甘えたいと言う欲求
おー、リリネットさんの補足みたいなのを入れた性で長くなってしまった……。
ちょっといつもよりグダってるかも。
「……………………」
リリネットの誤解を解いた悠理は、頼み事を伝えた上で足早に部屋へと歩く。
屋敷の中では準備に追われた白風騎士団の面々が大忙し。けれど悠理の姿を見れば律儀に挨拶をしてくれる。そんな彼等に片手を上げて軽く応え、そのまま通り過ぎて行く。
どうやらスルハ攻略隊本隊の襲撃成功からこっち、彼等は悠理へ尊敬と畏敬の念を持つようになったらしい。
そのお陰と言うべきか、白風騎士団は『団長が付いて行くと言うので我々もお供します!』と、悠理と行動を共にする事に異を唱える者は居なかった。
最初は騎士団を巻き込む訳には行かないとして、ファルールが団長を辞任すると言う話もあった様だが……。上手く話が纏まってくれた様で悠理はホッとしていた。
白風騎士団は良いチームだ。解散させてしまうには惜しいし、何よりファルールが団長を辞めたら騎士団連中はこれから先どうすれば良いか迷うことだろう。
そうならなくて良かったと心底思う。自由とは与えられて喜ぶべき事であっても、戸惑いと混乱をもたらすものであってはならない。
――――彼等が向かう先で求める自由を掴み取れます様に……。
そう願わずに居られなかったのはきっと責任感から。自分と言う存在が基点して白風騎士団を巻き込んでしまったのは確かで……。
けれども願いを口に出さなかったのは、結果的に自分が下した決断であれば祝福すべきだと考えたからだ。
そうこう思考している内に自分とレーレが使っている部屋が見えた。ノックも声も掛けず開け放つ。
――そして。
「ただい――――ブフゥッ!?」
開けた同時に悠理が吐血した。何と言うか肉体的と言うより、精神的なダメージによるもの、病気や怪我ではなくてギャグ的な感じで。
『おか――っていきなり血吐いてどうした!』
とは言っても、口から血を吐いたのは事実。その様子に部屋でのんびりしていたレーレが驚き慌てるのも無理は無い。
『誰にやられたんだ? それとも何か拾い食いでもしたのか?』
近くに寄ってきた彼女は心配そうに顔を覗き込み、身体に異常がないか触ったり擦ったりしてくれている。
「い、いや、気にしなくていい。少し疲れただけだ」
――まさか、淫魔が放つ強烈な色気とフェロモンを我慢したストレスによる吐血だとは、口が裂けても言えない悠理であった……。
“千変万化”で精神を強化して耐え忍んだとは言え、肉体が対応できるかどうかは別問題。
エミリー戦時に、打撃や衝撃に強い身体を創製したものの、ストレス関係の耐性は全くと言って差支えない程に常人のまま。
これを知れたのは戦闘中でなくて良かったと安心すべきか、それとも淫魔という“祝福”を与えられた存在に畏怖を抱くべきか……。
――――淫魔恐るべし、だな。
最も、戦いの中で性的欲求を抑えなきゃならない事態はそうはないだろうが。
しかし、この件は教訓として胸に刻む事を誓う悠理であった……。
『本当に大丈――――あっ、もしかしてお前……!』
何かに気付いたレーレが鋭い視線を悠理に投げつける。
前にもこんな事があったような――――それは……そう、スルハに来る直前の……。
『あの淫魔に欲情してやがったな!』
「ナ、ナンノコトダ?」
――しまった……、と気付いた時にはもう遅い。死神レーレには人の生命エネルギーを可視化出来る。
以前、その力でノーレに対して不埒な感情を抱いたのを看破されたハズだ。
油断していたと、後悔しても遅い。リリネットと別れた後、部屋に戻ってゆっくりすれば悶々とした気持ちを沈められると考えて一直線に帰ってきた事が裏目に出たらしい。
『テメェ! この後に及んで言い訳するつもりか!』
「チクショー! 俺だって健全過ぎる男子なんだよ! あんなエロい身体見たらそりゃ発情するに決まってんだろうが!! でもちゃんと我慢したんだよ! むしろ褒められたって良いレベルだろ!?」
レーレの前では分が悪いと見るや、悠理は自分の心を曝け出す。所謂、逆切れとも言えるが、彼の言い分は正しいところも多い。
――が、欲情したのは健全な男子だからではなく、彼が廣瀬悠理だからだ。
見ただけで欲情と劣情を喚起させる様な存在が、街で普通に生活出来るだろうか?
否である。淫魔は人里離れた所に居を構え、時折人間の生気を求めて街へ降り、人を襲ったり攫ったりする。その為に人と共存する事は滅多にない。
しかも、リリネットは能力の一部を封じているのにも関わらず淫魔の性質を隠しきれてない。そんな彼女が人里で生活するのは困難を極める。望む望まないに関わらず異性を虜にしてしまうからだ。
――そう、悠理がそうなってしまったように……。
普段はグレフの作った精霊石の宝具によって、周囲の認識を捻じ曲げ普通の人間として紛れ込んでいるに過ぎない。
一般人には今まで隠し通してこれたが、悠理やレーレと言った常人を超えた存在相手には誤魔化し切れなかった様だ。
実際、白風騎士団やカーニャ達はリリネットが淫魔なのを知らない。
もしもリリネットが能力全てを解放したら……この屋敷は淫らな欲望渦巻く場と化しているに違いなかった。
『――まぁ、それを差し引いても病み上がりなんだから、少しはゆっくりしていけよ」
暫く睨みあっていた二人だがレーレが先に折れる。不可抗力だと言うのは解っていた。彼が手を出さない事も想像できた。それでも責めてしまったのは――――――個人的に気に食わなかったからに他ならない。
「――そうするか……あっ」
『ん? どうした?』
「いや、ちょっとやってみたい事があるんだが良いか?」
話題を打ち切ってくれたレーレに感謝しつつ、ここでもお願いごとをする悠理。
今日は何だか頼み事の多い日だと、心の中で苦笑する。
『? 好きにすれば良いんじゃねぇか?』
「じゃあ、遠慮なく」
『なっ――!』
首を傾げつつも了承する彼女に近づき、ピタッとおでことおでこをくっつくける。
突然の事にレーレが驚くのも無理はないが、悠理は更にそこから目を瞑った。
それはまるでキスの態勢……。不意打ち気味な行動にレーレの思考は真っ白になって顔を真っ赤にするのみだ。
――しかし、実際キスをしようとした訳ではない。
(――レーレ・ヴァスキンの主たる俺が命ずる。契約者の主を助けんが為、その力を貸したまへ――召喚!)
――彼がやろうとしたのは眷族召喚。
本来なら眷属を持たない彼に出来るハズもないのだが、レーレは廣瀬悠理のペット兼死神である。
ならば、彼女の主たる自分は間接的に眷属達の主とも言えるのではないか?
そう推論を立てて、“生命神秘の気”を解放。レーレと接触する事で召喚工程を短縮、眷属姉妹の姿を思い浮かべ自分の元へ引き寄せる……と言うイメージを固めていく。
『な、何しやがんだユー――――っておいおい!』
キスを迫られていると勘違いして暴れるレーレだったが、異変に気付いて大人しくならざるを得なかった。
辺りに充満する虹の光によって空間が歪み、精霊たちが済む次元への扉をこじ開ける。
目に見えないが確かに空間に穴が空いてそこから何かが顕現する。それは彼女にとっても非常に見慣れた顔で……。
『……ヨバレテ』
『トビデタゾー!』
虹の光が消え去ると同時、眷属姉妹がいつもの様にそこに居た。即ち、実験は成功したと言える。
「おお、案外出来るもんだな」
思いつきとは言え本当に出来るとは思っていなかったのか悠理は少し驚いていた。
レーレの主である事は間違いないが、だからと言ってそれとこれとは話が違う。正直、失敗する確立の方が高いと踏んでいたからだ。
『まさか俺を介して眷属姉妹を召喚するとは――――いくら俺の主――――あっ、主って言ったって一応だぞ一応! 調子に乗んなよ!』
彼以上に驚いたのは正式な契約主たるレーレだ。こんな無茶苦茶な方法で自分の眷属を召喚されるとは思いもよらなかった。悠理によって改竄された祝福名はこんな所で力を発揮したらしい。
『つーか、お前らもアッサリ出てくんなよ……』
『……ダッテ』
『ヨバレタラクルダロー?』
長年連れ添った――家族とも言える眷族が自分以外に召喚されたショックは思いの外大きい。これが主である悠理によるものであったからまだマシとも言えるが……。
それに応えてしまう眷属姉妹にも問題がある――――が、既に彼女達としては悠理の事を認めているので、召喚されることに抵抗はなかった様だ。だからこそ、初めてにも関わらずこれ程までにスムーズに召喚が成功した訳なのだが。
「ふーむ、これで大体やり方は解った。次からは直接呼べそうだ』
『ユーリもユーリでアッサリ習得すんな! 俺にも威厳ってもんがあんだよ!』
自分の能力を好き勝手使われるのは良い気分ではないと、悪態をつく。
――が、これは照れ隠しと現実逃避。自分の全てを征服されているような感覚、そしてそれに若干の心地よさを覚えた事への……。
無論、相手が悠理だからこそ感じる感情だ。しかし、今はまだそれを認められるほどレーレには余裕がなく、先延ばしが妥当な選択であった。
「悪い悪い……。じゃあ検証も終わったしもう戻っても良いぞ?」
頭を撫でて機嫌を取りつつ、眷属姉妹に指示を出す。以前、レーレから眷属についての情報は軽くレクチャーを受けた。必要な分の力を支払って召喚し、その後は命令を与えて使役、役目を終えるか命の危機を感じると帰還する。
今回は見よう見真似による召喚であった為に払う力を加減出来なかったが問題はないだろう。
『……イヤヨ』
『ユーリ、アソボウゼー』
――が、問題はあった。眷属達はこの世界に顕現する為の力を対価に召喚主の命令を訊くが、それ以外にも対価を求めることがあるのだ。
今回、姉妹が求めたのは――スキンシップ。
帰還命令を蹴るや否や、二人は悠理の腕に絡みついた。姉が右で、妹が左。
「お、おう? って何でくっつくんだよ」
眷属が求める対価について詳しく説明されて居なかった為、命令を拒否されたことに驚く悠理。
その隙に姉妹はこれでもかと言うほどに身体を押し付ける。
『フフフ……』
『ンー、チュー』
「ちょっと待てってアハハっ! くすぐったいって!」
耳に息を吹きかけて反応を愉しむ姉、妹は唇を蛸の様にして頬に強烈なキスを繰り返している。
こんな嬉し恥ずかしい状況で悠理はされるがまま。単純にどう反応していいものやら判断に困ったのもある。何しろ彼女居ない暦=年齢の上、キスもまだの童貞なのだから。
――いや、ファーストキスは既にレーレによって奪われているのだが、知らないのであれば未経験と言っても問題はないだろう。
『てめぇらさっきから何やってんだ!』
ここに来て遂にレーレから怒りの声が上がる。それもそうだろう、目の前で自分の眷属がイチャイチャしているのは許せないに違いない。
「おおレーレ、助け――――」
素直にここは助けを求めるべきだと判断した――――が。
『俺も混ぜやがれぇぇぇぇぇ!』
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
期待とは裏腹に彼女も悠理目掛けて突撃する。
両腕が姉妹によって塞がっているので真正面から抱きつく、真っ赤になった顔を見られたくないのか胸に顔を押し付けてきた。
『……サァ、タノシミマショウ?』
『チュースルー!』
『どさくさに紛れて何やってんだ! それは俺が――――』
状況に唖然とし続ける暇もなく、三人による悠理とのスキンシップ合戦が始まってしまう。
体中のあちこちから伝わってくる女の子の柔らかな感触に悲鳴を上げそうになる。
――――童貞には刺激が強すぎるって!
しかし、この状況を楽しまないのは実に勿体無い。
覚悟を決めて流れに身を任せることにする。
つまりは、どうとでもなれ! と言うやつだ。
「――――あー、もう好きにしてくれ!」
観念してそう叫ぶ、その後、何が起こったか悠理は良く覚えていない……。
何が起こったかは想像に任せるけど、悠理はまだ童貞だから安心して!
さて、明日は後輩の就職祝いに行って来るんでロクに更新できないと思います。
多分、人物紹介コーナーになるかなぁ……。