召喚されし少女・危険領域への覚醒
うおぉぉぉっ、ちくしょぉぉぉぉぉッ!
ブクマが二件も減ったぞ二件も!
――――まぁ、全五章構成だと知って付き合いきれねーぜ!、って言う人かも知れないと思うとしょうがないけどさ。
――――赤髪の死神達が激突を始めた頃。家から飛び出したクーネット、真琴、咲生の三人は慌てて物陰に隠れ、身を低くする。今まさに来襲者達のぶつかり合いで生み出された衝撃から身を守る為だ。
『――――ッ!』
「こ、これは――――」
「――――酷い……」
一応の安全を確保した三人は改めて惨状を目の当たりにし息を呑む。
視認できる範囲内では怪我人は居なさそうなものの、周囲から絶えず悲鳴が上がっており、幾つかの家や蔵らしき作りの建物が鋭利な刃物で切り裂かれた様に破壊されていた。
『オラオラァッ! そんな程度かよイーシャ!』
再び上空を見上げれば、来襲者の内、男の方――――グウェイがこの破壊を生み出している事が解る。
片割れの女ことイーシャは常に彼の上空に陣取って接近戦を仕掛けていたが、相手はそんな彼女に付き合う気などないらしく、無造作に鎌を振り続けていた。そうなると刃から放たれた衝撃波は無慈悲に、そして無造作と言っても良い迷惑さで村を次々と襲う。
『クッ、相変わらず何て卑怯な…………!』
イーシャは『しまった』と苦い顔で、衝撃波から村を守るべく高度下げ、自らも鎌を振るって衝撃を相殺。
しかし、その全てを防ぎきることなど出来ない。だから住民に直撃しそうなものだけ選択し、打ち落としていく。
幸いな事に、この“キサラ一族の村”には亜人種しか居ない。普通の人間達よりも優れる身体能力、危機察知能力から彼等は既に退避行動に移っていた。なのでイーシャが防ぎきれなかった攻撃が建物を破壊したとしても、余程のパニック状態に陥って居なければ避けれるレベルである。
実際、村人達は悲鳴を上げてはいたものの、恐慌状態には程遠かった。大人達が中心となって村の裏手にある森へと女子供を避難させていく。そんな中、一人の垂れ耳少女が物陰に隠れたクーネット達に気付き、グウェイ達に悟られぬ様、彼女達の元へ高速スライディングで飛び込む。
『――――!』
『――――――――!?』
『――――――――! ――――――――!』
『――――――――ッ!? …………っ』
クーネットと飛び込んできた少女が矢継ぎ早に会話を交わす。すると、クーネットの顔からサッと血の気が引いた。何かを耐える様にぐっと唇を噛み、拳を痛いくらいに強く握っている…………。
その様子を唯事ではないと感じながらも、彼女達の言語を理解できていない咲生は困惑するばかりだ。
どうやら嫌な情報を掴んでしまったのは確かな様だが…………。
「敵の正体は不明……いきなり襲ってきたって言ってる。それと――――召喚士を出せって、上で戦ってる男が言ってたらしい」
「もしかしてそれって…………クーネットさんのこと?」
「――――だろうね。会話から察するに、ボク達を呼び出した事が連中を呼び出すキッカケになった可能性大って感じかな…………」
「仮に正解だとしたら洒落にならない欠陥を抱えた召喚儀式じゃない…………」
背筋に感じる嫌な予感と汗に顔を強張らせた咲生の手をぎゅっと掴み、真琴が状況を説明した。今しがたのクーネット達の会話、そこに推測を交えて解答を模索。
けれど掴んだ事実らしきものは真琴と咲生の現状を悪くするだけのものだった。
――――自分達が呼ばれた所為でこの惨状は作られた。
呼び出した張本人であるクーネットは勿論、呼び出され巻き込まれたと言ってもいい咲生達も、胸中に言い知れない不快感と罪悪感が交じり合って気持ちが沈む。
基点だろうと結果的にだろうと、現状を引き寄せたのは自分達。責任を負う必要はないのかも知れない。
反応を窺うにクーネットもこんな事態になるとは予測できなかった様であるし、咲生達がここで何かを背負う理由なんてものきっと。
――――しかし、心のどこかでは何とかしなければと思う自分が居るのもまた事実。
「――――クッ……、ボクの能力って何なんだ…………。この状況で何も出来ないなんて…………」
真琴もそれは同じ様で、空中で戦う二つの影と、その衝突の余韻で破壊されていく村を見てはギリッと歯軋りしている。元々正義感の強い少女なのだ。こんな一方的な破壊行動を許しておけるハズがない。
――――では自分はどうだろうか? 恋人が歯痒さに苦しんでいる姿を目の当たりにして、咲生は己に問う。
答えは――――――――解らない。何故なら自分自身もこの状況で何をやれるかなんて解らないのだから。
「それにしても…………一体何者何だろう? 宙に浮いてるし、鎌持ってるし、あれじゃまるで――――死神だわ」
己への問いを棚上げして、逃げる様にそんな事を言う咲生。いや、単純に気になったことが口をついて出ただけだったのが。しかし――――その逃走行為が、ある意味で正解だと知ったのはその直後のこと。
『上級死神グウェイ、同じく上級死神イーシャを視認。解析開始』
彼女の耳だけに届いた機械的な報告音声、それこそが覚醒への一歩。
「――――えっ?」
「どうしたの咲生?」
「真琴、今…………何か言った?」
「いや……何も言ってないよ?」
ハッキリと聴こえた声に戸惑い、それが恋人の、ましてや今尚話し合いをしているクーネット達とは違う事に気付く。そしてそれが真琴達には全く聴こえなかった事に対しては、何故か妙に納得もしていた。
突然の質問に不安そうに顔を曇らせる真琴に、申し訳ないと思いつつ瞼を閉じる。
すると――――。
『対象の目的はアナタと、浅野真琴を召喚した際に貸与した力の回収だと推測されます。二人が争っている理由はについては不明』
――――またも機械的な無機質な音声。“声”じゃない、それはやっぱり“音声”と呼ぶべき異質な感じがした。暗闇に染まった世界の中で、咲生は試しにと心の中で質問を思い浮かべる。
(――――誰なの?)
そうすれば伝わると直感が告げていた。自身もまたその直感を疑いもなく信じたことに驚く。
普段、そんな風に自身を持って行動できるタイプではないと言うのに。
――――だが、やはりその感覚は間違っていないと知る。
『ワタシはアナタ。アナタの身に宿った能力。この世界でのみ機能するアナタのシモベ』
(私の……能力?)
それは――――祝福と言う事だろうか? 返答に対して咲生の戸惑いと驚きは更に大きくなるばかり。
けれど、彼女の祝福は主の心で成長するそんな感情を知った素振りもなく更に続ける。
『yes、ワタシは“名無し”で“不定形”。アナタが望めばワタシはそれに答えようと変化と進化を繰り返す。そうして強くなっていく、総てはアナタの心次第』
(心の有り様でその姿を変えていく――――不定形の力?)
もしもそうなら…………かなりチートと呼ばれる力なのではないか? 決まった名も形すら持たず、思うが侭に変わっていける。つまるところそう言う事なのだから。
『exactly。先ずはアナタを取り巻く環境を把握し、適応しましょう』
(ど、どうやって?)
能力として異端さを本人(?)が認めた所で、“名無しの不定形”と名乗る祝福が主に指示を送った。
教師の様な言い回しに、思わず生徒の如き態度で咲生が聞き返す。そうすれば、やはり教師口調で祝福は答えた。――――何故か、咲生に最も効果があるであろう言い方で。
『心の中で強く願って下さい。この現状でアナタは怯え震えることを望みますか? 何も解らぬまま、自身や恋人が窮地に立たされる事を望みますか? ――――アナタのご両親が亡くなれた時の様に』
(ッ!? ――――――――嫌よ…………)
事故で亡くなった両親の事は今でも彼女の胸に、心に巣食うトラウマ。八年の時が経過しても癒えることない深い、深い傷。脳裏に血塗れの両親が浮かび上がり、人の肉が焼き焦げる臭いを思い出してしまう。
耳には父と母の虫の様な吐息、苦しみ、震え、絶望しながら死んでいった肉親の声が蘇る。
――――咲生はひたすらそれら全てを嫌悪し、拒絶した。イヤだ、もうあんな思いはしたくない。
自分も真琴にも、その他の誰にだってあんな死に方はして欲しくないと。
もうに二度とあんな光景を体験するのは嫌だ。そう心の底から。トラウマが恐怖として喉元にせり上がり、必死に掻き消そうと拒絶する。
『もっと強く。今この瞬間、全ての思いをそこに込めるのです。アナタが強く望まなければ世界は変えられないし、変わらない。だからもっと――――』
その高まっていく想いと、必死の願い。まだまだ足りないと、その身に宿ると言う力が狡猾に諭す。
(絶対に――――嫌! もうあの時みたいなのはイヤだ! 何も解らないまま大切な人を失いたくなんて――――)
――――そして恐怖に逃げ惑う少女はその落とし穴に嵌ってしまう。
彼女は気付いていない。自分が選択したハズの行動が、巧みに計算された運命の悪戯だと言う事に。
「――――私は絶対にイヤだっ!」
『――――――――!』
「さ、咲生っ?」
いつしか心の中だけだった叫びは口から迸っていて、いても立っても居られなかった身体は溢れんばかりの活力に背中を押される様に、物陰から咲生を飛び出させていた。
突然の行動にクーネット達は成す術もない。真琴とクーネットが物陰から出て、大声で彼女を呼びながら追いかけるも虚しく、咲生は空中戦を演じる死神達へと駆け寄っていく。
『あぁん? …………ハッハー! 感じるぜぇ? そこに居やがったなぁッ!!』
最悪な事に、召喚士であるクーネットの存在にグウェイがいち早く気付いてしまう。眼前に浮かぶイーシャに迷う事無く背を向けて、得物へと一直線に加速する。
『クッ! 待ちなさいグウェイ!』
唐突に背中を見せらた事で、彼女は何かあるのかと勘繰ってしまい、グウェイに加速する隙を与えてしまった。その所為で、一手行動が遅れてしまう。慌てて追いかけるが、追いつけないのは明らかだ。
それに背中から攻撃して回避された場合、イーシャも村の破壊を手伝ってしまう事になる。
自分はグウェイとは違う、その矜持が彼女の行動を更に遅らせ――――彼を射程圏内へと辿り着かせてしまった。
『オラァッ、さっさとその命――――寄越せやぁッ!!』
『――――――――!』
「クーネットさん! ボクの後ろに下がって!」
鎌を構えながらクーネットへと急降下するグウェイ。させはしないと身を挺して庇う真琴。
そして彼女達よりも少しを走っていた咲生はと言うと――――――――。
「……………………」
『――――?』
「――――咲生?」
立ち止まって突撃してくる死神を虚ろな目で捉え、生気の無い声でこう呟いた。
「――――死神グウェイ…………ヲ、認識。戦闘ヲ開始…………!」
――――それは果たして本当に彼女の声だったのか?
あまりに無機質で感情を覗かせない響きに真琴とクーネットは嫌な予感を覚えるのだった。
次回、バーサーク。