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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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第一章エピローグ・苦労する女達

えー、約九ヶ月かかって第一章を終える事が出来ました。ありがとうございます!


引き続き、毎日更新をやっていく予定なので長い目で見守って頂けたらと思います。

 ――――廣瀬悠理召喚から四ヶ月経過…………。

 それは即ち、彼がグレッセ王国を出てから既に三ヶ月がたったと言う事である。


 流れた月日で変わった事は多く、悠理が居なくなった怒りと悲しみは日々の忙しさに忙殺されていく…………。そう、現にカーニャはそのクチだ。

 彼女は今、グレッセ城の執務室で公務に励んでいた。何故、カーニャがそんな事をしているのかと言うと――――それは国民のハートを掴んでしまったからだ。


 式典での一件で彼女――――レイフォミアが国民にしたことの反響は大きすぎるものだった。

 その為、国民の総意と政治的な意味合いも兼ねて、カーニャをグレッセの中心人物として扱う様になったのは悠理が出て行って数日後。


 国を動かすのはヨーナリアとその補佐になったセレイナ。軍を指揮するのはアルゥソとなったカーネスと、客将待遇のファルール。カーニャは主に人々の意見を纏めたり、住民へのこまめな訪問を行っている。

 そうする事で国民の不安や悩みを軽減させるのが目的だ。


 ――――が、人と言うのは現金なもので。滅多にこれない王や女王よりも、度々訪れる聖女の方が人気が出てしまったのは王家最大の誤算。

 そう言う経緯を経て、カーニャはグレッセ城で書類仕事もやらされる様になってしまっていた。

 国を運営するに当たって形式と言うのは頭に叩き込んでおかねばならない重要事項。


 書類に記された内容を閲覧し、国の状態を常に把握。些細な情報も押さえておく事が肝要。

 さすれば、それはいついかなる時も役に立つもの――――と言うのが、王家に仕える忠臣からのありがいお言葉だ。


「むぅ~~~~~~」


 そんな訳で、執務室には書類とにらめっこするカーニャの唸り声が漏れていた。

 内容は近隣諸国の情勢、国交問題。流民への対応、新たな居住地の確保等々…………。


 上げられた報告書はカーニャが関与していないものが殆どだが、聖女を演じる上ではやはり詰め込んでいなければならない。――まぁ、実は公の場へ出るのはレイフォミアの役目だったりして、彼女はあまり出番がなかったりするのだけど…………。


「姉さん、こっちの書類に判子をお願いします」


 頭の弱いカーニャを執務補佐としてサポートするのはノーレ。

 ちゃっかり、と言うべきか、元々頭脳労働担当なだけあって彼女は王国の仕事にも直ぐに馴染んでいた。

 今では国の方針に助言する事もしばしばあって、『流石は聖女様の妹』と有能さを認められている。


 ちなみに、今しがた判子を求めたのは『他国への訪問と世界に迫る危機についての講演』と書かれた書類。その認可を求めるもの。


 実はこの三ヶ月で、彼女達は比較的スムーズに大陸南方を統一させつつあった。

 完全なる統一にはあと数ヶ月必要だろうが、多くの国が助力を申し出てくれており、大陸南方の半分は既に話がついている状態だ。差し出された書類はまだ交渉が成功していない半分に関すること。


 カーニャは溜息を吐きながら判子を押す。内容はロクに確認していなかったが、ノーレが目を通している時点で問題ないだろうとの判断。間違ってはいないが、決して身内以外では見せられない姿だった。

 恐らく、王家の忠臣達がみたら叱責ものだろう。かく言うノーレも苦笑するしかないと言った表情。

 

 それに気付かぬフリして彼女が次の書類に目を通そうとすると――――――――コンコン。

 執務室のドアがノックされる。そして、入室を許可する前に扉が開いて――――。


「カーニャどの、午後から騎士達の訓練を見学に――――」

「カーニャッ! 夜には周辺貴族を招いて舞踏会じゃ!」

「今回の目的は、言うまでもなく大陸の危機を知らしめる事にあります。くれぐれも逃亡したりしませぬ様に」


 ――――ファルール、リスディア、マーリィの三人がぞろぞろと入室。

 各々、聖女としての彼女に用があったらしく、入ってくるなり用件を切り出す。


 唯でさえ慣れないデスクワークをこなしている最中、三人揃って一遍に話しかけられると、イライラが募ってしまうのも仕方がない事で…………。


「――――ああもうッ! 解った! 解ったから!!」


 頭を押さえてついつい怒鳴り散らしてしまうが、これはもういつものこと。

 流石にもう何度も繰り返してしまうと、ファルール達も動じない。黙ってカーニャが落ち着くのを大人しく待っている…………と、コンコン。再びノックの音、そして例に洩れず言葉をかける前にドアは開かれる。


「――――失礼します」

「皆さ~ん、お疲れではないですかぁ? トコヨの方から流れて来た商人が良い茶葉を――――」

「おい、ヨーハ。一応、公務の時間なんだから言葉遣いはだな……」

「え~? 別に良いじゃないですかぁ……。ここに居るのは全員身内なんですし」


 入ってきたのは正装したヨーナリアとセレイナ、その手にはティーポットやお菓子が乗せられたキッチンワゴン。

 何故そんな物をと聞かれると、二人共公務の合間にここへ訪れてはカーニャとお喋りして休憩するのが日課となってしまっているからだ。

 だからこの場では彼女達も仲間として普段通りの口調で過ごす。


 大陸南方の意志を半分でも統一できたのは二人の手腕あってこそ。

 だからこう言う息抜きの時間があったとしても許されるだろう。


「――はぁ、もう好きにしろ……」

「は~い♪」

「……アンタ達は相変わらずねぇ。じゃあ、皆で休憩しましょうか?」


 ヨーハがヨーナリアとして公に姿を晒してからも、セレイナとの関係と交わされるやり取りは変わりない。何度見てもその様子がカーニャには可笑しくて、つい笑みを誘われる。


 頭脳労働でたっぷり寄った眉間の皺を揉み解しながら休憩を提案すれば、その場に居た面子は揃って頷く。反対意見が出なかったことでカーニャは大きく伸びをして、格好を崩す。


 どうも長時間椅子にじっとして座っているというのは性に合わない。


「はぁー……。解っては居たけど聖女役って大変だわ……」

「カーニャどのはよくやって居ると思うぞ?」

「うむ、舞踏会もそつなくこなしておったのじゃ!」


 思わず溜息と愚痴が零れれば、仲間からのフォローが飛ぶ。――――と言っても、口に出した言葉は贔屓目なしの本心だ。レイフォミアの力を借りる事も多いが、彼女自身も出来ることはキチンとこなしていた。


「悪いな、本来なら俺様とヨーハがしっかりしなくちゃならないんだが……」

「例の一件でレイフォミア様の人気に火が着きましたからねぇ……。支持率が高いのは仕方ないかと」


 確かに国民はカーニャを聖女として、その内に宿した神に期待している――――が、それは素面の彼女も受け入れられていてこその成果と評価。

 それが三ヶ月も続いているのだから、カーニャの実力と言っても良いのか知れない。


 その身に眠るカリスマ性を見出したからこそ、王家もこうして彼女に期待していると言っていいだろう。


「手伝いますヨーハ」

「ありがとうございますマーリィ♪」


 お茶の準備するヨーハをマーリィが手伝う。結局、彼女達も今までと変わらぬ立ち位置である事を望んだらしく、こうして侍女仲間兼友人として親しい関係を続けている。

 この手の準備を専門家がすると動きに卒がない。それが二人も居るのだから、あっと言う間に人数分のティーカップと皿が並び、お茶とお菓子の用意が進んで行く。


「――――まったく、アタシ達がこんなに苦労してるのにアイツは何処で何やってるのかしら……本当にもう……」


 そんな侍女達の動きに感心しながらまたもや洩れた愚痴。

 ――――三ヶ月、既にそんな長い時間が経っていると言うのに一向に連絡がない。


 そもそも、カーニャは未だに自分達を置き去りにした悠理を許してはいなかった。

 今でこそ落ち着いているが、彼が居なくなった当初は散々文句を言い、隙あらばその後を追おうとしたのも一度や二度ではない。


 何とかこうして聖女役をやっていられるのは、悠理がヨーハに託した伝言『お互い一人前になったらまた会おう』と言う一方的な約束が功を奏していたりする。

 自分も彼も、聖女として、英雄として未熟。カーニャの願いを叶える為には、この世界を危機から救うにはもっと力を着けねばならない、と。


 その意図に気付いたからこそ、彼女はここで何とか踏ん張っている。まだまだ一人前には程遠いと自覚して、それでも尚前に進もうと足掻き続けている最中だ。

 ――――と、未熟さを自覚してはいるが、それにしたって連絡くらいは寄越しても良いのに…………と心は納得してくれない。 


「ああ、今はトコヨ地方のヨモツで何でも屋をやっているそうですよ~?」

「へぇ、そうなんですか。ユーリさんらし――――え?」


 そんな現状にカーニャがもう一度溜息を吐こうとした時、ヨーハの口からぽろっと重大な秘密が明かされる。あまりに自然な流れで語られたので誰もが一瞬、その意味が解らなかった。


「ちょ、ちょっと! アンタもしかしてユーリと連絡取ってたの!?」

「はい? 毎日の様に取ってますけど?」


 ヨーハが『あれ? 言ってませんでしたっけ?』と芝居がかった仕草で答える。これが演技でなくて天然だと言う事は、執務室に居る全員が知っていた――――が、今回ばかりは驚くほかない。

 しかしもしれっと毎日の様にとか言うものだから、カーニャのこめかみに青筋が立つのを誰も止められなかった。


「おい、俺様も初耳なんだが…………」

「それよりも一体どうやったのだヨーハどの?」

「――――貴女の祝福ですかヨーハ?」


 ジト目で返すセレイナ、ファルールは腕組しながら、マーリィは冷静に祝福――――精霊と交信してやり取りしたのでは?、と推測。

 そしてそれは実際半分だけ当たっている。――――当たっているのだが、ヨーハは顔を赤らめ、お腹を愛おしそうに撫でながらこう答えた。


「――――愛の力です…………ぽっ」


 ――――瞬間、執務室がなんとも言えない微妙な静寂に包まれる。それをいつもの冗談だと断じるには確証が足りない。何故ならこの場の面々にはヨーハが悠理と、形式的にも肉体的にも結ばれたと言う事実はバレている。

 実はうっかりセレイナが口を滑らせてしまったのが原因である――――が、今は一旦その事実を置いておく。


 ――――つまり、()()()()()()()()()()()()は十分にある訳で…………。


「えぇっ!? も、もしかしてヨーハ、アンタ…………」


 誰よりも早く我に返ったカーニャがその事を指摘する。

 すると、ヨーハは凄く恥ずかしそうな、それでいて幸せそうな顔で告白した。

 自分に宿った新たな生命を祝福する様に優しくお腹を擦りながら…………。


「……はい、お腹の中に――――ユーリ様との子が…………」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?』


 執務室から飛び出るほどに大音量の驚き。

 唐突な報告に一同は――――――――そりゃあもう大混乱だった…………。


「おいっ! 今すぐヨーハの護衛状態を最大まで上げろ!」

「セレイナ様ッ、騎士団総出でミスターを捕縛しに行きましょう!」

「み、みみみ、皆さん、おおお、おち、おち――――」


 珍しく焦った様子で顔を真っ赤にしながらセレイナが叫ぶ。

 ファルールは『こうしては居られない!』とやはり混乱気味。

 ノーレに至っては驚き過ぎて呂律が回っていない程だった。


 ――――が、何も混乱ばかりがこの場を占めている訳でもない。

 自分の中で驚きを冷静に受け止めたのは、リスディアとマーリィだった。


「落ち着いて下さいノーレ様……。ヨーハ、おめでとうございます」

「おおっ、ここに獣面との子が…………母親似であると良いのぉ……」


 二人はヨーハに元に寄ると先ず祝福する。彼女は嬉しそうに笑ってそれに応えると、リスディアが優しくお腹を撫でた。外見上はあまり変化していないように見えるが、触ってみれば確かに変化が感じられる。


 悠理とヨーハの子供を想像しようとしたリスディアが顔を顰めれば、ヨーハは不思議そうに首を傾げて言う。


「そうですか? 私的にはユーリ様似の元気な男を――――カーニャさん?」


 ――――しかし、途中で彼女の希望は止まる。この場に居る面子で唯一人、子供を授かった事に対するリアクションを返していない人物に気付いたからだ。

 気になって彼女に視線を向けると、その身体はプルプルと震えていて…………。


「ユーリの――――」


 ギリっと歯軋りが鳴り、カーニャが天井をカッと睨む。

 そして――――――――――――――――――――――――。


「――――バカァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」


 ――――口からはそんな罵倒の言葉が迸って。

 彼女は今度悠理にあったら絶対に文句を言うと、ささやかながらも決して譲れぬ、曲げぬの誓いを立てる。


 ――――果たして、現在大陸東方に居るらしい世界を救う英雄と、彼を呼び出した聖女が再会するのはいつになる事だろうか?

 それはきっと、これから始まる新たな戦いの果てに待っている物語だ。

 そして、世界を救う英雄譚はまだ始まったばかりである事を忘れてはならない。


 きっと明日にでも――――いいや、今もきっと遠い空の下では、虹を纏い、自由を謳う男が戦っているだろう。

 ――――物語は未だ彼なしで完成を迎える術を知らないのだから…………。


第一章 召喚されし男とグレッセ王国編(完)

えー、何故こんな打ち切り定番の『俺達の戦いはこれからだ!』で終わったのかと言いますと、ちゃんとした理由がございまして…………。


詳しくはこの後に投稿する第一章あとがきをご覧いただけたらと思います。

そちらの方は日付が変わって暫くしたらの投稿になるかと。

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