祝杯、グレッセ王都!・未来と二人と
うへぇぇぇ…………、後半は頭が働かなかったから不完全燃焼。
ヨーハが悠理に抱く好意についての描写が、かなり抽象的過ぎて『それで好きになる訳あるか!』って言われそうなので、時間が出来次第加筆修正したい…………。
二人がナニをしたかはご想像にお任せします(ゲス顔)
――時はグレッセ王都で祝いの宴が開始されてより三十分後、グレッセ城、王の寝室にて話は始まる。
「んふふふ~♪」
「ど、どうしてこうなった?」
ガールヴ王がつい数週間前まで使っていたベッドに腰掛けて、アルゥソの仮面を脱ぎ捨てた悠理が唸った。左腕にはドレス姿のヨーハが満面の笑みで抱きついてる。
それはもうぎゅ~っと、胸の膨らみを惜しげもなく押し付けていた。
――――話を整理するに、セレイナがカーニャ達に伝えた面通しやらの話は物の数分で終わった。と言うより、そこの辺りは全てグレフが一手に引き受けてくれたのだ。
どうやら、結婚初夜と言う事で気を使ってくれたらしい。――いや、悠理の考えを見越した上で時間を作ってくれた、と言うべきか。
そんな訳で、今は王の寝室にてヨーハとセレイナの三人でお話中。話題は、どうしてこうなったのか?
仲間に対して自分の気持ちをハッキリ宣言したら、気付くと結婚の申し込みという事になってました!
――――うむ、我ながら良く解らん…………。整理した所で理解し易くなる訳もない話だった。
「いや、だから説明したじゃねぇか」
「意図は理解できても納得はしてないんだよ……」
セレイナの発言に空いた右手で頭を抱える悠理。
結婚云々と言うのは政治的戦略の一環だ。
国民にアルゥソとヨーナリアを受け入れ易くすると言う事が先ず一点。
そしてもう一つ、これは他国に対しての牽制策。アルゥソは大陸の守護神レイフォミアに選ばれた世界を救う勇者。今の所は自称に過ぎないが、この『世界を救う』と言う目的は崇高なもの。
そんな彼が一国に腰を落ち着けると言うのは、如何にも政治力を強める要因と成り得る。
この目的――――即ち大義名分がある限り、グレッセ王国には中途半端に手を出し辛い。
侵略しようとすれば、『世界平和』を妨げる、と批判される。露骨にグレッセと協力関係を結ぼうとするのもまた然り。
――――既にリリネットの“淫魔ネットワーク”を通じて情報は大陸全土に。レイフォミア作の“映像記録精霊石”によって録画された式典の映像も、淫魔達の手によって大陸南方全域へ運ばれている頃だろう。
大淫魔ともなれば別地方との淫魔にも顔が利く。ましてや同族同士を繋げるネットワークに距離はない。
今この瞬間も、アルゥソの名とヨーナリア結婚の報は別地方の人々に伝わっているハズだ。
些細な噂程度でも一向に構わない。情報が少しでも流れればこっちのもの。そうやってほんのちょっとずつでも、悠理の存在が広まっていけば何れ強力な武器になる。
そう見越した上での結婚宣言である。――――最も、この策は悠理の発言を上手く利用しようと考えて末のもので、あくまで幾つかあった戦略の一つを辿ったに過ぎない。
もしもあの発言が無ければ、セレイナは別の方向からヨーナリアをフォローしていただろう。
――――まぁ、結婚云々の話はそう遠くないう内に切り出すつもりだったのだが…………。
「前に言ったろ? 責任は取ってもらうって。それがこう言う形だったってだけだ。不満か?」
「ああ、大いに不満だね」
「――――えっ」
即答だった悠理の否定にヨーハがビクッと震えて笑みが凍る。
確かにセレイナの言う通り、“廣瀬流・足洗い拷問”をヨーハにかけた責任は取る事になっていた。
――――だが、それとこれとは話が別だ。自分の意志とは無関係に、あの発言をプロポーズとして捉えられるのは甚だ不本意である。何故なら――――。
「求婚するならもっと情熱的にしたかった!」
「おい、そっちかよ!」
「そっちって……他にどっちがあるのか?」
セレイナにツッコミが冴え渡るが、悠理に取っては重要過ぎる問題。
あんな愛の言葉一つないものを求婚ととられるのは何と言うか…………夢が無い。
確かに『ずっと傍に居て支え続ける』と言うのは如何にもな言葉だが、やはり結婚もそれに至る求婚も神聖なものだと彼は考える。
だからこそ、考えに考えて出した情熱たっぷりの言葉を相手にぶつけたい! と言う、顔に似合わずピュアな心の持ち主である彼は思う。
だから可能であるならリテイクを要求したい所だ。――――そんな時間は残されていないけれど。
「あ、あの、嫌と言う訳じゃ無いんですよね?」
小動物の如き慎重さでもって、おずおずと上目遣いを駆使してヨーハが尋ねる。
国民に夫婦として認知された事が嬉しくて有頂天だったが、肝心な悠理からの返事は訊いていない。
その事に気付いたら、不安で不安で………胸がきゅっと締め付けられる。――――いや、それは不安から一層強く悠理の腕を抱いた事で物理的に締まった所為かも知れないが。
しかしそんなヨーハの不安をよそに悠理は不思議そうな顔で。
「? 何で? 愛とか恋とか抱いてるかは解らねーけど、俺はヨーハのこと好きだぞ? 少なくともこうして夫婦って形になって喜ぶ位には」
「~~~~~~ッ、~~~~!」
「ミスター……、お前ズルいな」
――――夫婦と言う関係には前向き発言。これにはヨーハも堪らず撃沈。顔を真っ赤にして俯き、脚をバタバタと動かす。同時に悠理の左腕を思いっきり抱きしめて、胸も思いっきり当てまくった。
一連の流れに対してセレイナは完全な、これでもかって位にジト目だ。不安がっている相手にストレートに好意を打ち明けるなんて、不意打ちと言うか、狙い澄ましたというか…………。
とにかく、ヨーハの心にクリティカルヒットしたのは間違いない。
「別に自分の気持ちに正直なだけだが……そう言うヨーハは嫌じゃないのか? こんな野蛮人みたいなヤツが夫になってしまう訳だが……」
「そ、それは、あの……」
「――ミスター、お前バカだろ?。こう言うのは――――」
「――――訊かないのが礼儀ってんだろ? でも俺は聞かないと納得できないんだよ。話しただろ、元の世界じゃ俺はいくらでも替えの利く存在だったって」
いつに無く悠理の目に真剣さが宿る。自分を必要以上に卑下している訳じゃない。それでも事実として、自分が居なくなっても誰かが変わりになる様な立場に居たのは否定しようもない。
そんな風に考えていたから、『誰かから愛される、好きになってもらえる』など想像の埒外。
もしかしたら、誰かが恋愛感情を自分に向けていたのかも知れない。でも…………それに気付けとは無茶な注文だろう。
口に出してもらえなきゃ信じられない。案外、そう言う事に関しては廣瀬悠理と言う男は臆病なのだ。
「だから、カーニャ達が頼ってくれた時は本当に嬉しかったんだよ。俺は必要とされてるって、俺にも何かを期待してもらえるんだって、さ」
こんな場面で他の女性の話を持ち出すのは配慮に欠けるかも知れないが、これは悠理にとって大切な思い出であり基準。原点――――と言って差し支えない。
あの時、ああしてカーニャ達が自分を求めてくれたからこそ、彼は期待に応えようとしてここまでやってこれたのだから。
「そんな訳で、俺に少しでも好意があるなら証明してほしい。俺が必要だって、そう教えてくれよ」
「――――ズルいですユーリ様……」
じっとヨーハの瞳を覗く、潤んだ目に浮かぶは自分の姿。彼女は視線を逸らさない、頬を染めて羞恥に悶えた声で呟く。
「あー……、俺様はおじ様達と話してくるわ。ここには誰も近寄らない様に言っとくぜ」
「悪いなセレイナ様、気を使わせて」
「気にするなよ。それにもう様付けは良いよ。お、お兄様…………だろ?」
「は?」
「――――じゃあな……!」
見詰め合う二人に、真剣さと男と女の雰囲気を感じて、居心地が悪そうなセレイナは逃げる様にそう言って背を向ける。その背中へ悠理が礼を伝えれば、返って来たのは意外な呼び方。
思わず訊き返せば、耳を真っ赤にしながら彼女は乱暴にドアを開けて出て行く。バタンと大きな音が鳴って、暫し沈黙。
「――――アイツはアイツで祝福してくれたって事か」
「そう、みたいですね……エヘヘ……」
二人はそれがセレイナの照れ隠しだと気付くと自然と笑みを零した。どうやら、式典で悠理がヨーハの見方として名乗りで出たのと同じ様に、セレイナもまた夫婦となる彼等を祝福してくれた様だった。
それはやはり心強くて何よりも嬉しい事に違いない。ヨーハが浮かべた照れ笑いがその証拠だ。
「さて、二人っきりなったことだし――――聞かせてくれよヨーハ。ヨーナリアとしてでも良い。俺の事をどう思ってるか」
「はい、ユーリ様……」
姿勢を正して悠理が再び問い、ヨーハが瞳を閉じる。
ヨーハ・ヨーハは廣瀬悠理をどう思っているか? ヨーナリア・アード・グレッセはアルゥソ・ツイターをどう思っているか? ――――考えるまでも無い。違う名、違う立場であっても、目の前に居る人は自分を受け入れてくれる。
どうしてここまで心を惹き付けられたのか、まだ彼女自身も良く解っていない様な気がした。
強いて言えば――――その自由さに、それ故の気高さに憧れたのかも知れない。
コルヴェイ王に立ち向かっていく姿は今もこの目に焼きついている。
――――決して砕けない意志、決して挫けない心。あの時の姿はまさに英雄…………正直、ドキドキした。
あの気高い姿と並び立ちたい…………いや、無理だとしてもせめてその背中を追いかけていたい。叶うのなら背中を委ねてもらいたい…………!
故にヨーナリア・アード・グレッセ、並びにヨーハ・ヨーハは告白する。
「ヨーハとしてもヨーナリアとしても、私は貴方をお慕いしております。どうかこれから存分に可愛がって下さいませ……。この身も、心も全て貴方に捧げます」
至ってシンプルな告白。悠理がしたがっていた情熱的な求婚には程遠いだろうが、気持ちはありったけ込めた。ならばそのストレートな気持ちは必ず伝わる。
悠理は告白を聞き届けると、目を瞑ってそれを反芻させた。脳内で何度もリフレインし、言葉に乗せられた思いを汲み取っていく。数秒後、彼は満足した様に頷き、瞼を開いて微笑む。
「――そっか、ありがとう。もう、俺がこれからどうするかは気づいてると思うが……今は忘れよう。いや――――」
感謝を伝える。同時に心の中で『スマナイ』と謝っておく。自分が数時間後に決行する行動――――――――それは彼女を酷く傷付ける行為に他ならない。
だからこそ、今この瞬間はヨーハにとって幸せな時間とするべきだ。悠理はそう結論付けて、彼女の顎を持上げて顔を近づける。
夫婦となってくれた女性を不安がらせない様に、普段なら絶対に言わない台詞を添えて…………。
「――――俺が忘れさせてやるさ、ヨーハ……」
「あっ……、ユーリ……様ぁ……」
耳に届く背徳的な言葉に身をくねらせ、近付く顔にヨーハがゆっくりと瞼を降ろす。
漏れ出る互いの吐息が唇をくすぐり、やがてその距離は零になる。
「ん…………ちゅ、ヨーハ」
「んむぅ…………ちゅ…………ふっ、ユーリ様…………もっと――――」
唇を重ね合わせたシルエットは一つになり、更に深く繋がり、溶け合おうと絡み合ってベッドへと倒れこんで行く。――――今日と言う日を掛け替えの無い思い出とする為に。
英雄とその妻の結婚初夜は、言葉になれない位の情熱的な行為によって過ぎていくのだった。
次回、カーニャと。