遠い地で蠢く野望その一
えー、もう少しで第一章終わりだって言うのに申し訳ないんですが…………。
睡魔に襲われて頭が働かないので、分割商法を取らせて頂きたく存じます…………。
尚、睡魔に抗いながら書いたので、今回はかなりぐちゃぐちゃやも知れませぬ。
――――話は悠理がコルヴェイ王を撃退した頃。
戦いに決着が着いた一方で、撤退を余儀なくされたアルフレド達は“神出鬼没のルシアン”の手を借り、天空幻想城へと帰還を果たしていた。
最も、レディ・ミステリアの能力とは違ってルシアンの祝福では、幻想城を取り巻く結界を突破するのは不可能。だから、彼女は天空幻想城と空間を繋いであるポイントにアルフレドとアイザックを放り込んだだけ。
そしてその放り込まれた本人達はと言うと…………。
「チーフッ、無事ですかチーフッ」
天空幻想城のエントランスにアイザックの叫び声が響いている。倒れたアルフレドを抱き起こし、懸命にその名を呼ぶ。何しろ彼は重傷。右の肘から先がない。着ていた服を破いて止血はしたが、気休めに過ぎない。
「……何とか、ね……」
何度目かの呼びかけにぐったりとしながら、精一杯搾り出した様な声。
見た目以上にアルフレドは消耗していた。表情こそいつもの余裕染みた薄ら笑い。
けれども顔は真っ青で、身体は出血の所為か震えている。
「一体何があったんです……」
アイザックは彼に何があったのかを知らない。情けない話だがファルールに敗れて気を失った後、一足先にルシアンによって回収され天空幻想城へと戻されたからだ。
その目で見ても信じられない。アルフレドは戦闘に不向きだが、それでもルカから託された能力を駆使してそれなりに戦える。だからこそ、ここまでの負傷するなんて事は想定外もいい所。
悪い考えをするならば、ミスターフリーダムは予想以上の相手、と言う事になるが…………。
「いやぁ……、ちょっと甘くみてたよ……。状況は?」
「回収されたのは僕だけです。ルシアンの話ではアルレインは死亡、ギニュレアは戦闘不能の後、敵に回収されています。グレプァレンは戦闘後姿を消したようですが………………何故、そんな事を?」
聞かれた通りに、アイザックはあまり芳しくない現在の状況について語る――――が、最後に違和感を感じてそのまま口に出す。
アルフレドがこんな現状報告を求める事が未だかつてあっただろうか、と。
彼の祝福は“大陸全土を監視可能な力”。見ようと思えば直ぐに状況は確認出来るはず。いや、普段なら言う前に自分で調べていないとおかしいのだ。
アイザックの中で不安が膨れ上がっていく。そして残念な事にその懸念は現実のものとなって彼を襲う。
「実はねぇ、右腕と一緒に能力も潰されちゃったみたいでねぇ……。ルカのは使えるけど“監視”は出来そうにない、かな?」
「!? まさか……そんな……!」
申し訳なさそうに笑いながら告げられたのは最悪の事態…………。情報において最も優位に立っていた彼等の武器が潰されたのだ。動揺もするだろう。
勿論、使えなくなったら使えなくなったで他のやり方で情報集めは可能だ。――――ただし、今までの様にタイムラグ無しのリアルタイム映像で確認――――という訳にはいかなくなった。
今まで最速で相手の行動を掴めていたのが、今度からは出来ない…………。これは大きなハンデとなる要素だ。
「アハハッ…………、大丈夫だよアイザック…………! それに見合う土産は持ってきたんだ……」
重病人の様な血色の悪さを見せながらも、アルフレドは愉快そうに笑うと、懐に隠していた物体を取り出すと、アイザックへと渡した。今彼の手には、淡い光に包まれながらふよふよと浮かぶ、“真っ黒い何か”がある。
それは丁度、失ったアルフレドの右腕と似たような長さで…………。
「もしかして――――貴方の右腕ですか?」
我知らず声が震えた。だってそれは“元人の腕ではない”と断言できる。
深遠を覗いている様な深い深い闇。見ているだけでも気力が吸い込まれていきそうな錯覚さえ覚えさせる強烈に底知れなさ。
アイザックは嫌な汗が浮かぶのを抑えられなかった。それ程に不気味な異様さを“黒い何か”は放っている。
「ああ、そうだよ…………。複数の祝福を使って封印してある。これ…………を“情報開示のキングレイ”に……はぁ……、はっ……解析させてくれ……ぐっ」
息が徐々に荒くなっていきながらもアイザックへ指示を与え終える。と同時に、苦しそうに心臓を押さえるアルフレド。顔色は先程にも増して悪く、額には大量の汗を掻いていた。
「チーフッ! 今、例の液体を用意させてますから! もう少し持ちこたえて下さい!」
容態が悪化したことに焦りを隠せないアイザックだが、既に手は打ってあった。
レイフォミアが入っている“生命維持装置”に使っているあの液体――――“生命神秘の気”の一部でもある“回復作用向上効果”があるあの液体を、部下に言って取りに行かせてある。
原因不明の症状であろうとアレを使えば抵抗が可能。瀕死状態でも命を繋ぎ止められる程に強力な効果があるのは他ならぬレイフォミアの本体が証明済みだ。
「う、うん、大丈夫さ。それより解析を……もしかしたらこれが“欠片”かも知れな――――グフッ!」
――――欠片。それは世界再生を成し遂げる為に必要な力。彼等はずっと探していた。
世界に終焉をもたらす力に対抗するべく、対になる、もしくはそれを遥かに凌駕する力を生み出そうとしていた。アルフレドは悠理が使った“小宇宙の創成”こそ、そうではないかと睨み、未知のエネルギーに侵された腕を回収していたのだ。
――――が、その事を詳しく説明する前に限界が来て吐血した。ビシャアッ、と血が吐き出されてアイザックの腕と自身の身体を塗らす。赤い赤いが服を染め上げていく。
アルフレドはぼんやりと薄れていく思考で『あぁ、まだこんな所で死にたくないなぁ…………』などと思いながら、疲れ果てた様にゆっくりと目を閉じていく…………。
「チーフ!? ッ! こっちだ! 早く!」
その変化にアイザックが悲鳴を上げたが、部下があの液体を持ってくるのを視認して持ち直す。
数人の男達が地球で言うストレッチャーの様な器具を持ってくる。大きく異なるのはバスタブ(の様なもの)に車輪がついていて、浴槽らしき場所には緑色の液体が並々と入れられていた。
「急いでチーフをレイフォミア様の寝室へ! 僕は別件でキングレイの元へ行く。容態に変化があれば教えてくれ!」
アイザックの指示の元、男達がアルフレドを浴槽へと入れ、数人ががかりで確りと左右を支えながら走り去っていく。
その様子を見届けると、彼は自身に託された“黒い何か”を持って、天空幻想城一の知恵者“情報開示のキングレイ”の元へと走り出す。
――――アルフレドが祝福と右腕を犠牲にして手に入れたモノが、彼の計画に役立ちますようにと願いを込めて…………。
次回、コルヴェイ王の策。