解放と支配を手にして改竄する
「――うおぉぉぉぉぉぉっ!」
死神達の刃が悠理の五体を引き裂こうと迫った――その時、悠理の雄叫びが響く。
叫びに呼応するかの如く、虹色の光が変化する。
ただ周囲を漂うのではなく螺旋を描き吹き荒れる。それはさながら――嵐のよう。
『――うっ、これは……』
やはり、ソレに触れた瞬間に身体が止まった。しかも、透明化までも解除されて。
だが、それ以上に問題なのは眷属達の方だ。
光の嵐に巻き込まれて次々と消えてゆく。
殺してはいない。これは――強制送還だ。
眷属達はこの世界から少しズレた別次元に存在している。
召喚主である死神は特定のエネルギーを対価として支払い彼等をこの世に繋ぎとめている。
存在する為のエネルギーが光に触れた途端、零にされ|た。
よって眷属達は存在を保っていられなくなり元の場所に戻されたのだ。
『――成程……』
今のでようやく謎が解けた。ヤツが使う能力の一つ。
それは――――エネルギーの“解放”。
こんがらがった糸を解いて元通りにする様に。
最初に放った攻撃も指向性を与えたエネルギーを解放して無効化した。
となれば、エネルギーを使用しない物理攻撃が有効な訳であるが……。
(身体が動かねぇ……!)
あと少し、ほんのちょっと腕が動けば悠理の首を刎ねられる。
だと言うのに、虹色の光が身体に絡みついて身動きが取れない。
まるで自身の身体を乗っ取られた様な――――。
『――――ッ!! ま、さか……!?』
まさか、そんな。
コイツは俺から出る生命エネルギーを――――。
支配しているとでも言うのか?
有り得ない、そんな出鱈目なチカラを異世界召喚者が所持していると言うのか?
この世界における神クラスの能力だぞ!
馬鹿げた推察を否定しようとした所で、悠理の手が死神の額に触れる。
「――悪く思うなよ?」
一瞬、苦虫を噛み潰した顔をして。
唯一の攻撃手段を実行した。
――――――――
――――
――
いつの間にか身に着けていた能力。
悠理の解釈は死神と若干異なっていた。
現在判明している自身の二つの能力は――。
“自由を与える”、“自由を奪う”。
まず、一番最初に放たれたエネルギーの刃。
もしも、攻撃に使われなかったら何に使われていたか?
攻撃と言う形に固定されたチカラに選択肢を与える。
するとどうなるか?
既に決められた指令に自由を上書きすれば――そこに待つのは混乱だ。
収束されたエネルギーがあたかも一つの生命体の様に意志を刷り込まれ、突如得た自由に困惑して当惑して消えてゆく。
あるいは崩壊と言った方が正しいのか。
この現象を悠理は“自由を与えた”と解釈する。――やや強引過ぎる感は否めないが。
次に“自由を奪う”だ。
これは相手の行動を制限する、と言う単純なもの。
ただし、これには手順がある。
一つ、相手の本質を含め理解すること。
二つ、相手の状態を乱す、感情的にさせること。
この二つの内どれか、或いはその両方を満たして初めて相手の行動を制限する事が出来る。
もしくは、制限し易くなる、と言うべきか。
幸運なことに、死神は解り易く、そして賢かった。
だから、悠理の力を体感して警戒し、自身のプライドに傷をつけられた事で激情を露にした。
これがもし――――冷静で知的な相手だったならば……。
――悠理の首は転がっていたに違いない。
何はともあれ、生み出したこのチャンスを逃す手はない。
動きを完全に封じた死神の額に手を置く。
(気が引けるが悪く思うなよ?)
――そして。
この短時間で掴み取った第三の力を行使。
唯一の攻撃手段。
それは――――。
「“自由に書き換えさせてもらう”!」
――――――――精神攻撃だ。
――――――――
――――
――
――――死神の精神に接続。
死神こと、レーレ・ヴァスキンの情報を取得。
性別は女性、年齢528歳――外見年齢14歳――――処女。
祝福名は死神。
現在に至るまでの殺害人数は■■■■■人。
内訳は子供■■■人、大人■■■■人、それ以外が――。
最初に人を殺したのは――――で殺害理由は――――――――である。
また彼女の眷属においては――――etc.etc……。
「ぐっ!? ガァァァァァァァッ!!」
『て……めぇ! 俺に……!』
二人の顔が同時に歪む。
悠理は脳へ一気に送られた情報の波に苦痛を覚えて。
レーレは自身の精神、深層心理に侵入されたことの不快感から。
(――――だからやりたくなかったんだよ!)
三つ目の力は精神への侵入、及び書込み。
他人の精神を支配し、自由自在に書き換える最低最悪の能力。
使用と成功条件は相手より気力、精神力で勝っていること。
現在、二人の精神力は拮抗状態。
――だが、レーレの個人情報を取得出来た時点で既に勝敗は決まっている。
雑草を引き抜くよう様に。
『あ……あ……!』
一度手に掴んだならば。
『アアア………ヤ、ヤメ……!』
後は力任せに引っこ抜けば良い!
「――――――終わりだ」
『ア――――――――アあぁぁぁぁぁぁぁぁアアアァァァァァッ!?』
――――書込み完了。
ブツン、と。
糸の切れた人形と化してレーレは倒れ込む。
そして、胎児の様に丸まって震え始めた。
顔色も一気に悪くなり、音にさえ恐怖を感じるのか耳を塞いでいる。
精神状態を極限状態にまで不安定にさせ、恐怖を増幅させた。
――最低だ自分は……。
廣瀬悠理は心の底から自身を軽蔑した。勝つ手段がこれしかなかった。
カーニャを守る為に勝たねばならなかった――と、いくら大義名分を掲げてもこの嫌悪感は誤魔化せないし拭えない。
――この報いはいつか必ず受けよう。そしてこの嫌悪感を忘れまい。
心にそう強く刻んで、初めて戦闘が終わりを告げた……。
――――――――
――――
――
「勝った――――の?」
状況の変化に置いて行かれ気味だった意識が追いつく。
どうやら自分が呼び寄せた勇者が勝ったらしい。
「ユ―――」
「――――姉さん」
名前を呼びかけた所でノーレに止められる。
遅れてカーニャも気付く。
「…………」
彼の顔は勝者と言うにはあまりに暗かった。
強く握り締めた拳には爪が食い込み、掌を自分の血が汚す。
戦闘に勝利した事への喜びなどあるハズも無い。
カーニャ達には何が起こったのかすら解ってはいないだろう。
だから、悠理にかける言葉もその資格も有りはしないのだ。
それにやり残した事もある。
――――止めを刺さなければならない。
この能力が何かあって解けるかも知れない。
自力か、第三者の手か、自然に消滅するか……。
そうなる前に死神を完全に無力化する必要がある。
「――――おい」
『……ヒッ!?』
膝を突き、倒れた死神の胸倉を乱暴に掴む。
自分が仕掛けた書込みの効力に思わず顔が強張る。
勝つ事に拘り、能力の使用を決断した己の弱さに反吐が出そうだった。
綺麗事だと思うのならば思うが良い。
その綺麗事を並べ立てる事さえ忘れたなら、それはもう人ではなく怪物だ。
『ヒッ…………ああぁぁ……』
表情が険しくなった事を自分に対しての怒りだと誤解した死神が大きく震えた。
歯がガチガチと音を立て、鼻水を垂らし、目からは涙をボロボロと零す。
最初に自分達を嘲笑った死神はもうどこにも居なかった。
目の前に居るのは何処にでもいる普通の女の子にしか見えない。
だがそれでも――やらねば。
「ユーリ、アンタ何を――っ!?」
「悪いが二人とも“黙ってそこで見ていろ”……」
死神の異常を察知したカーニャ達に迷わず能力を発動。
二人から行動の自由を奪う。
「――――っ!!」
「――――!?」
喋る事すら封じられ、最早カーニャとノーレは事の顛末を見届けるしか出来ない。
「さぁ、覚悟しろ死神レーレ。お前の自由を完全に奪い去ってやる……」
感情を捨て去ったのではないかと思わせる低く冷たい声。
『い……嫌だ……おねが……何でも言うことき……だから……助け――っ』
「――――――――――――断る」
命乞いを冷徹に切り捨ててもう一度、侵入、及び書込み。
抵抗など出来るハズもない死神の精神を一方的に蹂躙する。
「――――アバヨ、死神……!」
――――直後、レーレの悲鳴が洞窟に響き渡って……。
――それも数秒で途絶えた。
この日を境に同業者達はレーレの姿を見なくなったと言う。
それが全ての答えだ……。
ふう、終わった終わった……。
さて、悠理の能力と戦法については大体理解してもらえましたかね?
個人的には十分にチート性能だと思うのですが温いでしょうか?
ちなみに身体能力は常人のままで特に変化はしていません。
この作品を見ていたら何かコメントを頂けると作者のやる気に繋がります。
こ、コメントしても良いんだからね!
では、次回から奴隷解放への長い道のりが始まりますよー。