召喚されし少女・異世界へと引きずり込む襲撃者
ウヒヒャホロレヒィッ!
えー、今回は短めです。
ちょっと長くなり過ぎて書き終わりそうになかったんで分割商法。
本当は咲生達が戦いに巻き込まれる所まで書きたかったんだですけどね…………。
何か書いてたら妙な展開になっちゃったんで、咲生メインはまた後日と言う事で。
『ハッハッー! オラオラァッ、さっさと出てきて下さいよぉ! 召・喚・士・サ・マァッ!』
――ノレッセア大陸東方、南方との境界線ギリギリの山奥、そこにひっそりと暮らす“キサラ”の一族。
穏やかに過ごす彼の平穏を壊したのはそんな野蛮に声を荒げる輩であった。
突如を村の空から襲撃をかけたこの男――――赤いローブにこれまた真っ赤な刀身の鎌を持った赤髪。
一目見て赤尽くしの男だった。彼は唐突に現れた自身の姿を見て驚く住民に向かってその鎌を振り下ろす。一振りすればそれは真空を生み、荒れ狂って周囲に飛散する。
住民は危険を感じて何とか飛び退いて事なきを得るが、建物はそうはいかない。鎌鼬にあっけなく切り裂かれた家屋が音を立てて倒壊。誰も訪れない古い蔵であったからこそ良かったものの、それをキッカケに村中にパニックが伝染した。
恐怖に陥る人々の顔を見て男は満足気にニタリと笑えば、まだ足りないと言わんばかりに鎌を大振りに構えて――――――――止める。目の前に見知った顔が現れたからだ。
『グウェイ! 無闇に事を荒立てないでください! ワタクシは唯あの子の手掛かりを知りたくて――――』
『あぁっ? 関係ねぇよ、イーシャッ! オレだってこの召喚には一枚噛んでんだぜ。対価を求めるのは当然の権利だろうが!!』
赤髪の男、グウェイが対峙した同じく赤髪の少女イーシャを睨む。
この二人はここへ用があってやってきた。各々重要な用が。
お嬢様然とした気品ある佇まいの少女イーシャは、一ヶ月とちょっと前に異世界人召喚儀式に関わって行方を眩ました友人の手掛かりを求めて。
粗野で野蛮で暴力的なグウェイは召喚儀式に必要なエネルギーを提供した対価を取りに。
元々、腐れ縁のある二人は今回もそうなった様に、同じ場所に、けれど違う目的で辿り着いてしまったらしい。こうして鉢合わせてしまったらどうなるかなど、考えるのも馬鹿らしい。
――――イーシャは溜息を一つ零して、スッと宙に手を伸ばす。そうすれば、次の瞬間にはゆらりと手に鎌が収まっている。まるで呼吸をする様に、それが当然だと言わんばかりの自然さで。
『………………どうしても聞き入れてくれないのですか?』
諦めた表情で無駄だと解っていても、彼女は礼儀としてそう聞いておく。
イーシャは情報を集められればそれでいい。結果的にそれが不発に終わったとしても、儀式に支払った対価を求める気はない。
今回の件に関しては友人の手掛かりを少しでも欲しかったから、試しに自分も儀式と関わり合いを持てば何か得られるかも知れないと思ったからだ。
けれど――――グウェイは違う。この男は同族の中でも悪辣、性根の腐りきったクソ野郎だ。
弱者をいたぶり、精神的にも肉体的にも、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲り尽くしてから殺すことを好む下劣極まりない悪童…………。いや、彼女達が何者であるかを考えればそれが本来の正しい姿なのかも知れない。
そんな死神に相応しい男であるグウェイ・ターキソンは退屈を嫌う。
今回の召喚儀式に関与したのもそれが理由なのだろう。現にこうして村を襲撃し、無差別に攻撃を行った。認めたくはないが、彼は同族でもトップクラスの実力者。
例え、儀式に力の幾らかを力を吸われたとしても、この場に居る住民達よりも圧倒的な力を持っている事には変わりない。だからこそ――――――――イーシャは許せない、気に喰わない。
鎌を静かに構えて戦闘態勢。死神らしからぬ正義感。しかし、それこそがイーシャ・グライクェンの誇り。その確固たる矜持こそが彼女を彼女足らしめているのだから。
――――弱者を笑って蹂躙するなど…………知性ある者として恥ずべき行為!
『へぇ? やるのかい優等生? 実力は同等でも百戦錬磨にして実践派のオレに勝てると思っ――――』
イーシャの性格を嫌と言う程に知っているグウェイは呆れ顔で肩を竦めた。『やれやれ、お嬢様の我侭がまた始まった…………』とやや大げさに。
――――が、余裕綽々な態度は転じて言えば油断そのもの。だからグウェイは無様にも、その頬が彼女によって放たれた不可視の刃に切り裂かれていたのに気付くのが遅れたのだ。
『――――ご託は良いです。邪魔をするなら……ここで潰れなさい!』
この技は彼女の十八番。予備動作なしで、まったく動いて居る様に見えないにも関わらず斬撃を射出する技法。今のは挨拶程度の本当に“撫でる”レベル、つまり『アナタはいつだってどうにでも出来ますのよ?』と言われたも同然だった。
そんな挑発全開の誘いにグウェイは――――――――。
『ヘヘッ――――面白ぇッ!』
笑って突撃する。この五百年余り、日頃から気に食わない女だと思っていた。
いつか隙が出来たら絶対に殺してやる。そう思い続けて結局数百年が経過しても、憎まれ口を叩き合っては殺し合いする不思議な関係は変わっていない。
『腐りきった縁――――今日この鎌で叩き切ってやらぁッ!』
『それはこちらの台詞ですわッ!』
――――二人の死神は数百年に渡る私怨を撒き散らしながら、大陸東方の隅っこで殺し合いを始めた。
今日こそは決着を着けると、何度目になるかも解らない思いを死神の魂である鎌に込めて。
次回、咲生の能力とその片鱗。