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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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終戦、グレッセ王都!・式典、宣伝、結婚宣言!?その二

――――ふぅ、式典のスピーチを想像で書くってのも辛いよな……。


普通なら資料でも漁って参考にするべきなんだろうけど、今回はあえてしなかった。

臨場感を出すにはやった方が良いに決まってるんだけど、何かを参考になぞっただけじゃつまらないし、何より俺っぽさが減っちゃうような気がしてね。


俺は俺でやりたい事を自由にやるだけさ、変なしがらみに囚われちゃいけない――――よな?

 グレッセ王都の中央広場に金管楽器の音が鳴り響く。形状は若干違うが、奏でれる音はラッパのそれに近い。やはり、街並みや技術、文化などは人と言う規格として生まれた以上は似通うのかも知れかなった。


 少なくとも悠理にとっては、こういう所は異世界も現代日本も変わらない様に思える。


 音楽が止むと、中央広場のオブジェクトに並んだ人の列――――グレッセの内政を取り仕切る重役側から一人の男が進み出る。褐色の肌、白髪の髪と立派なに蓄えた顎鬚。

 壮年とは思えないほどに逞しい身体つきをした職人――――グレフだ。


 因みに、今回の式典の構図はこうだ。中央広場にある巨大なオブジェトの半分から前が住民やその他参加者。半分から後ろは騎士や貴族、国を運営するにあたっての協力者が並んでいる。

 この緊急避難用のオブジェクトがある事を考えると、どうしてもこう言う分け方をせねばならず、些か不便さを感じなくもない。


 本来ならば城からこういったイベントはやるべきなのだが…………。何しろ悠理とカーネスの戦闘、コルヴェイ王の襲撃で城はあちこちがボロボロだ。そんな姿を住民にみせるのも情けないと言う事で、今回は急遽こ

の中央広場を使用する事になった訳である。


 グレフは住民達が居る側――――つまりはオブジェクトの前半分を見渡しながら声を張り上げた。


「グレッセ王都の民よ! 我が名はグレフ・ベントナー、かつて王と共に戦い英雄などと称された者だ。この中には若き日の私を知っている者も少なくないだろう。暫くはこの街で新たな王の手助けをする。どうか覚えておいてくれ」


 簡単な自己紹介。普通なら臣下の中からこういう場合の挨拶は行われるべきである。

 ――――が、グレフがこの式典の司会進行を任されたのは、他ならぬ彼等からの要望であった。

 グレッセ王を慕う忠臣達は、その友人であるグレフに対しても同じく信を置いている。かつて同じ戦いを生き抜いた者同士の親交というものはやはり厚い。


 グレフ・ベントナーの名を聞き住民達がざわめく。名を知らぬ者など居ないハズもない。

 グレッセ王の親友にしてスルハの代表者。彼の造る作品く持つ事は一種のステータス。


 武勇、そして技術においてもその名は高く、人々にとっては自国の誇りであり、憧れともなる人物だ。

 そんな人物が王都へやって来た――――その事に希望を抱き表情を明るくする者。またはその意味を深く捉え、顔を険しくする者。


 反応は様々だが、皆一様にグレフの言動に注目し、次の言葉を待ち望む様にざわめきが止む。

 その様子を見計らってグレフが応える様に口を開く。


「さて――――もう知ってると思うが、此度の一件でグレッセ王は帰らぬ人となった……。そして、グレッセ領でも少なからず血が流れた事に先ずは黙祷を捧げたい……」


 右手を心臓に押し当て、軽く頭を下げて瞳を閉じ、故人への哀悼を示す。

 その場に居た悠理達、住民、騎士や臣下一同もグレフに倣って黙祷。時間にすれば約一分ほど。しかし、静寂の中にあってはそれはとてつもなく長い、長い時間だ。


 ゆっくりと目を開いたグレフは他の者が黙祷を終えるのを静かに待つ。やがて見渡す範囲で再び視線が己に集まった事を確認すると本題にを話始めた。


「――――さて、今回の式典は一連の経緯について……。そしてこの世界に起こっている危機について説明せねばならぬと思い、開催されたものである」


 ざわざわと広場一帯が騒がしくなる。グレッセ王国だけならまだしも、世界、しかもその危機とあっては穏やかではいられない。不安に心煽られながらも、人々は話を聞く姿勢を取る。

 今後、自分達に振りかかるであろう問題に挑む為に…………。


「少々長くなるが、皆の未来がかかった大事な話だ。最後まで静聴願いたい。……では――セレイナ様!」


 グレフがセレイナの名を呼ぶと、丁度オブジェクト中心にして住民達と騎士達を分ける間…………。

 高級宿がある左側のエリアから絨毯が延びてくる。真っ赤な絨毯を一歩一歩、力強いキリッとした姿勢で歩くのは正装したセレイナ姫だ。


 黒く露出は肩から二の腕部分のみと言うシックなスタイルのドレス。普段のポニーテールは解かれていて、腰まで届く黄色のロングストレートが歩く度に静かに揺れている。

 装飾は頭にティアラのみ、両手には亡き父の形見とも言える王冠。毅然とした態度でオブジェクトの前を目指し歩く。その迷いのない美しい歩き姿に、いつしかざわめきは収まっていて、唯々視線が釘付けになっていた。


 それは悠理一向達も同じだ。


(わぁ~、普段と全然印象違うわねぇ)

(そうか? 別にいつもと変わらねぇだろ)

(二人とも! シッ、ですよ!)


 王家の人間としての立ち振る舞いに目をキラキラさせたカーニャが小声で呟くと、悠理がそれに返し、そんな二人をやはり小声でノーレが叱り、二人は素直に姿勢を正した。

 

 しかし、実際は悠理の言う通りかも知れない。そうノーレは思っていた。

 表情と瞳はキリッと引き締められているが、それは普段の――――行動を共にして居た時となんら変わらない。セレイナはセレイナで、それ以上の何者でもない。

 きっと悠理はそう言いたかったじゃないか、と。


 やがてセレイナがオブジェへと辿り着き、悠理達を一瞥して微笑むと、住民達へと向き直った。

 そうして式典が本格的に始まりを告げようとしてた。王女の口が――――開く。


「――――グレッセの民の皆様、セレイナ・アード・グレッセです。先ずは最初に皆様をこの地に置き、一人敵の手から逃れた事を謝罪いたします」


 凛とした声に穏やかさが同居した様な奇跡的な響き。仲間に見せる口調、声色ではなく、国の責任者として振舞う際の言葉遣い。

 悠理達には始めて披露されるそれだが、住民達にはこの姿こそが本物なのだろう。


 ――――だから、セレイナが頭を深く垂れたのには収まったざわめきがぶり返すのも仕方がないと言えた。


「これで赦されるとは思っていません……。不甲斐ない私を思う存分責めてください。皆様にはその権利があります」


 グレッセ城がアルフレドに襲撃された際、王は後のグレッセを考えてセレイナを逃がした。

 ――――しかし、彼女にとってはそれは負い目となり、心を苛み続けていた。必ず助けると誓ったのは間違いない。けれども住人達を置いて自分だけ逃げ延びたというのも変えがたい事実。


 無事に彼等を助け出したからと言って、『はい、これでお終い』で済ませて良い事ではない。

 セレイナがこの国に対して取らなければないけじめ――――それがこの謝罪だった。言うまでもなく、王家の人間が庶民に軽々しく頭を下げる事態など早々あってはならないもの。


 下手をすれば人々の不満が募り、今後王家に対しての評判も悪くなるかも知れない。 

 どんな事であれ、自らの誤りを認めるという行為は波乱と混乱の為になる。


 ――――しかし、今回に限ってはそれは例外であった。


「そんな……! 顔を上げて下さいセレイナ様ッ」

「そうです! 貴女はこうして我々を助けに来て下さったではないですか!」

「我等グレッセの民、皆そのお心に救われたのです。どうか胸を張り、顔をあげてくだされ……」


 次々と住民から上がるのは非難の声ではなかった。王女としての姿を悠理達は知らないが、彼等は良く知っている。老若男女、皆が皆、セレイナの本質を知っている。

 グレッセ王の血を引き継いだのか、幼い頃より住民と親交があったからか。今まで積み上げてきたセレイナの実績と行動が、今この場で最大の評価――――信頼となって彼女を支持していた。


 ――――国民に理解してもらえる自分は何と幸せ者なのだろうか? 国の背負って立つ者にとっての最大の幸福はこれ以上にありはしないだろう。その嬉しさを噛み締めてセレイナが顔を上げて、一瞬だけ微笑む。

 しかし、直ぐに顔を引き締めた。まだ伝えるべき言葉の半分も発してはいないのだから。


「――――感謝します。では皆の期待に応える為にも全てをお話しします。事の発端は――――」


 こうして式典のメインであるグレッセ王都の襲われた経緯が話された。

 

 強力な力を持つ存在に操られたカーネスが王から力を奪い、結果的に王はアルフレドに破れ帰らぬ人となった。

 時を同じくして、スルハではコルヴェイ王が送り込んだ部隊が街を制圧しようと動き出していた――――が、彼の覇王に対抗するべく呼ばれた勇者――――アルゥソ・ツイター(廣瀬悠理)がスルハへ馳せ参じ、この部隊を見事に撃退。


 彼は続く本隊二千の兵をも打ち倒すが、グレッセ王都が危機であると知り、王都を目指す事に。

 クヴォリア、メレッセリア、アルフトレーンを経由しながら遭遇した様々な問題。


 各々の出来事を通じて見え隠れし始めた謎の敵――――神の側近であるアルフレド。

 彼が率いる神の側近達は、神の意志から離れて行動し、世界各地で狼藉を働いている、と。


 神を宿した聖女カーニャによると、世界は遠からぬ内に滅んでしまうこと。それを防ぐ為にアルゥソを召喚し、旅をしていると。


 しかし、コルヴェイ王とアルフレドが手を組み、独自の行動をし始めた事でグレッセ王国が標的になってしまった。経緯はどうであれ、アルゥソやカーニャがこのグレッセを救う為に尽力した事は事実であり、セレイナとしては今後彼等に協力していきたい…………。


「――――と言う訳なのです」


 ――――以上のことを噛み砕いてセレイナは説明した。予想通りと言っていいのか、住民達や初めてこの話を聞く騎士や貴族、一部の臣下達は困惑気味で上手く事態を飲み込めていない様だ。


「信じられぬのも無理はあるまい……。私もつい先程聞いたばかりで混乱しておる。――――が、我が恩人の言葉なれば信じようと思う」

「言葉だけでは解らぬ事も多いでしょう。アルゥソ殿、カーニャ様、前へお願い致します」


 当惑する人々を前にグレフが呼びかけ、アルゥソを恩人と強調して話しに真実味を持たせる。直ぐに納得とはいかないが、彼がそう言う事によって解りやすい下地が出来たのは間違いない。

 続いて、セレイナが二人に呼びかけ目配せした。

 ――――しくじるんじゃねぇぞ?、と。人々を前にして如何に己をパフォーマンス出来るか。


 話を信じてもらう上で非常に重要なこと。この結果次第で今後の色々が決まってくるのだ。失敗は許されない。――――かと言って悠理は気負ってはいない。いつだって自分に出来る事をやるのみだ。

 

「ハッ! カーニャ様、お手を――――」

「えっ――――は、はい、わ、我が騎士アルゥソ…………』


 世界を救う為に召喚された勇者――――と言う役をノリノリで引き受ける悠理。

 普段は山賊面が邪魔されるが、兜で顔が隠れた今が最大の好機。ここぞとばかりに良い声を出して役者になった気分。まるで、いつもそうしているかの様に自然な動きでカーニャに手を差し出す。


 すると彼女の方は役作りをしていなかったらしく、ややおっかなビックリで差し出された手に自分の手を重ねた。そのまま悠理のエスコートでセレイナの横に並び立つ。

 住民達の視線には不安と、希望。それ以上に興味が目立った。セレイナやグレフが信頼する程の人物――――となれば興味を引くのも当然。


 そんな視線をものともせず、悠理が一歩前へ。カーニャから手を離して『ここは俺に任しとけ』と小声で伝える。堂々と背筋を伸ばした彼は拳を高々と突き上げてから名乗りを上げた。


「グレッセの民よ、我こそアルゥソ・ツイター! またの名を自由の使者“ミスターフリーダム”!」


 中央広場全体へ響けと言わんばかりに声を張り上げる。まさに腹の底からと言う感じだ。

 間違えれば怒鳴り声に捉えられてしまいそう声、しかしそこは行動による印象でカバーでするしかない。

 こんな事もあろうかと、プランは考えて来てある。


「大陸の守護神であらせられるレイフォミア様の呼び掛けに応じ、この世界へ馳せ参じた! 微力ながらも平和の為に尽力する所存!」


 己が何故この世界に来て、これから何を成していくのか告げ。突き上げた拳――――その掌に握った何かを宙二放り投げる。それは小さな小さな黒い粒。住民達には視認出来ているかも怪しい。

 そもそも、彼等はそこに注目できなかった。何故なら、悠理――――アルゥソの身体から溢れ出した虹色の光に目を奪われたからだ。


「これは挨拶代わりだ。受け取れ……!」


 力強く眩い“生命神秘の気”が中央広場の空を包み込んで――――。

次回、カーニャェ…………。

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