている者も少なくない。

 実は仮面はリスディアの提案によるものらしく、人目を気にしない様にと彼女なりの優しさから出たものだそうだ。

 そんなふとした所で滲み出る子供だからこその優しさ。リスディアに付き従う侍女達は、彼女のそう言う所に惹かれれた者も多いのだと言う。

 ――残念なことに、アシャリィ姫に対しては子供だからこその残酷さが大きく出てしまった訳だが……。

 

「――――何を考えているのですか?」

 丁寧に髪を洗われながら、マーリィは問質す。湯煙の向こうに隠れた悠理の真意を。

「ん? ああ、もしかしていやらしいことされると思ってた?」

「何故ですか? 私は構わないと――」

「――何も解ってないねマーリィさん。俺はアンタに自分を安売りして欲しくないだけさ」

「……なんですか、それは? お説教のおつもりで?」

 安売りしているつもりなどない。主の為に命さえ賭けた行動だ。

 何故だがそれを否定された気がして、いつもは冷静なマーリィも心穏やかでは居られない。

「俺は理想が高くてね。マーリィさんは良い女だと思うけど、言ってしまえばそれだけなんだよな。生き方に美学が足りないと言うか……」

「――――美学」

 聴き慣れない言葉だ。けれど、この言葉が悠理と言う存在を紐解くのに重要なものだと言うのは何となく解る。

「主の為にってのは良いさ。でも、そこに自分が居ないんだよな」

「――従者に個人など不要ですから」

「でも、俺はその個人が見たいし知りたい。篭絡するつもりなら相手に合わせることも必要だと思うけど?」

「貴方に、合わせる?」

「ああ、これからする質問に嘘偽りない気持ちで答えて欲しい。これは俺からのお願いだ」

 髪を洗う手を一旦止め、一呼吸置いてから言葉を紡ぐ。

 廣瀬悠理は、リスディア・ベルパルクの従者ではなく、マーリィ・エルカトラを知りたい。

 だからこの質問は彼女を紐解き、もっと良く知りたいが為のものだ。

「リスディアの事は大事か?」

「勿論です! あの方が居なければ今頃私は……」

 今まで冷静を保ち続けた彼女の言葉に強い感情が宿って迸る。それは嘘偽りない主への忠誠心。

「じゃあ次、俺に身体を穢されても良いと本気で思ってる?」

「――――それは……………死ぬほど嫌ですが。でも、主の為なら!」

 これも嘘偽りのない気持ちだろう。普通なら落ち込むところであるが、ここまでハッキリ言われたらむしろ気持ちが良い。

 ――でも、主の為にその気持ちを偽る必要なんて無いと思うのだ。

「嫌だったら嫌で良いと思うけど?」

「え……?」

 マーリィは思わず振り向いて悠理を見つめる。律儀にずっと目を瞑っている彼はそのままこう続けた。


「別にやり方はそれだけじゃないだろ? 何か物で釣るとか、餌付けするとかさ。まぁ、男なんて身体を使えばイチコロなのかも知れないけど。でも、だからと言って自分の嫌な事までしてする事じゃない。あくまでそれは最終手段だよマーリィさん」

 道は一つではない、彼の言ったこと以外にも山ほど方法はあるだろう。これしかないと決め付けて何かを犠牲にすることもないだろう。

「もっと簡単な方法探して、それから篭絡すれば良いじゃないか。誰だって自分にとって嫌なことはやりたくないもんでしょ? いくら主の為だからって自分をないがしろにし続ける必要なんて何処にもないと思うけどな。それってリスディアに嘘を付いてることと同じになるじゃないか」

「嘘、を?」

「ああ、『私は嫌でしたけど、リスディア様の為にやりました!』なんて本人に言えないだろう?」

 それはそうだ、主の為に嫌々やるような者など真の侍女/従者足り得ない。

「でも、その本音を隠したらそれはもう嘘を吐いたことになるんだよ。自分にもリスディアにも――――――あー、つまり何が言いたいかって、さ……」

 自分が何を言いたいのか、もう悠理は上手く纏めきれずにいた。伝えたいことはもっと沢山あって、けれど言葉にすると長すぎて上手く伝えきれない。

「もうちょっと自分を大切にしてみてよ」

 だから無い知恵を絞って出た答えがそれだ。

 従者だからと言って自分を捨てきる必要は無い。自分らしさを追求した上で侍女として上手くやって行けば良いではないか。

「――逆に私を篭絡するつもりですか?」

「え? あ、あー、言われてみれば確かにそんな風に聴こえるかもね……」

 マーリィに返し方は絶妙で、思わず悠理も照れてしまう。確かに口説いている様にしか聴こえなかったかも知れない。

 でも本心から言葉をひねり出しただけなのだから、そう聴こえたとしても仕方ないだろう。

「そのつもりはなかったのですか?」

「うん、無いよ。俺は嘘は吐かない。隠すべきものは胸の奥にきちんと閉まっておくし」

「それは…………嘘をついてることになるのでは?」

「そうかもね。でも、今ここで肯定した事によって、少なくともマーリィさんは俺の嘘を見抜いた訳だから、結果的に嘘は吐いていない事になると思わない?」

 何と言う滅茶苦茶な理屈だ――――マーリィはそう思わずにいられない。

「――――――屁理屈ですね」

「この屁理屈を超えることが出来ない限り、俺を篭絡なんて不可能だよ」

 言いながら浮かべるのは不敵な笑み。己に嘘を吐かずに生きているからこそ自然と出来る表情。

 ――――ああ、この人はなんて真っ直ぐなのだろう。

 微かながら羨望を抱かずにいられない。自分に正直に生きて行ける自由さを。


「思った以上に手強い方の様ですね」

「ハッハッハッ、この年まで浮いた話の一つもないのは伊達じゃないのさ!」

「――フフフッ、面白そうですね。いつか貴方を従える位の侍女になってみるのも」

 ――面白い……そう、そうだ。穢されるではない。むしろこちらが彼を穢す位の方がいい。

 じわじわと心に黒い感情が押し寄せてくるが否定せずに受け止める。

 するとそれは見えない力となってマーリィの身体に宿り、自然と彼女の一部として生まれ変わった。

「少しは乗り気になった?」

 悠理はそんな微かな変化を感じ取っているのかいないのか……。

「ええ、今日の所は私の敗けということにします。では、これにて失礼を」

 どこか晴れやかな気分で立ち上がり、お湯を被って泡を洗い落とす。

「ああ、その前に頼み事があってさ――」

 未だに目を閉じたままの悠理は、彼女が立ち去る気配を察知し呼び止める。そして白風騎士団から数名の体調不良者が出た事と、補充要員の選定を行って欲しいと頼んだ。

「――成程、では僭越ながら私の方で選定を行っておきます。他に御用はございますか?」

「いや、無いさ。今日は楽しかったよ、明日は朝から早いしゆっくり休んでくれ」

「フフッ、それは何より……では、お先に……」

 最初の冷静で知的な感じは何処へやら、今の彼女の声にはねっとりとした妖艶さが含まれていた。

「………ふぅ、もしかして余計なことしちまったかな?」

 マーリィの気配が完全に消えた浴場で一人ごちる。

 その予想は大当たりし、この日を境にマーリィ・エルカトラは自分に正直になり――――誰もが恐れる病んだドS侍女として周囲を震撼させる事となる。

 被害を受けるのはもっぱら悠理であったことは言うまでもない。

マーリィさんでこんなに話が長くなるとは……。


グダってしまった気もするし、その内手直しておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ