同類の二人が仕えるべき相手
※2016/12/14、誤字修正、及び、見やすく調整。
グレフ邸でカーニャの叫びが轟いた頃……。
失踪中の悠理とレーレはと言うと。
「いやー、しかし便利な乗り物があるなー」
スルハの街から北東へ約200km地点の森林を疾走する影。その背に二人は居た。
『まさか、角付きのディーノスを手に入れてくるとはな』
ディーノスはノレッセアに居る動物で、外見は小型の恐竜を髣髴とさせるもの。
凶暴そうな見た目に反して温厚な性格で草食系、また環境や調教によっては肉食系で攻撃的な性格になる固体も発見されている。
足腰が強靭で、今悠理達がそうしている様に乗り物として重宝されており、祝福を与えられて変質した動物である為、幾つかの特殊な能力を持つ。
その中でも代表的な能力が“継続走行”。
これは乗り手の生命エネルギーを代償にして、自らのエネルギーに変換する力である。
ディーノスの体力が尽きたとしても、これを使用すれば代償に見合った分の距離を走り続けられると言う訳だ。
ただし、ディーノスの方にも限界がある。大量に与えすぎてもエネルギー酔いで気絶してしまう。
使用する際には乗り手への警告として生命エネルギーを数値化し、それを目安に代償を支払う方式となっているので、早々そう言う問題は起こらないが。
ちなみに、“数値化”に関しては“精霊”が行ってくれているらしい。何でも、精霊達が“契約の祝福”を使って仲介してくれているのだとか。その仲介料として与えられたエネルギーの二割を貰って彼等は存在を維持している。一種のビジネスと言うヤツだ。
「こいつそんな凄いのか?」
角付きと言われて頭部を見ると、確かにナイフの様にキラリと光る角がある。
『角は群れの長の証だからな』
この角は祝福によって後天的に生えるもの。普段彼等は群れで行動し、温厚な性格も合って争いごとは起こさない。しかし、自然の中で生きていれば当然他の動物達に襲われることだってある。
その際に戦うのが群れの長たる角付き、たった一人の戦闘員。
だがその力は計り知れない。角を巧みに使い、自分よりも遥かに大きい動物さえも容易く持ち上げ、硬い鱗ですら易々と貫くと言う。
そんなアタリをどうやって連れて来たのか?
実にこれが単純明快。本隊との決戦で使いたいから、乗り物の練習をさせてくれと頼んだ結果、飼育小屋に連れて行かれた。その時にこのディーノスの方から寄ってきたのだ。それどころか、悠理の前に角を差し出して触らせた。
これは彼等にとって服従を意味する行為。
いくら温厚な性質を持つとは言え、群れの長が易々と背中を預ける訳が無い。
それなりの実力者でなければ乗る事すら不可能。グレフでさえ、乗る事は出来てもこの行為をされた事はない。
――つまり、彼は悠理を自分の主として選んだのだ。
この背に乗り我が主を名乗るのに相応しい者である、と。
「へぇ――――所で」
――ディーノスの生態の説明や、出会いなど一連の出来事を語り終えて、ふと悠理が彼を止めさせる。
立ち止まって背の高い木を注視、既に日も暮れて森もかなり暗くなっていたが、二人の能力であれば問題はない。
『そろそろ出てこいよ、居るんだろファルール?』
その言葉に隠れていた影は木から飛び降りて、あっさりと姿を現す。
見れば彼女もディーノスに乗っている――が、良く見ると少し身体の形状が違う。
これも彼等の能力の一つ、“環境適応”によって木から木へ飛び移ることに長けた種類である。
「――流石だな、いつから気付いていた?」
流石とは言うが、別段驚いた様子もない。バレているのは百も承知。問題は何故ここまで放って置いたかの方がファルールとっては気になるところ。
「えーと、俺とレーレが風呂に入ってるのを覗き見してた所から?」
『お前ェ……』
何やら自分達を監視している気配は感じられた。敵意も悪意も無かったのと、レーレが『放って置いていい』と言うので気付かぬフリをしていたが。
「ち、違う! お風呂に入ろうとしたら先客が居るのに気付いて、中をチラッと確認しただけだ! 決して覗いた訳では……」
言い訳でも何でもなくこれは事実。偶然、二人が入浴している場面に出くわして慌てて退散し、上がるのを待っていたら何やら怪しいやり取りを目撃したので暫く様子見。案の定、街を抜け出して行く二人を慌てて尾行――今に至る。
「まぁ、それは置いておいて……」
勿論、さっきの発言は冗談。どうやら、背中のヒビ云々の事は知らないと見て良さそうだ。
あれが何か解らない以上、知っている人物は少ない方が良い。
『お前は来ると思ってたよ』
己の勘という絶対の自信を持ってレーレは言う。
「どういう意味だ?」
『あの面子の中じゃ、お前だけが俺と近い感情を抱いたハズだ。だから、こっち側に来るだろうと踏んだのさ』
カーニャ達の部屋でした会話、あの光景を見て抱いた感情。
悠理の行動に対して肯定的な意見を持った者同士。
そこから考えれば彼女は間違いなくこっち側だ。
「――――成程」
言葉の意味を理解する。確かに、自分はこっち側なんだろう。
自由の使者と名乗るこの男に賭けてみたいと思っている。
あの二人――――――ノーレについては不明だが、少なくともカーニャは彼を危険視した。
今はまだそれほどの警戒心は抱いていないだろうが、いずれは亀裂を生むかもしれない。
その点、自分ならば有り得ない――――――そう、ファルール・クレンティアは断言できる。
もう既に彼の力に魅せられてしまっているのだから……。
「な、何の話をしてるんだ?」
一人だけ蚊帳の外――いや、話の内容からすればむしろ中心点のハズなのだが、あの会話を知らなければ彼に解るハズもない。
『こっちの話だよ。所でユーリ』
解らないなりに理解しようと頭を捻っている所に、一つの疑問をぶつける。
『今更だけどよ、あいつ等を置いてきて良かったのか?』
「良いんだよ。お前らも聴いてたろ?」
即答、迷いまったくなし。そうだ、彼女は宣言した。
「カーニャはいつか俺を止める女だ。だからこうして不信とか不満とか振り撒いておくのさ――決心が揺るがないようにな」
彼女に対して優しく接したり、こうして無茶なことに付き合わせるのは得策ではない。
そう判断した。世には適材適所というものがある。それに従うなら、今ここに居るべきはレーレやファルールである訳で……。
ここに居るべきでないのは彼女達、という事になる。勿論、悠理は帰ったらお説教の一つでも受ける所存だ。
『あー、お前が女にモテない理由が解った気がするぜ』
「ああ、乙女心を弄ぶ敵だな」
「――まぁ、外道だって自覚はあるよ」
冷たい視線が突き刺さる、何とも居心地が悪いが、自らの撒いた種。甘んじて受け入れる。
『外道って言う点じゃ俺の方が上だから気にすんな』
ニッカリと笑う死神。
「私も似たようなものだ――だから、こっち側に来たのさ」
生き抜く為に恥を晒してきた女騎士も微笑む。
――――ああ、成程。こっち側ってそう言う意味か……。
何となく先程の会話を理解した気がして悠理も笑う。
なんだ、案外俺達は似た者同士で、良いチームじゃないか――そう思いながら……。
――――――――――――――――本隊襲撃まで、あと15時間。
しまった、トリニティセブン見始めて気付いたら時間が……。
いつも以上に雑で御免よ……。