決戦、もうまもなく
※かなり疲れていた為かいつも以上にグダグダor滅茶苦茶になっている可能性があります。
――レーレがリリネットの首飾りを使い悠理の生命力を吸収してからおよそ7時間後。
「―――う、うぅ……」
呻き声を漏らしながら徐々に瞼を開けば、太陽の光が寝ぼけ眼を照らし視界を焼く。
その眩しさに顔を歪めつつ、何度も目を瞬かせて視界の回復に努める。
――日の光は苦手だ……。
自分は闇の住人である、と大げさに表現するつもりはないが、光を苦手とするならば暗闇を好むのは至極当然。
そして、長らく闇に身を潜めていればもっと光を敬遠するようになる。見事な悪循環だ。
目覚めた直後からそんな哲学的思考に耽っていると。
「起きたかミスター?」
悠理の覚醒した気配を感じ取ったファルール。どうやら簡単な朝食の準備をしていた様である。
スルハを出る時にグレフ邸から持ち出した干物とパン、あとはこの森で取れた木の実やキノコ。
軽く火であぶられたキノコの匂いが鼻腔を擽り、食欲を刺激した。
そこでようやく状況を把握する。
「――――って、もう朝じゃねーか! 何で起こさなかったんだ?」
現実感のある良い匂いに思考の靄が晴れた。確か、三交代で見張りをするハズだった。
なのに目覚めたらもう日が昇っていて朝食の準備も終わっているとは……。
「起こそうとはしたんだが……」
困ったよう向けた視線の先は悠理の脇。そんなところに何が?、と自分も目を向ければ……。
「ん? 何でレーレが俺にしがみついて寝てんだ?」
力強く抱きついている訳ではないが、絶対に離さないように両腕を回して確りと身体をロック。
まるで抱き枕扱い――――いや、実際にレーレの中ではそうなっているかも知れないが。
『……ん、へへっ……』
小さく寝息を立てながら幸せそうにはにかむ寝顔を見れば、そんな扱いも悪くは無い。
「ミスターも今日は忙しいだろうから、ギリギリまで寝かせてやってくれとな」
「レーレ――――ありがとな……」
気遣いに礼を述べ髪を優しく撫でると気持ちよさそうに笑う。
素直に嬉しさを感じると共に、申し訳ない気分にもなる。今回の作戦で一番大きな仕事をするのはレーレ。
自分はあくまで後処理をするだけに過ぎない。
――俺が気遣ってやるべきだったよな……。
悠理は反省しながら頭を撫で続ける。せめて、夢の中ではゆっくり休めます様に、と。
ファルールはその姿を見て背を向ける。なんともバツが悪そうな顔をして――。
(本当は生気を吸われすぎて起きなかったのだろうがな)
先程の言葉は嘘。
パンツを履き替えた直後位にレーレは倒れるよう眠りについた。
そこからは、特に帰還命令を受けなかった眷属姉妹が暫く代わりの見張り役となり、3時間前にはファルールと交代。
一応、悠理に声を掛けたのものの全く反応がなかった為、一人で見張りをしていたのだ。
まさか、あれだけ嫌がっていたのにも関わらず、結局首飾りの能力で力を吸収した等とは口が裂けても言えない。
彼女の乙女心を慮った上での配慮。それに正直に伝えた所で変な空気になるのも御免被りたかった。
「それにしてもいよいよかぁ……。何かヌルヌルしてき――あ、間違えた、ドキドキしてきたぜ……」
緊張しているのかそわそわと落ち着きがない悠理。あまり激しく動くとレーレを起こしかねないので、あくまで最小限のそわそわだ。
だがその緊張の中でさえ、彼は笑っている。この状況に微塵の恐れも抱いている様子はない。
「そう言えばどんな作戦で行くんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「ああ、いくら何でも2000対3は無謀すぎるだろう」
本隊を叩くと言われ付いて行くと決めたは良いが、作戦決行間近となっても詳細を聞かされていない。
元より、数の差は圧倒的不利を通りこして絶望的。
いくら自分や悠理が常時よりも強いと言え、数に押されれば必ず押し負ける。
その差を覆すには先ず戦術がいる。勝算はそれ次第……。
息を呑み彼の言葉を待つ。どんな戦術が提示されたとしても、必ず役目を果たして見せようと己の心を奮い立たせる。
―――-が、彼の口から出たのは予想外の台詞。
「いや、2000対2だよ」
「は?」
「元からファルさんを頭数に入れた作戦じゃないからな。まぁ、上手く行けば9割は初撃で潰せるし」
先程まで本当に緊張していたのか? そう疑いたくなる程にあっけらかんとした調子で言われ面食らう。
そんなファルールを余所に話を続ける悠理。
「実際は多くても200対3位までには下がるハズ」
ここでようやくファルールが頭数に入る。当人は少し安堵したのかほっとしていた。
このまま最後までまったくの出番が無いまま二人に任せきりとあっては付いてきた意味が無い。
戦での名誉が欲しいわけではない。仲間が戦っているのに自分は何もしていない、なんて事態には陥りたくないだけ。
自分がここに居るのは悠理達の戦いの見届け役ではなく、共に戦う為なのだから。
「一体どうやって?」
2000を初撃で200まで減らすとは剛毅な発言である。
その言葉には自信と根拠がある、算段が、そこに至る手筈が既に整っているからこその宣言。
「それはまぁ――――後のお楽しみって事で」
はぐらかした訳でもないが、こればっかりは試してみないと解らないことだ。
失敗するつもりなど更々ないが、意気揚々と語ってはい失敗しました! ではあまりにカッコつかない。
だから、今ここでは伏せておくのがベストなのだ。
「問題はファルさんの言ってた指揮官の美幼女!、そのペットのゴーレム、後は新鋭隊位か残りそうなのは」
事前情報から指揮官が契約系の祝福所持者で、お供にゴーレム、指揮官の親衛隊200人が手強そうだと言う話だ。
「一番警戒すべきはあのゴーレムだ。あいつは相当に堅いぞ?」
斬撃や衝撃は鉱物で構成された身体には通らない。おまけに祝福にも耐性があるとのこと。
「ふーん、良いなそいつ」
悠理が一層楽しそうに笑う。そうして定める。自分の相手に相応しい、と。
「よし、ゴーレムは俺一人で相手する手出し無用な?」
「いくらミスターでも無茶が過ぎるぞ!」
思わず身を乗り出して静止するも、自由を愛するかの男が聞き入れるハズもない。
「大丈夫だって、ちょっと試したい事もあるし」
――算段はきちんと揃えてある、大丈夫だ心配するな。
「しかし――」
そう言われた所で納得は出来ない。しかし、止めることも自分には出来そうに無い。
だけど、ここで何か言わなくてはと口を無理矢理動かそうとして。
『良いんだよ……ユーリはそれで……』
欠伸の混ざった声にそう止められる。どうやら話し声で起きてしまったようだった。
『ふぁー、良く寝たぜ……』
「おはよう、ところで俺の抱き心地はどうだった?」
『は? 何言って~~ッ!?』
自分が悠理に抱きついて寝ていた事に彼女は全く気付いていなかったらしく、顔を真っ赤にしながら慌て始める。
『は、離れろよバカッ!』
「えー」
抱きつかれている身としては突っ込まずにいられない状況。むしろ、どうしたら良いのか教えて欲しいものだ。
「レーレが寝惚けてミスターに抱き付いたんだぞ?」
ファルールは知っている――と言うよりも、現場を押さえている。
見張り中に突然飛び起きたかと思えば、悠理に抱きついて再び眠りにてしまった。突然の事だったので驚いたのは今も記憶に新しい。
『――――まぁ、それは置いといて。ユーリのやりたいようにやらせてやれよファルール』
「お前はミスターの事が心配ではないのか?」
昨日だって、つい口付けをしてしまう程に彼の事を思っているだろうに。
だと言うのに、望むままに彼の身を危険に晒して平気なのだろうか彼女は。
ファルールには解らない。自分はこんなにも、心配で心配で心配で仕方が無いのに……。
『全然心配なんかしてねぇよ。こいつが出鱈目なのは身に染みて解ってることだろ。お互いによ』
「いや……だが――!」
『――信じてやれよ』
不意に真剣なレーレの口調にファルールの言葉が止まる。
――信じる? ミスターを?
『ああ、これからもコイツに付いて行くんだろ? だったら信じろよ。これから先、この程度の無茶なんてユーリにとっては日常茶飯事になるだろうさ。だったら今ここで信じてやれよ。そうでないならお前はいつコイツを信頼して背中と剣を預けんだよ?』
「――――っ!? そ、それは……」
耳が痛い位に正論だった。そうだ、自分は彼に身も心も剣も、総て捧げると誓ったハズじゃないか。
――――身と心は拒否されてしまったが。
だが剣を捧げた以上、彼を信じて付いて行くべきだ。
「そうか、そうだな……ありがとうレーレ」
心構えが出来ていなかった事を心底悔やむ。そして、気付けて良かったと思う。
躓いたのが最初で良かった、最後の最後で躓いて総て無意味になるなど冗談では済まされない。
「ミスター、これから私は二度と貴方の考える事を疑わない。疑うよりも先に信頼して、その背中に付いて行こうと思う――――レーレの様にな」
「応、迷惑かけるだろうがよろしくな!」
その力強い宣言に悠理は笑顔で返す。
そんな彼の笑顔で、ふっ、と肩の荷が軽くなったような気がして清々しい気分を味わう。
――ああ、これでやっと本当に私は肩を並べて戦える。使えるべき主と戦友と共に……。
「よし、じゃあさっさと飯食って、さっさと戦闘終わらせて凱旋と行こーぜ!」
『おー!』
「ああ!」
晴れやかな気持ちで面々が朝食に手を伸ばす。
皆笑っている。この先に待っている戦いを微塵も恐れず。
自分達の勝利を、仲間を信じて挑む。
そして、これから二時間後―――――――――――――――いよいよ、戦いが始まる。
ダメだ疲れきって頭働かん……。
時間かけてなんとか書いたが、こりゃあ後で大修正だな……。