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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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自由に形は必要無く、武器には形が必要である

「ところで、これからどうすんだ?」

 悠理がカーニャとノーレ達に力を貸すと言っても、この世界に関する知識がない彼では方針は立てられない。

 ここから先の具体的な行動案に関しては全て彼女達頼みになる。

「そうね……。先ずはユーリの祝福を確認にして……それから――」

「おーッ! やっぱ俺にも祝福ってあるのか!」

「あ、まだ説明してませんでしたね」

 この世界の命ある者は例外なく天性の祝福(ギフト)を与えられる。

 そして異世界からこの世界にやって来た者にも同様に祝福は授けられる――らしい。

「らしいって何だよ……」

 らしい、と言うのはここ数百年の間で召喚儀式を行った者が居ないからだ。

 かつてこの世界には人と魔物、天使や悪魔、果ては神をも巻き込んだ戦争があったと言う。

 日々拡大していく戦争の中で力なき者はひたすら願った。

 ――平和な世界を。

 ――平穏な日常を。

 ――美しかった故郷の復興を。

 そうした人々の願いが形となり世界の壁を越え、勇者を呼び寄せるきっかけとなった。

 どこにでもある王道ファンタジーみたいな内容である。

 ただ、そこで話は終わらない。

 異世界から召喚された勇者は強力な祝福を授かっていた。

 それを知った王国関係者は召喚を人工的に行えないか、と考えたのだ。

 結果として生まれたのが召喚技術。

 一時期は1000人を越える勇者を召喚していたとされ、彼等のお陰で戦争は終結した。

 その戦い以降は大きな争いがなく、また人間同士の争いに勇者を駆り出す事の無い様に技術は封印。

 数百年が経った今では文献に残っている程度の廃れた技術となった訳だ。


「ああ、それで俺を召喚したものの祝福があるかどうか解らない訳か」

 何せ時間が経ちすぎている。

 情報に精細さがない以上は召喚も博打と変わらない。

 彼女達にとっては藁にも縋る思いだったのだろう。

「つーかさ、俺に何のチカラもなかったらどうすんだ?」

 暗い雰囲気にならない様に軽い感じで聴いてみた悠理だが……。

「そ、それは! その……」

「…………うぅ」

 どうやら結局避けて通れなかったみたいだった。

「――まぁ、その時はその時だな。一応、協力するって言った以上は出来ることをするし、別にお前らを責めたりはしねーから安心しろ」

 にっかりと笑う。

 二人を安心させる様に。

 二人が責任感に押し潰されてしまわぬ様に。

 今、悠理に出来ることはそれだけだ。


「ユーリ……」

「ユーリさん……」

 少なくとも二人はその言葉で少し元気を取り戻してくれた様だ。

 ならばそれでいい。

 自分に何が出来るか解らないのであれば、出来る事を片っ端からやって行けばいいのだ。

 彼自身はそうやって今まで生きて来たのだから。

「――ところで、さっきから気になってた事が一つあるんだが……」

「何かしら?」

「ああ、さっきからそこに居るのは知り合いか何かか?」

「え?」

 カーニャ達が驚いて振り向くとそこには……。

『――――キヒッ!』

 処刑鎌を持つ黒衣のナニかが居た。



『なぁんだ、気付いてたのかよぉ~』

 悪戯がばれた子供の様な軽い口調でソレはフワリと宙に浮く。

「ああ、何か知らんがさっきからヤバイ感じがしてたからな」

 対する悠理も緊張感の欠片もなくニヤリと笑う。

 きっと心のどこかでこの状況を楽しんでいる自分がいる。

 ここが異世界だと知っても彼が冷静で居られた理由はソレだ。

 あまりに非現実、あまりに荒唐無稽。

 だが、自分は確かに存在していて。

 少女達との意思疎通も出来て。

 オマケに宙に平然と浮かぶナニか。

 ――これを見てワクワクを抑える事が出来るだろうか?

(――出来ねぇよな!)

 そうだ出来る訳がない。

 自分はずっとこんな非現実に頭を突っ込んでみたかったのだから!


「ね、姉さんアレって!」

「間違いないわ……」

「知っているのか二人共!?」

「ええ、あいつは――ってなんでそんな嬉しそうな顔をしてるのよ!?」

 そりゃあ、現代っ子なら一度は言って見たい台詞だから!

 ――と言っても彼女達には通じない訳だが。

「――死神ですよ」

 震える声でノーレが呟いた。

「死神、だと?」

 ――死神。

 目の前に居る存在がソレだと言う。

 ここでこの世界における人間以外の存在について触れておこう。

 彼等も当然の如く天性の祝福(ギフト)を持っている。

 死神の持つ祝福名(ギフトネーム)は――――“死神”。

 存在そのものが祝福――と言う訳ではない。

 祝福を与えられその存在へと成り果てた元人間……。

 それが目の前に浮く死神の正体だ。

 天使や悪魔もそうであり、そしてモンスターも元々は普通の動物が祝福によって変異したものである。

 この世界における祝福のチカラはその様に多岐に渡るのだ。


『そうだぜ~、俺が死神だぜぇ?』

 ケラケラと笑う。

 黒いフードを被っているので顔はハッキリと見えない。

 ――が、口元だけは露出しているので歪んだ笑みを浮かべているのが良く解る。

「死神がアタシ達に何の用よ!」

 背中にノーレを庇いつつカーニャが叫ぶ。

『んあー? ああ、そっちのデカイ女と男に用はねぇよ』

 くるくると手で鎌を弄びながら死神が言う。

『俺が()()に来たのは――』

 処刑鎌を一回転させ持ち直し、刃を標的に向ける。

 鎌が向けられた先は――――――――カーニャ。

「ア、アタシ?」

『ああ、そうさ。お前召喚儀式やったろ?』

 ハッとしてノーレが彼女を見た。

 まさか――と口元を押さえて。

『大方知らないでやったんだろうが召喚儀式にはイケニエが必要なんだぜ?』

 召喚儀式が封印され廃れた最大の――そして隠された理由。

 それは召喚術式に死神との契約を織り交ぜて召喚する為の力を借りているから。

 代償は――――処女の生贄。

 戦争を終結させる為に身を捧げ乙女……、といえば聴こえは良い。

 実際に自ら進んでやったのであれば、だが。

「ふーん、ご親切にどーも……」

 死神は『どういたしまして』と空中で一礼。

『解ったらさっさと刈られてくれる? 俺も忙しいからさ~』

 ゲラゲラと。

 笑う、嗤う、哂う。

 獲物に絶望を与えて命を刈る快感は死神にとっての大好物。

 どうせ獲物を刈るなら質は極上な方が良い。


(――どうする? 考えろアタシっ!)

 平然を装って思考を巡らせる。

 死神は決して勝てない相手ではない。

 討伐例は幾つか挙がっている。

 その方法も単純。

 対象(しにがみ)よりも強い力で捻じ伏せる。

 ただ、それだけ。

 ――――それだけなのだが……。

『キヒヒッ、もしかして俺を倒そうかと思ってる? 無駄無駄無駄。だって――』

 死神がより一層残虐な笑みを浮かべて告げる。

『――お前ら祝福ねぇーーーーーじゃん!』

「――ッ!」

「アンタ、気付いて――ッ!?」

 ばっと、カーニャが悠理へ振り向く。

 この事は話していなかったから。

 自分達が何の力もない事をどう思うのか。

 ――怖かったから。

 召喚した彼にさえ裏切られてしまうんじゃなか、と。

 ――だが。

「ん? どうした?」

 それは杞憂だったみたいだ。

 というよりも、悠理にとっては予想通りの事実。

 驚く理由には値しない。

「――で? この二人が戦えないんだったら俺がお前を倒せば良いんだろ?」

 二人を背中に庇う形で一歩前へ。

 ――うお、ちょっと俺カッコイイ!、と自分で思っちゃってる辺り台無しではあるが。

 悠理の大胆発言にカーニャとノーレは驚き、死神の笑いも収まった。

 しかし、それも一瞬だけ。

 直ぐにまた笑い始める。

『ブハハハッ! お前が俺を倒すって? 冗談も大概にしろよぉ』

「ハッハッハッ、案外俺は本気だぞ? 尻尾巻いて逃げるなら今の内だぜ死神ちゃん?」

 彼の自信はどこから来るのか。

 或いはこの場をやり過ごす為のハッタリか。

 本人以外に真意は解らない。

『へぇ、俺とやるってのは本気みてぇだなぁ。目を見れば解るぜ』

 あれはバカの目だ。

 お前には屈しない、お前には死んでも負けない。

 そんな負けず嫌いの目。

 ――気にくわねぇ。

 死神にとって死に怯えない相手程癪に障るものはない。

 ――必ず絶望させて殺してやる。

 

『じゃあ、お前に一つ良い事教えてやるぜ』

「おっ、弱点とかか?」

『――お前の祝福について、だよ』

 死神の言葉に全員が反応する。

 悠理の祝福こそがこの一戦で勝利を掴む為に必要な鍵だ。

 ――まぁ、死神が本当の事を言う保障はないが。

『聴いて驚くなよ? お前の祝福は――』

 大げさなリアクション、口元にはあの残虐な笑み。

「ああ、何となく解った。お前の次の台詞は――」

 悠理は頭を掻いてやれやれと肩を竦める。

 これも薄々そうなんじゃないかと思ってた事だ。

 だから、遠慮なく臆することもなく口に出せる。

「そんなもんねーよバーカ!、だろ?」

『そんなもんねーよバーカ! ハーッハッハッ――――ハッ!?』

 ――自分に祝福はない、と言う事実を肯定する。

 これには死神も少々面食らったようでポカーンと口を空けていた。

 問題は背中に庇った二人だ。

「そ、そんな……」

 その事実に泣き崩れたのは――カーニャだった。

 瞳からはボロボロと涙が零れる。

「アタシはじゃあ、何の為に――」

 そこから先は声には出なかった。

 何の為にここまで頑張って来たのか?

 奴隷解放を夢見て費やした自分の数年間は無駄だったのか?

 勇者が居れば、召喚に成功させすればこの現実を。

 この世界を変えられるのではないのか?


「――姉さん」

 ノーレもつられるようにして泣き出す。

 共に歩んだ数年間が無駄になったのは彼女も同じ。

 せめて、せめてその無念を味わうの一人ではない。

 どんな絶望でも堕ちて行くなら二人一緒だと……。

 それだけは解って欲しくて姉を強く強く抱きしめた。


『キヒヒッ、その表情最高だぜぇ? やっぱ絶望した人間を見る快感は病み付きだぁ!』

 嬉しそうに叫んだ死神が空中で踊りだす。

 愉快、愉快と言わんばかりに。

 だが、何かに気付いた死神が踊りを止めた。

『――なんでだ……』

 口をついて出たのは苛立ち。

 ほんの少しだけ戸惑いも含まれていたが。

『なんでお前は絶望しねぇんだ!』

 お前には何の力もない。

 お前が召喚された意味などない。

 失敗で訪れたただの役立たず。

 ――そう言っているのに。

 廣瀬悠理は――。

『なんでテメェはまだ笑っていられんだヨ!?』

 不敵な笑みを止めてはいなかった。

「何でってそりゃあお前――」

 一歩前へ踏み出す。

 右手を死神に向けて拳を握る。

 そして宣戦布告。

「俺がお前に負ける理由が何一つねぇからだ!」

 力強く断言した。

 

 この後に起こる出来事をカーニャ達は一生忘れないだろう。

 何故なら。

 それが彼女達が待ちわびた勇者がついに現れた瞬間だったのだから……。

もうちょっと書きたかったんですが、時間の都合上でここまでで。


次回は主人公が大活躍!


カッコよく書けるかなぁ……。

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