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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第二章・運命の少女、虹の男とトコヨ地方編
289/3922

召喚されし少女・茫然自失と一縷の望み

――――う゛ぇ゛ーい゛(ガラガラ蛇~、じゃなくてガラガラ声)


ものの見事に職場から風邪を頂いてしまったのだぜ。


明日一日休めば回復すると思うけど、今は症状が軽くなった程度。


――――なので、そんな状態で文章書いたから、いつもより変になっててもそれは風邪の所為だから!


仕様とか芸風じゃないからね!

「それってどういうことなの! 真琴が目覚めないって……そんな……」


告げられた最悪の内容に、病み上がりと変わらない身体を押して噛み付く。

 ――――愛する恋人がもう二度と目覚めない…………。怒りの導火線へ火をつけられた様に頭がかぁっと熱くなるのを抑えられない。


 しかし、イーシャは烈火の如く怒りを露にする咲生にも動じない。冷ややかな視線、感情ではなく理屈と事実でもって対抗されると感じて、僅かながらに咲生が怯む。


『――心臓を潰されましたのよ? 今は代用品で生命維持をしてますけれど、それが精一杯……』


 苦々しく、されど冷徹に告げるイーシャに咲生も言葉を返せない。


 心臓…………、生物に存在する核。止まれば、破壊されればそれだけで、死ぬ。

 ノレッセアと言う異世界においても、それは当然のこと。真琴は――――その心臓を握りつぶされた。


 たったそれだけの絶望的な事実。でも、たったそれだけが一体どれ程希望に縋る心を打ちのめすか?

 受け入れたくないと言うように、咲生が右手で強く胸を抑えた。手に伝わってくる鼓動――――――――命の音。真琴にはもうこれがない…………そう思うと自然と涙が溜まってくる。


 ただし、まだ諦めてなるものかと、心のどこかで抵抗する意志があって。

 ――――――――決して、その涙は零したりしなかった。

 

『…………アナタ方の世界とここノレッセアでは技術体系が違っても、死者を蘇らせるのは不可能でないにしろ困難な事に変わりはない………………違いますか?』


 残酷な事実に必死な想いで耐える少女。イーシャはそれを知りながらも無常に真実を突きつける。心苦しいがこれが現状。

 ちゃんと伝えなければ()()()()()()()()()()のだから。


「だ、だったら私の力で――――!」


 ――――しかし、諦めていなくとも動揺した心ではどうしても短絡的な行動に走りたくなるもの。

 ましてや重い事実を耐え受け止めた反動からか、軽い錯乱状態に陥っている。だから、遥か遠くに輝く希望の光よりも、足元を照らすライトを求めてしまう。


 咲生の強靭な精神が再び“暴走する望み”を起動させようとして――――。


「――――それは止めておきなさい咲生」


 首筋にそんな言葉が降りかかって停止。背後には誰も居なかったハズなのに、背中を取られた圧迫感に心臓が収縮する。


「ッ、邪魔しない――――うぐっ!?」


 ――そこに居たのが誰かなど自分には関係ないとばかりに、右手を振り回して相手を押しのけようとしたが…………。振り向いた瞬間、右頬に拳がぶち当たる。

 ごっと頬骨に拳がぶつかり、殴られた衝撃で真琴の方へ覆いかぶさりそうになったが、咄嗟に手をついてそれだけは回避した。


「……まったく、聞き分けのない子ね」

『ちょ、ちょっとレディ! そんなにポンポンと女性の顔を殴るものではありません!』

「この位しないと咲生はクールダウンしませんよ」

『く、くーるだうん?』


 ――――背中越しに二人分の声。非難の会話はイーシャが咲生を殴り倒した張本人を責める言葉。

 何処かで聞いたことのある様な声だが、この世界に知り合いも居ないし、躊躇無く殴って止めようとする相手に心当たりなどない。というより、あまりに唐突に殴られた為に今になってふつふつと怒りが湧いてきた。じんじんと痛む右頬はさっきの出来事が、夢ではないぞと主張する。


 目に溜まっていたハズの涙は殴り倒された時に何処かへ飛んでいったらしく、視界はクリアだ。

 ぐっと歯を食いしばって、思いっきり振り向くと同時に咲生は胸の奥に溜まった不満を吐き出す。


「い、いきなり何するんですか! 義姉さんにも殴られた事ないのに!」

「――――ほら、ご覧の通り。少しは冷静になったでしょう?」

『……だからと言って、問答無用で殴りかかるものでは……』


 視界に映ったのはライダースーツに装飾を施したコスプレ衣装、それを纏う胡散臭さ割り増しの仮面を付けた女性だった。彼女はイーシャに『予定通り』と言った感じの態度、対して死神の方は頭を抑えて呆れ返っている。


「――――誰なんですか?」


 殴られて激昂した所為か、もしくは怒りが一周して冷静さに変わったのか、咲生の頭は確かにクールダウンしていた。少なくとも、相手の名前を聞いてからたっぷりと暴言を吐いてやる、と考えられる位には。


「私は謎の女、レディ・ミステリア。以後、お見知りおきを」

『この方はアナタと同じ世界出身らしいですわよ? 召喚勇者とは毛色が違う見たいですけど、ね……』


 地球出身…………? 告げられた言葉に気になる単語(ワード)

 一瞬だけ、言おうと思っていた暴言を忘れ、そこに思考が集中する。召喚勇者とは毛色が違うと言われてもピンとこないが、なら彼女はどうしてここに居るのだろうと考えて……。


「ついでに言えば、貴女の暴走を止め、彼女を助けたのも私です。大いに感謝しなさい」


 ――ほんのちょっぴりだけ偉そうに胸を反らし、両手を腰に当てた。

 子供っぽいポーズだが、不思議と似合っている――――じゃなくて…………!


「えっ、ほ、本当なの?」


 真琴の命を助けた恩人、と言われて、頭で考え続けていた文句が今度こそ完璧に吹き飛んだ。木っ端微塵だ。それが事実なら感謝しても仕切れないほど、大きな借りを作ってしまった事になるが…………。

 本当なのか確かめるべく、イーシャに確認を取ろうとする。ここに来て、咲生は血塗れになった真琴を抱きしめた後の出来事が欠落しているのに気付く。


 やけに朧気だが、記憶がない訳でもない。かと言って自分が何をしていたかとなると…………とんと覚えが無かった。それでも暴走を止めてもらったという話なら、やはり受けた恩と借りは大きい…………。


『はい、事実です。……でも、偉そうに言ってますけれど、その後で倒れ――――むぐっ!?』


 ――――頷いて肯定した死神だったが、何か余計な事を言おうとしたのか、レディがその口に饅頭らしく食べ物を押し込んで黙らせた。どうやら、咲生には聞かれたくなかった類の話らしい。


 レディは『ふー…………』と小さく溜息を零してから咲生に向き直った。

 真っ黒い面に真っ白でまん丸のぼやけた目、両頬に白い肉球マーク。どこぞのゆるキャラみたいな面に真正面から見つめられて、咲生は何となく居心地の悪さを感じとる。


 まるで悪戯を隠し通そうとしている時みたいなバツの悪さだ――――まぁ、あくまで想像でしかないのだけれど。そんな風に咲生が分析していると、向こうはこちらが話しを聴く姿勢を整えるのを待っているみたいだった。

 慌てて布団の上に正座し、確りと耳を傾ける。先ず間違いなく、これからされる話は自分に取って、真琴にとって重要な話だと、妙な確信があった。


「――――一つ訂正がありました。彼女を生かす事には成功しましたが、助ける事は出来ませんでした。その話は、もう?」

『ひょうど――――むぐむぐ……失礼。丁度その話をしていた所です。サキさん、聴く準備はよろしいですか?』


 ――――やはり、だ。真琴は助かっていないとハッキリ言われ、心臓がひやりとした。

 でも今度は取り乱さない。それは詳しい話を聞いてからでも遅くはないのだから。


「――――お願いします」


 むぐむぐと、饅頭を飲み込んだイーシャの問いに肯定を返す。

 ――――真琴を救う為に、今は情報が必要なのだから。望みを果たす為にも、咲生は己の意志で初めてノレッセアに足を突っ込むのだった。

次回、命の行方。

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