強襲、グレッセ王都!・覇王との邂逅、目を覚ます深淵その二
えー、カーネスとコルヴェイ王との戦いまで書くつもりだったんですが、眠気に襲われてしまいました。
なので今回は、彼らが戦闘を始める前の部分――――レイフォミアによる治療行為とルシアンとの会話をお届けします。
(ユーリ、死なないで……)
カーニャの願いが彼女の肉体を借りたレイフォミアの耳に届く。身体を共有しあってるからこそ聴こえる心の声。少女はずっと男の無事を祈っている。
レイフォミアが緑色に輝く光を操り、その光で持って血塗れの悠理を包み込む。
表情は苦しげで、息はか細い。そこにあの自由を愛する子供っぽい笑顔はなく、ありふれた苦しみに歪むだけ。その痛みを一刻も早く取り除こうとレイフォミアは光の量を増やしていく。
それは天空幻想城で彼女の身体を治癒していた緑色の液体――――あれと同じ作用を持つ“生命神秘の気”の一種。名付けて“大樹と新緑の生命神秘”。
“生命神秘の気”から肉体の復元と回復、治癒力促進を司る緑の力だけを取り出したものだ。“生命神秘の気”を使用した代償によって受けた傷は中々回復できないが、こうした普通の傷ならば問題なく活用できる。
問題は間に合うかどうか…………。自分の身体にある心――――精神世界でカーニャは祈り続けるが、最悪の状況を想定してしまうのを止められない。
『大丈夫、心臓は無事、死ななければ何とか治せます』
心配で不安に浸りそうになる彼女をレイフォミアが励ます。実際に悠理の傷はもう塞がり始めていた。
失った血液に関しても、“大樹と新緑の生命神秘”が肉体に変質を促し、急ピッチで血の生産に取り組んでいる。
運よくコルヴェイ王が放った最初の一撃が心臓をさけていたのが幸いだった。あとほんの数ミリでも位置がズレていたら…………。そう思うとレイフォミアの額にも汗が流れた。
大丈夫だ、結果的に彼はこうして生きているのだから、何も不安がる事はないとも。そう言い聞かせ、気持ちを整える。
治療は出来るが、一瞬たりとも気は抜けないのだ。カーネスがコルヴェイ王相手にどこまで時間を稼げるのかも解らないのだから。
(アタシの身体なんて気にしないで全力でお願い!)
『解りました……それが貴女の望みなら……』
一刻も早く悠理の回復を完了させるべくカーニャが更なる能力の解放を叫ぶ。胸の中から響く決意の声を聞き入れ、レイフォミアはそれに応える。
“生命神秘の気”の使用は肉体をスクラップにしてしまいかねない代償を秘めており、今までレイフォミアはカーニャの身体に大きな被害が及ばないギリギリの状態で能力を行使していた。
そのセーブを――――外す。瞬間、緑色の光が濃くなり、螺旋を描き包帯の如く悠理の身体に捲きつく。
傷口を修復しながら、そこから光は内部まで侵入し、損傷や血の生産を急ぐように働きかける。さっきの状態と違って今はフルスロットル。
飲食店で例えるのなら、先程までがそれなりに込んでいる状況であるなら、今はご飯時のラッシュ状態。
店員である所の傷の修復はひっきりなしに動き回り、料理担当である血の生産も己の役割を全うしようとテキパキと動く。
効果は直ぐには視認できないが、後数分もすれば起き上がる位までには回復するだろう。
『治癒能力の高速化完了……。後は――――』
「あの男がコルヴェイ王様相手に何処まで時間を稼げるか……、ですのね?」
――カーネスの状況を確認しようと振り向けばそこにはいつの間にかルシアンの姿。二つ名に相応しく、まさに――――“神出鬼没”。
『っ! “蒼天と蒼海の生命神秘”!!』
背後を取られたことに動揺。馬鹿な……、治療に専念していたとは言え警戒は怠らなかった。なのに易々と後ろに立たれた! その事実にショックを受ける前に、行動したレイフォミアは流石だ。
パチンと指を鳴らして青い光を生み出し、ルシアンの身体を拘束するように縛り上げた!
「えっ? あ、あら?」
あっけなく拘束され身動きを封じられて唖然とするルシアン。
彼女の能力をレイフォミアは未だ把握できていない。しかし、その原理を理解せずとも、この“蒼天と蒼海の生命神秘”の前では敵じゃない。
全ての力は発生しようとする際にエネルギーを変換するもの。“蒼天と蒼海の生命神秘”はその変換作業を妨害。ルシアンが如何なる方法で移動していようが関係なく、その動きを事前に阻止したのだ。
意外な弱点――――いや、当然と言うべきなのかも知れない。完全無欠の力や、理論など存在するハズがないのだから。全ての表にはやはり裏があるものなのだ。
『見くびらないで下さい。本来の力はなくともワタシも神と呼ばれた者……戦うのなら容赦は――――』
「お、お待ちください! 降参っ、降参ですの!」
『……はい?』
戦闘態勢に移行しかけたレイフォミアを慌ててルシアンが止めた。両手を挙げて、左手には何処から出したのか、白旗を振って降伏の意を示している。
そのあまりの急な態度にレイフォミアは思わず間抜けな声を漏らした。予想外な行動にどう反応すれば良いか解らないと言った感じ。
「危害を加えるつもりはありませんの。あの方の邪魔にならない様にしているだけですわ」
『……信じて欲しい、と?』
(――――解いて上げてレイ。この娘はそー言うヤツなのよ……)
弁明を訝しむレイフォミアにカーニャが語りかけた。胸の内から伝わってくる声は、呆れと、数年立っても変わっていない彼女への安堵感。そんな感情が流れ込んでくる。
『………………』
――そこまで言われては……、と無言ながらも了承し、ルシアンを拘束していた青い光がフッと消えてなくなった。
「――――カーナリーニャに何か言われましたのね?」
『えぇ、まぁ……』
どうやら、ルシアンにもカーニャが何かしたと言うことは解ったらしい。それほどまでに二人の間には何かが――――気軽に聞くには長すぎるエピソードがあるに違いない。
きっとカーニャの精神世界に干渉すればそれらの正体も解るのだろうが……。レイフォミアはあえてその辺りの干渉をさけていた。他人のプライベートをほいほいと覗き込むものでもないだろう。
でも、彼女と共生関係に居る以上、いつかは知る日が来る。それがカーニャの口からか、それとも精神世界で語られるのかは解らないけれど。
「それにしてもまぁ……随分と野蛮そうな方だこと」
守護者が身を借り受けた少女の過去に思いを馳せていると、ルシアンがそう言った。
拘束が解けたのを良いことに、悠理の顔を覗き込んだり、その身体を突いたりしている。傷口に触れた時、彼の顔がちょっぴり引き攣った様な…………。
『――もう一回拘束されたいですか?』
掌に青い光を収束。青白い光が極限まで発光して威嚇すれば、ルシアンは引き攣った笑みを浮かべ…………。
「お、おほほほ、こ、言葉のあやと言うものはありますのよ……?」
慌てて姿を消して距離を取る。あくまで危害を加えないと主張した様に、その姿勢を示す為に。
「……でも、この方が立ち上がった所で――――」
かなり回復の進んだ悠理を一瞥し、ルシアンが前を向く。視線の先で戯れを続けている主を見据えながら、その強さを脳裏に鮮明に浮かび上がらせて、抱いた疑問を吐き出す。
「――――果たして我が主に敵いますかしら?」
明日は食事行って余裕があれば本編の更新。
余裕がなければキャラ紹介か、番外編の予定。