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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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信頼と奇策と駆け落ちする二人?

「あー、今日は疲れたわねぇ……」

「お疲れ様、姉さん」

 昨日と同じ様にベッドに寝転がりつつだらける姉に、ノーレは苦笑しつつも労う。

 疲れてしまうのも仕方ないこと。今朝、作戦の方向性が決り、二人が直ぐ街へ赴いてから日が暮れるまでずっと現場指揮をしていたのだ。

「まさか、アタシが指示を出す立場になるなんてね」

 悠理の発言によって大きな仕事を任せれてしまったと溜息。嫌な訳ではないが、人の上に立つと言うのはどうにも落ち着かない。生来の気質とでも言うべきか……。

「私も一杯喋ったから、少し疲れちゃった」

 唯でさえ人見知りをするノーレだ。大勢の――しかも、男性に囲まれて色々と話しかけられただけで何度パニックになったものか……。


「でも――」

 呟いて天井を仰ぎ見る、そこに浮かぶのは彼の笑顔。

 優しい笑みではなく、悪戯が成功したぞ、と喜ぶ悪ガキの様な笑み。

「これで良かったのかもね」

「うん、このままユーリさんに頼りっぱなしじゃいけないもんね」

 このまま悠理頼みの戦い方をしていては限界が来る。今、自分達には彼と肩を並べて戦うことは出来ない。だが、やれる事を精一杯やって支援する事は可能なハズだ。

 彼女達はそう考え、与えられた役目を全うすることにした。

 一人でない、たった一人では戦わせない。アタシ達が居る!――そう、胸を張って叫べるように。 

「もしかして狙ってやったのかな?」

「アハハッ、まさかぁー」

 否定するも、カーニャ自身もそうではないかと疑っている。現に、悠理に跪かされた住民も意識を変えて積極的に作業に参加していた。街は自分達の手で守り抜くんだ!、とやる気満々の面々にカーニャ達も面食らった程。

 そう言う変化を促したかったのだろう、彼は。人々に高い意識を持たせ、良い方向へ導いて行く。

 あくまで悠理はキッカケを与えるだけ、そこからどうするかは相手の選択に任せる。だが、そこにはきっと信頼があるのだろう。

 ――きっと、自分で答えを出して、やるべき事を精一杯やってくれる、と。

(凄いヤツよねホント……)

 ぎゅっと枕を抱きしめる。召喚儀式を行った日からたった三日、それだけしか経っていないのに自分はもうどれだけ彼に勇気付けられただろうか?

 これから何度彼に助けられるのだろうか?

「――ユーリ、アタシは……」

 アナタに――――何を返して上げられるのだろうか?

 そう口から出そうなった彼女の思いは――――。

『あ、姐さん! 姐さん達は居るか!』

 ドンドンと慌しくドアをノックする音に止められてしまった。


「その声――ブロン?」

 ――青銅戦士ブロン……。グレフ・ベントナーが造りし鎧三兄弟の末弟。ちなみに名前は悠理が安直に決めたもの。

「どうかしたんですか?」

 二人の声を聞いてブロンがドアを開ける。よほど慌てているのか、肩で息をしており、その度に鎧がカチャカチャと音を立てる。

『た、大変だ! ミスター達が――』

 まるで人間がそうする様に、かの鎧はあまりの緊急事態に言葉を詰まらせている。

 そして、鎧に効果があるかどうか解らないが、深呼吸を二、三度繰り返してから――――叫んだ。

『い、居なくなっちまった!』

「は、はぁぁぁぁぁ!?」

 居なくなった? 何でどうして!

 予想だにしなかった事態に、カーニャはさっきまでの気持ちは何処へやらで素っ頓狂な声を上げる。

『一応、書き置きがあったんだが……』

「見せてもらえますか?」

 姉とは対照的に落ち着きをみせるノーレ。会ってまだ三日しか経っていないと言っても、何の連絡もなしに居なくなるなんてありえない。それ位の信頼はしている。

『これですノーレの姐さん』

 渡されたのは一枚の紙切れ、内容はノレッセア公用語で書かれており、恐らくレーレが書いたものであろう。異世界人の悠理がこれほど達筆に複雑な文字を書けたりはしまい。

 そう推測しつつ書かれた内容を――――。


「…………あぁ」

「ちょっ、ノーレ!? ノーレ!」

『姐さん気を確かに!』

 ――確認して、気絶しかけた。咄嗟に反応したカーニャが妹を抱きとめる。

 見れば顔は真っ青、こんなぐったりとした表情を見たのは、姉である彼女さえ数回程度。

「一体何が書いて――」

 とてつもない嫌な予感を感じつつも、ノーレが手にした紙を引き寄せる。

 書置きの内容は――――。


“ちょっとユーリと本隊ぶっ叩いて来るので探さないで下さい レーレより”


 ――――想像以上に悪い内容であった!

「あ、あいつらぁぁぁぁぁぁっ!」

 唐突に理解する。悠理が自分達に大仕事を任せた訳を。

 ()()()()()()()()()

 元々、この街で篭城戦などする気は無かった。始めからレーレと二人で何とかするつもりだったのだろう。

 恐らくは何かしらの意図があったのかも知れないが、自分達を欺く為にそこまでするか?

 突然に身体を襲う虚脱感、今日頑張って街の住民達と成しえた事は一体なんだったのか?

 いや、この経験や胸に抱いた思いは決して無駄にはならない――――だろうが、何かこう……。

(ナニコレ、納得がいかないッ!)

 頭を抑えつつ、呻いていると再び慌しい足音が……。


『た、大変ですー!』

 今度はモブアーマーが凄い勢いでズザーっと床を滑りつつ登場した!

 その手に一枚の紙切れを握って。

「あぁっ、もうっ! 今度は何よ!」

 嫌な予感が更に加速していく、しかし見なかった事にも出来ないので八つ当たり気味に尋ねるが……。

『ファルールさんが何処にも居ないんですよ! それとこんな書き置きが――』


“ミスターの後をつけてくる。申し訳ないが、留守の間、部下をよろしく頼む ファルール・クレンティアより”


 嫌な予感ほど的中すると言うのは人間である以上、そこが異世界であっても変わらない様である。

「――――ぶちっ」

 あまりにあまりの事態についにカーニャの中で何かが切れた。思わず擬音を口に出してしまう程に……。

『あ、姐さん?』

『カーニャ様、どうなされま――――』

 心配する鎧達を余所に――。

「どいつもこいつも何だってのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 思いの丈を乗せまくったカーニャの魂の叫びが、グレフ邸を揺るがせるのであった。

スルハの街から脱走(?)した悠理とファルさん合流まで書きたかったけど、予想以上に長くなりそうなので区切りまーす。

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