召喚されし少女・死神と獣の乱舞
か、書くのに三日もかかったのにこの体たらく……………………。
何か、今まで一番納得出来てないのを更新してしまったかも知れない。
きっと心の何処かで納得していないまま書き始めたからこそ、今までに無いくらい筆が遅かったのかも…………。
今回はムチャクチャなこの状態を恥を忍んで出します。
次からはこんな事がない様に気合を入れる為にもね。
「死神グウェイノステータスヲ解析。負荷ヲ無視シタ身体強化デ対応シマス」
弾丸の如き勢いでもって急降下してくる死神グウェイ。そんな彼を見据えてポツリと宣言したのは咲生だ。虚ろだった目はそのままに、ぐっと屈んで跳躍の構え……。それはグウェイを迎え撃つ為の戦闘姿勢。
「さ、咲生? 急にどうし――――」
『っ!? 離れてマコト!』
真琴はその姿勢の意味に気付けていない。けれど横に居たクーネットは意図に気付き、真琴を下がらせる。咲生はどこかぼんやりとした感覚でそのやり取り聞いていた。
(……あれ? クーネットさんの声が聞こえる。でも私………、どうやって戦うつもりなんだろう?)
感覚が一切無かった。今跳躍の姿勢に入っているのも、両脚に今まで感じた事のない力の躍動も。
それら全ての感覚を認識できているのにも関わらず、一連の行動は咲生の意志によるものではない。
唯、やはりそれは彼女の意志によるものだった。咲生に宿った祝福が、主の願いを叶えんとして自動制御している。故に命令を下したのが彼女であっても、身体を動かしているのは心の底から生まれた望み。
――――真琴を、クーネットさん達を守らなきゃ。アイツを――――倒さなきゃ!
だから彼女の身体は自身の意志から離れて活動を開始する。願いを叶える、唯それだけの為に。
『何をごちゃごちゃ言ってやが――――』
グウェイが急降下しながら苛立ちと共に鎌を振り上げた――――と、同時に咲生は地面を思いっきり蹴飛ばす。
ドンッ! と、凄まじい音が響いて、気付けば一瞬でその姿は死神の懐へ。
『――――んなっ!』
あまりに爆発的な加速、その勢いに彼はほんの刹那だけ反応を鈍らせた。
鎌を振り下ろしてしまえばいいものを驚きで命令が遅れる。そうして生まれた隙を、“死神打倒”のプログラムに従う機械的な少女は狙い撃ちした。
「fire!」
右手を思いっきり腹部へねじ込んで合図を叫べば、掌から爆発が起こる。咲生の祝福が生み出した対死神用の攻撃方法。祝福そのものに意志がある非常に珍しいタイプだからこそ可能な芸当だ。
異世界ノレッセアそのものが産み出した能力――――“天性の祝福”は、常に何処かで生まれ、生命に宿る瞬間を待っていると言う話が一説にはある。それが事実であると仮定すると、咲生の祝福は世界と言う膨大な知識を持っている可能性が高い。
この祝福がどれだけの時を過ごしたかは推測でしかないが、圧倒的なデータ量を持ってすれば、如何に素人である咲生でも死神に対抗するのは可能と言う訳だ。
――最も、今咲生の身体は自分の意志を離れて動いているのだけれど。
しかし、それは裏を返せば肉体を操作しているのが素人じゃない分、勝率は遥かに上がっているハズだ。
『ぬおぉぉぉぉぉぉっ!?』
死神と言う種族としての特性、弱点、あらゆる角度から、あらゆる視点からその虚を暴き、突く。
そんな対死神仕様爆発掌打を受け、急降下中だったグウェイは逆に上昇していくハメになった。
咲生は追撃しようとするが、そこは空中。脚の踏み場などあるハズが無い。けれども彼女は迷う事無く足を踏み込んでいく――――すると、ぼぉんっ!
爆音ともに空間が真っ赤に爆ぜ、推進理力となって彼女の身体を上へ上へと押し上げていく。
数度それを繰り返せば、未だに吹き飛び続けている死神へと追い縋る結果となり、防御する間も与えずに再度掌打を叩き込む。
『う――――ぐぇッ』
先ほどのダメージがまだ引いていないにも関わらず、もう一度腹部への直接攻撃。これは痛い。
また対死神仕様の爆発が起きて、グウェイの身体がトラックに跳ねられた様に凄まじい速度で落下を始めた。――――そんな光景をイーシャは地上から口をあんぐりと開けて見ているしかない。
『な、何ですかあの子……あんな滅茶苦茶、いつまでも持つ訳が……』
上級死神の片割れは咲生を賞賛すべきか呆れるべきかで迷って、結局の所どちらも出来ずにいた。
正直、彼女の戦術は効果的だ。あの爆発がどういった構成をしているかは分析不能であるにしても、グウェイが反撃できずにいるのを見れば相当な威力があると思っていいだろう。
だが…………無茶苦茶すぎる。傍目から観察しても――――いや、傍観者の立場から見てこそ如実に解る事もあるのだ。恐らく、咲生は祝福の力をありったけ使いまくっているのだろう。
だからこそ、その攻撃は協力無比。だがしかし、そんな芸当がいつまで続くか、正直怪しいとイーシャは睨む。果たしてグウェイが死ぬのが先か、それとも咲生の方が負荷に耐え切れず倒れるか……。
そんな未来を予想したのは――――彼女だけではなかった。
イーシャと同じ様に空を見上げ、咲生の戦いを見守っていた真琴である。
「ク、クーネットさん! 咲生は……咲生は一体どうしちゃったんだ! あれじゃまるで――――」
――――まるで獣じゃないか……。言い掛けた言葉を呑み込む。恋人をそんな風に表現することなどしたくなかったからだ。でも胸の内は否定していない、むしろ肯定している。
突然の変貌、今しがたの戦法。身体能力と能力をフルに活用した獣の如き挙動………。
どれもとっても人間の――――浅野真琴が知っている里見咲生ではない。
混乱と驚愕に満ちた声にクーネットは申し訳無さそうに頭を下げる。
――――全ては自分の軽率な行動の所為だと言わんばかりに。
『――――ごめんなさいマコト……。やっぱり、ウチは貴女達を呼ぶべきじゃなかった。あんな強力な祝福が宿るなんて……』
「あれが――――祝福?」
『アレはウチの一族で語り継がれる祝福――――英雄キサラが持っていた力、それが何でサキ様に……』
――――“暴走する望み”。それが咲生に宿った祝福の名だ。
かつてこの地に召喚された彼女と、クーネットの先祖が宿していた力と全く同じものらしい。
しかし、何故それが咲生に宿っているかは不明だ。唯、一つ解っているのは――――アレを使ったら無事ではすまないということ。
その果てに待っている悲劇をクーネットは知っている。けれど真琴の前ではどうしても告げる事が出来ず、彼女は顔を上げて落下してくる二つの影へと視線を戻す事になった。
『テメェ! 調子に乗ってんじゃ……ねぇよッ!』
落下しながら怒りを吼える。そうしてグウェイは力を解放、なりふり構わず咲生を仕留めようと躍起になり眷属召喚に移った。重力に従って墜ちて行く身体が、溢れ出る力によってフワリと抱きとめられる。
彼の周りには気付けば無数の赤い穴。空間が歪み、そこからはとてもつもない熱気が溢れ出していた。
「複数ノ眷属反応ヲ感知。状況ハ劣勢」
気付くと真っ赤な目が穴から覗いていて、ぎょろりと咲生を睨む。多勢に無勢、百を超える瞳に見つめられて不利と判断する。
――が、それは諦めと同義ではない。
「……対抗能力創成――――起動」
今の咲生は“グウェイの打倒”と言う“願い”によって動いている。なれば――――止まるはずがない。
目標達成が困難になったのなら、成功する道への筋を作り上げるのみ。
そうして咲生――――いや、“暴走する望み”が動き出す。右手を軽く振ればいつの間にか光の矢が彼女の身体を取り巻き、守護する。次にパチンと指を鳴らせば忠実なる僕、統率の取れた番犬達は得物に喰らいつく。
即ち、現れた赤い穴目掛け、的を一発も外す事無く打ち抜いていく。空間の歪みから断末魔が響いて次々とその姿を消して行ったのはまさしく一瞬の出来事。
『な、何っ、こいつ出てくる前に叩きやがった……。チィッ』
状況はみるみる内にグウェイの劣勢。何しろ召喚儀式に力を貸した所為で、彼の実力は本来の半分以下。
それでも五百年生き続けた上級死神が負ける要素にはなり得ない。だと言うのに眷属召喚を行った事が、させられた事が、彼の劣勢を決定付けた。
元より期待などしていなかった。咲生の体力を削れれば、時間稼ぎの駒としての役割は十二分に果たせる。しかしそれは叶わない。無駄に力を浪費しただけ、そしてその浪費は――――咲生と言う未知の敵に対しては致命的。
本能でそう感じてしまったからこそ舌打ち。敗北の影がうっすらとチラつき始めたからこそ苛立ちを隠せない。態勢を立て直さなければ、と鎌を構えて、追撃を行う為に落下しながら吶喊してくる咲生を迎え撃――――。
「状況ガ好転シタト判断。反撃二移行シマス。戦ノ鐘ヲ鳴ラセ!」
――――迎え撃つ隙など在りはしなかった。突っ込んでくる咲生の手には真っ白に輝く刀。
刀身の切っ先から柄の一番下まで全て光属性を凝縮して造り上げられた純白の太刀。
一般的に死神は闇に属する存在。例外として他の属性を持つ死神も居るには居る――――しかし、やはり光とは相容れないのは共通事項。つまり、咲生の手に掴まれたそれは天敵に他ならない。
「――――――――“切リ裂ケ、キサラノツルギ”」
再び空間を蹴り、爆発を推進力としてブースト。爆発的加速度であっと言う間にグウェイを追い抜き、擦れ違い様に切り込む。それは技法、間違いなく居合いそのもの。
死神の身体に真っ白い横一文字が浮かび上がったと思えば、すぐさま白は血で赤く染められていく。
グウェイはそれを止められない、防御不可能な一撃を叩き込まれた認識するのに一秒でも長すぎると感じた。
『グッ!? テンッ……………………メェェェェェ!』
ようやく自身に起こった一瞬の出来事を把握すると、腹と口から血をビシャビシャと振り撒いて、怨嗟の叫びが加わった。やられた――――と言う実感は彼にはない。唯、傷付けられた事に腹が立っていた。
いいや、彼はまだ戦いが続いていると思っている。それは唯の勘違いだと言うのに。
なのにグウェイは空中で反転し、既に地上に降り立った咲生を捉えようとして――――やっと気付いた。
『か、身体が……動かね――――』
死刑宣告はとっくに終わっていると、例え解った所で死は避けれぬ距離。“キサラノツルギ”は問答無用で相手の動きを封じる創作宝具だ。初めて作ったから効果が出るのに時間がかかりはしたが――――もう十分に時は満ちた。
「――――消エロ……、ソレガワタシノ願イナノダカラ」
重力に従うまま墜落してくる死神へ、咲生は光輝く刀を掲げる。たったそれだけ。
けれども唯それっぽちの動作で、グウェイの顔は引き攣った。何故って、自分の身体はまさしくその切っ先に吸い込まれるように墜ちているのだ。
何とか肉体の自由を取り戻そうと粘って、焦って、恐怖に叫びだそうとして――――――――ズシュッ!
『グッ……ギ、ギャァァァァァァァァァァァァァッ!』
叫び声が洩れたのはグウェイの胸に根元まで深々と刀が突き刺さった後。絶叫を響かせながら、彼の肉体がビクンっと多く震え――――そして動かなくなる。白目を剥いたままピクリとも動かない死神を、刀をブンと振りまして振るい飛ばす。
無造作に転がっていく敵の身体に咲生は目もくれない。
『嘘……グウェイを倒した? ワタクシでも手こずるあの暴れん坊を……やはり彼女は召喚勇者なのですね…………』
ゴミの様に地面に横たわった同僚に対しての悲しみはイーシャにはない。むしろ、これでお別れになるのならば嬉しい位だ。けれど実力は認めていただけに、その敗北には驚きを禁じえない。
五百年の時を経て再びまみえた勇者と言う存在にイーシャは戦慄を覚えていた……。
「咲生ーッ!」
『サキ様ぁー!』
傍目からも戦闘が終了したのは決定的だと思ったのか、戦いを傍観せざるを得なかった真琴とクーネットが咲生へと駆け寄っていく。耳に届く声に反応して虚ろな目を二人に向けた彼女は瞼を閉じてこう宣言する。
「死神グウェイノ撃破、成就完了。死神イーシャ二戦闘ノ意志ハ無イト判断、現時点ヲ以テ総テノ意識ヲ咲生ヘ返シマス」
機械的な報告を終えると、その瞳が徐々に開かれていけば、そこには生気に満ちた普通の少女が戻ってきたのだと解る――――しかし………………。
「――――あっ、ゴフッ……!?」
フラっと膝をつき、咲生はそのままこみ上げてきたものを地面にぶちまけた。
――――血。先程の戦闘では全くダメージを受けていなかったハズなのに真っ赤な血がビシャビシャと地面に血溜りを作り上げ、そこに映った自分の姿を見て彼女は困惑を浮かべていた。
あまりの激痛に悶絶する暇もない。痛みが一週回って妙に冷静になったかと思えば、また唐突に痛みがぶり返して思考を奪っていくのだ。まるで四十度の高熱を出して意識が朦朧としているにも関わらず、苦しさだけはしっかり感じている様なあの理不尽さ。今感じているのはきっとそれなのだ。
「咲生!? 確りして咲生っ……!」
『サキ様!? やっぱり……あの祝福は――――』
駆け寄ってその身体を支える真琴と、彼女が持つ祝福――――その反作用と危険さを確信したクーネットが顔をしかめていると、イーシャがゆっくりと近付いてこう述べた。
『――――当然ですわね。グウェイは腐っても上級死神、いくら召喚勇者と言えども勝とうと思ったら相応の対価が必要ですわ』
つまり、咲生は死神打倒の対価に、強力無比な身体強化と数々の能力創成をしようしたツケを払っている訳だ。耳に届いた声に口から血をぼたぼた垂らしながら『なるほどなぁ……』と、彼女は他人事の様に納得してしまう。
――――が、当人はそれで納得していても、ギャラリーは納得していない。
特に――――恋人が理不尽に傷付けられた事実を許せない者が居ても不思議ではないだろう。
「近づくなっ! 咲生に危害を加えるなら――――赦さない」
『うっ……!? な、何ですの? 唯睨まれただけでこんな……』
真琴は視線に殺意を、声に怒りをありったけ込めてイーシャへ鋭い眼差しを向け、警戒を露にする。
そして、以外にもその効果は絶大だった。当人が驚いている様に、真琴の視線に射抜かれたイーシャはたったそれだけで身動きを封じられてしまう。
“ノレッセアの審判”を生き抜いた上級死神ともあろう彼女が、だ。
召喚勇者の底知れぬ力を身を持って体感した瞬間である。
「ま、真琴? どうし……たの、怖い顔…………だよ?」
「な、なんでもないよ……」
『喋らないで下さいサキ様、お身体に障ります!』
咲生は苦痛に顔を歪めながらも真琴に笑いかけ『私は大丈夫だよ』とアピールした。
そんな恋人の気遣いに真琴もぎこちないがらも笑顔を返すが、上手く笑えなかったのは何よりも彼女が一番よく解っている。その横ではクーネットが真琴の反対側に回って咲生の肩に手を回す。
明らかに重傷…………早く治療しなければ焦る心は嫌な未来を想像するばかり……。
けれども、その不安を断ち切る心強い言葉が投げかけられる。それも予想しなかった方向から。
『――――いいえ、大丈夫ですわ。消耗しているけれど、キチンと治療すれば助かります。上級死神であるこのワタクシ、イーシャ・グライクェン保障して差し上げます。――――最も、一刻も早く治療して休ませる事をオススメしますけど』
死神には相手の生命エネルギーを視覚化する能力があり、イーシャはそれによって咲生の状態を把握。
極端に体力が減っている上、命――――あるいは寿命と言って差し支えない生命の根源、それが弱っている――――と言っても、直ぐに死ぬというレベルではない。
けれども彼女の助言通り、一刻も早い治療を行わなければどうなってもおかしくない程度には重傷な訳だが。
「…………そうさせてもらうよ。クーネットさん、早速――――」
ふてぶてといった感じで助言を聞き入れ、クーネットと共に咲生を運ぼうと真琴が一歩踏み出して――――。
『――――待ちやがれクソ女共…………』
――――背後からそんな執念深い声が聴こえた。
次回、真琴の一撃。