表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
268/3927

祝杯、グレッセ王都!・旅の道連れ

うぃーす、どうも毎日更新で変な癖がついてしまったらしく、土日は平日の睡眠不足を補う為に昼寝を入れなくては持たないみたいで…………。


(休日になっても身体がいつもと同じ時間に起きてしまい十分な睡眠が得られていないのが現状)


そう言う訳で、土日に複数話更新と言うのは気合を入れなきゃ無理っぽいです…………。


うーん、でも何処かで頑張ってこの癖を治して生きたいところ!

 月が王都の人々を、グレッセ城を照らす。宴はまだ続いているが、殆どの住民はもう引き上げる頃合。

 そもそも、現在はミーマ――――地球で言う所の三月。地球とは気候に差があるものの、冬に該当する季節である事は間違いなく、夜の寒さは堪えるものがある。


 ――まぁ、未だに酒を酌み交わしている住民達はアルコールに当てられて寒さを感じていないのかも知れないが。


 そんなまばら人影と笑い声を避けて、暗闇から暗闇へと走る影があった。何か疚しい事があるのか、その挙動は全力全開、逃げの一手。――――と言っても、やけに迷いなく進むのを見ればそうでないことは明白だった。


『よぉ、ユーリ。準備は出来てるぜ?』


 影が街を抜け、外壁を越えると少女が待ち構えていた。深紅から色素が薄まった髪の色、黄色人種より若干白い肌。そしてその少女にしては乱暴な言葉遣いは悠理の相棒であるレーレ・テオグレイスであった。


 彼女の横には禍々しく波打った形状の角を持つディーノス――――悠理にとっての愛騎アズマが、旅に出る為の完全武装、準備万端で出迎えてくれたのだ。


「よぉ、レーレ。流石は相棒だな!」


 それを見て影――――悠理はニンマリと笑う。きっと彼女だったら自分の考えを呼んだ上で手助けしてくれると思ったからだ。


 レーレがカーニャの自棄食いに付き合わなかったのは全てこれが理由。ヨーハと結婚したからと言って彼女は薄情になってなどいなかった。それ所かこうして献身的に悠理を手助けしようとしている。


『へへっ、まぁな! お前の考えてる事なんてお見通しだぜ』

『グゲゲッ!』

「おおー! アズマも随分とまぁ――――ごつくなったな…………」


 照れ臭そうに鼻を掻くレーレの横でアズマが嬉しそうに鳴声を上げる――――が、その姿は悠理がグレッセ城で別れた後から大きな変化があった。


 ――――と言うのも、エスタラとの交戦で負傷したアズマは暫くの間静養が必要だと言われて様子を見に行けなかったのだ。悠理も悠理でこの一週間が住民のアフターケア――――ひいては自身の身体を休める必要もあって、中々時間がとれずにいた。


 先ず、大きく変わった外見と言えばその身体。前よりも一回り程大きくなり、平均的なディーノスとは比べ物にならない規格外の体格。もう本当に恐竜と言って差し支えない迫力だった。


 そして次にその角。エスタラ戦でものの見事に折れてしまった角が、どういう訳か再生している。

 それどころか、形状も前の様なナイフ上ではなく、剣で例えるならフランベルジュの様な波打った刀身に似ていた。

 ――――ちなみに、エスタラの角で切り落とされた尻尾は無事にくっついたらしく、猫の尻尾の様にゆらゆらと揺れ動いている。


 この異様な変化なのだが、実は――――エスタラが原因なのだ。正確に言えば、ディーノスの王種だけが有する継承能力の力と言うべきか。


 エスタラはアズマの勝利への執念によって産み出された一撃に破れ、死んだ。だが死に行く瞬間に、己の力――――その全てをアズマに継承させた。

 これは一方的なものであるが、王種としての血筋と言うか、血統を何とかして残したかったのかも知れない。そのお陰でアズマはこうしてピンピンしている訳である。


 そんな様変わりしたアズマをしげしげと眺めているとレーレが寂しそうにポツリと呟いた。


『それにしても――――本当に行っちまうのか?』

「応よ、暫くはこの景色も見納めだなぁ……」


 悠理が振り返って街の外壁を眺める。たった一週間ではあったが、中々に住み心地の良い場所だったと思う。少なくとも、またここへ帰ってこようと決意する位には。

 そんな真面目な雰囲気を漂わせる悠理へ、何故だか恥ずかしそうに、或いは不安そうにそわそわとした様子でレーレが尋ねる。


 その姿は相手のご機嫌を伺う様に慎重そのものである。 


『な、なぁ、ユーリ。あのよ…………』

「ん? どうした?」

『お、俺も連れて…………』


 ――――俺も連れて行ってくれねぇか? そう、言おうとした。これがレーレの慎重さ、そして不安の正体。

 悠理が出て行く事は解った。きっと誰も連れて行こうとはしない事も…………。


 それでも――――それでも自分だけは付いて行きたいと。けれど、それを真正面から言うのは照れ臭いと思う反面、断れた場合を考えて怖くなって――――良い淀む。

 ――死神レーレ様も弱くなったもんだと自嘲する。何を言われたって無理矢理付いていく位の強さは持っていただろうに。――――いや、よくよく考えれば自分はもう死神などではないのだ。


 だからきっとこんなにも不安になってしまうのだ。そう結論付けて、諦め様として…………。


「――――ってあれ? 何でお前準備してねぇの?」

『え?』


 意外そうに、不思議そうにした悠理の発言に目をぱちぱちとさせる。


「え? じゃねぇよ、さっさと準備して来い。人目が少ない内にさっさと離れようぜ相棒」

『つ、付いてって良いのか俺?』

「は? 何言ってんだ。当たり前だろ?」


 悠理は本当に『何言ってんだ?』と不思議そうな顔。レーレの不安に気付いて気を使ったとか、そう言う雰囲気じゃない。いつもの彼らしい自由な態度、自然体だ。

 つまりそれはレーレが常に隣に居るものだと疑いなく思っていると言う事で…………。


『…………い、い――――』

「い?」

『急いで準備してくっからちょっと待ってろバーカッ!』

「――――あいよ!」


 照れ隠しに暴言を吐いて、レーレは空を飛び、街中へと戻っていく。その表情が嬉しさで破顔していたのは言うまでもないが、悠理にはそれが確認できなかった事も言うまでもない。

 かくして、彼は飛んでいった彼女を見送るとくるりと、身体の向きを変え、外壁の影となっている場所へ目を向けた。そこに人の気配を感じたからだ。




「――――さて、お前等ともお別れだな。後は頼んだぜカーネス?」


 彼がその名を呟くと物陰から現れたのは全身包帯だらけの男――――カーネスと、彼に肩を貸す淫魔メノラであった。


「――今の私は唯の亡霊だよユーリ。……ありがとうメノラ、もう一人で歩ける」

『はいはい…………、世話になったわねミスター』


 それは捨てた名だと訂正を入れ、メノラに離れるよう促す。やれやれと言った感じで彼女は二、三歩ほど後ろへ。まるで夫を立てる貞淑な妻を髣髴とさせる立ち位置だ。

 端的に言えば息が合っている。お互いの距離感が解っているとでも言おうか。


 ――――そもそも、何故カーネスがここにこうして居るか? コルヴェイ王との戦いで玉座の間から墜ち、地面へと激突したであろう彼。しかし、口にした亡霊という言葉と違って、危ういがしっかりと生きていた。

 タネを明かしてしまうと簡単で、地面に激突してしまう直前にメノラが助けに入ったというだけなのだが。その後、メノラが献身的な介護をして――――今に至る。


 まぁ、『王の殺害に至る原因』となってしまった事から、式典でのセレイナの説明では『命を賭けてコルヴェイ王を足止めし死亡した』と言う事になっている。

 そんな訳で、彼がこうして生きているというのは何気にトップシークレットでもあるのだ。


「良いって事よ。それにしても…………結局お前等ってどんな関係なんだ?」


 メノラから浅はからぬ因縁があるとは聞いていたが、それにしては刺々しさはない。

 むしろ熟年夫婦の様な良い立ち位置が出来上がっている様にも思える。


 ――――が、どうもカーネスはそこの辺りには特に特別性を抱いてないらしく。


「? 唯の知り合いだが?」

『…………フンッ!』


 質問の意図がまるで解らないといった様子で、彼が首を傾げれば、メノラは納得のいかない様子で包帯だらけの背中に強烈な平手打ちをお見舞いした。


「グッ…………!? い、いきなり何をする!」

『い・い・か・ら! さっさと挨拶済ませちゃいなさい! 本当はまだ安静にしてなきゃならいんだから!』

「あ、ああ…………」


 怒りながらもその身体を心配する時点で、彼女の方はカーネスを大切に思っている事が解る。悠理でもその程度あっさり見抜けるというのに、当の本人はメノラが何で怒っているかも見当がつかないらしい。


「苦労してんなぁ…………。同情するぜメノラ…………」

『ふ、ふんっ…………同情なんていらないわよ…………はぁ…………』


 大きく溜息を吐いた淫魔に悠理が手を合わせて合唱。――――まぁ、鈍感男なのはカーネスを笑えないのはこの男もそうであるのだが…………。自分の事は案外自分では良く見えないのかも知れない。

 そう思うと、悠理とカーネスは意外と共通点があるのだろう。


 そんな鏡に映った似ているけれど似ていない相手にカーネスは話しかけた。


「やはり行ってしまうのか?」

「ああ、もう俺が居なくてもこの国はやって行けるだろう。英雄も居る事だし、なっ」


 質問に簡潔に答え、十年来の友人の様な気軽さで肩を組む悠理。

 彼の思惑を察し、カーネスが顔を顰めた。


「――――私にアルゥソ・ツイターを演じろと?」

「お前以外に適任が居るかよ?」


 そう、悠理は唯自分の影武者としてアルゥソ・ツイターをでっち上げたではない。

 この堅物な元騎士、現在亡霊なこの男が再び国の為に働ける様にと作り上げた仮面の英雄だ。


 だからこそ、“ある嘘(アゥルソ)()吐いた(ツイター)”。自分の身を隠し、人々を騙しながらも人の為、国の為に戦う哀れな男の名。

 勿論、指名した理由は彼の戦闘力があればアルゥソの中身が別人であるとはばれにくいと思ったからでもあるが。


「だが私は――――」


 ――――そんな資格などない。コルヴェイ王との戦いで捨て去った迷いがぶり返す。

 王の死と国の危機、その原因を担った男が国を救った英雄を名乗り出るなどと――――質の悪い冗談にも程があって、カーネスにとっては抵抗しかない。


 しかし、そんな事はないと言うように悠理は続ける。誰にも言わなかった秘密をそっと打ち明けるような笑みで。


「実はあの甲冑には元になったものがあるんだ。俺の世界にあった物語に登場する正義の戦士なんだ」

「尚更、私には似合わないじゃないか……」

「早合点するなよ。あれはな、悪を名乗りつつも正義を貫こうとした男の甲冑なのさ」


 ――――“甲冑ファイター”。地球でやっていたご長寿特撮番組だ。

 その新世代シリーズである“甲冑ファイタークワガー”に登場する“甲冑ファイターカブト”がそのモチーフ。


 そして、彼は番組上ではクワガーのライバルとして、敵サイドにありながらも一匹狼を貫くダークヒーロー的な立場にいた。基本的には敵対しながらも、組織が自分の信念と反する行いをした時は、自身の正義に従って行動するハードボイルドな男だ。


 悠理はそれとカーネスを照らし合わせている。最も、グレフに依頼した時点では自分が着るつもりだったので、それはそのまま自分が理想とした姿と言える訳だが。


 だから悠理は拙いながらも、この思いと魂よ伝われと言わんばかりに語る。

 堅物で頑固者の亡霊がもう一度立ち上がるキッカケを作る為に。


「お前は一度悪に墜ちた。もう正義を名乗る事は出来ない――――でもな、その心の内に正義を宿すのは間違いじゃねぇのさ」

「―――屁理屈だな」


「良いじゃねぇか、どうせ名も無き亡霊なんだろ? 悪の汚名は全部カーネス・ゴートライに押し付けて、アルゥソ・ツイターとして生きりゃあ良いじゃねぇかよ」

「随分と気軽に言ってくれる…………」


「堅物なお前はそれ位割り切らないとやり直す事も、前に進む事も出来なさそうじゃないか」

「――――耳が痛いな…………ハハッ…………」

「ハッハッハッ、俺もあんまり偉そうに人に説教できた立場じゃないけどよ」


 言葉を交し合って、最後には二人して笑う。玉座の間で真剣勝負を演じてから、互いの事は何となく理解していた。二人にはどうにも共通して融通の効かない“馬鹿な部分”があるのだ。

 男同士にしか解らない、どうしようもない“馬鹿”が。 


 だからこうして十年来の友人と言われても信じてしまう様な距離感で会話ができる。

 ひとしきり笑って悠理がカーネスと向き合う。両者とも晴れ晴れとした笑み。

 殴り合いの末に生まれた友情――――それに近いものを二人は感じている。


「――――ありがとうユーリ。私は私なりにアルゥソとして生きてみるよ」

「応、後の事は頼んだぜ? お前にだから頼むんだぞ?」

「…………解っているよ。ヨーナリア様達も国の民も守りきって見せるさ」


 キリッと顔を引き締めあう、悠理は信頼を送り、カーネスはそれに応えるべく誓いを交わす。

 ――――そして、それが終わると二人してまた笑う。


「ヘッ、じゃあお前の旅立ちに武運を」

「フッ、なら君の旅立ちに幸運を」


 拳と拳を突き合わせればコツっと軽い音。そこから伝わってくる感触も軽い。

 だが行為そのもの意味は軽くはない。男同士の約束はどんな誓約に勝る程に重く尊いのだから。


『ユーリ~!』


 拳をぶつけ合って暫くカーネスと強い決意と視線を交わしていた悠理に待ちわびた声が届く。

 頭上を見上げれば荷物を持ったレーレがこちら向かって飛んで来るところ。

 ――――つまりは、これが別れの合図と言う事になる。

 

「おっと、相棒が帰って来たみたいだ。じゃあ、お別れだな」

「ああ、今度会う時は全て終わった時かな?」


 一足先にアズマに跨って、レーレが降りてくるのを待つ。

 見送ろうと歩き出そうとしたカーネスにメノラが自然と肩を貸す。

 今度は礼も悪態もない。悠理はそれを見ながら――――なんだやっぱり悪くない仲なんじゃないか、と笑う。


「さぁな、みっともなく泣いて逃げ帰って来るかもよ?」

「その時は――――私が追い返してやるさ」

「――――じゃあ、世話にならない様に気をつけるとするかね」


 そんなやり取りをしていると、レーレが空から降りてきてアズマに跨った悠理の前――――自分の為に空けられたスペースにストンと収まった。身体が大きくなっているから、その辺りは実にスムーズだ。


 悠理はそれを確認すると風の流れを確認した後、背中にその風を受ける様に方向転換。

 彼が宣言した通り、先ずは風の向くまま気の向くままの進路だ。


「じゃあ、お前等――――アバヨ!」

『アバヨ!』

『グゲェェェ!』


 そんな挨拶を残して二人と一体は走り去っていく。このグレッセに守るべき大切な約束と人を置いて。

 でもそれは、約束も相手も守る為だ。見捨てた訳じゃない。

 そしてその証明は――――未来の彼等がしてくれるはずだ。


「――――私達も戻ろうかメノラ」


 悠理達の姿が視認で不可能になった頃、カーネス――――アルゥソ・ツイターがポツリと漏らす。

 その表情は何処となく嬉しそうに感じられる。


『…………やっぱアンタはそうじゃなきゃね』

「ん? 私がどうかしたか?」

『何でもないわよ…………フフッ、さぁ、明日から忙しくなるわよ?』

「ああ、出来たら君の力も借りたい。これからの事を考えるとグレッセは人材不足と言わざるを得な――――」

『あ~、はいはい…………』


 そんな会話を交わしつつ、二人は街の中へと消えて行く。

 国の再建と悠理から託された新たな戦いへと、その心を向けながら。

 ――――グレッセでの出来事はこうして幕を閉じる。次なる舞台は――――風だけが知っている事だろう。




これにてグレッセでの出来事は終了です――――が、第一章はもう少しだけ続きます。


予定としては次回が、アルフレドとコルヴェイ王の動き。

その次がエピローグと第一章のあとがきでお終いですかね。


あとがきではちょっとした発表があるので、気楽に待っていて下さいな。


それが終わればやっとこさ第二章でーす!

まぁ、序盤は悠理達出てこないけどね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ