強襲、グレッセ王都!・覇王との邂逅、目を覚ます深淵その七
う、うぇーい…………。
何とか気合で書いたぞっと!
ブクマも増えて、300ポイントが見えてきたな…………。
まぁ、俺はポイントよりもブクマが増える事を重視してるんだけどね?
ブクマ=固定(定期的な)読者だと思ってるから。
「喰らえ!」
「数多の剣よ、我に仇成す敵を切り裂け!」
グレッセ城玉座の間…………。今は暗闇に包まれたその空間を、黄金に輝く“神獣の炎”と召喚された無数の剣が疾走する。
燃え盛る炎、疾駆する刃が放つ煌きは暗闇の世界を照らそうと縦横無尽に動く。そうして向かうは、この空間を支配せし主。
――――廣瀬悠理は迫り来る脅威に対して恐れる風も無く、両手を突き出す。手首と手首が打ち合わさり、それは某戦闘民族の代名詞であるあのポーズに似ている。
もしくは『デュクシッ!』と言うあの独特の効果音で有名な某格闘ゲーム。その主役である白い道着の人と、ライバルに当たる赤い道着のキャラが使う技。あのポーズだ。
ただし、そこからは気や、波動と言うものを練り上げた飛び道具は出ない。
代わりと言っては何だが、最初にアルフレドの攻撃を無力化したあの渦がグルグルと、再び彼の手に現れていた。
「総てを無へ流せ! “黒い渦”!!」
――――ブラックホール……。成程、確かに悠理が名付けたそれはブラックホールと呼ぶべきものだった。
宇宙に行った訳でも、実際に見たわけでもない、SF映画や漫画などのサブカルチャーでのみ知りえる知識。だが、その知識――――総てのものを呑み込むと言う現象を、この技は忠実に再現している。
合わさりあった掌の中で黒い渦は高速回転し、大渦の如くうねりながら総てを吸い込むスクリューと化す。あらゆる角度から悠理を狙おうとしていた炎と剣がその動きを停止させられる。
そして抵抗する間など与えられずにその総てが渦の中へと消えて行く…………。
一体、吸い込まれたものは何処へ行ったのか? それは悠理にも解らないこと。
何故なら、実際のブラックホールに吸い込まれたらどうなるかなんて解らないのだから。
唯、彼の中途半端な知識によれば強力な重力場に捕まってエライ事になるハズだ。少なくとも、渦に吸い込まれた炎や剣からはもう何のエネルギーも感知出来ない。
つまりはほぼ確実に消滅させた、と言う事で間違いないようだ。自分が生み出した能力の癖に半信半疑になってしまうのは、何と言うか情けない話であるが…………。
元より今の彼は暴走状態なのだから、自身の限界を超えた更に先へと続く力を把握できていないのも無理もない。持て余している。膨大な力を、可能な限り暴発しない様に抑えることで手一杯の状況…………。
――――果たして、己はこのエネルギーを抑え込んだまま死ねるだろうか? もし、死んでこの力が解放される様な事があったら…………そんな最悪の結末を想像し震える。
絶対に避けなければ決心し、意識をコルヴェイ王達へと向け直す…………。
「――――あの渦に飲み込まれたら……どうなるんだろうね?」
悠理が起こした無力化現象――――ブラックホールを見てアルフレドのニヤケ顔が引き攣った。彼も自分が放った炎の破壊エネルギーが跡形も無く消滅した事は感知している。
一瞬の内にあらゆる力、力場をゼロに還元させられた…………。それは“生命神秘の気”によって技を無力化されたのに酷似している様で、けれども全く違う現象。結果としては同じだ。
“解放”と“破壊”と言う真逆の方向性だけれども。
ゼロになったと言う点では結果は同じ。
「……我に掴まれルシア」
「は、はい! 失礼いたします!」
同じく、ブラックホールの脅威を見抜いたコルヴェイ王は、くるくると回り続けるルシアンを捕まえて、自身の背中にしがみ付かせた。放っておけばブラックホールに捕まり、そのまま第一の犠牲者になっていただろう。
――かくて二人は、どう攻めるべきかと悠理の動きを計る。彼等がそんな風に警戒を露にしている時、悠理は――――。
「は……あっ、クソッ、こっちからも仕掛けないと自滅して終わりだぜ……。やるしかねぇ、な!」
額に大量の汗を掻き、明らかに消耗していた。背中から首筋、首筋から顔に入った亀裂、そこから絶えず“小宇宙の創成”が噴出している。これがこの空間を生み出して元凶。
それは一体、悠理の身体…………その何を糧として生み出されているものなのか? 彼自身も解らないが、唯己が死へと近付いていく事はだけは明確。少なからず焦りと迷いがあり、迷った末に自ら攻勢へ出ることを選択。
吉と出るか凶と出るか、すべては行動しなければ解らないのだから。
「総てを塗り潰せ……“黒き放物線”!」
両掌を開き、拳大の球を握りこむように指を動かす。そうして無造作に、放物線を描くように腕を振るう。腕の軌跡と同じ様に、コルヴェイ王達の付近一帯の空間が――――たわむ。
もしくは削り取られ様としている。視認出来ないそれが自分達に襲い掛かってくるのは、ぞわぞわとした危険への鋭い嗅覚によって察知していた。
「ルシア」
「だ、ダメです! 跳躍する為の力が――――!」
“神出鬼没のルシアン”の力でその場を脱しようとするコルヴェイ王――――だが、どうやらこの空間の影響により、彼女の祝福は封じられてしまったらしい。
それもそうだ。今までの彼女を考えればとっくの当に消えては現われを繰り返していたに違いない。
けれども、ルシアンはこの暗闇の世界に閉じ込められた瞬間にそれがしなくなった。いや出来なくなったが正しい解答だ。だからこそ、彼女はずっとくるくると不安定な状態で、空間を回り続ける事を余儀なくされたのだから。
「――ならば確り掴まっていろ」
「も、申し訳ございません……」
「良い、全て赦す」
主の期待に応えられず、しゅんと落ち込むルシアンだが、コルヴェイ王は気にした風もない。
言いつけ通りに背中へ確りと抱き、せめて王の邪魔にならない様にせねば――――――――と彼女は固く誓った。
「うおぉぉぉぉぉぉらっ!」
雄叫びに合わせ、何度も何度も、やたらめったらと腕を振るう悠理。その度に空間がうねって、腕がなぞった空間がたわんでいく。
「――――飛翔剣」
カーニャと同じ様に、空を翔る剣を召喚するコルヴェイ王。ただし、彼女と違うのは現れた剣の形状。
あちらがスノーボードの様な板であれば、こちらサーフボード。巨大で力強ささえ感じさせる攻撃的な形。それに飛び乗って、暗闇を翔け抜ける。
無重力の空間を飛ぶのはこれが始めてのはずだが、そこは覇王と呼ばれる男が持つ類稀なるセンスが光る。危険な箇所をピンポイントで危なげなく回避、サーフボードと言うよりジェットスキーの様な挙動で、悠理の射程距離外へ退避成功。
役目を果たしたと認識したのか、飛翔剣は音も無く消えていった。視認不可能な攻撃を軽々と避けたコルヴェイ王に悠理が渋い顔を向けて舌打ちする音が聴こえた。
「チッ、やっぱりアンタの方が手強いか……。けど、一人は片付けたぜ?」
「むっ? アルフレドっ」
「う、あぁぁぁぁぁああッ!?」
悠理の言葉に振り向けば、攻撃を回避し損ねたのだろうアルフレドの絶叫が響く。彼の右手の甲――――そこに小さな、切り傷と見紛う黒い線が浮かび上がっていた。
見た目は小さな傷だが、アルフレドの苦しみ方は尋常ではない。左手で右手首を押さえ、黒い空間の中、地面もないのにのた打ち回る。まるで猛毒でも浴びてしまったかの様だった。
「一掠りでもすれば充分。お前は宇宙の深淵に侵され、そして――――呑み込まれる。逃れる術は――――俺も知らねぇ」
自分でも把握しきってないのが現状だが、悠理はもがき苦しむアルフレドにそう説明した。
手の甲に浮かぶ黒い線からじわり、と黒い液体が溢れ出る――――いや、液体に見えるものは皮膚の上ではなく、内側から浸透するように肌の色を黒く染めていく……!
「ふ、ざけ――――!」
「無駄だ。解るだろう? 力を吸い尽くされていくのが」
「――――う、うぅ……っ」
力一杯抵抗を見せるが、悠理の言う通り、傷口から何かを吸い取られているらしく、身体から力が抜けていくのが解った。そうしている間に、もう右手が全体が黒く染まりきっていた。
――――これ以上は不味い! そうは思うものの、アルフレドは力を吸われていて祝福を発動させる事すら出来ない。
「――――歯を食いしばれアルフレド」
そんな彼に降って来た助け舟――――それはコルヴェイ王の声。
苦しみに呻き声を上げつつ、彼の方へ顔を向けると――――見えたのは一本の剣。凄まじいスピードでそれはアルフレドへ接近して――――。
「コ、コルヴェイお――――!?」
「むぅんッ!」
「ギッ、イッ――――!!」
――――その右肘から下を切り落とした。一切の迷い無く、だ。
恐らくコルヴェイ王は、その傷を遠めで見ても危険であると判断。侵食スピードを警戒し、右手首ではなく、肘から下を切り捨てるという大胆な行動に出たのだった。
「おいおい……、酷いことすんな……」
その情け容赦ない一手に悠理もドン引きと言った様子で呟く。
赤い血の玉を腕から流し、アルフレドはそのまま痛みで気絶。暗闇の中を浮遊しながら、やがてその姿を切り落とされた腕と共に消す。
気絶した事でこの空間における法則から抜け出したのだ。悠理はしまったと言う表情をしたが、コルヴェイ王は秘密に気付いた様子もない。いや、もしかしたらあえて見逃している可能性もある。
だが、彼と戦う以上はこの空間の方が好ましいのだから、今は黙っておく事にした。
「これで問題なかろう? どうせもう、アルフレドは使い物にならん。カーナリーニャと戦って消耗していた様だしな」
――――コルヴェイ王の指摘は正しい。アルフレドはグレッセ城に着くまでの追いかけっこでカーニャに追い詰められており、かなり消耗している状態だった。
しかし、コルヴェイ王が現れた事を直感的に悟ったカーニャがグレッセ城へ急行。その為、勝負に決着はつかなかった。
お陰で、アルフレドの敗色濃厚と言う事実は揉み消されたのだけれども……。
「これで一騎打ちって訳だ?」
「わ、私も居ますのよ!」
「――――黙っておれルシア」
「は、はい……」
一騎打ちと言われ、抵抗と己の存在を主張するルシアンであったが、王の一言で再びその背中に抱きつくだけの状態に戻ってしまう。
――――尚、コルヴェイ王の声は穏やかなものだったが、発言を禁止されたことが彼女にはショックだったらしい。先程よりも更にしゅんとして、覇王と呼ばれる男の逞しい背中にしがみ付いている。
態勢は違うが、その姿は親猿にしがみ付く小猿を悠理に連想させた。そんな光景を見た所為か、彼は気付けばこんな提案をしていた。
「――――そっちのお嬢さんはここから出してやっても良いぜ? この空間の所為でロクに力も使えねぇんだろ?」
「なっ! 馬鹿にしな――――」
「――――お主に何の得がある?」
「アンタと思う存分一騎打ち」
「フッ…………ハハハッ! 良かろう、好きにするがいい!」
「え、ちょ、コ、コルヴェイ王様!?」
「なら遠慮なく」
「――――あーれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
本人の意志を無視した交渉が行われ、気分を良くした王の言葉により、本人の想いとは裏腹な結果を押し付けられるルシアン。
忠臣として最後まで王と共にあろうとする思いだけを置いて、彼女はレイフォミアと同じく見えない手で首根っこを掴まれ、悲鳴を上げながらあっと言う間に退場していく…………。
「……………………………………フッ」
「……………………………………ヘッ」
響き渡るルシアンの声が消え、静寂で場が満たされた頃、二人は笑う。
ようやくの一騎打ち。悠理にとっては、倒すべきラスボスの一歩手前にいるボスが、まだまだ物語の中盤に入る前の勇者を潰しにやって来た様な展開。
――――だが、それはそれで面白い。ここで倒してしまえると言うのなら、実に手っ取り早い。
そんな一段飛ばしが成功した後の物語はどんな展開を迎えるのだろう? ハッピーエンドに近付くのか、それとも更なる困難が自分を待ち受けるのか…………。
解らない、全く持って解らない――――が、それが実に楽しい。この先に待ち受ける展開に胸を躍らせながら――――。
「――――行くぞ!」
大陸北方の覇者コルヴェイ王と。
「――――行くぜ!」
世界を救うべく召喚された自由の使者ミスターフリーダム――――――――こと廣瀬悠理。本当ならばもっと先の未来で始まるハズの戦いが。
――――前代未聞の一騎打ちが幕を開けた!
次回、死闘の結末は?