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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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使者と予想だにしない再会

うー、ミリ姫大戦に夢中になってたら遅れてしまった……。


「うぅっ、レーレ……あとは頼んだ、ぞ……」

『――――良くやるよなお前も』

 スルハの街に帰還してから二日が経とうとしていたが、悠理が目覚める気配は未だ無い。

 あの日からファルールは毎日気絶するまで生命力を与え続けているが、それも果たして意味があるのかどうか……。

 全裸になったファルールが悠理に抱きついて眠る姿にレーレも胸中は穏やかではない。

 ――が、これで一日も早い復活に繋がるのであれば仕方ないと割り切れる。

 それに命を賭けてこの儀式を行っているファルールにはこれ位の役得があって良い。

 急激に寿命を縮める類ではないにしても、自らの生命力を与えるのは言うまでも無く命を削る行為。

 悠理と合法的に、しかも現在は独占的にキス出来る状況は羨ましくはあるが、そこに嫉妬心はない――――と思う、多分。

『――あー、これでユーリが目を覚ましても、俺がまた吸ったら間接的にファルールの命も吸ったことになんだよなぁ……』

 恐らく、そうなる頃には既にファルールの生命エネルギーは悠理のソレとごっちゃになって解らなくなっているだろう。

 それでも、この何とも言えない悪循環にバツの悪さを禁じえない。

 それはレーレが既に彼女を仲間――同士として意識し始めているからだ。自分と同じく彼に可能性を見た者として、ファルールの意思と行動を尊重したいとさえ考えている。

『あっ、つーかこれ外してすれば良いのか……いやいや! あれはあくまで力を取り戻す為にであって、別に俺がしたいとかじゃないんだって!』

 ――この期に及んで見苦しい言い訳である。例えリリネットの首飾りの影響など受けなくとも、今のレーレであれば悠理とキスしたが最後、十分にその虜になってしまうだろう。

 何故って、彼が寝込んでいる二日の間に随分と寂しさが募っている。

『早く起きろよ……バーカ、バーカ……』

 口は勝手に悪態をつくのにその手は優しい手つきで悠理の髪をなでる。

 所々、不揃いで短くなった髪がチクチクとするが、そんな感触も今では心地良く思えてしまう。

 天涯孤独で過ごしてきたレーレの甘えたがりが限界突破するのも時間の問題かも知れなかった……。


『レ、レーレどの! いらっしゃいますか!』

 無心の領域でひたすら悠理を撫で続けていたせいか、その声に反応するのが遅れた。

 明確な殺気でもあれば直ぐに意識を切り替えられたかも知れないが、モブアーマーの慌しい足音にすら気付かない程に呆けていたらしい。

『あ? どうしたモブアーマー、敵でも来たか?』

 多少、自分の腑抜け具合にショックを受けない事もなかったが、そんな事はおくびにも出さない。

 普段と変わらない調子で接する――――頭を撫でる手はそのままであったが。

『そ、そうなのであります! 恐らく、スルハ攻略隊本隊かと思われます!』

『何ッ!? ホントに来やがったのか……! 数は?』

 ――――アレだけ脅したのに、まさかこれほどの馬鹿だったとは……。

 予想だにしない事態――とは言わないが、まさか本当に攻めて来るとは思いもしなかった。

 これも油断と言えばそれまで、しかし多少は驚いたものの、それだけではこの街は落とせない。

『先行している部隊だけで500は居ると思われます!』

『解った、他のモブアーマー達を門に集結させろ! 街の中にまでは入れさせねぇが万が一の為にバリケードを敷け!』

『了解、先に言って伝えておくでありますよ!』

 ビシッと敬礼を送って走り去るモブアーマー。

 念の為、街に仕掛けた罠はまだ解除していない。だがむざむざと敵を侵入させたとあっては、今も眠り続ける悠理に申し訳が立たないではないか。

『ユーリ、ちょっと行ってくるぜ。――安心しな、お前が守ろうとした街は連中になんか汚させやしねぇからよ……』

 ――――そうだ、お前と二人でやり通した無茶を無意味なものなんかにはさせねぇ……!

 渦巻く強い想いに呼応して戦意も高まっていく、負ける気は元からしなかったが、これで完璧なものとなった。

『……イクノネ』

『ヨッシャー!』

 音も無く眷属姉妹を召喚し、手にも愛用の処刑鎌を呼び寄せる。

 悠理の頬に軽くキスをして、これで準備は万端。

『……アラ(ぽっ)』

『ダイタンー!』

『うるせぇ! 行くぞ!』

 部屋の窓を開け放ち、そこから何の躊躇も無く飛ぶ。

 ――目指すはスルハの正門まで一直線!


――――――

――――

――


『ゴルド、状況は?』

 気付けば、伝令にやったモブアーマーさえ通り越して先に正門へ着くことに成功したレーレ達。

 ――――少し本気を出しすぎたか……。

 グレフの屋敷からここまで来るのに5分と掛かっていない。モブアーマーがここに来るのにはあと10分は必要だろう。

『レーレどの、それが困った事になりまして……』

 言葉通り困ったようにしているゴルドに首を傾げていると、門の外から高い笑いが聴こえてきた。

 嫌な予感と共に外へ目を向けると――――。

「フハハハッ! あの時の獣面を出すのじゃ! この妾が直々に会いに来てやったのじゃぞ!!」

 ――嫌な予感は見事に的中、リスディアが親衛隊とディーノス隊を引連れ、スルハにまでやって来たのだ。

『――――ゴルド、お前らは門を固めろ。相手は俺がする……』

 何故あそこまで脅迫したのにも関わらず彼女はやってきたのか? そんな事に思考を割く余裕は無かった。何と言うか我慢の限界、この2日間悠理に甘える事の出来なかった鬱憤も溜まっている。

 ――――ああ、そうさ。これは八つ当たりだとも。

 自分勝手な感情を肯定して、レーレは眷属姉妹を引き連れ、溢れ出る怒気とも殺気とも取れるようなオーラを振り撒きながら門を潜って行く。

『レーレどの! その――――どうか穏便に……』

 物騒な気配を感じ取ったゴルドがその背中に呼びかけるが、彼女は返答として右手を高く掲げた。

 ――そんな気は毛頭ない。

 明かにそんな類の返答を見て思わず十字を切る黄金騎士。

 敵とは言えこれは余りにも――――不憫過ぎるだろう、と。


「うーむ、中々出て来ぬのぉ……」

 痺れを切らしたリスディアが頬を膨らませる。態々こうして自ら出向いたというのに彼の者は現れる気配も無い。そもそも、彼の名をちゃんと訊ねなかったのが問題だ。

 あの時は怖いもの知らずな賊程度にしか思わなかったから、いざ会いに行くとなると呼び出すことすらままならない……。

 今回は戦いに来たのではないから街へ踏み込む訳にも行かず、この場から何とか呼び出すことにした。

 我ながら妙案! と、リスディアはしたり顔だった――が、ファルールに伝言をして彼を呼んでもらえば良かったんじゃないか? 

 マーリィはそう思ったが、提案する前に実行に移されたので訂正するのも気が引けて今に至る……。

「むむむ、いつまで待たせるつもりじゃあのけも――――」

『よぉ、待たせたなバカ娘…………!』

 ゆらり、と不穏な気配と二人の眷属を携えて現れる少女。

 その余りの剣幕に記憶から飛んでいるとは言え、失禁する程の恐怖を覚えさせられた身体が過敏なまでに反応を示す。ガタガタと震え上がって咄嗟にマーリィにしがみ付く。

「ひ、ひぃぃぃぃぃッ!? な、何故お前が出てくるのじゃ! 妾が呼んだのはあの男じゃぞ!!」

 襲い来るトラウマから、リスディアは決してレーレを真正面で捉えようとはしない。背中越しにチラリとギリギリ目が合わない絶妙なところから顔を少しだけ出している。

『悪いな、アイツはちょっと手が離せないんだよ。変わりに俺が遺言位聞いてやるぜ?』

 完全な戦闘態勢で処刑鎌を構えれば、眷属姉妹も同じ様に獲物を呼び出す。

 悠理との初戦闘の際には、主と同じく処刑鎌を使用したが今回は各々に違う。

 姉は鎖鎌を、妹はスパイクロッドを手にし、不気味な笑いを浮かべている。

 ここ最近は呼び出されても、二人とも戦闘らしい戦闘をしていなかった為だろう。久々の本格的な殺し合い……戦闘狂と言う訳でもないが、眷属としての本領を発揮出来る場面では心躍ってしまうものだ。


「ま、待て、今回は話し合いに来たのじゃ! マーリィっ!」

「はい、今回我々は貴方様達に降伏しに参った次第でございます」

 肌に突き刺さる様な不穏な気配を受けて、慌ててマーリィに本題を伝えさせるリスディア。

 侍女筆頭として喜んで命令に従い、用件を告げる。怯える主とは違って彼女はひたすら冷静そのもの。

 既に命は主に捧げている、本隊強襲時には遅れを取ったが何度も無様な姿は晒せない。

 ――今は仰せつかった役目を全うするのみ。 

『へぇ、信じろってか?』

「それはこれを見てから判断なさるがよろしいかと……」

 あからさまに信じていない表情――――だが、それは想定済み。切り返す為の切り札は用意してある。

 でなければ、部隊を引連れてここまで出向くという愚は犯せない。相手に条件を呑ませる為の算段があるからこその愚行。

『これは――――機密文書?』

 レーレに渡したのは別働隊から届いたあの黒い紙。そこに書かれた情報こそが最大の切り札。

「貴方達が立ち去って数時間後に、グレッセ王国で圧力をかけていた別働隊から届いたものです」

『ふーん、何が書いてあ――――』

 あまり期待してない顔で黒い紙に目を落としたレーレが絶句した。

 そして同時に彼女達が降伏をしに来た理由も理解する。

『……レーレ?』

『ドウシター?』

『――――おいおい、冗談キツイぜ……』

 何度内容を見直しても結果は変わらない。

 ――――これは謀られたか……。


「信じて頂けますか?」

 マーリィの問いにレーレが苦虫を噛み潰した顔で呻く。

 どうあってもこの降伏を断れない様にされていた。断ったとしても不利になるだけでこちらに何のメリットもない……。

『食えねー姉さんだな……解った。俺の一存じゃ決めらねぇが、この街で一番偉い奴に会わせてやるよ。アンタとリスディアは俺に付いて来な』

 ここは渋々折れるしかない。というよりも、レーレ自身は既に答えを出している。

 ――受けるべきだこの降伏を。結果的に2000の戦力が手に入るのなら是が非でも。

「――ありがとうございます。さぁ、リスディア様……」

「う、うむ、当然の結果じゃな!」

 背中から主をひっぺはがして手を繋いで歩き出すマーリィ。

 腰は引けたままだがリスディアも遅れまいと付いて行く。

『……ヘンナウゴキシタラ』

『ブッコロスゾー?』

 眷属姉妹はこの場に残って先行部隊の監視に当てる。念の為に追加で9人を召喚。

 これだけ居れば戦闘になったとしても一方的に嬲り殺せるだろう。

 ――そんな布陣を悠理はたった一人で切り抜けた事になるが……。まぁ、アレは例外だろう。

(さぁてユーリ……本格的にやばくなって来たぜ? 早いとこ目ぇ覚ましやがれよ!)

 門を潜りながら、遥か遠くに佇むグレフ邸を見やる。

 これから束の間の休息を破り、自分達が挑むであろう戦いには彼の力が必須。

 そしてレーレにはこの戦いを潜り抜けた悠理の逞しい姿が見える気がした。

 彼女の見た可能性、それが証明されるのはそう遠い未来でもない。

 それはこれから四週間後――――そう、グレッセ王国にて全ては始まりを告げるのだ……。

さーて、予定では次かあと二回位で悠理覚醒です。


いよいよこれから、第一章グレッセ王国編後半に差し掛かっていきますよ。

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