邂逅せし召喚者達・非情の砂漠にて
書けはしたけど、いつも以上に状態が悪いな……。
もうちょっと量はすっきり、味は濃くしたいんだが、現状は真逆だ物なぁ…………。
暫くロクに更新出来なかった訳だし、感覚を少しづつまともな方向へ矯正してしていきたい。
――――出来るかどうかは別として、だが。
――――里見咲生がキサラを出てより早くも一月半……。大陸南方へと飛ばされた彼女とイーシャは、諸々の事情により大陸東方へと戻ってきていた。
今、二人は大陸東方“トコヨ”地方における難所、“シユラギ砂漠”を突き進んでいる最中である。
――――が、現在砂漠の全域にて砂嵐が発生中。視界も悪く、身体に叩きつけられる砂粒が、生物から体力と気力を奪う。
この砂嵐は常時発生していると言っても過言ではなく、難所と呼ばれる所以になっている。
そんな中を、二つの影が這うように前へと前進してく…………咲生とイーシャだ。
「はぁ……はぁ……うっ……」
対砂嵐用に用意したコート越しでも、嵐と言う力が加わった砂の強襲は激しく、朝から歩き詰めだった咲生が体力の限界で呻き、つい膝をつきそうになる。
何とか持ち直すも、もう何度目になるかも解らないよろめきを、意地ののみで支えて再び歩き出す。
ヨロヨロと、身体を薙ぎ払うかの如き強風で足取りは千鳥足の様になっていた。
『大丈夫ですかサキさん? 辛いならおぶりますけど……』
「だ、大丈夫……まだまだ……!」
咲生の後ろを黙って歩いていたイーシャが見かねて手を差し伸べようとするも、彼女は意固地としか思えないスタンスでそれを跳ね返す。大丈夫そうには聞こえない返事…………。けれども、足取りも身体も今度はふらついてはいない。
真っ直ぐに歩き、前身に浴びせられる強風にも、彼女の華奢な身体は全く揺れる事もなかった。
(あれから一ヶ月半――――祝福を扱うコツは掴んできたみたいですわね)
その明らかな変化を感じ取り、イーシャが目を細めた。先程と打って変わった力強さすら感じる歩み。
そうだ、咲生は今祝福を使用している。しかも、“暴走する望み”に意識を渡さないままで。
自分の意志で、身に宿りし力の手綱を強く握り締めている。
――――この一月半、大陸南方に飛ばされた彼女達はそれなりに危険な目へと合わされた。
イーシャはどうって事なかったが、咲生にしてみれば気が滅入ったことだろう。
何より、強力な能力を宿していた所で元々は普通の女子高生……。戦う術も知らなければ、経験すらなかった彼女は、嫌が応にもぶっつけ本番で使い方を身につけるしかなかった。
今になって思えば、レディがグレッセ王都からズレた場所へ、二人を送ったのはこの為だと推察できる。
――――咲生を鍛えあげたかったと。実戦に揉まれ、生き抜く為の、困難を打破する為の方法を掴んで欲しかったのだ、と……。
それは確かに成功した。謎の女が目論んだ通りに、咲生は成長を遂げていた―――けれど。
(けれどレディ、彼女そろそろ限界じゃなくて?)
一月半…………、ずっと傍で彼女を見ていたイーシャはそう判断した。
強くはなった。なったが――――――――果たしてそれは彼女の為になっているのだろうか?
そう考えた時、それは疑問となってイーシャの胸の内でモヤモヤと渦を巻く。
『ねぇ、サキさん? 辛いなら――――』
――――止めてもいい。悲壮感すら漂わせる背中に、死神は今までずっと言えなかった事を訴えようとした。
でも――――。
「――――やめて、その先は言わないで」
遮られる。冷たい声で、砂嵐が響かせる風切音を中でもははっきりと、それは拒絶の言葉となって響く。
断固とした意志を感じとれる発言。だからと言って、イーシャもしり込みする気はない。
『……とは言いますけど、貴女はもう……』
とっくの当に限界を迎えているハズだ。肉体と精神、もしかしたら魂までも。
とっくに自分でも気付いているだろうに、それでも無茶を貫こうとするのは……。
「遠回りになっちゃったけど、これからやっと真琴を助けに行けるんだから……」
――――真琴を助けたいと言う一途な望み。それこそが、咲生の身体を突き動かし続けている。
一月半――――過ぎたと言えばたったそれだけ。しかし、人生と言うのは過ぎ去って行った刹那の時間が積み重なって出来た山。積もった思いが、願いが、焦りが、多ければ多いほどにそれは人を動かす理由となってしまう。
「私が助けなきゃいけないんだ……! 他の誰でもない、私が……!」
一月半の旅路、現実と言う名の暴風はいとも簡単に心を摩耗させていく。元々、咲生は強くはない。弱い身体と心を、真琴への想いで奮い立たせて何とか踏ん張っているだけだ。――――でも、それはもう限界に近い。
吐いた言葉で己を鼓舞している様に見えて、それは自分を追い込んでいくだけの呪詛でしかないのだから…………。
(アナタは焦っている…………。どうしてそれに気付かないのですか…………!)
悲痛にしか聴こえない少女を叫びを聞きながら、イーシャもまた心の中でそう叫んでいた。
咲生がこうなってしまった原因は三つある。旅の厳しさ、祝福を使い続けた事による軽い依存症、そして――――虹の男だ。
話を順に整理していこう。
先ずは今回の旅だ。レディによって多少過酷な状況に置かれたものの、旅自体は順調で、予定通りに三週間後にはグレッセ王都へ辿り着いた――――のだが、ここで二つ目の原因が出てくる。
そこに――――虹の男が居なかったと言うこと。到着直後にレディから連絡があったのだ。『そこにはもう彼は居ません』と。
恋人を助ける為の協力者として探していた相手が空振りに終わった…………。さぞやショックだったろうと思う。そこで落ち込むだけならまだ良かったのだ。でもそうはならなかった…………いや、状況は悪くなったと言ってもいい。
ここに三つ目の原因、“祝福の依存症”について説明しよう。
王都へ辿り着くまでの間に、自身の祝福をある程度任意発動可能になっていた咲生。
頼りにしていた希望の欠片が消えた事により、彼女がその力に溺れる事になってしまった。
――――いいや、縋りつくしかなかったとい言った方が誤解がないだろう…………。
『もう誰も頼らない! 私が――――私の力で真琴を助けるんだ!』
砂嵐止まぬ砂漠の真ん中で少女が、少女の心が泣き叫んでいた。
頼れる物は自分だけ、自分の身に宿る力だけが唯一頼れるもの。誰かに期待したところで意味なんて無い。ならば最初か、期待しなければいい、頼らなければいい。
淡い期待を抱いて傷つく事は、咲生にとって初めての経験であり、耐え難い痛みとなって、彼女の心を歪めてしまったのだ…………。
――今の咲生は足元を照らすランプを失って、暗闇の中を闇雲に走っている様なもの…………。イーシャが限界だと言ったのはだからこそだ。
このままでは目的を果たす前に精神が砕け散ってしまう……。
どうするべきかと死神が悩んでいる間にも、咲生は歩みを止める気配など微塵も見せなかった――――が。
「待ってて真琴……! 私が……助ける……から……」
『っ、サキさん!』
――――肉体…………いや、魂の限界が来た。フラリと前へ倒れ掛かった咲生をイーシャが間一髪抱きとめる。
死神の胸に収まった少女、その呼吸は荒く、四肢は痙攣し、何より目の焦点はずれて、意識も朦朧とし始めている。
「――――なきゃ……、真琴を――――」
だと言うのに、その意志はやはり呪詛。最早執念と言ってもいい恋人を救うと言う決意。
それは無意識の内に祝福を発動させようとしていた。――――違う、祝福に意識を明け渡す気だ…………!
『……させませんわよ?』
「うっ……ぁ…………?」
暴走の兆候を感じ取ったイーシャが、死神特有の技で咲生を問答無用で気絶させる。腕の中でぐったりとした彼女の重みに何とはなにし安堵した。今日はもう、これ以上彼女の苦しむ姿は見なくて良いのだと。
『まったく……焦って無茶ばかりし過ぎですわ。これでは命が幾つあっても足りなくてよ?』
大人しくなった咲生を背負いながら、イーシャは優しげに微笑む。
――――繰り返して言うが…………一月半だ。その間、彼女の最も近くに居た存在として感情移入してしまうのはごく自然な流れ。イーシャとしては、咲生の願いを成就させたい気持ちは勿論ある。
けれどもそれは、彼女の破滅と引き換えにしてまで叶えさせたくはないと言うのが素直な気持ち。
祝福に意識を渡す事は許せないが、咲生が自分の意志でギリギリまで抗うと言うのなら、その無茶を許容せざるを得ず、こうしていつも止めるタイミングが遅くなってしまう。
『――――さて、何処か休める場所を探しませんとね……』
でも今日はもうそれも終わり。後はゆっくりと彼女を休ませて上げたいと、死神らしからぬ慈愛の心で行動を開始する。
『流石にこの砂嵐では視界が制限されますわね……。生命力感知で見ても、居るのはモンスターの類ばかり……』
周囲をぐるりと見回しても数メートル先もロクに見えない。ならばと、生命力感知で人や動物が何処かでじっと休んで居ないかを探る。視力ではなく生命力に頼って視るこの方法であれば、地形や視界に左右される事もない。
――――が、空を睨んでも、地中を見透かしても、獰猛な肉食モンスターの類しか感知は出来なかった。
死神の力を解放している為、圧倒的な強者の圧力に屈服し、襲ってくる気配こそないが…………。
どれも現状を打破する要素には無縁。期待はしてなくとも、外れればつい溜息がでてしまうと言うもの。
『何処かに人が居れば良いのですけど、そう都合良くは――――っ!』
この砂嵐の中へ、危険を承知で飛び込む人間はそう多くはないハズ――――だった……。
(何かが高速で近付いて来ますわね……)
これを幸運と呼んでいいのかは解らないが、イーシャの生命力感知は遠くから迫る生物を捉えていた。
砂嵐をものともせず、砂の上を全力疾走してもバランス一つ崩さない屈強さが、視覚化された生命力から強烈なイメージとして送り込まれて来るほどだ。
(移動の足に出来る生物なら何とか捕らえましょう)
砂漠をこれ程までに高速移動する生物はそれほど多くは無い。正体は解らないが、求めていたチャンスを物にしなければなるまい。
イーシャはその手に処刑鎌“インドルゥヒ”を召喚すると、いつもの様に構え、対象が近付くのを待つ。
やはり都合が良い事に、それは彼女目掛けて一直線に猛進してくる。射程距離に入るタイミングを計り、鎌をフルスイングして発生させる衝撃波で生け捕りしようと目論む。
――――やがて、そのタイミングに差し掛かった所で…………ドンッ! 彼女が攻撃モーションに入るよりも僅かに速く、そんな音が鳴り響いた。
『――――えっ、ドンッ、って?』
突然響いた音の正体に見当がつかず、一瞬気が逸れる。その僅かな瞬間に対象を見失った。
ハッとして左右に目を凝らすイーシャだが、対応の見当が違う上に、遅すぎる。
『グゲェェェェッ!』
――――頭上から聴こえた鳴声に、バッと上空を見れば…………。
『う、上から!? きゃあぁぁぁぁぁぁっ!』
迫ってくる正体不明の巨大な影にイーシャは成す術もなく押し潰され――――――――。
次回、登場? 参上!