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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第二章・運命の少女、虹の男とトコヨ地方編
300/3922

邂逅せし召喚者達・砂嵐を切り裂く自由

ぐぐぐ…………、まだまだ悪い感じから抜け出せてない感があるな…………。


――――と言うか、何か今日のアクセス数が2000超えてたんですけどー!?


な、なんで! どうして!?

 ――――大陸東方“シユラギ砂漠”……。その洗礼たる砂嵐を突破しようとしていた咲生とイーシャ。

 しかし、無茶と焦りによる精神の磨耗により、咲生は遂に限界を迎え、尚も祝福に意識を明け渡して進もうとする彼女をイーシャは問答無用で気絶させる。


 共に一ヶ月半を旅した友を気遣う死神は、彼女を休ませるべく行動を起こす。

 ――――が、突如現れ、イーシャの意表を突いて真上から奇襲した()()によって、彼女はそれに踏み潰されてしまう…………。


『グゲー、グゲー!』


 砂嵐をものともせず、切り裂くように突っ切ってきた生物は、してやったりと鳴声をあげた。

 大きな体格は地球で言うのなら象程大きくは無いが、カバやサイ以上に逞しい姿。恐竜を髣髴とさせる爬虫類顔――――ノレッセアの固有種生物“ディーノス”だ。


 しかし、通常種ではない。体格が規格外にデカイのもあるが、注目すべきはその頭部。

 額には波打った禍々しい角が生えており、ディーノスの群れ、その頂点に立つ存在である事を示している。

 ちなみに、イーシャを空中から襲ったのはディーノスの意志だ。砂漠を突っ切って来る際に感じた敵意へ先手を打ったと言う所か。そうして現在、奇襲によって相手の出鼻を挫くことに成功したディーノスは上機嫌で鳴いている。


 喜びから軽く左右へ行ったり来たりとステップを刻んで居ると、その巨躯に跨っていた男――――ディーノスのあまりある存在感から、注目出来なかった小さな存在…………。

 だが、背に堂々と跨っている姿はディーノスの主に相違ない。男が呆れた様子で呟く。


「――――おいおい、潰してねぇだろうなアズマ?」

『グゲゲ!』


 アズマ――――そう呼ばれたディーノスが『勿論、手加減した』と言わんばかりに、男へ返答を返す。

 男の顔は見えない。砂嵐対策の真っ黒なコート、そして同じく頭部を保護する為の真っ黒い布で顔は覆われている。声は比較的若く、力強さを感じさせるが、それ以上にその肉体――――コートから見え隠れする腕の筋肉を見れば、只者でないと気付いた者も居るだろう。――――()()()()()


「おーい、大丈夫かお前ら――――ってあれ?」


 愛騎の上から飛び降りた男は、アズマが潰して――――潰しかけた相手を探す………も、確かに居たハズの人影は何処にも見当たらない。

 上からの奇襲に虚を突かれたていた様に見えたのは錯覚ではないハズ。ならば、回避は間に合ったとしても範囲内から一瞬で離脱するのは限りなく不可能だ。


 視界内に姿が見えないのはトリックがある。そう考えた男のは行動は実に迅速、されど男がしたのはたった一つの動作。目を瞑った、本当にそれだけ。

 しかし、再び瞼を開けた時、布で覆われた顔から唯一覗く両目がほんの一瞬――――。

 ――――()()()()()()()()()()


 そのまま、ぐるーっと三百六十度回る。旗から視たら滑稽な仕草。この激しい砂嵐の中でそんな余裕があると自慢する様な、無意味な動きをするなんて馬鹿げている。

 辺りをじーっと良く見回して、回転を始めた地点へ。そうして男はがっくりと項垂れる――――わざと隙を曝け出す為に。


「居ねぇ…………見間違い――――んなわきゃねぇよな死神!」


 コートの中、叫びながらも背中に括りつけていた鉄の棒を取り出しながら、男は背後の空間、丁度自分の首がある高さへ、得物を叩き付けた!

 ガギィィィンっと金属音。空間へ振り下ろした一撃は、何かにぶつかって止められていた。金属で出来た何かにぶつかって。


『なっ、何でワタクシの位置が!』


 何も、誰も存在しなった場所から驚愕の声。それと同時に、うっすらと浮かびあがって来る赤髪のロール姿は、間違いなく上級死神イーシャ・グライクェンである。

 振り上げた鎌が何の変哲も無さそうな鉄棒で止められたことは勿論、居場所を見抜かれていた事に驚愕するしかない。


 ――――アズマが降って来た時、咄嗟の判断で姿を透明化し、イーシャは難を逃れていた。

 相手の正体が解らなかった為に、こうして武力によって脅し、無力化しようと考えていたのだが…………。

 予定を変更せざるを得ない。イーシャはフッと身体の力を抜き、わざと男が振りぬいた鉄棒に吹き飛ばされながら距離を取った。


『――――ワタクシの奇襲をかわした上に正体まで見抜くなんて…………何者ですの?』


 警戒心を最大レベルにまで引き上げ、男を全力で睨みつけた。外見から死神をそれと見抜くなんて、不可能とは言わないが難しいのは間違いない――――祝福を使っていないなら、と言う条件付にはなるが。

 浅く、数度に渡って息を吐き、動揺を逃しながら、平常心を取り戻すべく、無心になる。

 ぼんやりと頭に浮かんだのは、胸に刻まれたとある教訓……。


 ――――このノレッセアに“祝福”がある限り、不可能と言う常識は捨てて掛かるべし。


 かつてイーシャは、今は亡き父にそう教わった。だからもう動揺はない。

 相手は自身の存在を正しく認知できる相手なのだと、そう思うだけでいい。そうすれば、油断も隙も無く相手と向き合える。


「――――名乗る程の者じゃねぇさ。…………強いて言うなら、通りすがった唯の自由の使者だよ。気が向いたら覚えておいてくれ」


 イーシャの驚愕してから立ち直るまでの早さを視て、男は多少驚いたものの、まだまだ余裕がありそうな雰囲気を纏って質問に答えた。ただし、質問した側は意味の解らない自己紹介に上手くはぐらかされた感じてしまった訳だが…………。


(何者ですのこの男? 透過して姿を消したハズですのに、奇襲の一撃をああも見事に防がれるなんて――――本気で挑むしかありませんわね…………)


 いつの間にか、どうしてと思う間もなく、思考は戦闘態勢へ移行(シフト)

 極々自然に、イーシャは戦わねばならないと感じて、構えを取る。


 すると男は威嚇なのかブンッと、鉄棒を一振りした後、それを肩に担ぎ、構えを取るわけでもなく自然体で立つ。そこには見事に隙が無い。戦闘を極めた猛者のみが辿り着ける境地に似た何かを感じて、思わずイーシャが後退して…………。


「――――さて、挨拶も済んだ事だし…………。そろそろ行きますか」

『っ、何処からでも掛かって来な――――!』


 男が一歩踏み出すのと同時に、イーシャは十八番である“ノーモーション斬撃飛ばし”を繰り出そうと――――したのだが…………。


「帰るぞアズマ。あんまり待たせると()()()に怒られる」

『グゲッ!? グゲゲッ!』


 ――――何故かあっさりと背を向けて、男はアズマと呼んだディーノスに飛び乗った。

 彼の言葉に反応したディーノスが、何故だか怯えた様に鳴く。


『――――へ?』


 その様子をぽかーんと口を開けて、見るしかないイーシャ。隙がない自然体な立ち方――――等と言う類の立ち方ではなかったのだ。始めから相手は戦闘をする気がなかったのだから…………。

 呆然と立ち尽くす彼女へ、男が振り返って声をかける。だけど、その口から出た言葉は予想の範疇を超えた提案だった。


「お前等も付いてくるなら早く乗れよ。置いて行っちまうぞ?」


 説明もなしにそう言われ、唖然としつつも、真面目に戦おうとしていた自分の気持ちを反故にしたと因縁付け、イーシャは喰ってかかった。


『い、いきなり何なんですの! ワタクシ達は戦いの途中――――』

「…………死神のアンタはともかくとして、そっちの子は早急に休ませた方が良いんじゃねぇか?」

『それはっ! …………そうですけど』


 ――――が、男は冷静なもので、イーシャが背負った咲生の状態へ気を配る余裕さえあった。

 普段が真面目で正義感が強い彼女には正論が一番効果的だ。ものの見事にイーシャはそれで口ごもってしまったのだから。


「だったら今は黙って付いて来いよ。いきなり斬りかかってきた事はチャラにしてやるからよ」

『むっ、ちょっと、何だか態度が偉そうじゃありません?』


 見知らぬ相手について来い――――そう言われてほいほい付いて行くような相手に見えるのか?

 そう文句有り気な表情を浮かべ、再び喰ってかかるイーシャだが、男は溜息を吐いてそれにこう応じた。


「――――文句なら後で聞くから、即決してくんねぇかな? ()()()を待たせてんだ。唯でさえ一人にさせて拗ねてんだから、余計な怒りを買うのは避けたい」

『あ、あら、それは大変申し訳ありませんでした…………』


 困ったような声音で眉間を抑えた男えを見て、反射的に謝ってしまう死神イーシャ。

 ――――それで少しは冷静になったのだろうか? チラリと背中で気絶中の咲生を見てから男へ視線を向ける。正体不明の相手ではあるが、今の所は他に頼れそうなアテもない。


 虎穴にいらずんば虎子を得ず、その要領で今はこの流れに乗るべきだろう。


『――――でしたら、ご一緒してもよろしいですか?』

「応よ、その子は前に乗せてアンタは背中に確りと捕まってくれ」


 おずおずと、先程まで好戦的な態度だった事で彼の機嫌を損ねていないかと、慎重に、そして控え目な態度で問えば、始めから気にしてないと言った風で男が頷く。


『丁重に扱って下さいね。ではワタクシも失礼して…………』


 ほっとした表情を浮かべながら、咲生を男の腕に預け、自身も巨大なディーノスの背に跨る。

 規格外の巨体は三人を乗せてもまだ若干の余裕があった。それにしても――――とイーシャは不思議に思った。


 こんな簡単に相手の言葉を信用するなんて、本来なら無用心だと責められてもおかしくないが、何故だか彼の事は信頼できる気がしたのだ。

 今までに感じた事のない包容力に似た感覚に戸惑いながらも、イーシャは男の腰に手を回して確りと身体を固定する。


「よーし、乗ったな? じゃあ――――」

『――――ちょっとお待ちを! ワタクシはイーシャ・グライクェン。アナタのお名前は?』


 準備が整ったのを確認して、出発しようとした男に待ったをかけ、先ずは自分から名乗り、相手にも名を問う。これから世話になる相手の名も知らないのでは、それは何となく薄情な気がするではないか。

 男は巻き付けた布越しでも解る様にニッと笑って――――。


「俺か? 俺は自由の使者、その名も――――」


 顔を覆う布に手をかけて引っ張れば、その素顔が晒される。

 短く切り揃えられたツンツン頭に、うっすらと残る青髭。人相は悪く、ほっそりとした頬と相まって美形には程遠い顔。


 しかし、浮かべた笑みは自信に満ちていて――――自由を名乗るには相応しい不敵さをたたえている。

 そんな笑みを一層濃くして、男は親指を突き上げてこう名乗ったのだ。


「――――ユーリライト・ヒロイックさ!」

次回、奥さん登場!

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