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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
34/3917

美幼女とゴーレムと獣面

何とか本日二ページ目更新。

 グリガラッソ大平原を抜けた森の中……。

 その一部、やけに開けた場所に暢気な光景が広がっていた。

 巨大な岩に煌びやかな布を敷いて昼寝中の幼女。周囲には仮面を付けた侍女らしき者が数十名。

 王の団扇奴隷の様に彼女を仰ぐ者、お菓子とお茶の準備に勤しむ者、そして周囲を警戒する者。

 明かに兵士とは違う、まるで彼女専用の部隊……。そんな部隊を用いていると言う事はつまり――。

「むー、なんじゃ騒々しい!」

 森の中で頻発する破壊音や悲鳴に起こされ、幼女が不機嫌そうに喚く。

 パーマのかかった紫髪のボブカット、服装は如何にも貴族の令嬢が好みそうな豪奢なもの。

 大量のフリルや豪華な装飾がこれでもかと言うほどにちりばめられている。

「リスディア様ッ! 賊に御座います!」

 ――リスディア・ベルパルク。

 今は滅びし北方の小国“テクスア”の大貴族に生まれし幼女。

 現在はコルヴェイ王の元につき、スルハ攻略部隊の指揮を取る身……。

 ――と言っても、指揮をするのはテクスアに居た頃からベルパルク家に仕える有能な侍女達であり、彼女自身は完全なお飾りだ。

 しかし、強力な契約系の祝福を持っている為、無理矢理にでも契約してしまえば一生彼女に逆らうことは出来ない。

 そう言う悪い意味では部隊の長には相応しいのかも知れない。

「さっさと追い返さぬか……まだお昼寝中じゃぞ……」

 物見として出ていた侍女の焦りも露知らずリスディアは落ち着き払っていた。――いや、単純に事態の深刻さを理解していないのだろう。

「そ、それが――――ッ!?」

 報告途中で敵の気配を感じた侍女が主に背を向けて短剣を賊へと向ける。仮面の奥では警戒心と焦りが強く浮き出ていた。何しろ得体の知れない相手、だと言うのに易々と主の元へ近づけさせてしまうとは……。

 自らの力量の無さを悔やむ侍女、賊はそんな彼女の気持ちとは裏腹にやけに明るい調子で現れた。 


「お邪魔しまーす」

『たのもー』

「約1800をこうも容易く倒すとはな……味方で良かった……」

 現れたのは言うまでも無く悠理一行。悠理は初めて友人の家に来た様に、レーレはまるで道場破り、ファルールはあまりに規格外の相手と対峙しているかつての味方に同情している。

 三人はあまりに隙だらけで、あっと言う間に侍女集団に囲まれる――が包囲するだけ。

 隙だらけな様に見えて何をしてくるか解らない。そもそも、先行部隊がどうなったか知っているならもう既に十分射程内だ。それを考えれば同じように仕掛けてこないのは不気味。

 だから、侍女達は包囲しているのにも関わらず動くことが出来ない。

「な、なんじゃお前達は!」

 敵が突然現れたからか、ここでようやくリスディアが事態の深刻さを飲み込む。

 侍女の後ろから隠れ顔だけ出す、怯えているのか小さく震えていた。

 高慢な態度から唯の我侭娘の印象が強いが、その辺りは良くも悪くも子供らしい。

『賊だ!』

「賊さ!」

 悪乗りした悠理とレーレは出来るだけ悪そうな顔してそう答えた。案の定、リスディアが『ひぃっ』と短い悲鳴を上げて完全に侍女の後ろに隠れてしまう。


「えぇい、賊ごときに何を苦戦し――――貴様はファルール!」

 気を取り直して再び顔を出せば見知った顔が目に入る。見知ったというよりは、腐れ縁、因縁が相応しい間柄の二人。

「久し振りだなリスディアどの」

 氷を思わせる様な冷たい言葉と視線、感情すら氷の中に閉じ込めたと言うほどに無表情。

 ファルールをそうさせるには訳がある。唯単に彼女の祝福により傀儡とされていたからではない。

 ――――この二人は同郷なのだ。

 今は亡き故郷テクスアを守ろうとしたファルール達騎士団に対し、ベルパルク家は己が身の可愛さに平然と故郷を売った売国奴。無論、それは幼いリスディアではなく彼女の父親がやったこと。

 その件で彼女に罪は無い。罪があるとすれば、テクスア王女に対する仕打ちであろう。

 テクスア第一王女アシャリィはコルヴェイ王により祝福を奪われた。その後の彼女は奴隷としてリスディアに拾われる事となる。この時、誰もが安堵した。ベルパルク家は王族と深い関わりがあった為、アシャリィ姫とリスディアは姉妹同然の親しい間柄……。

 王女を匿う為にリスディアが手を差し伸べたのだと、そう信じていた。

 ――だが、実際は違う。そうであるならどんなに良かったことか……。もしもそうならファルールが怒りを抱く事も無いだろう。

 アシャリィ王女は――――言葉通り奴隷として扱われた……。妹として見ていた最も気の許せる相手によって。それはどれ程の絶望だっただろうか? ファルールには想像も出来ない。

 見る見る内に痩せ細り、体調を崩しても尚酷使され続ける王女。ついに我慢の限界を迎えたファルールが王女を大陸東方“トコヨ地方”へ逃がす計画を実行。作戦は成功したものの、罪に問われ騎士団諸共リスディアと契約を結ばされ以降は“道具”として使われ現在に至る……。


「ははぁ? 成程、ではそこに居る獣面が妾の契約を破壊した男か……」

 やはり、リスディアはファルールの怒りを全く理解していないらしい。

 彼女の登場よりも、自身の能力を破った悠理に興味津々といった様子。

『獣面だってよ』

「山賊からレベルアップかぁ――――いや、獣だからレベルダウンか?」

『いや知らねーよ』

「――――はぁ、ここまで来て未だにその調子で居られるとは恐れ入るな……」

 二人のやり取りに気を張っているのがバカらしくなってファルールは苦笑した。

 ある意味救われたような気分だ。怒りは消えっこないが、彼女を許す許さないはアシャリィ姫が決めることだろう。そして、悠理に付いて行くことはいつか王女を救うことに繋がるハズだ。そう思うと気持ちが幾分か軽くなる。

「それで? 妾になに用じゃ?」

「ああ、スルハ攻略部隊を潰しに来た。あとはお前等だけだ」

 放たれた言葉に反応して侍女達が殺気立つ。何としても主を守らねばと言う気概が見て取れる。

「ほう? どんな手を使ったか知らんがそう簡単に上手く行くと思うか?」

「あー、そう言うのは良いからさ。早くゴーレムと戦わせてくれないか? ぶっちゃけ、その話聞いてからそいつと戦う事が一番の目的でお前なんてどうでもいいんだよ俺」

 レーレ以外の全員がその発言にぎょっとする。侍女達は当然、ファルールもゴーレムの強さを知っている。故に――――――。


「ククク…………アーハッハッハッ、こ、これは傑作じゃ……! 妾のペットと戦いたいとは余程の阿呆じゃな貴様は」

 リスディアは嘲笑することを選んだ。勝てるハズがない。侍女達は嘲笑こそしなかったものの、心中は主と同じ気持ちだ。

 まじまじと悠理を見つめる侍女一同。一体、その身体の何処にゴーレムと戦う力があって、何の勝算と意味があって挑むのか……。彼女達には解るハズもない。

 ファルールもやはり主の考えを理解出来なかったものの、レーレを見習い慌てて姿勢を正す。自分は彼を信じて付いて行くと決めたではないか、そう己を叱責する。

「ああ、そうさ。俺は利口にはなれないから阿呆で結構! だがな――――」

 突如、虹の光が嵐となって吹き荒れる。それは一瞬の内に消え去ったが、リスディアの為に用意したであろうお茶やお菓子が地面に落ちて泥まみれになってしまった。

「き、貴様! 何てこと――――ヒッ!?」

 大好物のお菓子を台無しにされて怒りを露にするが、それも直ぐに引っ込む。

 何故なら――そこに()()()()()()

「――俺は気が短いんだ……。さっさとしねぇとテメェ等全員――――どうなっても知らねぇぞッ!!」

 怒声を上げると共に再び吹き荒れる虹の光。実際、本当に怒っている訳でもなければ彼女達をどうにかする気になどない。

 ――――が、いつまで立っても話が進みそうにないと判断した上で威嚇。

 どうやらそれは思った以上に効果があったらしい。

 

「お、鬼じゃ……鬼が妾を食べに来たのじゃ……」

 侍女の身体に強くしがみつき、ガタガタと震え上がるリスディア。

 今、彼女には悠理が鬼に見えていた。

 それはアシャリィ姫から聞かされた御伽噺。悪い事をした子供はとても怖い鬼に食べられてしまうが、良い子にしていれば鬼に食べられなくて済む。そんな何処にでもある民間伝承。

 元々、根が素直なリスディアはこの話をすると決まって泣き出し、泣き止むまでよく王女に抱きしめられていた。

 ――御伽噺ではなかった。本当に居たのだ鬼は。少なくとも、彼女には悠理がそう見えるのだから。

 それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「リスディア様! お気を確かに!」

 侍女の声にハッとする。でも、やはり目の前には鬼が居ていつまで立っても消えそうに無い。

 ――――怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖いッ!!

 必死になって考える、どうすればこの鬼が居なくなるのか。十数年の短い記憶を呼び起こす。

 きっと何か方法があるハズだ何か……! 探せ探せ、思い出せ、見つけろ!

 そして皮肉なことに、とある話が脳内で再生される。それはやはりアシャリィ姫が話してくれたこと。

 怖がるリスディアを落ち着かせる為に、王女が作った物語。

 ――とっても強い騎士がね。リスディアちゃんの為に鬼を退治してくれました! だから、ね? もう大丈夫だよ。

 彼女はそう言って微笑みかけてくれた。いつまでもそうして欲しかったのに、彼女は居なくなってしまった。彼女を自分だけのモノにしてしまいたかったのに……!

 ――それがアシャリィ姫を奴隷にした理由。子供の発想だ……故に、それはとても悲しい願いだった。


「あ、あ――――――エミリィィィィィィィッ!!」

 耐え切れなくなって叫ぶ。自分を守ってくれる最強の騎士の名を。

「な、なんだ?」

 叫びに呼応するように地面が揺れ始め、悠理が辺りを見回し――――気付く。……自分はとんでもない勘違いをしていたことに。

 ゴーレムはこの場に居ないと彼は思っていた。だって、ここに居るのはリスディアと侍女だけだ。

 しかしそうではない。それは誤りであり思い込みだ。

 ゴーレムはずっと――――――()()()()()()

「おー、思ったよりもデカイなこいつぁ……」

 リスディアが布を敷いて寝ていた巨大な岩。何で森の中にこんな物があるんだと疑問に思うべきだった。いくら異世界だと言え、不自然だと気付かなかったのは不覚としか言い様がない。

 その巨大な岩こそが――。

「エミリー! その男を叩き潰してしまえ!」

 ――悠理の所望するゴーレムだったのだ!

 エミリーと呼ばれたゴーレムはゆっくりと立ち上がっていく。

『ゴー……』

 低い唸り声を上げ、エミリーが悠理を見下ろす。体長およそ5mはあるだろうか?

 丸っこい頭で顔はハニワのよう、文字通りな岩肌の表面には所々コケが生えている。

「ヘヘッ、良いねぇ。らしくなってきたぜ!」

 拳を打ち鳴らして悠理も叫ぶ。まさしく、こんな相手との戦いを望んでいた。

 今よりももっと強くなる為に――――!

「行くぜ、エミリー! 頑張って俺を潰してみな!」

 こうして、無謀とも言える戦いはスタートする。

 戦いが終わった時、その場に居る者は思い知ることになるだろう。

 ――――廣瀬悠理がどれ程化物染みているかを。

手直しはまた後ほど。


今日はもう寝まーす……。

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