2000と思惑
うおー、眠いぃぃぃ……。
短いけど今日はこの辺で……。
――スルハの街、グレフ・ベントナーの屋敷。
レーレ達の帰還から二時間が経過。
屋敷の主たるグレフはファルールからことの顛末を聴き、現在は臨時会議室として使った客間で鎧達と情報を纏めていた。
「まさか本当に2000の兵を倒してくるとは……」
報告を受けたグレフは未だに信じられないと言う顔。だが成功していなければ、今頃本隊のディーノス隊あたりと戦闘になっていたハズだ。
今こうして静かな時間を過ごして居られるのは間違いなく彼等の成し遂げた戦果だった。
『しかも、一人も殺さずとなると殆ど神業ですね』
黄金騎士ゴルドも胸中は創造主と同じ、2000対3――この絶望たる戦況を覆したことを偉業と呼ばずして何と言おうか?
戦いの内容は聞かされているが、目の当たりにしなければ俄かには信じ難い。
故にゴルドは彼等の勇気と強さをひたすら賞賛し、自分ももっと研鑽を積まなければと誓いを立てる。
街は元々ここに生まれついた自分達の手で守っていかねばならないのだから。
『しかしよぉ、白風はともかく本隊を生かした理由って何なんだ?』
取り方を一つ間違えればやたら物騒な質問をしたのは青銅戦士ブロン。
両腕を組んで頭を捻っている。どうやらこの作戦で死者が全く出なかったのが気に掛かるらしい。
『そんな事も解らないのかブロン?』
弟に冷ややかな目線を送るのは白銀剣士シルバ、未熟な彼に対して呆れているようだ。
『俺はゴルド兄ぃやシルバ兄ぃと違って戦闘特化だしな!』
『――威張って言う事ではないぞ……』
彼等鎧三兄弟の中で優劣は特につけられていない。
金、銀、銅の三種類に分かれているのは、各々の精霊石との相性・結合度が良かった為。
強いて優劣をつけるのならば、上からブロン、シルバ、ゴルドの順だ。これは創作物にとっての宿命とも言うべきことで、研究と研鑽を重ねた末に生み出された最新の作品は、それまでの作品を凌駕する。
かと言って、ブロンがゴルドやシルバを見下すことなど有り得ない。自分が自分たる所以は彼等の存在と経験を糧として生まれた事にあるのだから……。
「2000の敵を態々生かしたのには、恐らくは3つの意図が込められている」
ブロンの質問に答えたのは主であるグレフ。出来の悪い息子、あるいは覚えの悪い弟子を優しく諭すような口調で説明を始める。
込められた三つの意図とは――――。
――――周囲への圧力、敵の戦意を削ぐ為、本隊の寝返りを促す為。
先ずは一つ目、2000の兵を殺さず倒したという事実が広まれば、余程兵力に自信がない限りは周辺諸国も警戒し。侵略を仕掛けようとは思うまい。
――敵はコルヴェイ王だけにあらず。
東方はともかく、西方のラスベリアは北方覇王コルヴェイ率いるアムアレアに次ぐ強国。隙あらば喰い千切られても不思議ではない。
そして南方も一致団結とは言い難い。スルハを擁するグレッセ王国と代々敵対関係にある国家だってこの隙があれば逃しはしないだろう。
もしくはその戦力を自国に取り入れる為に一時的に同盟を持ち掛けて来るかも知れない。コルヴェイ王率いるアムアレアの脅威に対抗するにはまさにうってつけ。
次に二つ目、一人も殺さずに倒された側としてはレーレ達は既に畏怖の対象……。殺し殺されたの仲であれば怒りが勝ったのか知れないがそれもない。
如何にリスディアが悠理への復讐を望もうとも、兵士達は本能的に彼等を恐れているのだから、戦えたとしても結果は既に決まっている。勝てるハズがない。
そして三つ目、これはあくまで希望的観測に過ぎないが、彼等も力によってコルヴェイ王に服従せざるを得ない身。となれば、コルヴェイ王に対抗出来るだけの力を見せ付けることによって協力を申し出て来るかも知れない。
あくまで賭けにしか過ぎないが、可能性があるなら賭けてみるべきだろう。
「それにしても、ゴーレムをたった一人で打倒する実力もさることながら、先の先を見て行動する頭のキレ……」
やはりとグレフは一人ごちる、我、彼の者に英雄の資質見たり、と。
『ミスターならば届くでしょうか? 北方の覇王――コルヴェイ王に……』
未だ姿さえ知らぬあまりにも強大な敵と、この目にしかと焼付けた我等が英雄の姿を並べる。
カーニャ達の当初の目的――――奴隷解放を成しえる為にも、この大陸に巻き起こる戦乱を収める為にも、彼の覇王との対峙は避けて通れぬ道……。
「可能性はあるかも知れぬが……まだ幾多の苦難と経験を得なければなるまい」
現実は非常である。如何に英雄の資質を持つ者であっても、その力を磨かねば覇王打倒は夢のまた夢。
果たして悠理が彼の王を討ち果たす程に成長するまでどれ程の時間を要するのか……。
かつて英雄と呼ばれた男、グレフ・ベントナーは考えようとして止める。
彼――ミスターフリーダムに常識は通用しないのだ。結果は何れでる、そう何れ……。
「――早く目を覚ませミスター。時は刻々と過ぎ行くものぞ……」
天井を見上げる、その上には彼の居る部屋。
誰もが帰還を待つ、あの男が眠る部屋……。
時間は過ぎてゆく、唯々あらゆる可能性さえも摘み取りながら。
その可能性を掴みたいなら目覚めなければならない。
――廣瀬悠理よ…………君はいつ目覚める?
もうちょっと書きたかったけど、頭が働かないんで区切らせていただきます。
明日はもうちょっと頑張って書こう。