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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
267/3925

祝杯、グレッセ王都!・旅立ちの気配

ウヒヒャホロレヒィッ!


何かブクマが増えてて遂に300ポイント越えました! わーい、ヤッター!


第一章が終わる前にまさかここまで来れるとは…………いや、志が低いとか言わないで下さいね?


先は長いんですからのんびり行きましょうぜ~♪

「ごめんなカーニャ…………。お前は気付かないだろうし、気付いたら文句言いそうだからよ…………」


 小さな寝息を立て始めたカーニャを抱きかかえる。

 口を通じて“生命神秘の気”を流し込み、アルコールを危なくないレベルで活性化させ睡眠を誘ったのだ。

 理由は先程口にした通り、これから黙って旅立つことを悟られない様にする為。きっと彼女は怒るだろうが、約束を果たす為にもこれは必須事項だ。


 いつか再会した時には罵られるであろう事を覚悟し、カーニャを抱きかかえたままバルコニーから出ようとすると…………。


「ユーリさん」


 バルコニーへ続く扉、その影から見知った二人の姿。どうやら待ち構えていたらしい。

 その顔は如何にも『全部解っている』と言いたげだった。


「ノーレ、ファルさん…………見てた? 聞いてた?」

「聞いてはいたが見てはいないよミスター」


 主の問いに受け答える女騎士の横で、ノーレも微笑んだ。悠理の腕の中で眠る姉を優しい瞳で見つめている。ああ、この子は本当に姉が好きなんだと、再認識するには十分すぎる表情だった。

 そしてその瞳が今度は悠理に向けられる。やはり、その瞳には悠理の考えは見透かされている様な気がして、溜息一つ吐いて、問われる前に己から話す事を選択した。


「――――カーニャ以外は気付いてたって認識で良いよな?」

「…………はい、その…………もう旅立たれるのですか?」

「ああ、でなきゃアルゥソ・ツイターをでっち上げた意味がない」


 ――――悠理はこのグレッセ王国を立つ。アルゥソ・ツイターは言わばその為に生まれた存在に過ぎない。


「影武者をここへ置いて自身は単身で大陸を巡る…………と言う事だな?」

「その通り、ここを世界再生の拠点とするみたいな事言って申し訳ないけどな」

「一国に留まっていては時間がかかり過ぎる…………ですよね?」


 流石に聡い――――いや、カーニャはその辺りが鈍すぎるので基準にするのは間違いだ。

 何が、と言えば、それは世界を救う為に各国の力を借り、先ずは大陸の意志を統一すること。

 平たく言えば、大陸の統一、コルヴェイ王の打倒が目的となる。


 ――――が、その為にはこの大陸南方を統一しなければならない。でなければ、コルヴェイ王率いる大陸北方アムアレアや、大陸西方女帝ジェミカが治めるラスベリア帝国とことを構える事すら満足にできまい。


 その為にはきっと時間が必要だ。それも下手をしたら数年単位。

 それでは駄目だ。レイフォミアが張ってくれている結界があとどれ位持つか解らない以上、この場に留まり続けている訳にもいかない。自分には世界を救える可能性があるのだから、その為に自分でもアクションを起こさねば。


 だが、大陸の意志統一に廣瀬悠理という存在は必要不可欠…………。


 だからこそ悠理はアルゥソ・ツイターを人々の前で演じた。しかもあの鎧なら“生命神秘の気”を使えなくても、その場に漂わせる事が出来る。それだけあれば、多くの人間には中に悠理が入っているか否かは解らないだろう。


 ――――まさか、ヨーナリアと結婚して新たなグレッセ王にまでなってしまったのは計算外もいいところだったが…………。


「それも当たり、一番の理由は俺の祝福を自在に使える様にする、ってーのが大きい。どうも、俺の力

は“認知”されなきゃ使えねーらしい」


 悠理が持つ祝福“悠久に輝く英雄”を何度か使って思った事がある。それは“人目があって初めて使える”と言うこと。己が英雄としての行動を見せ、誰かに認めてもらえなければ発現しないのだ。

 少なくとも、何度か一人で試してみたが一度も成功しなかった。特訓中にたまたま通りかかったレーレに見られてやっと成功した事で、その可能性に気付けたのだ。


 確かに“悠久に輝く英雄”の力は破格だ。悠理の身体を蝕んでいた“生命神秘の気”の代償も、完全にではないが回復し、暴走して“小宇宙の創成”が噴出する事も暫くはなさそうだった。


 そしてそれを、世界を救うと言う規模の力に発展させるには更なる認知が必要だと考える。

 ――――故に、大陸中へ己の存在と名を轟かせなければならない。


「だから大陸を巡ってその名を広めるつもりなのだな」

「まぁな、例えアルゥソ・ツイターじゃなくても“虹の光を操る男”が居て、そいつ等が世界を救おうとしてるって言う部分だけ広まればいい」


 名の違った誰かでも、“虹を纏う英雄”と言う存在として噂の一つにでもなればいい。そうすればいつかきっとそれが力になる日も来るだろう。


「さしあたっては何処へ行かれるおつもりですか?」

「――――フッ、風の向くまま、気の向くまま、さ」

「はぁ…………無計画にも程があるだろう」


 首を傾げたノーレに、悠理は迷い無く笑顔で答えた。

 でもその答えはブレまくっていて、ファルールの溜息誘発する原因となったのだが。


「良-んだよ。俺はこれで――――つーか、反対はしないんだな?」

「――――したら聞いてくださるんですか?」

「無理かな!」

「嬉しそうに即答しないで下さい…………はぁ…………」


 自由過ぎる悠理の言動についにはノーレまで溜息をつく始末。

 けれどもそれは確かに彼らしい。出会って一ヶ月ちょっとの間だったが、確かにそう思える。

 ――――が、やはり理解と納得は別。そう言う様にファルールが意を決して口を開く。


「――――せめて、私と白風騎士団だけでも付いて行く許可をもらえないだろうか?」

「駄目だ、この国は良くも悪くも俺の所為で目立っちまった。それが世界を救う為の作戦だったから仕方ないが、この国が立ち直っても暫くは他国との交渉――――下手すれば荒事になるのは間違いない。そんな時、実戦経験豊富な指揮者が居ると居ないのとでは違うハズだ」

「それは…………そうだが」


 主の傍に居て、運命を共にするのが騎士の務め。けれどその主は自由人ではあってもちゃんとした考えの元に国を出る決意をした。

 故にその説明は理にかなっている。ファルールの真面目な性格上、正論には文句を言えない事も折込済みで。


「ぶっちゃけ、この国にはカーネス級の人材が圧倒的に足りない。ファルさんやルンバ隊長、鎧三兄弟並みの武勇に長けた連中が居れば少しは安定するだろう?」


 この最後のダメ押しにファルールは完全に黙り込むしかない。

 ――――期待されている。置き去りを喰らう事には悔しさがある――――が、それ以上に寄せられた信頼を裏切る訳にはいかなかった。それは騎士特有の諦めだ。


 ここは素直に引き下がろう、騎士にとって引き際は大事なことだ。と自分を無理矢理納得させ、ファルールは無言で悠理へ近付く。

 そうして背を向けてカーニャを受け取ると、一歩下がった。


 今度は自分の番とでも言う様に、ノーレが下がった女騎士の代わりに一歩進み出て――――でも、やはりそこは彼女らしい控え目な尋ね方で――――。


「あの、私も駄目――――ですよね?」

「勿論駄目だ」


 ――肝心な時に押しが弱い所為か、またもや即答で一刀両断。

 あまりの迷いの無さに涙目になってしまったのは言うまでもない。


「あ、あぅぅぅ…………り、理由は聞いても?」

「ノーレの知識は旅に役立ちそうなんだけどなぁ…………。でもやっぱりカーニャを支えて欲しいかな――――あっ、こいつが目覚めたら適当に誤魔化しておいてくれると凄く助かる」


 苦笑しながら後のフォローを頼む悠理にノーレは内心ビックリしていた。と言うのも、自分から言い出した癖にアレだが、彼女は『自分なんて付いて行っても役に立たないのではないか?』と思っていたからだ。


 けれど彼は自分の知識をアテにしてくれた。自分では思いつかなかったセールスポイントを見出してくれた事が素直に嬉しい。

 ――――だってそれは悠理がちゃんと自分の事を見ていてくれたと言う証拠だから…………。


「――――解りました…………。ユーリさんが期待してくれるなら私も頑張ります――――で、でも、一つお願いが…………」

「何だ? 置き去りにする手前、ある程度の無茶だったら聴くぞ?」


 諦めたにしては妙に晴れ晴れとした微笑を浮かべ、おねだりをするノーレ。

 悠理は野球のキャッチャーばりの『ばっちこーい』の姿勢。

 ノーレは口を恥ずかしさできゅっと引き締めた後、真っ赤になりながらそのお願いを言葉にする。


「あ、あの、わ、私にもキス…………してくださいっ……!」


 緊張のあまりつい大きな声。しかも内容の羞恥心も手伝って声は上擦り、バルコニーへ続く道一杯

に彼女の恥ずかしそうなお願いが響き渡った。

 それを聞いた悠理はちょっと驚いた様にして、次にジト目で彼女を見た。ファルールの供述と異なる点があったからだ。


「――――見てなかったんじゃないのか?」

「ご、ごめんなさい、姉さんが心配で――――んっ!?」


 口では批判しておいて、ノーレが真っ赤になりながら弁解している隙に悠理が距離を詰め唇を重ねた。

 ビクッと震えた彼女をついでと言わんばかりに思いっきり抱きしめる。

 ――――暫く会えないのだから、これ位情熱的な思い出があっても良いだろうと、そんな言い訳をたてて。


「これで満足してもらえ――――――――お、おい!」

「あ、き、キスして――――きゅう…………」


 唇を離して希望に添えたかどうか確認しようとすれば、彼女は悠理の腕の中で目を回していた。

 時間にして約五秒程度。そんな短い繋がりだったと言うのに、ノーレには刺激が強すぎたらしい。


「自分から言い出してこれかよ…………はぁ」


 頭から湯気を出して気絶してたノーレを、とりあえず壁に寄りかからせて溜息一つ。

 でもそれは呆れと言うよりも、どちらかと言えば嬉しさを伴ったものだった。

 その証拠に悠理の顔には満更でもなさそうな苦笑が浮かんでいる。


「英雄どのは色々な女性から好意をもたれて大変だな」


 背後からは聴こえてきた声に振り返ると、今度はファルールが悠理にジト目を向けていた。

 間違いなく、女性特有のヤキモチ。普段なら気付かない鈍感男の悠理でも、そこまで刺々しい態度なら解らない訳が無い。そんな訳でいつもと違った態度でサラッと対応した。


「あっ、ファルさんもいる?」

「な、何を言っているんだミスター!? 私は騎士だぞ? そんな破廉恥な――――――」


 ――悠理が気絶している間に、大胆で情熱的なキスをする彼女から思わぬ台詞が出たが、その事実を未だに知らない彼としては『まぁ、そう言う態度するよね』といった感じ。


「そっかぁ、残念ダナー…………。じゃあ、俺はこれで――――」

「――――いります…………」


 わざとらしい棒読みをしながら、くるりと反転して去ろうとすると、パーカーの裾を控え目に掴んで止める手。振り返えれば顔を真っ赤にして顔を横に逸らした可愛らしい女騎士の姿。


 その普通の女の子みたいな愛らしく魅力的な姿は、同時に普段との姿を考えると可笑しくもあって…………。


「ぷっ、あははっ! ほんと、皆俺の何が良いんだろうな…………。でも、そんな皆に感謝してるって伝えておいてくれ。これはその駄賃だ」

「ミスター…………んっ、ちゅ」


 思わず出た笑い声は嬉しさの証。自分を受け入れてくれた人達には感謝の気持ちで一杯だ。

 でもそれを全員に伝えている暇はない。だからこそ、キスにその思いをありったけ込めた。そしてこの気持ちを代わりに伝えて欲しいと願う。


 接触はノーレと同じく数秒程度、名残惜しそうなファルールの表情に申し訳なさが募る。

 けれどもそれを堪えて悠理は一歩後ろへ下がって、気持ちを引き締め別れを告げた。


「――――さて、それじゃあ暫しの別れだ我が騎士ファルール・クレンティア。一つ我侭を言うのなら、俺の代わりに皆を守ってやってくれ。ここはこの世界でいつか俺が帰ってくる場所だから」

「ハッ、このファルール・クレンティア、その命、この名と騎士の誇りにかけてしかと果たして見せます!」


 主らしい言葉に女騎士はカーニャを背負ったまま跪き、主と騎士との間で誓約が交わされる。

 ファルールにはそれが妙に誇らしい。何だかんだと言って彼は自分を己の騎士と認めてくれたのだから。

 騎士としての生き方しか知らない身としては、その言葉で救われる部分もあるのだ。


 また悠理にはそのファルールの姿勢が嬉しい。自分にとって彼女は初めて出来た部下の様なもの。

 自分を肯定し信頼し、その命を疑う事無くこなしてくれる相手は貴重な存在。

 だからこそ大事な願いを託す足る相手なのだ、ファルール・クレンティアと言う女性は。 


「ありがとなファルさん。じゃあ――――行ってくるぜ…………!」

「お気をつけ下さい、我が王。どうか貴方の旅の道筋に光が溢れています様に…………」


 跪くファルールに背を向け、悠理が歩き出す。

 遠ざかる主の背中へ、女騎士が声援を送ると、彼はひらひらと手を振って応えた。

 決して振り返らない。それはこれから悠理が歩んでいく道に対する覚悟の様に思える。


 結局、ファルールは悠理の姿が見えなくなるまで跪いていた。そうしてやっと立ち上がると、不恰好ながらもノーレを強引に背中に背負い始めた。

 彼の命じた約束はもう始まっているのだ。一先ずはこの姉妹を安全な場所に放り込まねばならない。


「ヌッ…………重い――――が、これはこれで心地良い…………」


 主が預けてくれた守りたい人の重み。それを噛み締めながら、姉妹を背負って歩き始める。

 ――――主よ、お早い帰還を心待ちにしております…………。

 女騎士の願いが叶うのは果たしていつになる事やら――――。


 ――――それはきっと、自由気ままな風ですら知りえない。 

次回、相棒達。

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