召喚されし少女・叱責と不完全な救済
うーっす、本編は更新できましたが分割商法になってしまいました。
言い訳にしかなりませんが、ちょっと仕事でストレスが溜まっているのか思う様に文章が書けないんですよね…………。
――え? 元々、大した文章でもなかっただろって?
ハッハッハッ……………………耳が痛ぇッ!
そう言えば、そろそろブクマが減る頃かなぁ…………とか思ってたら本当に減ってて地味にショックを受けた今日この頃です。
――――緊張漂う“キサラの村”に突如現れたレディ・ミステリアと名乗る女…………。
しかし、そんな彼女の緊張感がない変なポーズでの名乗りに、場は微妙な空気へと変わっていく…………。
『この方……お知り合いですの?』
『――――(ブンブン)』
死神イーシャが胡散臭そうな目でレディを凝視しつつ、念の為にクーネットへと問えば、案の定首を振って否定する。咲生が真琴を蘇生させる為に周辺から生命力を吸収している影響だろう。彼女の狸耳はヘンニャリと垂れて、もう喋る気力すら湧かない様だった。
――――危険な状態だ。助ける義理など無いが、無くても放って置けないのが人情。
死神に最も不必要なそれを、心の何処かに持ち続けているイーシャには到底見過ごせない事態だ。
「話は後にしましょう。早くしないと村人に犠牲者がでます」
レディもこの状況が続く事が良くないと言うのは百も承知。未だ彼女の正体を計りかねてはいるものの、出された案には同意してイーシャは頷きを返す。
『――――どうするおつもりですか? ……と言うか、殺す以外に方法がありまして?』
“暴走する望み”を名前通りに暴走状態へと導いた咲生に死神は視線を移す。
勿論、その瞳は“生命力感知状態”へと切り替えている――――不味い。頭には危険を知らせる警鐘。
集められた生命エネルギーが渦を巻いて、今にも爆発そうな兆し。
放っておけば何れ至るその結果が決して良いものだとは思えない。仮に真琴が蘇ったとしても、この村には死屍累々の山が出来上がるだろう。
そして、生命力を奪われているのはイーシャも同じ。このままでは限界に到達し、行動不能になるのは目に見えている。
――――かと言って、全力で殺しにかからねば止める事は難しい。
グウェイとの戦闘を見る限りではイーシャの勝率は上手く行けば六割。時間が経つ毎に勝ちの目は潰えていくだろう。
他に代案がなければそれで行く。しかし、謎の女は『任せて欲しい』と、そう言ってきた。先ずはその意見を拝聴しなければならない。『さぁ、どうする?』と、流し目を向ければ、レディは『やれやれ』と大仰に肩を竦めていた。
声に感情は篭っていないのに、その仕草だけで呆れを表現しきっている様に見えるのだから器用なものだと思う。
「……死神は物騒ですね。まぁ、方法は実に単純ですよ」
『参考までに聞かせて頂けます?』
「殴って気絶させます、以上」
――――成程、この上なく単純な方法だ…………。内心でそう納得しかけて、イーシャは慌てて我に返った。
いくら何でもそれは無謀だろう、と。
『しょ、正気ですか? これ以上近寄るのは自殺行為――――あ、ちょ、ちょっと!』
“生命力吸収”を行っている人物に近ければ近いほど、生命力を吸われる速度は上がっていく。
現にイーシャの腰に抱きついているクーネットは蒼白な表情でか細い息しかしていない。
“生命力感知の瞳”で見ても、遠くに離れていれば居るほどに吸収は鈍くなるのは確認済み。
――――だと言うのに、説明してもレディは聴く耳持たず、愚直としか言えないほど真っ直ぐに咲生へと歩み寄っていく。
勇敢さと蛮勇、彼女の今そのどちらだろうか? 得体の知れぬ女性であるが、咲生が強く望んで造り出した能力の前には平等を強いられる。一歩、また一歩と足を進める旅に、身体からごっそりと命の根源が抜け落ちていく、そしてそれは止まらない。
彼女もまた――――止まらない。ゆっくりと、確りとした強気な足取りで進む。
イーシャが緊張感に苛まれながら固唾を呑んで見守っていると、ついにその瞬間は来る。
倒れなけばゴールには辿り着くことは可能だ。それは咲生の真正面に立ったレディが証明した。
「足リナイ、マダマダ足リナイ!」
祝福に主導権を奪われた咲生が天を向き、叫ぶ。声は無機質で機械的であるのに、それは獣の咆哮違わぬ気迫が宿っていた。――――けれど、彼女は認識していないが目の前に居る女はその程度では怯まない。
「私は忠告しましたよ咲生。それを破ったのは貴女……でもまぁ――――」
生命力を奪われ続けていてもレディはレディ。感情が篭っていない声で、ゆったりと自分のリズムを保ったままで語りかける。例え、その言葉が助けに来た少女へ届いていなくとも。
「――――助けてあげましょう。私は貴女には甘々ですから」
仮面の下で薄く微笑む。誰にも見せない、見せられない笑顔。それが表情に浮かぶのは決意の表れだ。
――もう、謎の女レディ・ミステリアを止める手段は何処にもない。
そして実際、止める事など不可能な電光石火の一撃が確かに放たれた事をイーシャだけは目撃していた。
「命ヲ! モット! モッ――――!?」
「――少し眠ってなさい我儘娘ッ!」
咲生の身体を動かしている“暴走する望み”が反応した時にはもう遅い。
「ガッ――――ッ! ……うっ……」
固く握られたレディの右拳が、咲生の顔面にクリーンヒット。脳を揺らす特大の衝撃はレディの“干渉する能力”――――それを拡張し、強化させる“拡大解釈”と言う技法によって、意識の手綱を握っていた祝福だけを除外した。
拳を受けて真琴を抱いたまま倒れて行く刹那、虚ろだった咲生の目に生気が戻る――――が、その直後に彼女の意識は暗転。何を感じる間もなく、暗闇に思考を呑み込まれてしまう。
どさぁっ、と地面にその身体が力なく横たわると同時、生命力の吸収が止まって本人元へと戻っていった。
そうして事態に収拾がつけばやって来るのは静寂。だが静寂と言うのは何れ破られるもの。
とりわけ今回はその瞬間が早かった。
『ほ、本当に殴って止めましたわよこの方!』
『お、思いっきり顔面殴るなんて酷いですよ!』
――それは死神と狸耳の少女からの突っ込みと非難の声がキッカケで。
奪われた生命力を取り戻した事でクーネットも回復した様だ。顔色も良く、力なく垂れていた耳も今は元気にピンと立っている。
「……一先ずはこれでokですね。後は彼女を――――スゥゥ……」
――――と、外野の騒ぎは気にせずにレディは次なる行動へと移った。
倒れた込んだ咲生の傍に膝をつくと、その胸に確りと抱き止められた少女に手を当てる。
無論、真琴を助ける為だ。“拡大解釈”を使って能力を拡張、本来使用不可能な力へと接続――――成功。
深呼吸して意識を集中させれば、唯それだけで変化は現実として如実に現れていく。
『な、何をするつもりで――――』
『きゃっ、な、何ですか? 緑色の光が……』
まるで始めからそこに存在していた言わんばかりに、周囲は緑色に輝く光に包まれていた。
それこそ――――“生命神秘の気”、それを形成する一色、“大樹と新緑の生命神秘”。
生命の活力と回復を司る力を用いてレディは真琴を蘇生しようと言うのか?
――――いや、“生命神秘の気”はあくまで生命にのみ作用する。つまり、屍と化した彼女にはもう効果がない…………普通ならば。
「――本当に……、私はサービスが過ぎる。でもまぁ、私も完璧ではありません」
レディ・ミステリアは常識とはかけ離れた存在。死者の蘇生は出来なくとも、可能な事はある。
“大樹と新緑の生命神秘”をありったけ真琴に注ぎ込む。今、彼女を助けるにはそれだけで十分。
後は――――。
「後は貴女自身で何とかなさい」
――――恋人の蘇生を願うあまりに暴走した少女。その頭を優しく撫でながら、謎の女は満足そうに呟いて――――――――グラリと倒れこんだ…………。
次回、義姉さんにもぶたれた事ないのに!