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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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危・機・到・来

廣瀬悠理復活!

 ――リスディア達が投降して1日が経過した頃。

 誰もが待ち焦がれた瞬間は、しかし誰にも気付かれることなくひっそりと訪れた……。

 ――そう、廣瀬悠理の目覚め、である。

「――――ふぁぁぁ、よく寝たぜ……」

 皆の心配を知りもせず、彼はいつも通りの調子で欠伸と共に起床。

 窓から差し込む朝の光に目を瞬かせ、ベッドの中で伸びをしようと全身を動かす――いや、動かそうとした、のだが……。

「――って、ん?」

 身体が全く動かない、両腕に至ってはどうも何かに圧迫されて痺れている始末。

 足はと言えば何やら重石を乗せたように上から押し潰され、こちらも程よい麻痺感に襲われている。

 一体自分の身に何が? 頭に浮かんだ疑問を解消すべく、唯一自由に動く首を右側に向けると……。

「ファッ!? ファルさん!?」

 ――そこには全裸で右腕に身体を絡ませるファルールの姿が!

(い、いやいやいや! どういう状況だ?)

 いつになく焦った様子で慌てて目を逸ら――――しかけてちらりと覗き見る。

 真っ白な肌、浮き出る鎖骨、そして大きくは無いが決して小さくはない胸の膨らみに視線は釘付け。

 そして、今更ながらその膨らみが腕に押し当てられている事実に歓喜する――――が、痺れきった腕の感覚ではこの状況を堪能する事も出来ない。

 心の中で悠理は『ちくしょう!』と盛大に叫んだ。おいしい状況に居ると言うのに愉しむに楽しめないとは……無念にも程があった。


「つーか、レーレと眷属姉妹に、リスディアのお嬢ちゃんと侍女さんまで――って最後の二人はどうしてここに?」

 とりあえず、全裸の誘惑を断ち切る為に再びベッドの上に視線を巡らす。

 左側には全裸ではないものの、ファルールと同じ様に腕に絡みつくレーレの姿。そして彼女に寄り添うようにして眠る眷属姉妹。

 足元には何故か敵対していたリスディアとその侍女。主を胸に抱きかかえたまま眠る姿はまるで母親のそれで、何とも心温まる光景だ。――寝る時まで仮面を付けたままの侍女は非常にシュールだったが……。

「レーレ、ユーリは起き――」

「だから姉さん、ノックはしないと――」

「ん? おお、カーニャにノーレじゃないか! 丁度色々訊きたい事があった所だ!」

 突然、ノックも無しにドアが開いたと思えばそこには自分を召喚した姉妹。

 街を出てリスディアを強襲に向かってから体感では一日半ぶり。実際にはここを出てから5日が経過しているのだが。

 3日半日は気絶とも言える爆睡中だったのだから、体感で計るしかない。

 ともあれ、久々に再会した姉妹にいつも通りに振舞う悠理――――身体の自由が利かないので首を動かすのが精一杯であるが。


「へ、へぇ、何かしら?」

 首だけ動かすのはやけに負担がかかってカーニャの表情を確認し辛いのだが、妙に引き攣った笑いを浮かべているのが気になった。

 悠理が知るわけもないが、彼女の心情はこうだ。

 ――――人が心配して待ってる間に女侍らせて愉しむとは良い度胸ね?

 これは完全な言い掛かりであるが、カーニャにとって目の前にある光景こそが真実であり、相手の言い分など聞く耳持たない。

 ――最早、怒りが爆発するまでに一刻の猶予もないが、悠理がそれを知る由もなく……。

「ああ、俺が寝てる間に一体何があっ――」

 言いかけた時には既に遅かった。カーニャは一瞬でその場から跳躍し、悠理の元へと一直線!

「そんなの知るかバカぁぁぁぁぁぁッ!」

 全身の体重を膝に乗せて目指すは――――鳩尾!

「えっ、ちょ!? ゴフッ!!」

 狙いを予測する事は出来たが、身動きが取れない状況ではそれが何の足しになるのだろう?

 かくして、カーニャの膝は寸分違わずに鳩尾へめり込む。ゴーレムの一撃に耐えられる肉体を得たからと言ってダメージを受けない訳ではない。

 ましてや今の悠理は病み上がり、不意打ちとも言えるフライングニーキックプレスをまともに受けた彼は再び夢の中へと戻って行くのだった……。 


「ね、姉さん、多分これって不可抗力ってやつじゃ……」

 冷静に状況を分析するノーレだが時既に遅し。

 あれだけの大技を繰り出して誰も飛び起きないのは不思議で仕方ないが、問題は別にある。

 待ちに待った彼の帰還を台無しにしてしまった……。今、自分達は彼の力を必要としているのに……。

「あっ、し、しまったわ。つい……」

 器用に右膝に力を込め、反動でそのままベッドから飛び降りる。その際に『ゲフッ!?』と、悠理の更なる悲鳴が聴こえた。

「ユーリさん、しっかりしてください! って、姉さん何で逃げるの!?」

 必死に身体を揺するが反応はない。そして、その間に逃げようとしている姉を見つけ呼び止める。

「な、無かったことにするのよ! さぁ、行くわよノーレ!」

「え? えぇぇぇぇぇぇっ!?」

 何とも無責任な姉の台詞に驚いてる内に強引に手を引かれ、そのまま引っ張られていく。

 ――こうして待ちに待った瞬間は、とある少女の勘違いによって少しの間延期になったと言う……。


――――――

――――

――


 ――1時間が経過して……

「――――はっ!? お、俺は一体……」

 何やら悪い夢にでも魘された気分で意識は覚醒する。何があったか思い出せないが、妙に鳩尾辺りに痛みを感じて顔を歪めている、と。

『やっと起きたか、バカユーリ!』

 悠理の目覚めを感じ取ったレーレが胸に飛び乗り、起きたばかりのけだるい気分を吹き飛ばす程に身体をガタガタと揺する。

 その顔には嬉しさが滲み出て、どこか楽しそうでもあった。

「おお、レーレ。随分長い間寝てたみたいだが寂しくなかったか?」

『バッ、バカヤロー! そんな事あるわけねぇだろ!?』

 ――随分と下手な嘘。本当は寂しかったに決まっている。

 だが、それを表に出すのは恥ずかしいし、何より――――本音を言わなくても気持ちを察して欲しいと思う。

 ――それを悠理に期待するのは酷な気もしないではなかったが。

「――お前が元気そうで良かったよ。所で――――横で全裸のファルさんはどうにかならないか? キスの経験もない童貞に刺激が強す――裸体が眩しくてな……」

 誘惑を断ち切る様に目を瞑る。煩悩を消し去ろうとするが、抱きつかれた右腕に意識を集中してしまう。

 けれども、やはり腕の痺れが邪魔をして感触を堪能するには至らず、胸中で悔し涙を流すこととなった……。


『えっ、お前ってキスもまだだったのか!?』

「まぁ、元の世界じゃ全然モテなかったからな!」

 胸を張って言えた台詞ではないが、テンションを上げて振り切りでもしなければダメージを負うのは自分自身。解っているからこそ、あえて自分から恥を晒す。

『へ、へぇ~、そうなのかー』

 超棒読みで気のない返事のレーレ。だが、内心は悠理の言葉で浮き足立っていた。

(お、俺がユーリの初めてを奪ったのか……)

 そう、そう言う事になる。やはりと言うべきか、彼は自身に生命力を吸われたことも、ファルールから生命力を送り込まれたことも知らないらしい。

 ――と言う事は、悠理のファーストキスを奪ったのはレーレで間違いないのだろう。

『――――えへへ……』

 その事実がレーレに与えた効果――いや、幸福感は大きい。頬はだらしなく緩みきって、幸せそうにはにかんでいる。普段の彼女から絶対に見れない貴重な姿である。

「ぬおっ、いきなり超可愛い顔してどうしたッ!? 唐突すぎてちょっと怖いんだが!」

 天使の様に無垢な笑顔を浮かべるレーレに悠理は一瞬見惚れ、驚きと照れ臭さからそんな事を口走ってしまう。

『う、うるせー! なんでもねーよ!!』

 怒ったフリをしてそっぽを向くが、『超可愛い』と言われた性で、さっき以上に蕩けた笑みを浮かべている。

 ――――こ、こんな顔……見られたら恥ずかしい……。


「そ、そうか? 特に問題がないなら、ファルさんをどうにかするのと、足元に転がってる珍客の説明を頼む」

 自分で撒いた種だが、先程の笑顔が拝めなくなってちょっぴり後悔する悠理。

 しかし、落ち込んでばかりも居られない。眠りに付いていた間に何が起こったか把握せねば。

『――おっと、そうだった! ヤバイぞユーリ! お前が寝てる3日の間にグレッセ王が殺されて国が乗っ取られた!』

「――――――――おいおい、穏やかじゃねぇな……」

 何やら内容が省略されまくっている感は否めないが、兎に角不味いと言う事だけは解る。

『とりあえず、俺達はスルハ攻略隊を手勢に加えての奪還作戦に参加する事になった』

 マーリィが投降を申し出た際の秘策とはこのこと。

 グレッセ王死亡の報告は何れスルハの街にも届くだろうが、その知らせが届くのは速い方がいい。

 信頼させる為に情報を売り自分達の戦力を買わせ、身の安全を確保する。結局は戦いに駆り出されることにはなるが、任務失敗でどんな罰を負わされるか解らない以上、寝返る方が得があると言うもの。

 お陰でスルハ攻略隊2000の戦力を得て反撃に転じる事が可能となった。

「――って事はつまり?」

 簡易的な説明を受けて悠理もその表情を険しくしていた。

 何故ならこの先待ち受けているのは……。

『ああ…………戦争だよ』

 その言葉を聴いた瞬間から、この戦争は始まった。

 ――後に伝説と呼ばれる“グレッセ王国奪還戦”……。

 この戦いを経て悠理は更なる運命の渦に飲み込まれて行く事となるのだった……。

うぇーい、何とか更新間に合ったぁ……。


次回、作戦会議の巻。

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