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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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ファルールとアウクリッド、リリネットの首飾りとレーレ

「つまり、チーム結成って訳だな?」

 前回、悠理がファルール参戦を拒否した理由である騎士団連中の事は一旦棚上げする。

 まさか、今更追い返す訳にもいかない。元よりそのつもりもないのだが。

『こいつがこれからも付いてくるならな』

 ニヤリと笑うレーレにファルールは胸を張って。

「無論だ、既に我が身と心、そして我が剣はミスターに捧げる所存――」

 膝をつき頭を垂れる、我が主君は貴方である、と。

 しかし、当の本人はこれに対しとんでもない返答をしでかす。

「ああ、身と心の方はいいや。それは好きな人に捧げてよ」

 弁解しておくに、これは良心からの発言であって悪意など一欠けらもない。

 ――故にと言うべきか。

「――――グスッ……」

 その一言はあまりにも痛烈なストレート。心からの忠誠の言葉を砕かれた女騎士は、普段の凛々しい顔立ちを歪ませて涙を浮かべていた。

「何故泣きそうなんだっ!?」

 騎士として……いや、乙女として精一杯勇気を振り絞って異性に告白したも同然の行為。

 それを断ればこんな状態になってしまうのは必然と言えるが――――理解できないのがこの男である。

 ――非常に残念と言わざるを得ない。


『乙女心だよ察しろ……』

 未だに泣き出しそうな――と言うか器用な事に、涙は浮かべてもファルールは泣いてはいなかった。せめても意地だと言わんばかりに耐え続けている。

 そんな彼女の背中をレーレが優しく擦りつつ、悠理に向けてジト目を飛ばす。

 ――どう考えてもお前が悪い。何とかしろ。

「――難易度高っけぇな……。じゃあ、贈り物で機嫌を直して貰おう」

 いや、物で釣るのはどうなんだ? レーレから送られてくる非難の視線はとりあえず無視。

 流石の悠理でも、本当にこれで機嫌を直して貰おうなどとは思ってはいない。

 単純に渡す予定だったタイミングを今に設定しただけだ。

「――そんなもので懐柔など……」

 手の甲で乱暴に涙を拭いながら、差し出された物を見てみると……。

「これは――アウクリッド?」

 宝剣アウクリッド――。世界でまだ()()()()()()()()()()()()()精霊結晶石を加工して造られた剣。

 彼女にとっての愛剣――と言っていいのかは判断しかねる所ではあるが。


「改良を加えた新アウクリッドだ。流石に素手で戦う訳にもいかんだろ」

 改良――特に目立った変化は無い、変わったのは外見ではなく中身。

 ――()()()()()()()()()

 実に大変だったと悠理は笑う。あの頑固なアウクリッドを説き伏せて祝福を変化させるのに比べたら、ファルールとの戦闘の方がまだマシだった、と。

 とにかく、これでもう精神操作や負の感情を増幅するなどのえげつない行為は不可能。

 安心して使えと、本来の持ち主に返す悠理。

 受け取ったファルールはどこか嬉しそうにしていた。

 まるで自身の半身が戻ってきたような感覚。

 ――これからは共にこの方の為に戦おう。

 そう願いを込める――――アウクリッドに埋め込まれた精霊結晶石が応える様に煌いた気がした。

「やはり、このまま本隊に突っ込む気か……」

 受け取った愛剣を腰にぶら下げながら、確信を突く。元々、この二人ならそれ位するのではと考えての尾行である。

『ビビったか?』

「まさか……、算段はあるのだろう?」

 滅茶苦茶な行動である事は確かだが、何の準備も自信の根拠も無く敵地に飛び込むようバカではないだろう。やるからには勝利の筋書きが既に描けているのハズだ。


「当たり前○のク○ッカー!」

 ファルールの問いに笑顔のサムズアップで応える悠理。

 とあるCMから引用したものだが、流れていた当時に彼はまだ生まれてすらいない。

「?」

「すまん……、忘れてくれ……」

 当然の如く、そのネタが通じる訳も無く、と言うか異世界だから通じなくて当然なのを失念していた性もあり、悠理は失意体前屈中である。

『おー、ユーリが凹んでやがる。やーい、バーカ、バーカ』

 普段は付け入る隙が無い為か、ここぞとばかりに死神レーレが本性を表す。

 弄れる時には弄っておく、そんな魂胆を見透かしているとばかりに悠理が反撃に出る。

「――ほぅ? 折角、レーレの分も贈り物を用意したのになぁ……」

 ピクッと、彼女の耳が反応した。予想外の事態に一瞬動揺してしまう。

『――え? は、ははーん? 騙そうたってそうはいか――』

「ならこれもファルさんにやろう。俺が持っていても仕方ないし」

 懐から赤い宝石をあしらった首飾りを取り出して、残念だと嘆きながらファルールへ。

「良いのか?」

 視線をレーレに向ける、明かに狼狽しており、何を言っていいのかも解らず、困ったようにその場を右往左往……。

「レーレ次第かなぁ……チラッ」

 わざとらしく悠理が視線を向け、彼女が小さく呻く。

 ――素直に言うのがこの場では正解らしい。

『うー――解ったよ! 俺が悪かったって! だから、その――』

 そこから先の言葉は、悠理がレーレに首飾りを着けてあげた事により止まる。

「――バーカ、初めからお前の為に用意したのに誰かに上げるハズないだろ?」

 乙女心も解さぬ癖に、時々妙に的確な言葉をかける彼にレーレはもやもやとした気持ちを抱く。

 ――が、それも何故か心地良い。どうしてなのかはまだハッキリと形にしてやれないが。

『あ、ありが――』

 礼を口にしようとした所で、再び待ったをかけられる。少し困った表情をしながら彼が口を開く


「あー、それでな。お前なら解るだろうがそれは祝福付きでな――」

 これはグレフ・ベントナーが製作した“リリネットの首飾り”。

 赤い精霊石にはとある能力が()()()()()()()

 とある淫魔の能力を、()()()()()()()“隔離”して、この首飾りに移したらしい。

 その力は“相手の生気を吸い取り自らの糧に変える”と言うモノ。

『おー、つまりこれでお前の虹の光(エネルギー)を吸収すれば俺も力を取り戻せるって訳か! 良い物持ってきたじゃねーか!!』

 知らされた内容に大喜びのレーレ、珍しく外見に釣り合った無邪気な笑顔を浮かべている。

 今回の作戦では彼女の力無くして成功は有り得ない。だからこそ、ここで一気に力を取り戻す事が出来ればそれだけ有利に事が運ぶ。

 ――――しかし。

「それがな――」

 話はそう簡単なものではなかった。いや、難易度に変わりはないが、能力を発動させる為にはある条件が必要なのだ。

 その条件とは――――――。


“使用者は対象者と粘膜同士の接触以外では生気を吸収する事が出来ない” 


『おい――――つまりどー言う意味だ?』

 嫌な予感にプルプルと震える、条件の意味することは理解できている――が、それと納得できるかは別の話である。

「つまり、俺と接吻するか、もしくは性行――」

『うわー! うわー! うわー! なんて物持ってきてんだテメェ!』

 最後まで言わせる前に、顔を真っ赤にしつつ叫ぶ。ついでに悠理の胸倉を掴んでがくがくと揺する。

「――仕方ないだろ。それしか無かったんだよ……」

 力任せに前後左右に揺らされつつ、自分は無罪だと主張する。グレフがこの類の能力を持つ装飾品を持っていただけでも幸運なことだ。選好みは出来なかった。

「まぁ、とにかくお前が嫌だって事はよく解った。俺も嫌がる相手にそんな事させたくないしな。別の案を――」

『――待てよ? お前の力で改竄すりゃあ良いんじゃないか?』

 その場の空気が止まる。レーレはナイスアイディアとうんうん頷いているが、悠理は露骨に目を逸らしていた――申し訳なさそうに。

「既に試してみたんだが――――――――すまん、断られた」

『何ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』

 祝福の改竄は本人の同意を得なければ使用不可能。交渉に失敗したのはこれが初めてだ。

 何でも、本体の淫魔から無理矢理能力だけを剥ぎ取られて閉じ込められた事を未だに根に持っているらしく、これ以上の譲歩出来ないとのこと。

 相手には相手の事情があるのだから、自由を愛する悠理としては引き下がるほかなかった。


「別の案を考えよう……。首飾りはどうする? 使えないならグレフに返――」

『ヤダ!』

 さっきまで散々文句を言っていたが、ここだけはきっぱりと拒否された。

 まぁ、一度贈り物として渡したものを取り上げるのはどうかとも思っていたが。

『一度貰ったんだからもう返さねーぞ!』

「わ、解った、解ったって!」

 首飾りを大事そうに手で守って威嚇するレーレに、流石の悠理もたじろぐ。無理に取り上げようものなら、噛み付かれても不思議じゃない。

「ミスター、もう少し乙女心をだな……」

 黙って状況を見守っていたファルールがここで口を開く。

 きしくも、それは先程自分が盛大に振られた際のレーレと同じ言葉であった。

「――難易度高っけぇなぁ…………」

 ぼやきながらふと考える。

 果たして、自分に乙女心を理解出来る日が来るのだろうか?、と。

 ――無理っぽいよなぁ……。

 それは心の中だけの呟きとして、生涯口にはすまいと誓う。

 ――口に出したら二人に怒られそうな気するし。

 そんな、実に子供っぽい理由で……。

 ―――――敵本隊への強襲開始まであと14時間。

もっと時間が欲しい……。


誤字脱字の修正は休日に後回し。

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