ワガママ主と岩石の騎士
あー、なんてこったい。
今回はまとめておきたかったのに区切ることになってしまった……。
「おっ、おーい!」
疲れて眠ったファルールをレーレと一緒にベットに寝かせ、悠理がお嬢様とその従者を探しに外へ出て30分後……。
求めた人物の一人はグレフ邸の庭――――その隅っこで大きな石と会話していた。
『ごー』
呼び声に気付いた大きな石――――2mサイズにまで小さくなったエミリーが大きな手を振っている。不思議な事にその動きは何処か人懐っこさを感じさせるものだ。
「むっ、獣面ではないか! こらっ、手を振るでないッ!」
リスディアが悠理の存在に気付いてエミリーを叱りつけても後の祭り。
既に彼女の嫌う獣面は直ぐ隣にまでやってきていたのだから。
「――随分とちっちゃくなったな……」
「お主が力任せで殴りつけたからじゃ阿呆めが!」
言い訳するつもりは無いが、あの時は加減が利かなかった。悠理も悠理で全身全霊全力全開でエミリーに必死に挑んでいたのだ。それこそ、態々相手の一撃を貰って瀕死の重傷を負って自らを追い込み、無理矢理身体強化を施してその反動で三日間眠り込んでしまう程度には。
結果的に軍配は自分へ上がったものの、与えられた能力を破格さから考えればあんなものは反則勝ち……。
――まぁ、勝ちは勝ちだから良いのかも知れないけれど。
その結果で大ダメージを受けたエミリーは一気に3mもの岩石を切り捨てざるを得ず、あの巨体は見る影も無い。
しかし、エミリー自身は小顔になったのと、動きやすくなったので彼を恨んではいないらしかった。
その証拠に――――。
『ご、ごー』
彼女はまるで『責めないであげて』と言いたげに悠理を庇うかの様な動きを見せた。
ゴーレムは知能が低いとされているが、ことエミリーに至ってはその範疇外だ。何しろ500数年は生きて、様々な事を体験して生き延びた猛者である。
500年前と言えば、ノレッセアに生きる全ての生命が争った伝説の戦――“ノレッセアの審判”が起こった頃。
今の世では、それを生き延びていると言うだけで伝説扱い。即ち彼女は伝説のゴーレムと言ってもいい存在であり相当な実力者である。
問題はそんな彼女を退けた悠理の規格外さと、どうしてリスディアと行動を共にしているかと言う所だろうか?
――後者に関しては何れ知ることになるであろうが。
「エミリー! こやつの味方をするのか!?」
絶対の味方であると信じていた岩の騎士が、まさか怨敵を庇うとは……。
ショックの方が大きすぎて、いつもなら怒り狂う彼女も唖然としてしまう。
「つーか、今は俺達って仲間だからな?」
冷静な突込みを入れる悠理、それを聞いてようやく現実に帰ってくるリスディア。
「ふんッ! そんなものは建前じゃ、必ずやお主をろうらく(?)し下僕としてこき使ってくれるわ!」
堂々たる篭絡宣言に、呆れれば良いのか諦めれば良いのか判断に迷う。
――――ああ、マーリィさんが居ないとまさにブレーキの壊れたダンプカーの如しだな。
普段の彼女が如何に苦労しているか悟って、心の中で声援を送ることにする。
――がんばれマーリィ、負けるなマーリィ!
何故か頭の中にチアガールが出てきたのはこの際考えないことにした。
「ふーん、それは別に良いんだけどさ」
「ほほぅ、なら今すぐ膝まづいて――」
「レーレにバレないように上手くやれよ?」
「ひぃっッ! 何処かで見ておるのかっ!?」
さっきまで威勢よく堂々としていた態度がレーレの名前を出しただけでこの有様。
どうやらかなりのトラウマになっている様だ。一瞬でエミリーの巨体に隠れ、辺りをきょろきょろと見回し始めた事からそれは一目瞭然。
「まぁ。今は俺の部屋でぐっすりだけどな」
「な、何じゃ! 脅かすでないわ!!」
この場に天敵が居ないと知るや、直ぐにエミリーの背中から姿を現し、悠理の前で再び偉そうにふんぞり返る。
何と言うか、良くも悪くも実に解りやすい少女であった。年齢相応に無邪気な部分が残っているとでも評価すればいいのだろうか。
「ハハハッ、スマンスマン」
「き、気安く頭を撫でるでない!」
思わず手を伸ばしてその髪に触れ、レーレにしてやるのと同じ要領で撫でる。
子供扱いされて反発するものの、解りやすい性格なだけにほんの少しだけ抱いた嬉しさも隠しきれては無い。
実際、こうして彼女の頭を撫でる者などそうはいない。侍女達は当然恐れ多い事と遠慮するし、エミリーにそんな力加減が出来るハズもなく……
両親を除けば、撫でられたのはこれで二人目。
――アシャリィ姫……。自分の我侭で追い込んだあの人は今どうしているだろうか?
ふと、一瞬だけ気になったが、その先を考える事が怖くなり直ぐに思考を打ち切った。
「所でマーリィさんを知らないか?」
手はリスディアの頭に置いたまま本題を切り出す悠理。この場で彼女にファルールからの頼まれ事を伝えてもあまり良い結果になるとは思えなかったので、適任者に頼ることにしたのだった。
「む、そう言えば見ておらんのぉ……。何か様じゃったら後で向かわせるが?」
「応、俺の方でも探してみるけど頼むわ」
思ったよりもまともな反応につい驚きつつも、ゆっくりと動かす手は止めない。
「ふふーん、貸し一つじゃな!」
「ああ、今度珍しいお菓子でも持ってくるよ」
「ふむ、いい心がけじゃ!」
『ごー』
何故か作らなくてもいい貸しを作ってしまった気がしつつも、二人が楽しそうなので良しとしておく。
「――さて、俺はもう行くぜ。……出来ればもうお前等とは戦いたくないし、お願いだから悪さするなよ?」
やはりと言うべきか、ここでも悠理からのお願い。今日は会う人、会う人に言っている台詞だ。
大きな戦いが迫っている今となれば、それなりに誰かを頼らなければならない。
それがきっと理由なのだろうと自己解釈しておく。
「フッフッフッ、ようやく妾の恐ろしさに気付いたか?」
遂に悠理をぎゃふんと言わせる機会が来たと思ったのか、ここぞとばかりに強気な姿勢。
――が、無論そんなものは長く続きはしない。
「いや、もし今度があったらレーレは手加減しそうにないから」
「――うひぃッ!? ぜ、全力で良い子にしてるのじゃ!」
今度は本当に殺されると本能で察知したリスディアが、悲鳴を上げて悠理の身体に抱きついた。
――お願いだから、内緒にしてね? と視線が強く訴えかけている。
うるうると潤んだ瞳で見上げられたら断る事など出来はしないのが廣瀬悠理である。
いや、元から告げ口などするつもりもないが……。
「うむ、お前等も早目に休んでおけよ? じゃーな!」
しがみ付くリスディアをひっぺはがして、悠理は屋敷へと走り去っていく。
『ごっごっ』
エミリーはまだ半べそをかいている主を肩に乗せ、彼の姿が見えなくなるまで手を振り続けるのであった。
冒頭でも少し触れましたが、今回はマーリィさんの話もセットにするつもりだったんですよ。
そしたらマーリィさんの方が膨らみすぎて……。
――台詞だけで2000文字近くいっちゃったんですよ。
これはもう区切るしかないと思いましてね……。
明日で書き終わるかナァ?
マーリィさんのとこは長くなりそうなんで、番外編扱いで暫く後に出すかもです。